ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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肩書きが覆うもの

「すっ……ごい! 本当にいいんですか?!」

 突然言われた自機の改造に驚きよりも喜びが勝る。だって、念願のフライトユニットが付くのだ。インド洋の戦いで空を自在に飛び回るインパルスやセイバーが羨ましくて、何もできない自分が歯痒かった。少しは自分も活躍できるようになるかもしれないことが嬉しい。横にいるレイも心なしか頬が緩んでいる気がする。目の前の人ははしゃいでいる私に少し呆気に取られたような顔をした後、小さく笑って穏やかに返事してくれた。

「あぁ、もちろん。今回の大規模作戦以降、ミネルバは恐らく地球での任務がしばらく続く。地上戦でなく海上戦が増えるだろうから君達も空戦機能があった方が良いだろう? ただし、艦上の守りも疎かにしないよう気をつけてくれ。君達さえ良ければすぐ着工したいんだが、構わないか?」

 二人揃ってもちろんです、と頷くと振り返って待機していたヴィーノ達ミネルバの整備班と改造パーツを持ってきてくれた工員の人達に号令をかけてくれて作業が始まった。鳴り響く機械音の中、普段よりも少しだけ張られた声で指示がくる。

「トラブルが無ければ明日中には終わるはずだ! 訓練をしたいので、甲板に、昼食を終えた後、十三時頃に集合してくれ! レイ、シンには声をかけてある! では、一旦解散!」

 了解! と声を張り上げる。アスランの訓練は厳しいが、指導も丁寧で改善点と対策方法をしっかり教えてくれる。少し言葉足らずだけれど、シンが質問してたらそれに応えて追加で分かりやすく言ってくれていたので、私達もどんどん質問するようになった。最初は大戦の英雄ということで憧れていたけれど実際の強さを見たうえ経験から来るアドバイスはとてもためになったから、ますます憧れてしまう。もちろん彼にはラクス様がいるから、あわよくばお付き合いをなんて思っていない。同じザフト兵士として尊敬している、ただそれだけ。そんな憧れの人を振り返るとヨウラン達に混じって追加で指示を出していた。流石はあの大貴族ザラ家の御曹司。戦闘も出来る上にMSの改造にも携われちゃうなんて。

 

 

 何を考えたのか、横でルナマリアがため息をついた。何か不安な事でもあるのだろうか。

「どうした」

「んー、やっぱり、アスラン隊長ってすごいわよねぇ」

「そうだな。パイロットとしての戦闘力だけで無く俺達に必要なものまで調達してくださるとは」

 正直なところ、彼がここまでしてくれるのは意外だった。オーブにフリーダム、ラウを殺したキラ・ヤマトが現れたニュースは正式な報道こそないものの噂として世界各地に知れ渡っている。かつて仲間であった彼も知って動揺したはずだから、こちらを気にする余裕は無いものだろうと考えていた。ラーナスという幼い頃から親しい副官がいるからだろうか。何にせよギルのためになる力が増えるので有り難く受け取っておく。思考を巡らせていると、ルナマリアが軽く笑って話を続けてきた。

「違うわよ。そっちもそりゃ凄いけど。ほら、隊長ってあのザラ家の御曹司でしょ? ラーナスさんやフィルさんみたいに召使いみたいな人達が小さい頃からたくさん周りにいた訳じゃない。だから私、てっきりもっと偉そうな人かと思ってたわ。あんなに穏やかなんて」

「噂だけが全てではないということだ。アカデミーでフレッド教官達もあの人については名前を伏せて話してくださったが、実際会って違っただろう?」

 

 アカデミーでの卒業試験では、エキシビジョンマッチとして当時の主席と教官との試合がある。そこでシンを転がしたフレッド教官はまだまだだなと笑った後、アイツのような存在はもう現れないかと淋しげに呟いた。そして、彼に勝った卒業生がいるという話をされた。

「華奢なやつだったがな、まぁ強かった。体格差を利用するような頭もあったから俺も思わず肝を冷やしたもんだ。おっと、そいつは誰だか言えない。シン・アスカ、お前の瞬間的な爆発力は大したものだ。バレルのようにもう少し冷静さも持てればアイツに近づけたかもしれないぞ?」

