ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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約束のうさぎ

「アスランさんとハイネが、ミネルバを離れる?!」

 

 突然の知らせに驚く。いつものように伝えに来てくれた副艦長は、困ったような顔をしていた。

 

「アスランは一時的にだよ。ほら、先の大戦でアークエンジェルのクルーと関わりがあるだろう? 今回の行動理由を聞きに行きたいそうだ。艦長が移動にセイバーを使う許可を出してたから、ミネルバの修理が終わるまでには戻ってくるさ。 ハイネは、グフの修理もあるから宇宙に戻るらしい」

 

 挨拶したいならしておいた方が良いよ、なんて穏やかに付け加えて出て行った。グフがあんな事になったからハイネはまだ分かるけど、まさかアスランまでミネルバを出るなんて思わなかった。てっきり連絡先ぐらい知ってると思ったから、直接聞いたらいいなんてアドバイスをしたのに。ふと気になって、横の友達に聞いてみる。

 

「あのさ、レイ。もし、さ。別々の隊に勤務する事になってたら、俺達どうなってたと思う?」

「いきなりなんだ。ただ、そうだな。きっとお前の事は気にかかるだろうから、メールなりして近況は聞くだろう。だが、その仮定は有り得ない。俺やルナマリアと離れて問題を起こされたら、誰がお前を宥める?」

「ん、ちょっと気になっただけ。もー、なんだよ、その言い方。でも、ありがと」

 

 もし離ればなれになっても心配してくれる事が嬉しくて、お礼を言うと少しだけレイの口元が弛んだ。

 そう、友達ならお互いの連絡先は普通知ってるはずなんだ。ただ、アークエンジェルが第三勢力として活躍したのは、前大戦の終わり頃の僅かな期間だけだったと聞いてるし、あの人口下手過ぎるから、そこまで仲良くなれなかったのかもしれない。少し引っかかるけど、こんな事本人には聞けないしなぁ。前に友達少なそうだとイジったら滅茶苦茶不機嫌そうな顔されたし。

 どうでもいいかもしれない事で悩んでいると、レイが真剣な声でポツリと呟いた。

 

「それにしても、アークエンジェルか……ラーナスから聞いたんだが、アスランは一度懐に入れた人には甘い。実際、俺達への対応も最初の素っ気無さが嘘のようだしな。絆されて帰ってこないなんて事にならないと良いんだが」

「嫌な事言うなよ……あ、そうだ! なぁ、レイ。せっかくだから……」

 

 思いついた提案を口にすると、一番の友達は少し驚いた顔をしてから楽しそうに微笑んだ。

 

 

 

「聞く事ちゃんと憶えてるな? 協力者との合流ポイントに変更は無い?」

 

「覚えてる、問題ない。コイツも、無事に出来たしな」

 

 自分が行くわけじゃないのに落ち着かない俺を宥めようとしたのか、少し強張った笑みを浮かべながらアスランは手元のマイクロユニットを撫でた。緊張している本人に気を使わせちゃいけない。少し落ち着こうと艦長に離艦許可を貰いに行った時の事を思い返す。

 

 

「そう……分かりました。私も彼等の行動理由は気にかかるし、許可します。ただ、出発は明日にしてくれない? 実はね、ハイネもグフの修理があってミネルバを離れるの。そのまま本部にとんぼ返りになるかもしれないそうよ。この日ならシャトルの護衛としてセイバーの発進許可が出せる。帰りは好きにしてもらって構わないわ。本艦の修理完了予定日は把握してるわね? その日までに、ちゃんと帰ってきてちょうだい」

 

「ありがとうございます、音声ファイルとレポートは帰還して直ぐに提出致します」

 

 

 無理を言ったからか縮こまっていたアスランに力強く頷いていた。移動速度が速いセイバーが使えるのは有り難い。頼れる女艦長の評価を上げていると、ドアがノックされた。

 

「アスランさん、ラーナスさん、入ってもいいですか?」

「シン?! 今開ける。ちょうど呼びに行こうかと思っていたところだったんだ。レイも居たのか。二人揃って何の用だ?」

 

 驚きながらも嬉しそうに後輩を出迎えている。一方、対峙したシンは言いにくそうに口籠った。コイツも、アスランとは別ベクトルであんまり口が上手くないよな。副艦長が二人の離艦を知らせにまわってた事から、何となく要件は察しがついているが俺から言い出すのも悪い。口下手同士を見守っていると、一体なんだ? と促したアスランに背を押されたのか、意を決したように口を開いた。

 

「あ、あの! 帰ってきたら、その、何話したかとか、教えてもらってもいいですか?! あ、後、またオールレンジ戦の勝負しましょう!」

 

 

 お願いを言い切って、どこか嬉しそうな目の前の後輩を見る。オールレンジの誘いの方は全く構わないのだが、彼等との会話を教えるとなると、どうしてもミーアの事が絡んでくる。キラ達と会う以上、どうしたって話題に出すのは避けられないだろう。彼女が本物のラクスで無いことが知れ渡るとプラントがまた混乱してしまう可能性がある。迂闊には話せない。しかし、シン達だってアークエンジェルから被害を受けている。何も話さないのは不誠実だ。迷っていると背後から声がかかった。

 

「お前さえ良ければ、ミネルバの会議室予約しとくけど? 防音機能バッチリの部屋。お前らも、もしヤバい話になってても、それ聞いて誰にも言わないぐらい出来るよな?」

 

