ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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ダーダルネスの黄昏
出撃準備


「嫌、取らないで!」

 

 研究員がハンカチを回収しようとしたらステラが暴れ出した。帰って直ぐに傷の処置を終えた後も肌身離さず持ってるアレは、一緒に遭難したザフトの坊主から貰ったのだろう。よっぽど思い入れがあるようだ。宥めてから全員寝かせると、傍らのナタルが少し複雑そうな顔で話しかけてきた。

 

「本当によろしいのですか? 休暇中の記憶を消すなど……」

 

「あの坊主が、ザフトの奴だからな。もしかしたらアイツかもしれないと考えて、戦闘に支障が出るかもしれん。ただの民間人なら、守るための理由になって良かったんだがね。食事会の記憶は残せるなら残したいもんだが、大変らしくて無理だとよ。全く、記憶ってのはあった方が良いのか、無かった方が幸せなのか……」

 

「研究員達は戦闘経験以外不要と思っているそうですが……私は、それ以外の記憶もあって良いと思います。以前のように日常生活にも支障が出ないだけ十分と言われるかもしれませんが」

 

「あぁ、お前さん、旧式の奴らも知ってるんだっけ? 確かにそうだな。時間制限も無いし、ゆりかご様々だ。何にせよ、戦闘の邪魔になりそうなら消すしか無い。あんなに死ぬのを怖がってる子が死なないためには、敵を倒し続けるしかないんだから」

 

 理由を言えばナタルも渋々頷いてくれた。ファントムペインは非公式の組織だ。あの上司の胸先三寸で処分が決まる。だから成果を挙げ続けなければいけない。ちょうど顔を思い浮かべた男から、連絡が入った。

 

 

 

 

 

「アスラン、書類終わらせといた。後さ、この後時間あるか?」

 

「すまない。この後なら空いてるが、どうした?」

 

「違う違う、やり直し。こういう時は、ありがとう助かったハイネ様って言うんだぜ? 悪いこと何にもしてないのに謝るな。ちょっと、この後の航路で手荒いお出迎えがあるらしい。艦長が言っておきたい事があるってさ」

 

「分かった。後……ありがとう助かった、ハイネ」

 

 わしわしと頭を撫でられる。ハイネは実力も確かだし、フェイスしか見れない書類も任せられるので業務が楽になった。揃って艦長室に向かうと、複雑そうな表情の艦長がいらっしゃった。

 

「ディオキア基地の司令官から連絡があったの。スエズを取り戻しに増援部隊が向かって来ている。例の3機を有する空母も居るし、何より増援で来るのはオーブ軍だそうよ。スエズ前線は重要だから、対処は周辺のザフト戦力総員に命じられている。本艦だけ拒否は出来ないわ。アスラン、大丈夫?」

 

 カガリの帰還より、セイランの軍掌握が先だったか……! 世話になった国の現状に歯痒い思いは有るが、いくら相手がオーブだからといって、何もせずに前線に出て沈むのは御免だ。頷くと艦長が小さく息をついてから、命令を下した。

 

「何か問題があったら直ぐに言って。では、ミネルバは最前線となるダーダルネス海峡に出撃。増援部隊を迎撃し、黒海侵攻を阻止。各員への通達はお願いね、アーサー」

 

 一礼して退出する。考えを纏めたいから部屋に戻ろうとすると、ハイネが問いかけてきた。

 

「アスラン。お前、何処となら戦いたい?」

 

 嫌な問いだ。そんなの、何処とも戦いたくないに決まっている。顔に出ていたのか、苦笑された。

 

「あ、やっぱり? 俺もだよ。出来るんなら何処とだって戦いたくない。……そういう事だ。俺達は軍人で今は戦争だから、仕方がない。割り切れよ。でないと、死ぬぞ」

 

 頷いて部屋に戻ると、ラーナスが出迎えてきた。

 

「お帰り……嫌な事あったな? 何があった?」

 

