ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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父への願い

 しっかりとこちらへの感謝を述べてから足取り軽く出ていったルナマリアを見送って後ろを向くと鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で固まっていた。コイツ、あれだけ世話焼いてるくせに尊敬されてるとは思ってなかったのかよ。シンの事もあったから自覚しているかと考えていた。

「大丈夫だって言っただろ。諸々の根回し終わって待機中であんなこと言い出すなよ」

 直前になって不安がられたらこっちも困る。ルナマリアも不思議そうな顔で考えていたから余計に拗れたし。少しきつく言ってしまうとシュンとされる。

「俺だったら来て数日のやつにアレコレ言われたら物凄く嫌だから、彼女もそうなんじゃないかと思ってしまって……それに、前の大戦で父上の事もあったから印象も悪いかと……悪い。

 エイブス班長に作業開始の連絡を入れる」

 端末に向かって作業し出したコイツを見つつ、内心で大きくため息をつく。やっぱりまだ精神が不安定だ。以前は一度決めたら揺らがない奴だったが、父親の事もあってか、自分の決断に自信が持てていない。これに関しては仕方ないかなと思ってしまう。インド洋で、シンを構う理由を聞いた際に本人もチラリと言っていたが、アイツはあのまま忠実な兵士でいたら、ジェネシスを守って結果的に地球を滅ぼすところだった。パトリック様と直接話す機会があり、そうなる前に気づくことができはしたものの、父親を止めきれずに失った事がトラウマになっているのだろう。薬を飲まずに寝てしまった時は夢に出てきたらしく、うなされているのを見てから欠かさず飲ませている。薬頼りは最善とは言えないが、毎晩ああなるよりずっと良い。あいつの父親への感情は複雑だ。ジェネシスの件で父親が戦犯となったことで、より拗れているのも想像がつく。

 アスランは家の事もあって両親、特に父親との交流は一般家庭と比べて格段に少ない。子供の頃は俺達や先輩の使用人達がなるべく側にいるようにして寂しくさせないようにしていたが、どうしたって両親との触れ合いとは別のものになる。親に褒められたい、甘えたいといった幼少期に満たされるはずの想いが十分に解消できたとは言い難い。そんな生活の後、ブルーコスモスのテロがきっかけで月に行き、離れ離れで6年過ごし、漸くプラントに帰還して、少しずつ一家団欒の時間を持てるようになってから、あの悲劇だ。アスランがザフトに入った事もあり、公式の立場で話す方が、家族としての時間よりも多かった。あの人も決してアスランを愛していない訳ではなかったらしいが、直接伝えてくれなかった。別に不倫をしていたとか家庭を軽く見ていた訳ではない。世界情勢もあって仕事が忙しく、ほぼ家に帰って来なかっただけだ。それでも、アスランは昔から、父親が大好きで尊敬していた。まいにち一緒に食卓を囲めなくても、クリスマスやニューイヤーすら帰ってこなくても、メッセージカードやメールを欠かさず贈ってはパトリック様からの僅か数行の堅苦しい返事が来ると嬉しそうにはしゃいでいた。そんな姿を見ていたからこそ、思ってしまう。どうして、もっと一緒にいてやらなかったのか。アスランに対して励めとしか言わずに、褒めてやったり頭を撫でたりしなかったのか。もう死んだ人に対して今更言ったところでタイムマシンなんて無いから、仕方ないことは分かっている。俺の家庭もよくあるもので無いが、アイツと違って親に対して何の期待もしていない。仮にアイツの立場だったとしても、世界を滅ぼしたらこれ幸いとあらゆる罵倒でこき下ろす自信がある。アスランの場合は愛されているかどうか分からなくても、好きな親だから悪く言われるのが悲しいのだ。それがどうしても堪えきれなくて、思わず声を顰めて呟いていた。

「子供が親に無視されちゃ、たまったもんじゃないんだよ」

 たとえ本人の意志で無くっても、愛されてるのが正しく伝わらないと何の意味もない。

 この事を本人が自覚しているかどうかは本人じゃないから分からない。死んだ親父に認めてもらいたいなんて、枯れた花を咲かせるみたいに出来っこないことだから、気づかない方が良いのかもしれない。あくまで俺から見た推察だから、少し違うかもしれないし。

