答えた先のシンが痛みを堪えるような顔をしてから、静かに目を見開いた。どうしたのか訊こうとした先、また質問が飛んでくる。
「なんで、前の時一緒に戦えたんですか。アークエンジェルは地球軍にいたんでしょう?」
あぁ、確かに気になるだろう。分かりやすく具体的になるように言葉を考えてから、口を開いた。
「彼らはブルーコスモスでは無かったから。オーブにいた君なら分かると思うが、ナチュラル全員が俺達コーディネーターを殺そうとしている訳じゃない。あの船は、コーディネーターに寛容だった。だから一緒に戦うことに抵抗が無かった」
キラとの和解が大きな理由だが、地球軍のナチュラル全員が悪いやつではない事をあの船のクルーと関わって知ったのも事実であり、あの勢力に属した理由の一つだ。少し思うところはあるが、母上の事とはまた別だ。シンは考え込んでいる。まだ、分かりにくかっただろうか? 少し不安になった時、また問いが重ねられた。
「分かりました、ありがとうございます。話変わるんですけど、あんた、俺より苦手なものとか無いですか? あと、体調管理は大丈夫なんでありますか?」
さっきの事に関連した問いが来るかと思ったため、少し拍子抜けしてしまう。それにしても……
「質問だらけだな、今日の君は。そんなに俺の事を知ってどうする気だ?」
あれだけ睨まれたり、反抗的な態度を取られたのだ。嫌われているのは分かるので、つい警戒してしまう。思わず目線を険しくした先で、シンは子供のように目を瞬かせていた。
「何って……アンタの事を知りたいだけです。さっきのラーナスさんとの会話で、質問したらキチンと答えてくれるって言うのは分かったので。たくさん聞くしかないでしょ? そりゃ、最初に嫌なこと聞きましたけど、質問ばかりで悪かったですねぇ!」
最終的にまた睨まれた。単純に好奇心のようだ。怒らせたこちらが悪いのでひとまず謝罪する。
「あまり聞かれることがないから驚いただけだ、悪かったよ」
「別に良いですけど……そんな風にしてたらアンタ、友達あんまりいないんじゃないですか?」
大分腹が立った。
「仕方がないだろう。周囲の全員が全員、良い人では無かったし。
それで? 俺がお前に負けそうなもの、か? それなら一つだけ、あるじゃないか。他は負ける気がしないがな」
思わず余計な事を口走ってしまった先、少し眉を顰めたアスランさんが、つっけんどんに返してくる。流石に失礼だったよな、と反省した後、意外な言葉に驚いた。その後の言葉は昨日全敗したので大人しく受け取っておく。分かっているだろう? と言わんばかりに少し楽しそうに笑っているのが気になる。言わなくても分かるもの……あ!
「若さ、ですか?」
思いついたものを答えると、今度は思いっきり顔を顰められた。撫然とした声で呟かれる。
「お前とは2歳しか違わないし、それなら経験では勝っているな。違う、そうじゃない。パイロットとしての話だ」
「アンタの方が上手いと思いますけど」
シミュレーターでの対応しきれなかった高速戦闘を思い出す。あっという間に距離を詰められて防ぐ間も無く連続でぶん殴られた。どうにか逃げても追ってくるので、ぶっちゃけ怖かった。そういえばこの人もルナと同じで格闘が得意なのに遠距離装備の機体乗ってるな、と考えた先、呆れたように頭が振られた。またもや困ったみたいなため息がつかれる。
「……お前、この事だけはもう少し自信を持て。議長直々のご指名なんだから。
インパルスの扱いだよ。シルエットごとに操作や取れる戦法が変わるし、分離機構もある。全距離での戦闘が上手くないと使いこなせない。テストパイロット、候補になってたエースは全員辞退したんだろう? 他の誰にもちゃんと乗りこなせない機体をお前が全力を出させてやれるんだ。お前は十分、優秀なパイロットだよ。力の使い方さえ間違えなければな」
驚くと、とっても嬉しそうに笑われる。なんだかこそばゆくなって赤くなった顔をバレないように横を向いて、答えてもらっていない問いを急かした。
「それは……ありがとう、ございます! それより、もう一つの方、答えてもらってないんですけど! フィルさんから聞いたんですよ、アンタ、随分前から寝れてないらしいって! アレだったら、良い睡眠薬知ってるので!」
「あぁ、ヒュプノスだろう? 昨日飲まされたよ。夢も見ないほど寝たのは久々だった。流石は姉様の開発品と言ったところだな。そういう訳だから、仕事には響かせない。お前も、寝れる時に寝ておけ」
落ち着いた声で返事が来た。大丈夫そうで、少し心配が薄れる。そうそう、ヒュプノス。アカデミーにいた頃、あの日の夢を見て何度も飛び起きた俺を心配して、レイがくれたのだ。効き目はバッチリで今でも使っている。……ん?