 俺の顔を見た瞬間、険しい顔に切り替わる。そんなに酷い顔を俺はしているんだろうか。憂鬱さが増してシンの時とは比べ物にならないため息をついてしまう。気持ちはどうあれ、伝えなければならない。

 

「地球軍の増援部隊の迎撃に出る。ただ、その相手がオーブ軍なんだ」

 

 呆れたようにため息が吐かれる。小さく舌打ちがなされ、昔から綺麗な黒髪が部屋を舞った。

 

「オーブのオヒメサマは、帰ってこなかった訳だ。アスハの名の下で同盟に参加したが、昨今のユーラシアの状況を見て、矢張り地球軍は非道だと気付いたとか、言い訳は立つだろうに。ま、また地球軍に攻められる可能性もあるか」

 

「最初から、結ぶべきじゃ無かったんだ。今の状態では、どちらに転んでもオーブに被害が出る」

 

 同盟を結んだままだと、オーブの理念にオーブ自身が反している。他国の争いに介入しないというものを、カガリ本人はどうあれ国が自ら破っているのだから。何より、あの国は地球の中で数少ないコーディネーターを受け入れる国だった。以前のオーブ侵攻でシンのように多くのコーディネーターがプラントに来たとはいえ、残っているコーディネーターもまだいる。彼らが迫害されている危険性もあった。

 かといって、条約から簡単に抜けるとオーブがまた焼かれる危険性がある。上手く抜けなければならないが、カガリにそこまでの交渉術や政治的手腕はまだ無い。最悪だ。また大きなため息をついてしまう。ほとほと呆れた顔をした同室がぼやいた。

 

「地球軍に撃たれないって目先の利益だけ見て、こうなると分からずに結んだのかもな。本当にそうなら、為政者として責任取って一回辞任でもしないと同盟抜ける建前が出来ない。その後は以前のウズミ代表みたく院政敷くって手もあるけど、成果特に挙げてないから難しい。オーブの内政は一旦置いておくとして、お前、出る訳? 戦える?」

「俺だけ出ないなんて許されないだろう。それが通るなら、俺よりシンに引っ込んでもらう」

 

 アイツにとっては生まれた祖国だ。シンの方がよっぽど戦いたくないだろう。だが、辞退の申し出や相談も来ていない。その状況で俺が嫌だとは言えない。無理するなよ、と肩を叩かれた。

 

 

「オーブが地球軍として、ですか?!」

 

 副長から知らせを聞いて驚いてしまう。ルナが心配そうに聞いてきた。

 

「今は地球軍だものね……シン、平気? キツかったら、ハイネもアスランさんも居るし、任せても大丈夫じゃないかしら?」

 

「何言ってんだよ、ルナ!! 俺も出る! 俺が出なかったせいでミネルバが沈んだら、嫌だ!」

 

 心配してくれるのは有難いけど、ミネルバが沈んだら、大事な友達のレイやルナも一緒に死んでしまう。それは絶対に嫌だ。誰かを失うあんな思いは二度としたくない。真剣な思いで見つめた先、ルナが僅かに眉を下げる。小さく頭を下げられた。

 

「……うん、分かった。ごめんね」

 

「ううん。俺のこと、心配してくれたんだろ。ありがと。死ぬなよ」

 

「私、シンよりお姉さんだもの。そっちこそ、突っ込みすぎて帰ってこれなくならないでよね?」

 

 頑張ってルナと笑い合って別れた後、着替えながら苛立ちが再沸騰してきた。オーブが本当に地球軍の味方をするんだと分かって、ムシャクシャする。何で、俺の家族を殺した戦いを引き起こした地球軍と、撃たれたオーブが肩を並べて戦えるんだよ? パイロットスーツに着替え終わり、モヤモヤした気持ちが晴れないのでロッカーを蹴ってしまう。横のアスランが言葉を探るように話しかけてきた。

 

「シン、お前、大丈夫か?」

 

「何がですか? オーブ、今じゃ地球軍のお仲間なんでしょ。中立だ理念だ、あれだけ言っといて……!」

 

