ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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青天の霹靂

 

 ダーダルネス海峡が目前に見えてきた。ここを抜ければ戦闘になる。相手は、カガリ様を無事に送り届けてくれたミネルバだ。部下達も今回の派兵は不本意の様だが、戦わねば国が焼かれてしまう。あの仮面の男は、我らを露払いに利用する気だろう。それに気づいているかどうか分からない代表代理が作戦開始を告げた。

「よーし、始めようか。ダルダノスの暁作戦開始!」

 何やら仰々しい名前に思わず声を挙げてしまうと、得意気に命名経緯を説明し出した。呑気な事だ。舌打ちを出来るだけ抑えつつ、出撃命令を出した。数分経たぬ内に次々と落とされるムラサメの様子を見て、焦ったセイランの息子が口を挟んでくる。

「何をやっているんだ! 相手のモビルスーツの数は、こちらの半分以下だぞ! ええい、全機出せ! 囲めば落ちるだろう!」

 向こうの戦力は数は少ないが質が高い。これ以上部下を無駄死にさせる訳にはいかないので抗議の声を上げると、居丈高に命令だと言われてしまう。実績はどうあれ、彼が現在の最高司令官だ。不本意だが指示通りに動くしかない。カガリ様、どうかお早いお戻りを……! 

 

 

 

「オーブの奴ら、追加で出すかよ……先鋒は瞬殺されたんだぜ?」

 はっきり言って向こうにとっちゃ特攻に近いだろう。オーブ軍にはアスハの信奉者、中立の理念を重んじる者が多いと聞いている。この派兵は不本意だろうから、ここまで果敢に来るとは思わなかった。向こうからしたら何が同盟違反とみなされてまた国が焼かれるか分からないから、地球軍にアピってんだろうか。こっちは軍事演習用のデコイでは無いんだがね。ミネルバに近づこうとするアストレイを落としながらボヤいていると、艦長から通信が入った。

「ターンホイザーで護衛艦群を薙ぎ払う。この位置なら海峡は塞がない。発射後、オーブ軍背後にいる地球軍空母を優先的に叩いて頂戴」

 これで戦いの決着は着くはずだ。そう思った瞬間、下方からミネルバの主砲が撃たれた。動かしたメインカメラに、とんでもない物が映る。

「な……フリーダム!?」

 ヤキンですれ違った蒼い機体の後ろに、不沈艦として名高いアークエンジェルが鎮座していた。オーブ代表を拐った事は噂で知っているし、ラーナス達から確認も取った。何故、こんな処に……ミネルバの主砲を撃ったって事は、敵なのか? 

 

 

 

「キラ……!! 何故ここに……!」

 呆然と辺りを見回すと、敵味方問わず全軍が動きを止めていた。背後で高く上がった水音で我に返り、着水したミネルバに通信を入れる。

「ミネルバ、ご無事ですか!」

「艦橋は全員無事よ。ただ、主砲が発射直前だったのも重なって艦首での被害が大きいわ。死者は出ていないから安心して」

 沈痛な面持ちから、死んではいないだけで重傷者が出ている事が察せられた。ハイネが通信に割り込んでくる。

「艦長、状況が動けば、俺達も動きますよ」

「えぇ、お願い。悔しいけど、飛べなくなった本艦が一番不利よ。ただ、今は戦場も混乱しているから待機してちょうだい。この間に出来る限り修理を進める」

 了承し、視線を再度周囲に戻す。まだ誰も動いていなかった。次の瞬間、アークエンジェルからモビルスーツが1機出てくる。あれは……ストライクルージュ!? 予想通り、明朗な声が戦場に響いた。

「私は、オーブ首長国連邦代表、カガリ・ユラ・アスハ!! 今は訳あって国を離れてはいるが、変わらず私はオーブの代表である!! この名においてオーブ軍に命じる! 直ちに戦闘を停止し、軍を退け!」

 驚いて視線をオーブ軍に移すと、先程と変わらず何も動きがない。艦に乗っている筈の上層部の判断待ちだろう。地球軍が背後に控えている状況で撤退するのは政治的に見てかなり難しいが、軍にはアスハの後継としてのカガリの支持者が多い。撤退の可能性は限りなく低いが、ゼロとは言い難い。艦長の言われた通り、ミネルバの応急処置もあるから下手に動いて事態を悪化させる訳にもいかない。待つしか無いか…… 仕方ないとは言え、何もできない自分が、歯痒かった。

 

 

 

 オーブ軍の奮闘を見ていると、唐突にフリーダムとアスハを名乗る奴が乗った機体が現れた。

「ミネルバを手負いにしてくれたと思ったら、オーブに退けとはね。アレは本当にアスハ代表か?」

「僅かながら彼女と面識があります。恐らく、間違いないかと」

 思わずボヤくと傍らのナタルが耳打ちしてきた。流石アークエンジェルのクルーだっただけはある。しかし、万が一このままオーブ軍に撤退されると、せっかくの優位が崩れる。意地の悪い事だが、少し発破をかけるか。外線電話を取り、オーブ空母に繋げさせる。

