ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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ミゲルとハイネが友人です。


夕日の中で

 買い物を終えて夕方になったので、メイリンと別れて基地に戻る。まだ行きたいお店はあったけど、休暇が今日で終わりな訳じゃない。明日また一緒に行く約束もした。明日の買い物について考えながら足を進めると、入り口でアスランさんとラーナスさんが話していた。大分早いかなって思ったんだけど、来て正解だったみたい。

「お前な……ほんっと、おまえなぁ……普段は物欲とか全然無いくせして……時折来るその散財癖はどういう事だよ?」

「全部必要だから買っただけだ。要らないものは買ってない。大体、お前も面白そうって言ってくれたじゃないか。彼女に贈る本命のは今回よりサイズを大きくするし機能も増やすからな。具体的な形は聞いてから決める。貯金を貯めておいた甲斐があった」

 呆れたように頭を抱えていたラーナスさんが、少し拗ねたようなアスランさんの言葉に嘘だろ、とのけぞった。二人とも話に夢中みたいなので、こちらから声をかける。

「お疲れ様です、アスランさん、ラーナスさん。その様子だとお買い物、たくさんできたみたいですね?」

「あぁ、お疲れ。かなり良いのが手に入った。君もメイリンとの買い物は楽しめたか?」

 機嫌良さそうに笑って、弾んだ声で返事してくれる。言葉通り、相当良いものが買えたんだろう。専門じゃないから詳しく聞いても分からないだろうけど、嬉しそうな彼が、歳上なのに子供っぽく思えて、笑って答える。

「良かったですね。私達も、新作で似合いそうなリップとかアイシャドウとか買えたんです。気に入ってるブランド店にも行こうかと思ったんですけど、試着もするから時間かかっちゃうので、また明日。

 それにしても、パイロット全員呼び出しって何でしょう? アスラン、何か知ってます? 私、簡単な会議、としか聞かされてなくって」

 戦闘要員である都合上、化粧をしても直ぐ落ちてしまう。アカデミーでの訓練中に、誰に見られるわけでもないんだからしても仕方ないだろうと言われた事もある。別に、誰かに自分を見せたいんじゃなくて、私がキレイな自分を見たくてやっているだけなのに。生真面目な彼にも何か言われるかなという思いに反して、そうか、良かったな、とだけ返ってくる。少しだけ驚いている私に気づかず、質問の答えが続けられた。

「俺も、話を詳しく聞けていないんだ。サジタリウス所属のコイツにまで呼び出しがかかるなんて、相手はよっぽどの重要人物だと思うんだが」

 不思議そうに形の良い眉が顰められる。前線で一番権限のあるアスランまで知らないんじゃ、分かりようがない。そうなんですね、誰なんでしょう? と揃って首を傾げていると、シンがやってきた。後はレイだけだ。私達の中で一番時間に厳しい彼が最後なんて、珍しい。そう思っていると、基地から赤服の男性が近づいてきた。

「お、いたいた。ミネルバのパイロットの奴らだな? 案内を任されたハイネ・ヴェステンフルスだ、こっちへどうぞ」

 近づいてきたその人の服にフェイスのバッジが輝くのが見えて慌てて敬礼すると、硬くなるなよ、と笑って手を振られる。さっきの自己紹介と言い、だいぶ気さくな人みたいだ。なんだか似ているなと頭に浮かんだ眼の前にいる人の艶やかな黒髪が動く。

「ハイネ! お前、基地の中いるなら言えよな!」

 ラーナスさんが、楽しそうに彼の肩をバシバシと叩いた。

 ハイネさんも、わりぃ、と笑って叩き返している。呆気に取られていると、アスランさんが少し首を傾げた後ハッとする。

「ラーナス、お前、まさか夜に飲む約束してた相手って……」

 ひとしきり再会の儀式……的な物が終わったのか、アスランさんに向き直って答えが来る。

「そうそう、コイツ! ちなみに、お前と同じフェイスだよ。確か、なったのは随分前だよな」

「まぁな。おいおい、お前も畏まるなよ、アスラン。俺達は上から言われたとおりにしなきゃ、ちゃんとできないナチュラルと違う。戦場に出たら、皆同じさ。にしても、ラーナスから聞いてた通り、本当に真面目なやつなんだな!」