 心配してくれるのは分かってるけど、落ち着いていられないのでぶっきらぼうな返事になってしまう。これじゃあこの人が着任してすぐみたいだな。そう思うと、余計にイライラした。目の前の人は心配そうな顔を変えずにポツリとつぶやく。

 

「せめて、カガリが戻ってきていたら、中立派も盛り返して、進軍を止められたかもしれないんだが」

 

「何言ってんですか! あんな綺麗事だけのアスハなんか、何の役に立つって言うんです!? 俺の家族も守ってくれなかったし、今また戦争に参加して! 気持ちだけで何か守れるなら、モビルスーツもナイフも要らないでしょう!」

 

 あの日の俺に何の力も無かったから、マユも父さんも母さんも死んでしまった。この前議長に言った通り、力は必要だ。この人だって頷いてくれていたのに。信じられない思いで叫んだ先、少しだけアスランの表情が冷たくなった。

 

「確かに、彼女自身はまだ未熟だが、御輿にはなる。アスハ家の後継が言っていると言うだけで切っ掛けにはなるからな。国に戻って同盟反対の意を示せば、少なくなっているが、中立派も力を貸してくれるだろう。お飾りの代表だったとしても出来る事はあるんだ」

 

「そんな、モノみたいに人を言わなくっても……」

 

 淡々と言われて思わず庇うと、困ったような表情が戻ってくる。

 

「国のためには必要な時もある。何のために上の立場に居るんだ。

 しかし、庇うって事は、やっぱり君はオーブが好きなんじゃないか?」

 

 上の立場に対する期待のかけ方に呆気に取られていると、予想外の質問が来た。家族といたオーブは好きだ。でも、今は違う。マユも父さんも母さんも、みんないない。大事な人は、あの国にもう誰も居ない。

 

「……今のオーブは敵です。撃たなきゃ俺もアンタも死にます。そうなったら街にも被害が出る。ステラに俺が守るって約束したんです。だから、早く戦いを終わらせないと」

 

 答えると、複雑そうな顔で頭に手を置かれる。

 

「……そうか……地球軍が出てきたら、そっちの対処を任せる」

 

 渋々頷くと、少し肩を落とした歩みで部屋を出て行く。俺にオーブを撃たせたく無いっていう心遣いは有難い。でも、それであの人やルナに死んで欲しくなんかなかった。

 

 

 

 目を覚ますと、いつものフカフカのベッドだった。起きようとして、手に何かあたる。青いハンカチ。なんでコレを握っていたのか分からない。先に起きてたアウルとスティングが呼んできたから、放ってそっちに向かった。また、怖いのを倒しにいかなきゃ。

 

 

 

 

 

 ターミナルの人が持ってきた知らせにカガリが絶句した。

 

「そんな……オーブが、黒海に地球軍の援軍として?!」

 

 バルトフェルトさんが困ったようにカガリを見る。

 

「仕方がないさ。同盟関係になるって言うのは、こういうことだ。もっと早く、オーブに出撃要請が来ていたかもしれない。それこそ最初のミネルバの時とか。だいたい、結んだのは君だろう?」

 

 俯いたカガリに聞いてみる。

 

「こうなる事は、考えなかったの?」

 

 血でも出るんじゃないかってぐらい手が強く握られるのをぼうっと見ていると、マリューさんが口を開いた。

 

「私達もカガリさんを無理に連れてきたんですもの。彼女が反対していたら、こんな事は避けられたかもしれないわ」

 

「いいえ。あの時のカガリさんは、見るべきものが見えていなかった。結果は、変わらなかったと思いますよ。でも、今の貴女なら、しっかり見えていらっしゃるでしょう?」

 

 ラクスの落ち着いた反論を聞いていたカガリが、顔をあげた。

 

「頼む、発進してくれ! 今更かもしれないが、この戦闘、出来ることなら私は止めたい! オーブは、こんな戦いに参加してはいけない。いや、本当はもうどこも……こうして戦うばかりの世界にいてはいけないんだ! これ以上人が死んだり、傷ついたりしては……!」

 

 ラクスが、力強く頷いた。

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