 あの話や、射撃で言われた高熱でありながら最終試験で一名以外を引き離した凄腕の話も、全て彼のことだと推測できた。少し性格に難はあると言われたためどんな人物かと考えていたが、おそらくあの言葉が足りないところを指しているのだろう。

 

 まだ半年も経っていないことを思い出しながら話すと、納得がいかないのか少し眉が顰められた。

「それはそうだけど……あーあ、やっぱり家がいいとすごい教育とか受けてきたのかしら? 別世界の人って感じ」

「それだけでは無いだろう。いくら周りが環境を整えてもあの人の努力や素質が無ければどんな才能も開花しない。それに、あの人だって同じコーディネーターだ」

 

 それもそうね、と納得がいったのか笑って、集合時間もあるしご飯行かない? と話題を切り替えた彼女に頷きながら、ミーアが言っていたのはこういうことかと理解して随分前の食事会での会話を思い返した。

 

 

「ねぇ、レイ。“ラクス様”って、すっごく大変なのね……」

「どうした、いきなり」

「うん。まだ私がラクス様として活動し始める前の話なんだけど、ハンバーガー食べたいなぁって思ってよく行ってたチェーン店に買いに行ったのよ。ギルにも良いよって言われたし。行って注文したら、すごいビックリした顔されちゃって。整形全部終わって無かったから、ラクス様に似てるって言われるんですって咄嗟に誤魔化したら、店員さんったらなんて言ったと思う? そうですよね、ラクス様がハンバーガーなんて食べるわけないですもんね、お姉さん、顔だけじゃなく声もすごく似ててビックリしちゃいました、ですって! それ聞いて、あぁ、私、手術が全部終わってラクス様になったらこんなふうにハンバーガー買いに行けないんだなって思っちゃって。もちろん、ラクス様がいないとプラントのみんなが不安になっちゃうから、私がラクス様になるのが嫌とかじゃないんだけど、ラクス様もこういうのが嫌で帰ってこられないのかしら?」

 

 あの時は、どうだろうなとはぐらかして弟のように思われている立場を使いミーアを励ましたが、先程のルナマリアの言葉を聞いた今なら違うことを言ったかもしれない。アスランが亡命したのはザラの名が危険視されたからだ。本人にその気があろうとなかろうと、過激派にとっての旗印となりえる。直に言葉を交わし、同室としてシンの話も聞いていると彼はあまり争いを好まない人物だと理解できた。自分が争いの火種になるならばとカナーバ前議長の提案を受け入れた可能性は高い。一方のラクス・クラインは亡命する理由が薄い。プラントの平和の歌姫としてのネームバリューによって、プラント国民が彼女を裁くことは現状無い。帰って来ても良いはずなのだ。しかし帰って来なかった。ミーアがあの日言ったことは、もしかしたら真実だったのかもしれない。

 決してルナマリアのようなプラント市民が悪いというわけでなく、人はどうしても肩書きで個人を枠に当てはめてみる癖がある。大貴族の家だから、高い教育を受けているから、自分達より出来が良いのだろう。上流階級の御令嬢だから、高級品をたくさん食べて舌が肥えているだろうから、安っぽい庶民的なジャンクフードなんて食べないだろう。そんな型にはめて個人を見るのは分かりやすくて楽だ。そして幸か不幸か、彼ら、アスラン・ザラとラクス・クラインにとっての色眼鏡はプラント市民のほぼ全てが共有している。

 ふと、この問題はプラントだけで無く、ナチュラルとコーディネーターの間にも言える気がした。ナチュラルだから出来なくても仕方がない。コーディネーターだから、ナチュラルより優秀な筈だ。本当にそうならば、ラウは白服を纏うのを許されていなかったし、俺も赤を着れていない。今はその先入観を存分に利用させてもらっているが、少しだけ、本当にほんの少しだけ、それに振り回されるアスランとミーアを悲しく思った。




ザクが飛べるようになりました。
レイとミーアは議長繋がりで姉弟みたいな付き合いがあるはずじゃないかと想像してます。
ルナマリアはシンやレイみたいに特殊な過去や生い立ちのない、良くも悪くも一般的なプラント市民だと捉えてます。
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