ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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星空の密会

「そういえば、聞きたかったんだけど……アスランって、スレンダーな人がタイプなの?」

 食事中に突如言われた言葉に、驚いて咳き込んでしまう。

「い、いきなり何を言ってるんだ、君は!」

 つい大きな声を出すと、テーブルの向こうで彼女はキョトンと首を傾げた。

「だって、フォリィはスラッとしてて格好良いじゃない? 専属のお世話係やってるんだから、アスランが選んだんでしょう? そういう顔や体型の好みとかもやっぱり選んだ理由にあったのかなぁ、って思ったの」

 無邪気な様子から悪気がないのは理解できた。確かに姉の容姿は悪くない方だし、5つ上ながら立ち姿も凛としていて、幼い頃はその格好良さに憧れていたこともある。しかし、見目麗しいからという理由だけで成れるほど、次期当主の専属使用人は甘くない。

 

「違う。顔の良さなんかより、重要な事があるからな。偶々、姉さんにその資格があっただけだ」

「資格って? お料理が上手とか、スケジュール管理の達人とか?」

「そうじゃない……普段は俺の要望を叶えつつ、絶対に駄目な事をしようとした時、何をしても止める事だ。それ以外は、そこそこでも構わない。もちろん、容姿を含めてな」

 父上に付いていたファリアスの老執事は、それが出来なかった為、苗字を変えるまでした程だ。姉さんは、昔から俺の願いの多くを叶えてくれたが、危ない事をしようとした時には、ありとあらゆる手で止めてくれた。頼んだ事を出来ないと言われた事は一度もないが、遠回しに否定されると、その行動はいけない事だと俺も学習できた。その経験があった事が、最も大きな選考理由だ。

 思案に耽っていると、はたと別の事に思い当たった。目の前の子に聞きたい事があったのだ。ふぅん、と納得したように頷いている彼女に声をかける。

 

「なぁ、ミーア。えっと……もし、君が嫌で無かったら、ペットロボットを造りたいんだが、その……構わないだろうか?」

 

 さっきとは比べ物にならない程、驚いた顔で固まった彼女に慌ててしまう。いくら姉さんが優秀とは言え、四六時中側に居られる訳では無い。故に、護衛機能を付けたペットロボットを側に置いて欲しかったのだが、本人が嫌がるなら無理強いは出来ない。姉がマネージャー業務を手伝っているなら尚更置いて欲しかったが、仕方がないか……と思いつつ、取り消そうと口を開こうとした瞬間、彼女が、大粒の涙を零した。

 

 

「ミーア?! すまない、そんなに泣くほど嫌だったのか……」

 焦ったようにこちらに駆け寄って来たアスランが目線を合わせて謝ってくる。誤解を解くために、少し息を整えて言葉を紡いだ。

「違う、違うのよ、アスラン。嫌なんかじゃないわ。嬉しくって泣いてるの」

 滲む視界の中で綺麗な緑を見ながら答えると、パチパチと瞬いた。

「嬉しくて、か? どうして?」

「だって、アスランがミーアのために作ってくれるんでしょう? それが、とっても嬉しいの」

 

 ラクス様の代わりをしているから、アスランには良い感情を持たれていないと思っていた。それなのに、小さい頃から知っている大事な人である筈のフォリィに危険な護衛をお願いしてくれた。その上、忙しいザフトのお仕事の合間を縫って、ペットロボットまで作ってくれるという今の申し出。機械については全然詳しくないけど、直ぐに出来る物じゃない事は分かる。私が本物のラクス様じゃないと知っていながら、そこまでしてくれるのだ。ミーアのためにそこまで自分の時間や大切な人をくれる人はいなかった。嬉しくって泣いてしまう。

 テレビ越しに見た時から王子様みたいで憧れていた。実際に会って話すと穏やかで、戸惑いながらも丁寧に質問に答えてくれる所が可愛らしく思えて、もっと好きになった。渡されたハンカチで涙を拭いてから抱きつくと、慌てたように名前を呼ばれる。

 

「アスラン、本当に、ありがとう! でも、お願いして良いの? お仕事もあるし、大変じゃない?」

 顔を上げて、お礼と気になる事を聞くと、赤くなった顔で咳払いをした後、返事が返ってくる。

「俺がやりたくてやっているんだ。気にしなくて良い。ただ、後輩に報酬で造る約束をしているんだ。すまないが、少しだけ待ってもらう事になる。それで、どんなのがいい? 大抵の動物なら作れるよ」

 いつか飼えたら、と思っていた子がいる。せっかくだからお願いしよう。言うと、笑って了承の返事が来た。出来たら送る、と告げられて大事な事に気づく。お行儀が悪いかもしれないけど、その場にあった紙ナプキンに持っていたサインペンで書いて向かいに渡した。キョトンとしながらも受け取ってくれる優しい彼に、もう一つお願いをする。