「ユウナ・ロマ・セイラン。これは一体どういう事かな? あちらに貴国の代表がいるようですが」

 不明瞭な呻き声をあげる相手側に隙を与えず、軽く脅す。我ながら、悪いおじさんになったものだ。

「同盟を結んでから今まで雲隠れしていた方があんなものに乗って、状況が今更後戻りできない所まで来たと言うのに、軍を退けと言う。コレはきっちり説明していただかないと、お国を含めて色々と面倒なことになると思いますが?」

 最後の一言にアレコレ唸っていた向こうが一瞬大人しくなる。やけっぱちのような言葉が飛び出して来た。

「わ、私は、あんな物知らない! あのカガリだって、偽物だ!」

 随分な事を言い切るもんだ。受話器越しに、向こうの将校達が何やら抗議する声も聞こえる。癇癪を起こしたようにセイランの坊やが騒いだ。

「仮に本物だったとしても、操られてるに決まってる! そうだ、あの疫病神の船に変な事吹き込まれたんだ! ちゃんとしたカガリだったら、こんな馬鹿げた真似するもんか! こんな、僕の、ううん、オーブの面子を潰すような真似を! ほら、さっさと撃っちゃってよ、あんなの!」

 こちらを裏切る事は無さそうだ。下の方々は不満そうだが、上がこう言った以上逆らえまい。追加で注文を出しておく。オーブ軍を後戻りできなくさせろとジブリールからの命令だ。やり過ぎな気もするが、命令を聞かなきゃステラ達の命に関わる。

「分かりました。それなら、向こうさんのモビルスーツを一機は落として貰いたいもんだ。こちらもお手伝いはさせていただきますよ」

 一機落としたら、助けを乞うのも難しくなる。こちらに付くしか道はない。電話を置いて、スティング達に出るよう伝える。変な介入だが、ミネルバが飛べなくなっただけでもこちらにとっては有難い事だ。

 

 

 

 動かないオーブ軍に焦ったさが募る。もう一度呼びかけようとした時、オーブ艦隊からミサイルが飛んできた。驚いている間に、キラが全部落としてくれたが、思わず抗議の声をあげてしまう。

「オーブ軍! 何をする! 私が分からないのか!? 軍を退け! こんな戦いが、本当にオーブのためだと思っているのか!?」

 話を聞かずにアストレイが向かってくる。キラから下がるよう通信が入った。フリーダムで武器やパーツだけ壊している。あれならコクピットに当たらないから、オーブの民は死なずに済む。武器を失ったら撤退するしかないだろう。それでも、止められたのはほんの一部だ。こんな戦いは止めてほしくて、呼びかけ続けた。

 

 

 

「アスハのやつ、何言って……! 同盟を結んだのは、他の誰でもないお前だろ!」

 今更そんな事言うぐらいなら、最初からしなきゃ良かったんだ。そしたら、俺もアスランも、オーブと戦うなんて嫌な事せずに済んだのに。

 届かないと分かってても思わず叫んでしまうと、アスランから指示が飛んできた。

「シン、今はカガリに構うな! あの三機も出てきた、お前はそちらを頼むぞ!」

 投げつけるように返事して、苛立ったまま向かう。ルナとハイネが着いて来たのがカメラ越しに見えた。ミネルバには遠距離戦が得意なレイとラーナスさんが居るみたいだ。二人とも上手いから大丈夫だと思うけど、どうか無事でいて欲しい。

 

 

「あぁ、もう! めっちゃくちゃじゃねぇか!」

 戦いに復帰したオーブ艦隊から飛んできたミサイルを撃ち落として叫ぶ。反対側のレイも、迎撃を成功させたみたいだ。元々良かった射撃の腕が更に上がっている。防衛成功したこちらを見ても懲りずに向かってくるアストレイやムラサメに向けて照準を合わせると、遠目にフリーダムが勢力問わずに武装をぶっ壊しているのが見えた。こっちではアークエンジェルが援護をしてくれている。戦場のバランス調整のつもりか? アスランの様子が気になるが、戦闘中にそんな暇はない。さっきの空白期間がチャンスだったけど艦長達と話し中だった。帰ってから荒れるだろうなと思いつつ、引き金を引く。俺が抜かれたらミネルバが沈んでしまう。フリーダムみたいに相手を気遣う余裕は無かった。

 

 

 

