ふむ、と呟いた目の前の赤毛の美丈夫にどうしたのか聞くと、基本的に無表情な彼が珍しく口元に笑みを携えて言葉を返してくる。
「いや、自慢の弟子達がなにやら騒いでいる気がしてな。失敬した。ところで議長、この案は却下だ。サジタリウスの代表が居なくて命拾いしたな、居たらその場で即離反されていたぞ。俺もアレの敵になりたくない」
楽しそうな雰囲気は瞬きの間に消え、内密に通そうとした案は泡と消えた。険しい顔のまま、軽く呆れたように厳しい意見が続く。
「だいたい、あの忌わしい惨劇からまだ3年しか経っていない。これの元となったアレが誕生してからは2年だ。核はプラントにとって根深い傷だ、数十年経っても癒せるかどうか。
アレは……ジェネシスは作られた理由がまだ分かる。ナチュラル達に同じ恐怖を味わせてやりたいという後先考えてない復讐だ。全くもって共感はできないが、作った思いの理解はできる。今回、これで無ければいけない理由はなんだ? ただ強いからだろう? だったら、他にやりようはある。狂ったパトリックならともかく、貴方は平和を、不必要な犠牲の出ない世界を望んでいるはずだ。頼むから核にだけは手を出さないでくれ」
核は私達にとって重要な意味があるものだった。時間が無くて焦っていた気持ちが引き戻される。
「高い評価に感謝する、国防委員長。すまない、どうしても平和な世界を見せたい子が居てね。焦って手段を問わなくなっていた。止めてくれてありがとう。危うく民衆からの信頼を裏切るところだったよ」
謝罪と感謝を述べると目の前の顔が安堵で緩んだ。
「いや、こちらこそ色々と言ってしまい、すまない。焦る気持ちは分かる。俺にも、早く平和な世界を見せたい人と、これ以上戦わせたくない奴がいるからな」
「おや、そうなのですか?」
謎に包まれている彼の過去に触れるような一言に、思わず反応してしまう。特に気にした様子も無く、懐かしそうな眼差しであぁ、と返事が帰ってきた。
「誰も彼も不器用なうえに融通が利かん。こんな戦乱の時代に生きるには少しばかり優しすぎる。俺にとっては、貴方もだが。
デスティニープラン、良い案だと思うが少しばかり不自由ではないか? 改良案をメモしたから良ければ目を通してくれ、悪いようにはしていない」
もう一つの話はもう少し練れば、どうやら通りそうだ。元々今回のは草案で、後からいくらでも変えられる。渡されたメモを見ると、すぐに組み込めそうなものだった。礼を言うと首を振られる。
「気にすることはない。平和な世界のためだからな。いくらでも手は貸すさ。ナチュラル達にまで手を差し伸べるのは個人的にはどうかと思うが、プラントだけでなく世界全体を貴方は見ているのだろう? なら仕方がない。
先程の防衛兵器は却下したが、それはあくまで核を使っているからだ。あと名称もよろしくない。案が欲しいなら、サジタリウスのスミスか、最近貴方の部下になった馬鹿弟子を頼ると良い。両方とも機械に置いては右に出るものはほぼ居ないぞ……一個人で組織に匹敵しているあの寂しがりのスペックは、どうかと思うが。
では、そろそろ時間なのでよろしいだろうか。護衛がいるところまで送ろう」
窓を見るとそろそろ日が暮れようとしていた。車に乗り込む前に会談と見送りの礼を言うと、微かに微笑まれる。
それにしても先程の言葉から察するに、アスランが彼に鍛えられたと言う噂は本当だったらしい。却下されたが、確かにアレはプラントの過去に対する責任もそれでなければならない理由も無いものだった。レイの残り時間と、私の任期を考えるあまり、気が逸っていた。主目的であるデスティニープランの方が反対されなかったので良い。ただ、あの反応なら核エンジン搭載機体も製造を反対されるだろう。サジタリウス代表はフリーダムとジャスティスの製造に強く反対したが押し切られ、二機の完成と共に遺憾の意を示して議員を辞したのは有名な話だ。確か、アスランがマイウスに在学中にバッテリーの併用理論論文を出していたことに思い当たる。あれを使っても良いかもしれない。詳しく話を聞きたいので会う機会を作らなくては。
それにしても、かつては経歴の不明さと圧倒的な強さ、何より特異な思想から異端視されていたアレン・アルフリードがこのようにしっかりとした男だったとは驚いたが頼もしい限りだ。評議会の前議員達は得体の知れない彼をプラントの仕組みに組み込む事で制御しようと考えたのだろう、目論見は上手くいっているらしい。
「ひとまずはスエズ攻略、頑張っておくれ。タリア、レイ」
アレン・アルフリード
凄腕の傭兵として各地の小競り合いに参加し名を馳せていた。ザフトと協力することはあったが、所属はしていない。プラントに利する存在でありながら指揮系統に属しない彼の存在が特務隊、ひいては後のフェイス設立のきっかけになったとも噂される。プラントが落ち着いていた頃は武術の腕を活かし護衛として過ごしていた。腕の良さを聞きつけたパトリックに雇われ、アスランとラーナスに稽古をつけ、白兵戦のいろはを叩き込んだ。出身地や年齢は不明だが、おそらく30代。感情を表に出すことが苦手らしく、基本的には無表情。思想として、フェデラーのようにどちらにも賛同できない、という訳ではなくザラもクラインもどうでも良い。ナチュラルに対して自分達で作り出しておきながら迫害する彼らにうんざりしているので、距離を取って見捨てるべき、との考えを持っており地球との貿易利益を必須としている評議会に危険視されていた。停戦中にいっそのことプラントの組織に組み込んでしまえ、と交渉の末に国防委員長の座に着いた。腹芸は苦手で、周囲の者から政治知識を教えられている。戦術、戦略眼に優れ、防衛戦では無類の強さを誇る。また、来るものは拒まないが、刃向かってきたら容赦なく叩き潰すという物事の認識の切り替えが異常に早い点をラーナスに苦手とされている。死生観が独特で、人間は瞬きの間に死んでは生まれ変わるものだ、と口にしている。努力しない者が苦手。傭兵業で莫大な金を稼いでいたのも、門外漢の政治の世界に足を踏み入れたのも、全てはとある人物のため、らしい。
同じ内容を設定集に追記しています。