 先輩だと聞いて敬礼しようとしたアスランが、私と同じように釘を刺された。少し驚いた顔でハイネさんの話を聞いた後、最後の言葉にラーナスさんを軽く睨んで文句を言う。

「お前、どんな風に俺のこと言ったんだ」

「別に? うちの自慢の弟がこんなに可愛くって優秀だ、って話を酒の肴に聞いてもらっただけだよ」

「悪い悪い、褒めてるんだよ。コイツ、ミゲルから聞いてた通り、マジでお前の話ばっかしてたから」

 ラーナスさんがサラリと答えたのをフォローするようにハイネさんがアスランの頭を撫でた。ラーナスさんも着任当初とか二人で話している時とかにしていたけど、幼馴染だからだ、と納得できた。初対面でする人がいる事に驚いてしまう。本人も驚いたのか固まってから、なにやら口籠もっている。気づいたハイネさんが、ハイネで良いぞ、敬語も無しな! と笑った。あぁ、先輩だけど硬くなるなって言われたから、何て呼べば良いか分からなかったのね。微笑ましく見ていると、戸惑ったような声でアスランさんが問いかける。

「えっと……その、ハイネは、ミゲルと友達だった……のか?」

 すごく、真面目な表情だった。アスランにつられてなのか、ハイネさんも真剣な声で懐かしそうに返す。

「あぁ。アイツの初の配属先が俺が居た隊で、気が合ってな。トップエリートのクルーゼ隊に栄転してからも、休暇が合えば一緒に飲みに行ったもんさ。ラーナスと出会ったのもアイツの紹介。俺と気が合いそうな奴がいるって。

 ……そうか、お前、ミゲルの後輩だったな。あの作戦にも参加してたのか」

「……あぁ。すまない、あの時、俺が……!」

 アスランさんの声が震えている。ミゲルって人、もしかして……嫌な可能性が脳裏を掠めた時、ハイネがアスランさんの頭を思いっきり揉みくちゃにした。わ、と驚いてバランスを崩したアスランさんが支えられる。

「ほんっとうに、真面目な奴だなぁ……! アイツが死んだのは、お前のせいじゃない。アイツの専用機は整備中だったし、まさかあの国があそこまでの物を作ってるなんて誰も思わないさ。未来を知ってでもいない限り、あそこに誰がいても結果は変えられなかったよ。そんなに気に病むな。アレもコレも全部助けようなんて、俺達人間には無理だ。

 でも、ありがとうな。アイツのこと、忘れないでくれて」

 向こうをむいたハイネさんの声が、少しだけ涙ぐんでいるような気がした。亡くした家族を思い出したのか、シンが奥歯を噛む音が聞こえる。 ポンポンと優しく頭を叩かれたアスランさんの肩が震えているのは、気づかない振りをした。

 

 

「悪い、浸りすぎたな。そろそろ行くか!」

 ハイネさんがようやくこちらを向いた。最初と同じ明るい口調だ。アスランさんも顔を上げて頷く。目元が赤くなっているのは、夕日のせいだと思うことにする。亡くした人を思って泣くのは悪いことじゃないけど、むしろ大切だと思うけど、指摘されたらやっぱり恥ずかしいだろうから。

 この人は、お母さんだけじゃなく、多くの人を戦争に奪われてきたんだ。今の話から、ミゲルっていう人はアスランさんにとっての先輩で、ハイネの後輩だと分かった。こんなに泣いてもらえるなんて、良い人だったんだろう。叶わない願いだけど、会ってみたかった。誰も失わないですむ世界が早く来ればいい。そのためには、頑張って戦争を終わらせないと。そんな事を考えながら案内するハイネについて行こうとした時、大切なことを思い出す。