 そこまで考えてから、嫌な感じに思考が働いているのを自覚して、慌てて頭をブンブンと振る。

 アスランはエイブス班長に画面越しで作業風景を見せてもらいつつ機械談議に夢中で、さっきの呟きも聴こえていないみたいだ。その事にひとまず安堵する。自覚はなかったが、相当俺も参っているらしい。アスランのミネルバでの人間関係はさっきのルナマリアで分かる通り良好だ。それなのにイラついているのは、目の前のコイツが父親のことで背負わなくて良い責任を背負って本来の実力が出せていないことと、オーブで姿を見せて以来、何の音沙汰もないフリーダムがいるからだろう。何もしないならそれで良いが、姿を見せないとそれはそれで気を張ってしまう。一度姉さんにカウンセリング頼むことも考えつつ、気分転換も兼ねて、艦長へ書類を提出しに部屋を出た。

 

 

「ありがとう、確かに受け取ったわ。ルナマリアはガナーでガイアと渡り合えていたから、先ほども言った通り近接装備に換えれば前線が益々頼もしくなるわね。アスランは整備班に伝えに行ったのでしょう? 貴方もわざわざこんな事まで悪いわね」

 お気になさらず、と返してくる彼からルナマリアの署名もされた書類を受け取る。インド洋でのゴタゴタと言い、彼と話す機会はなんだかんだ多い。ふと、彼らが来て随分と日が経ったことに気づいた。

「そういえば、貴方達が来てからしばらく経つわね。この艦はどうかしら? あぁ、畏まって考えなくていいわ。私達だと、気づきにくい所とかあるでしょう? 新しく来た人から見て改善点が有れば知っておきたいの。元々、貴方の属してるサジタリウスはそういう組織だしね?」

 サジタリウスは、ザフトのように国防委員会に属さない、プラントからの監視組織だ。忌憚ない意見を知っておきたいと思って問いかけると、俺もこの艦の一員なので贔屓目は入りますけどね、と笑って答えてくれる。

「良いと思いますよ。若いクルーが多い事もあってか、そこまで変な固定観念に囚われてない素直なのが多いから、飲み込みが早い。新造艦という事もあって経験不足は否めませんが、裏を返せば伸び代がまだまだあります。貴女がしっかり面倒見てくだされば現主力部隊のジュール隊を超える活躍も見込めますね。それこそ議長が言われていたように前大戦時のアークエンジェルのようになれるかも。もちろん、微力ながら俺やアスランも協力は惜しみませんから、何か有れば声をかけてください」

 ギルバートがそんな風に言っていた事に少し驚く。全く、ここ最近の彼は腹の底が見えない。何をさせるつもりかしら? あの人の思惑はともかく、褒めてくれた彼にはミネルバを代表して礼を言うと、嬉しそうに笑って退出していった。それにしても、来た当初はどうなることかと思ったが、彼らはしっかりシン達の面倒を見てくれているらしい。昼間もパイロット達に訓練をつけている姿がよく見えたし、今のようにMSの改良も進言してくれる。一方的な押し付けでなくシン達の方も慕っているようだから、パイロット間の信頼関係は問題ないようだ。ガルナハン基地攻略は、あの物騒な兵器のおかげで予想以上の大仕事になる。アスランも普段の仕事の合間を縫って現地のレジスタンスから情報を聞き、作戦を練っているそうだが、少しかかりそうだと言われた。こちらも不足品の搬入手続きやマハムール基地との連絡や交渉で忙しい。何か手伝える事があれば言ってちょうだい、としか言えず年長者として情けなかったが、彼を信じて待つしかない。こちらは何があっても良いよう、できる準備を全力でしておくだけだ。




キラは出生は複雑だけど、それを知った後でもカリダとの仲は良さげだったし、シンは家族を失ってはいるものの、それまでの幸せな想い出がきちんと描写されてる。アスランだけ、そういう幸せな家族との記憶があまり無さそうだったから、愛情不足で親に褒めてもらいたいのが心のどこかにあったんじゃないか?と個人的に考えてます。
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