「待ってください、アレ作ったの、あの人なんですか?!」
思わず叫ぶと、耳を押さえたアスランさんが、うるさいぞ、と忠告してくれた後教えてくれる。
「姉様は、セントエルモの製薬チームの主任だから。ヒュプノスは、開発品の中でも会心の出来らしいぞ。ちなみに専門は薬学研究と脳科学。薬以外にも色々作ってるそうで、画期的な医療機器も開発したらしいって噂もある。発表されてないから真偽は定かではないが。開発チームと研究チームに加えて軍医までやってる本人の健康が一番心配だ」
「俺、今度菓子折りとか持って行った方がいいですかね」
大して興味の無かった人に滅茶苦茶お世話になっていた。今夜から足向けて寝れない。まだ耳が痛そうなので声を抑えて言うと、薬の融通利かせてくれないぞ? と返される。この人、割とこう……人の善意や好意に鈍いな。裏がある事前提で話すというか……何はともあれ、知りたいことは大体分かったし、認められたのは嬉しい。
「アスランさんが大丈夫そうなら良いです、これでも心配してたので。今回は、迷惑かけてすいません。俺、ちゃんと考えますから、その……力の使い方ってヤツ」
そうしてくれ、という言葉とともに手を差し出される。握り返すと、ホッとした顔をされた。やった俺が言うのもなんだけど、一件落着、といったところだろうか。そう思った矢先、ドアが開く音が聞こえた。
「お、無事仲直りできたか。良かった良かった。そんなところに悪いけど、お前ら二人にお知らせがあります。さて、良い知らせと悪い知らせ、どっちから聞きたい?」
驚いた顔が二つ並ぶのをニコニコと眺める。いや、本当に良かった。来て2日で大揉めとか割とヤバかった。ただでさえ途中から合流した身だ。上手く和解させなきゃ後々に響いたに決まってる。そうなったらあまり人付き合いが上手くない…はっきり言えば致命的なアスランには修復不可能だっただろう。
今コソコソと相談している姿からして、随分と仲良くなったらしい。来て早々の危機が去った事に内心でへたり込んでいると、決まったのかシンが手を挙げる。はいどうぞ、とおどけて言うと、緊張した面持ちで悪い知らせからお願いします、と言われた。そんなに悪くはないと思うぞ。
「はいはい。じゃあ、まずはシン。お前……今回の命令無視の罰則として、トイレ掃除1週間の刑。で、アスラン。落ち着いて聞いてほしいんだけど、この前話したルナマリアとレイのザクに付ける空戦用装備のコンペ、無しになりました」
二対の綺麗な瞳に滅茶苦茶睨まれた。片方には慣れているので苦笑して理由を述べる。
「落ち着け。理由は今から言うから。艦長さんにあらまし報告したら、当人納得、和解の上でも軍として何らかの罰が無いと示しがつかないって言われたので、これで手を打ってもらった。
で、アスランのは完璧な偶然。ミネルバってめちゃくちゃ足速いじゃん。呑気にコンペやってたら間に合わないってスミスの爺さん達が。いや、俺も交渉はしたよ? でもさ、今からパーツの改造始めても、こっちがスエズ着くのギリギリの納期なんだってさ。しょうがないって。ほら、代わりに軍用のコンペの応募資格もぎ取ってきたから、これで我慢して?」
我ながら甘やかしてるとは思うけど、大人しく了承が返ってきたのでよし。拗ねて怒った我が弟は可愛いが手がかかるのだ。シンも仕方ないと言うように頷いてくれた。根は素直な奴なんだろうか。では、良い知らせといきますか。
「良い知らせは、艦内だけで済ませられる事。幸い、近くに公式メディアやフリーの報道はいなかったし、これが原因で戦火の拡大は無いよ。
おまけに、フェデラーさん……ウチの代表に相談したら、強制労働は人権的に問題だから、基地のあった周辺に監視と保安チームを派遣してくれるって。つまり、あの人達がああいう目に遭うことは無い。
シン。今後勝手な行動する前に報告、相談はすること。反乱扱いであの場でお前の撃墜とかもあり得たんだからな」
めちゃくちゃ震えてコクコクしている。うん、可能性は低いからあくまでも脅しだが、効果はバツグンのようだ。
じゃ、終わりなと背を向ける。アスランがシンに早く戻れよ、と声をかけてからついて来た。本人は少し考えたいらしく、返事はしたけど残っている。とりあえず、関係は良好になったようだ。元々アスランを尊敬してるっぽかったし。
部屋に入ってから、とりあえず労った後、話があるから隣に座る。
これ言うと怒られそうなんだけど、意を決して口を開いた。
「お前さ、セイバー合ってないだろ?」