 

「私の電話番号とメールアドレスよ。時間がある時で良いから、いつでも連絡ちょうだい? お願いした子が出来てなくても、今日こんな事あったとか何でも良いから。アスランが頑張ってるんだなって私も元気が出るの」

 少し戸惑ってはいるものの、分かったと頷いてくれる。ありがとうと笑うと、食事も終わったし帰るかと椅子をひいてくれた。ここでお別れは寂しいので、せっかくだしお誘いをかけてみる。

「ねぇ、アスラン。せっかく綺麗な街に来たから、お買い物に行きたいんだけど、フォリィにはお姉さんとゆっくりしてほしいし、よかったら着いてきてくれない? デートしましょ!」

 見上げると、耳まで真っ赤になっていた。ダメかしら? と首を傾げると、なにか口籠っていたけど、頷かれた。お礼に抱きついたら、また慌てている。さらりとエスコートしてくれるのに、こういうスキンシップには慣れてない様子に思わず笑みが溢れた。

 

 

 

 一度別れて、着替えのため部屋に戻る。姉さん達の部屋に送り届けたから危険は無いと思うが、約束の時間より前に迎えに行くとしよう。本人も悪いと渋っていたのを頼んで入れてもらった事だし。着替え終わったし、そろそろ向かおうかと思った時、ドアが叩かれた。開けると、ホテルのボーイが緊張した面持ちで立っていた。

「アスラン・ザラ様。デュランダル議長がお呼びです。こちらのお部屋で待つと」

 ルームキーを受け取って礼を言うと、そそくさと退出していった。残念ながら、彼女の買い物には付き合えないらしい。姉さん達と同じ部屋にいるから、そのまま行ってもらおう。先ほど渡された紙に書かれた番号を携帯に打ち込むと数コールの後、明るい声が聞こえた。

『もしもし、アスラン? 早速かけてきてくれるなんて嬉しい! どうしたの? 行きたいお店があるなら、私に遠慮なく言ってね?』

「あ……いや、そうではなくて……悪いんだが、議長がお話があるそうなんだ。すまない。いつ終わるか分からないから、姉さん達と楽しんできてくれ。君もそっちの方が良いだろう?」

 しばらく沈黙が続く。……長い。電波障害か? 確認のため声をかけると、やっと返事が返ってきた。

「嫌よ。私は、アスランと行きたいの!! 終わったら連絡ちょうだい! それまで女子会してるから! 絶対に連絡ちょうだい、絶対よ!」

 そのまま切れた電話に茫然としてしまう。土壇場で断ったのだから機嫌を損ねて当然だ。しかし、俺と行くより姉さん達との方が女性同士だし楽しいだろうに、何故断ったのだろう。内心で首を捻りながら、赤服に着替え直して指定された部屋に向かった。

 

 

 挨拶とともにノックした扉を開けると、椅子に座っていた議長が立ち上がって出迎えてくれる。

「わざわざすまないね、アスラン。ひとまず、座りたまえ」

「いえ、こちらこそお待たせしてすいません、議長。御用件は何でしょうか?」

 訊ねると、間にある机に置いてあった書類を示された。題名を見て驚いた。

「これは……私が入隊前に書いたバッテリー利用に関する論文、ですか? なぜ、ここに?」

 恐る恐る問うと、穏やかに答えられた。

「無論、私が読んでいたからだよ。流石と言うべきだね、良い論文だ。ただ、掲載当時はバッテリーそのものの質が今より良く無かったから実用化には至らなかった、そうだね?」

「あ……お読みくださりありがとうございます。

 はい。小型化とエネルギー利用の効率向上が前提となって核動力と同等の稼働時間と出力を得るための方法論として提示した物ですから」

 バッテリーそのものの品質向上に関しては専門外だ。下手に口を出す事では無いため、未来に期待するという話で教授から提出を頼まれたのだった。議長が愉快そうに笑う。

「なるほど。しかし、現在はオーブから移住してきた技術者達によって小型ながら大容量のバッテリーであるパワーエクステンダーがもたらされた。これなら、この論文を実用化する事は可能かね?」

 問いかけに思考を巡らせる。方法自体はそう難しい物ではない。議長の仰る通り、パワーエクステンダーの性能は執筆時に想定した物を大きく上回る。

 ラーナスから以前持ちかけられたサジタリウスで造ってもらえる俺の専用機のエンジンで実証する予定だ。自分の機体だから実験を兼ねているが、問題は無い筈だ。

「可能だと思います。実は、サジタリウスの方で私の機体を造っていただくことになっていまして、それで実証でき次第、改めてご報告させていただいても構わないでしょうか?」

「もちろん。問題無いとも。こちらでも製造には入るが、実証データがあるに越したことは無い。データは直ぐに送って欲しい。色々と任せて申し訳ない。必要な事が有れば言ってくれたまえ。この技術が確立すれば、核に頼らずとも良い世界となる。平和のためだ、喜んで力となろう」