「緘口令を出される可能性があるということですか。命令ならば、誰にも言いません。私もシンもアカデミーで教育は受けていますから」

 

 赤としてのプライドがあるのか、少し不機嫌そうな声でレイが返してきた。ラーナスを軽く咎めつつ、話しておくべきメンバーを頭の中で選出する。

 艦長と、シンとレイと、ルナマリア。通信を繋げるのに協力してもらったメイリンにも話しておくのが筋だろう。彼等なら信用出来るし、会議室なら漏洩の心配は無い。頷くと、約束ですよ! と念を押される。アンタの口から聞きたいんです、と何故か真剣な顔で続けられた。艦長に会話内容は提出するが、閲覧許可も必要だから早めに聞いておきたいんだろうか。分かったよと再度頷くと、漸くホッとした顔になった。

 

「絶対ですからね! あ、アンタの用事って何なんです?」

 

 唐突な頼みで忘れるところだった。そういえばずっと立ち話だったなと気づいて部屋に招く。机の上に置かれた子を見て、シンの目が丸くなった。驚いただろうか。船を離れる事が決まって、急ぎのスケジュールで組み立てたが、どこも手は抜いていない。

 

「頼まれてたウサギのペットロボだ。ついさっき出来たところで、渡しにいこうと思ってたんだ。今から起動する」

 

 スイッチを押すと、ガーネットの赤い眼が開いて辺りを見まわしてからポテポテとシンに歩いていく。うん、人物認識プログラムも問題ないな。機械音もほぼしない。我ながらトリィに並ぶ良い出来だと思っていると、シンが静かに問いかけてきた。

 

「嘘だろ……見た目について注文してましたっけ」

「いや……せっかくだからお前に似てる方が、もしはぐれても持ち主が誰か分かりやすいかと思って……すまない、嫌だったか?」

 

 しまった、塗装のオーダーとか聞いておくべきだった。やっぱり定番の白兎が良かったのか? 慌てていると、勢い良く首が左右に振られた。

 

「違う、違うんです……マユが、せっかくだから、僕に似てる子が良いって、黒くって、目の赤い……本当、こんな感じの……」

 

 そこから先は押し殺した泣き声で、言葉になっていない。誰も、何も言えない中で、黒いウサギが落ちてきた水を払って、不思議そうに首を傾げた。

 

 

 

 

 

「すいません、急に……ていうか、大丈夫なんですか、この子! 俺、すごい濡らしちゃったんですけど!」

 

 まだ赤い眼で慌てている少年を見る。コイツも結構、アスランに負けず劣らずの勢いでメンタルがヤバいのかもしれない。姉さんにカウンセリング頼む事を本気で考えていると、アスランが不思議そうに首を傾げてから、ゆっくりと頷いた。

 

「あぁ、まだ機能の説明をしていなかったな。まず、頼まれていたアラーム機能とスケジュール通知機能。起きたい時間や予定を言っておけば、お前を引っ張たりして知らせてくれる。ここからは俺が勝手につけたんだが、防水、防塵、耐火、耐圧機能。温度変化にも対応できるようにしてあるから、基本は何処にでも連れて行ける。お前の涙ぐらいで壊れるような子じゃないよ。急激な室温変化や危険な薬品を感知した際には警告も発せられる。後、護衛機能はキックで代用した。分厚い扉ぐらいは蹴破れると思うぞ。他に欲しい機能があったら言ってくれると助かる」

「ちなみに、コイツの言う”分厚い扉”は緊急時のシェルターとしても使えるミネルバのこのドアだからな?」

 たぶん並の人間なら骨が何本か折れるよな! 内心ちょっと呆れつつも笑ってそう付け加えると、呆気に取られていたエースが何か呟いた。アスランが聞き返すと、渾身の叫びが襲ってくる。

 

「可愛くない、ぜんっぜん、可愛くないです!」

 空気が軽く震える。耳を押さえながらも、造り手として意地があるのかアスランが言い返した。

 

「なっ…… 何処がだ! ちゃんと本物っぽく、可愛くしただろう!?」

「中身が可愛くないんです! そりゃ見た目はめちゃくちゃ可愛いですよ! 抱っこするとあったかくて、生きてるみたいだし! でもね、自然界のどこにシェルターのドアぶち抜けるウサギがいますか?!」

「いるかもしれないだろう! だいたい、護衛機能つけても良いって言ったじゃないか! 話が違う!」

 

 自棄になったみたいに放たれた、少し拗ねたアスランの言葉にシンの剣幕が収まる。少し深呼吸をした後、頭を下げた。

 

「そう……ですね。すいません、色々ついてて、驚いて、つい」

「え、あ、いや……俺も、すまない。その、相談もせず、やりすぎた」

 

 急に謝られたからか、アスランの語気も弱まる。慣れたふうに笑ってシンは抱いたままのウサギに目線を落とした。

 

「次からしてくださいよ? アンタが頑張って造ってくれたのは分かってるし、嫌じゃない、ですから。ほんと、ありがとうございます。そうだ! この子、名前はなんて言うんですか?」

「分かった。 名前は、お前に決めてもらおうと思ってな。勝手にした詫びという訳じゃないが、好きに決めてくれ。お前が呼べば、覚えるようにしてあるから」

 

 一瞬考えた後、優しい顔でシンは笑った。

 

「じゃあ、ラビィで。マユがつけたいって言ってたんです。お前はラビィ、ラビィだよ」

 

 うさぎ改めラビィが、嬉しそうにシンの腕の中でピッと鳴いた。

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