「あ、あの! レイが、まだ来てないんです! えっと、長い金髪で赤服なんですけど!」

 ハイネとレイの面識がない事に気づき、慌てて特徴を言う。あぁ、と思い出すように上を見て、ハイネが返事した。

「ソイツなら、艦長と一緒に先に行ったよ。通して良いって言われたし」

 どうやら先に着いていたらしい。置いていかなかった事に安心すると、ラーナスさんが手を挙げた。

「なぁなぁ、ハイネ。そろそろ教えてくれてもいいんじゃねぇの? 一体俺達、誰と話をしに今歩いてるんだよ」

 確かに、気になってはいたけど、さっきの事とか色々あって頭から抜けていた。ハイネが少し困ったように頭を掻いてから、苦笑して答える。

「まぁ、もう着くし問題ないか。いいか、聞いても心臓止めるんじゃ無いぞ? 

 まず、プラントの代表である最高評議会議長、ギルバート・デュランダル。

 次に、監視機関サジタリウス代表、シモン・フェデラー。ラーナスにとっちゃ、直属の上司にあたるよな? お前が呼ばれたってことは、何か話があるんじゃねぇの? 

 そして、プラントの医療の発展を担う一大企業、セントエルモ社社長のアルバ・ローゼンクォイツ。今ミネルバに乗ってる軍医、あの人の右腕なんだろ? ちょっと前に案内したよ。すげぇ美人だった。

 最後にザフトのトップとも言える現国防委員長、アレン・アルフリード。

 そこに最新鋭艦で目覚しい戦果をあげまくるお前らミネルバが加わる、っと……

 いや、本当、何を話すんだろうな……世界征服計画でも建てんの? ……って、オイ?!」

 指折り数えて名だたる人物を挙げていったハイネが、乾いた笑いをこぼして途方に暮れたように頭を振ったのと同時に、最後の名前を聞いてから顔を見合わせていたアスランさんとラーナスさんが無言で頷いて猛ダッシュした。驚いたハイネの呼びかけに叩きつけるように応える。

「すまない、ハイネ!! 先に行く! シン達は任せた!! この先だな!! 師匠、こんな政治の基本も分からないくせに……!!」

「悪いハイネ!! クソッタレ、あの表情筋9割ご臨終シスコン野郎が……!!」

 特に打ち合わせをしていないだろうに、最後の言葉は息を吸うタイミングから言う台詞も一言一句、何もかも揃っていた。

「「なんで議長に続いて国防委員長までプラント離れてるんだ、ふざけるな馬鹿野郎!!!」」

 そんな叫びを残して、ドドドドドと効果音が見えるほどの勢いで走り去っていった。

「……まぁ、そりゃ確かに有事に備えてどっちかは残っておくのが常識だけどさ。それだけ重要案件なんじゃねぇの……って、もう聞こえてないか」

 少しだけ面白そうに笑って、俺達は普通に行こうぜ、と振り返るハイネに頷く。ルナが呆気に取られたように言葉を漏らした。

「アスランも叫ぶ事、あるのね……」

 歩きながら首を縦にふった。あの人は自分が大きな音が苦手なのに、結構自分は大声を出す。でもそれは、インド洋で俺を叱った時みたいに言うべきことをちゃんと言うためだ。言い方は説明不足にも程があるとは思うけど。

 にしても、アレン・アルフリード。アカデミーの卒業式で姿を見ただけだけど、長い赤毛が印象的な人だった。過去が謎らしく色々と噂があるけど、二人と関わりがあるのだろうか? 師匠ってさっき言ってたし。

 会えば分かるかな、と思いつつ先を行くハイネについていった。




アスラン、ニコルほど描写は多くないけど、ヘリオポリスでの事も気にしているんだろうな、と思ってます。
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