 お礼を言うと、詳細部分について質問されたため答えていく。そういえば、議長は議員になられる以前は遺伝子工学の一線を走る博士だったと聞いた。無駄な問いが一つもないし、着眼点も鋭い。流石、専門に働かれていた方だ。学会で発表する時の気分を思い出して答えていく。質問が終わった後、少し躊躇いがちに聞かれた。

「流石だね、アスラン。最後にいくつか。話は別なのだが、その……あれから君にアークエンジェルやオーブから連絡は来たのかい?」

 首を横に振ると、議長は沈痛な面持ちで気遣ってくださった。

「すまない。もしかしたら連絡の行き違いでもあったのか、と思ったが杞憂だった。嫌な事を書いてしまったね。では、これで最後としよう。あの船に、本物のラクス・クラインは居ると思うかい?」

 気遣われた事に申し訳なく思いつつ、続けられた問いには確信を持って答えられる。

「いえ、私の方こそお気遣い痛み入ります。ラクスに関しては、間違い無いかと。……アークエンジェルのクルー達が彼女を置いていく筈はありませんから」

 正確にはキラだ。オーブで共に暮らしている最中、アイツはラクスを心の支えにしているように思えた。うんと長い時を一緒に過ごしてきた母親であるカリダさんよりもだ。一緒にいないはずがない。エターナルが見つかっていない現状、アークエンジェルで共に居るのだろう。俺の答えに対して、議長は困ったような顔をされた。

「そうか……いつまでもミーアに任せるのは忍びない。本物の彼女に戻ってきて欲しいのだが、戦い以外を選べない我々に呆れてしまったのかな。もし連絡が有れば、知らせておくれ。彼女とは是非、話がしたい。平和な世界を望む一人としてね」

「了解致しました。あの、議長にも彼らからコンタクトが有れば、私に連絡を戴けると幸いです」

「もちろんだとも。せっかくの休みにすまなかったね。ゆっくりと休みたまえ」

 丁重に礼を述べて退出する。あのシステムがザフト全体に関わる試作機なら重要度が格段に上がる。サジタリウスの方々には申し訳ないが、作業を急いでもらおう。

 

 部屋に戻ると、ラーナスに加えてシンもいた。

「お帰り、アスラン。師匠からお土産あるよ」

「お疲れ様です。はい、コレですよ。アンタの好物って話ですけど、一体何なんですか?」

 備え付けの保温庫に入れていたのか、大分時間が経っているだろうに、まだ温かい。受け取った紙箱から淡く漂う匂いで見当がついた。少し頬が緩むのを自覚しつつ、少し気恥ずかしいが、シンの問いかけに答える。

「……ロールキャベツ。好きなんだよ」

 母上が何度か作ってくれたから、と言う理由は気を遣わせてしまうだろうから言わないでおく。感心したような声が目の前の後輩から上がった。

「そうなんですね。3人分あるそうなんですけど、一つ貰っても良いですか? そこの店、料理めちゃくちゃ美味しかったので」

「良いぞ。ただし、一つだけな。お前も一緒に行ったのか?」

「そーですよ。アンタの代打で行ったんで、手間賃って事で。いただきます。……うわぁ、海鮮以外も美味いの、凄いな……白米とか無いですよね?」

「ここには無いぞ」

 やっぱり故郷の食べ慣れた物が好きなんだろうか? オーブで主食となっている米は慣れたら美味しかったが、常備する程気に入った訳でもない。悪いことしたなと思いつつ返事をすると、ですよねと苦笑を浮かべてから、ご馳走さまでしたとお礼を言ってきた。頷いてから自分の分を口に運ぶ。うん、美味しい。シンのさっきの言葉通り良い店に行っていたみたいだ。食べ終わったので容器を捨てて使ったカトラリーを洗う。自室に戻るというシンを見送った後、まだ自室に戻らないラーナスにせっかくだから声をかける。

 

「ちょっと良いか? 実は、頼んでいた機体なんだが、アレで使うエンジンのシステムがザフトで制式採用される可能性が出た。検証用にデータを送る必要があるから、可能な限り納期を早めて欲しい。頼めるか?」

 

 頼むと、少し考える素振りを見せた後頷いてくれた。

「分かった。エンジン自体はほぼできてるらしいからな……これから向かうジブラルタルで受け取れるよう頼んでみる。基地もデカいし、搬入しやすいだろ。また決まったら言うわ。じゃ、俺もそろそろ部屋戻るから。お前もとっとと寝ろよ、おやすみ」

 返事をして見送る。大分夜も遅いから、彼女はとっくに寝ているだろう。悪い事をしたので謝罪のメールを送ってから、流石に眠いので横になった。

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