「あぁ、もう! 何なんだよ、アイツ! 毎回毎回、邪魔ばっかりしてきて!」

 モニターに映るフリーダムを睨みつける。僕からカガリを取るし、今日はオーブ軍に損害を与えて……パイロットが無事だったからって、モビルスーツの部品はタダで生えてくるんじゃないんだよ! イライラして爪を噛む。今の戦場はめちゃくちゃだ。ザフトも、地球軍も、僕らオーブも、殆どのモビルスーツは腕を落とされたり武装を引っ剥がされて、体当たりでもして戦うしか無いとかいう状況だ。そんな玉砕させたら流石に非難される。どうしようかと考えていると、地球軍の空母から信号弾が上がり、苛立った口調で通信が来た。

「フリーダムにやられて機体が使いものにならない! 悪いが先に下がらせてもらう! あぁそうだ、約束を忘れるなよ!」

 さっきの通信を思い出す。……そうだ、ミネルバのモビルスーツを一機は落としてほしい、という要望だった。慌てて横の一佐に指示を飛ばす。

「おい! ザフトのモビルスーツを一機、落とさないと! あの仮面男から言われてただろ! 何でやらないの!」

「戦闘は既に終わりかけています。無駄に手を出す必要性はありますまい。敵艦近くの遠距離型に攻撃を仕掛けましたが無理でした、これで面目は立つでしょう」

 苦々しげに言われて、カッとなった。

「必要性なら有るよ! 向こうから、一機落とせって命令されてるの! 出来ませんでしたとか言ったら、またオーブが焼かれるかもしれないだろ!? 遠くのが無理なら、ほら、あの……赤いのとインパルスとかカガリが言ってたのは強かったし、ザクはいくらでも替えがあるだろうし……アレだ! あのオレンジの新型! アレなら近いし、最新鋭っぽいから箔が付く! 今なら撤退中で警戒も緩いから落としやすいじゃないか!」

 信じられないような顔で見つめられるけど、オーブが焼かれないために綺麗事は言ってられない。よくやる戦略ゲームだって、目的のためならあらゆる手段が許されている。現実だって同じだろう? 命令だぞと言ってやると、大きくため息をつかれた。

「御命令ですか……動かなくさせれば良いのですね?」

 

 

 

 無傷で去っていくフリーダムを茫然と見送る。戦場を混乱させて、何がしたいんだ……途中で通信を繋げようとしたが、無理だった。恐らくだが、修理する際にザフトに発覚する事を恐れてコードを変えたのだろう。また、俺に何にも言わずに。何も知らない自分が惨めに思えて、膝を抱えそうになっていると、ラーナスから通信が入った。

「アスラン、無事か!? ……ひっどい顔だな。もう戦闘もほぼ終わったし、帰ったらすぐ休め。後の報告とかはやっておくから」

「いや、いい。俺もやる。というか、やらせてくれ。後、気を抜くな。オーブはともかく、地球軍は何してくるか分からない。あの三機が使えなくなったとはいえ、追加で機体があるかもしれないぞ」

 そんなに酷い顔なんだろうか。触っても分からない。しかし、戦闘終了近くは隙が生まれやすい。注意を促しつつ、帰投するシン達の背後を守っていると、オーブ艦から光が放たれ、横に居たハイネのグフの頭部が撃たれた。バランスが崩れたのか落下しかけたので、慌てて近づけてセイバーで捕まえる。ラーナスがハイネを撃った艦の機銃を撃つと、その船は退いていった。シンが向かおうとするのを急いで止める。

「止せ、シン! 戦いは終わった! 向こうも退いているだろう! 

 ハイネ、ハイネ、大丈夫か!?」

「でも、アイツら、あんな騙し討ちみたいな真似を!」

「今は退け! ミネルバは修理が必要だし、インパルスだってボロボロだろう! 気持ちは分かるが、大人しく帰投しろ!」

「シン、アスランの言うとおりだ。俺さっさと広いところに出たいから、お利口さんで帰ろうぜ。みんな生きてんだから」

 言い争っていると返事が来た。ホッと息をついて呼びかける。

「ハイネ! 大丈夫か? 怪我は?」

「メインカメラをやられただけだよ。

 しっかし、地球軍にせっつかれたんだろうが、まさかオーブがこんな真似をしてくるとはねぇ。上手くコクピットを外してくれたようだが、腕ごと武装がやられてたから、機体で受けるしか無くってね。悪いけどアスラン、このまま運んで貰って良いか?」

 メインカメラをやられたなら、コクピット外部は何も分からない筈だ。慌てて運びつつ、念のため救護班に要請を入れる。それにしても、ほんの少し狙いが逸れでもしていたら防具も無いハイネは死んでいた。戦場で丸裸にされるのは、そういう事だ。アイツは、これを分かってやっているんだろうか。昔はあんなに一緒だったはずのキラが、何を考えているのか今はもう分からなかった。

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