ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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大天使の内情

「やっぱり、どこも楽しいニュースは無いな」

「白イルカの赤ちゃんが産まれたとか、そういうのかしら?」

 そこまでは言ってないさ、と返しながら違うチャンネルを拾うと、ピンクの髪の少女のライブ映像が流れた。後ろにいる画面に映る少女と全く同じ顔の彼女が楽しそうですね、と冷えた声を発するのを聞きながら、やはりこうなったか、と思う。

 ラクス・クラインの名前は、大きくなりすぎた。最初は一人の歌手であったが、父親による平和の歌姫としての度重なる宣伝と、2年前に停戦に導いた事から、今やプラントの民に無くてはならない存在だ。影武者の存在にも頷ける。それが、国民を支えるためか、自らの広告塔として利用するためかはともかくとして、彼女が居ないとプラントの心は安まらない。自分への依存度を後ろの彼女は正確に把握できているのだろうか。そんな事を考えつつ、話を進める。

「それにしても、これからどうするんだい? 下手に動くと匿ってくれてるスカンジナビア王国にも迷惑がかかる」

 カガリの存在と、かつてシーゲル・クラインの生誕地でもある縁から力を貸してくれているが、現状は亡命軍のようなものだ。幸いにも指名手配はされていないが、いつまでも匿われる訳にはいかないだろう。

 カガリは動きたそうにしているが、キラが淡々と言葉を紡いだ。

 

「今はまだ動けない。何も分からないんだ。でも、ラクスが暗殺されかけた後、この子が出てきた。一体誰がラクスを殺そうとした? 僕は議長が怪しいと思う。今だって、この子を使ってみんなを騙してる。けど、だからって地球軍が正しい訳じゃない」

「そうねぇ。確かにユニウスセブンの落下は甚大だったけど、プラントの対応は紳士だったわ。難癖をつけて、復興が完全ではないのに開戦した地球軍が馬鹿よ」

「私も、ラクス暗殺とこの事を知るまで議長は良い政治家だと思っていた。アスランもそうだと思ったからこそ、プラントに行ったのだろうし。アイツが帰ってきたら色々と分かるんだが」

「これも政治、と言えるのかもしれんがね。しかし、ユーラシアの惨状を見ているとザフトに味方したくなるが、反対か。なら、まだしばらく様子を見るしかないな」

 

 締めくくりつつ、カガリが口に出した藍色の髪の少年を思う。

 出会う前から名前も顔も知っていた。何せ親が親だ。エターナルで何度か実際に話すと、どこにでもいそうな友達想いの、繊細な少年だった。今は、帰ってくるのが難しい状況だろう。オーブは既に地球軍の傘下に入った。入国すら厳しい。プラントで保護を受け、大人しくしているのだろう。一番それが安全だ。ふと、一年ほど前のフリーダムの修理が決まった際の会話を思い出す。

 

「フリーダムを修理、ねぇ……」

「えぇ。クライン派の方々から、万が一停戦状態が破られた際に備えて、力として保持しておくべきだ、と教えていただきまして。新しく造るよりも今あるものを使うのが良いと。ファクトリーの人達に修理に入ってもらっています。完成次第、ターミナル経由でオーブまで運んでもらう予定ですわ」

「既に始まっているなら、俺から言うことは何もないさ。ちなみに、この事は俺と君の他に、誰が知っている?」

「アークエンジェルも補修があるので、マリューさん。あと、隠し場所を提供してくださるため、カガリさんにはお話ししております。最初は驚いておられましたが、平和のためだと理解して了承していただきました」

「キラとアスラン君は?」

「キラは……今、心がとても疲れています。争いに関わるようなことを考えさせたくないのです。アスランも、住まわせているカガリさんから、毎晩部屋でうなされていて、これ以上苦しめるような事を伝えたくない、とお願いされました」

「そうか……では、秘密にしておくんだな」

 

 キラは驚いてはいたが、それだけだった。事情をラクスから聞いて、凄いねと微笑んでいた。今回オーブに現れたことで、フリーダムの現在の状況を彼も知ったのだろうか。どう思ったのだろう。自分に知らされていない事に対して、傷ついたのではなかろうか。ラクスとカガリの行動は紛れもない善意によるものだった。しかし、善意が人を傷つけるのも、この世界ではよくある事だ。

 

 確かに、抑止力としてフリーダムは大きな力となる。地球でのあらゆる活動が可能なように潜水機能も取り付けたアークエンジェルも、不沈艦として有名であり、実際性能も高い。二つの所持が有用だと、理解はしている。世界の平和を願う彼らの思想もこの世界には欠かせない、無くしてはいけないものだと思う。ただ、どうしても。自分を庇って死んだ恋人の影がどこからか自分を見つめている気がした。

 

 

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