ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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暁の問答

 

「ターミナルから連絡?」

 

「えぇ。ミリアリアさんからの伝言よ。 『ダーダルネスで天使を見た。また会いたい。赤のナイトも友と姫君達を探しています。どうか連絡を』 意味は、分かる?」

 

 問われた先のラクスが赤の騎士? と呟いて首を傾げた。脳裏に浮かんだのは、先の大戦時に共に戦った真紅の機体。たぶん、そのパイロットだ。分かった相手に嬉しさが込み上げる。

 

「アスランだ! あいつ、帰ってきたんだ!」

 

 思わず声をあげてしまうと、ラミアス艦長が柔らかく笑みを浮かべた。

 

「なら、これでやっとプラントの詳しい事情も分かるはずね。了承する方向で返信をお願い」

 

 お礼を言おうとした瞬間、ラクスが物憂げに口を開いた。

 

「お待ちください。カガリさんには申し訳ないのですが、私は反対です。アスランはつい先日までプラントに居られたのです。そして、デュランダル議長と話されていたのでしょう? 彼がアスランの帰還を利用して何らかの罠を仕掛けている可能性がございます。お断りすべきかと」

 

 身体が冷えた。確かに、議長はラクスを殺そうとした上、彼女の偽者を使っている。私達に会いたがっているアスランをいいようにしているかもしれなかった。良い人物だと思っていた彼のひどい所業が許せず、拳を震わせていると、考え込んでいたバルトフェルト隊長が顔を上げた。

 

「確かにその可能性はあるが、それにしては文面が洒落すぎてやいないかい? 罠とは考えにくいがね、俺は。それに、彼はザフトの最高戦力に数えられていた男だ。仮に尾行されていたとしても気づくに決まっている。上手く撒いてくれるんじゃないか?」

 

「大丈夫だよ、ラクス。アスランなら、何かあっても僕らを守ってくれる。会いに行こう。でも念のため、君はここにいて欲しい。僕とカガリで行ってくるから」

 

 二人の言葉に心が軽くなる。キラの言う通りだ。アスランなら、私達を守ってくれる。2年前の戦いの時に守ると約束してくれたから。アイツが約束を破るわけがない。

 

「心配いらないさ! 私も護身術の心得はあるしな! ラクスは安心して、帰りを待っていてくれ!」

 

 眉を寄せている親友を勇気づけたくて、力こぶなんか作ってみせながら反対の手でポンポンと肩を叩いてあげる。向かいのキラが緩く微笑んで頷いたのを見て、やっと息をついてくれた。

 

「分かりました。キラもカガリさんも、どうかお気をつけて」

 

 弟と揃って、力強く頷いた。

 

 

 

 そんなやり取りを思い返しながら歩みを進めていると見えた懐かしい姿に思わず駆け寄る。

 

「ミリアリア、久しぶりだな! アスランはどこに居るんだ?」

 

「久しぶり、カガリ。キラも、ね。彼なら後で来るわ。その、通信じゃ言えなかったんだけど、彼、ザフトに戻ってるわよ」

 

 頭を思いっきり殴られた気がした。

 

 

 小さく声を零して固まった金色の友人を見る。やっぱり聞いてなかったのね。入隊したのはオーブが連合の傘下に入ってからだと言っていたから仕方がないのかもしれない。あの後カガリは直ぐキラ達の所に行って、連絡を取ろうにも無理だったのも悪いし。フォローしてあげようかとも思うけれど、私が言うのは違う気がする。そんな義理も無いし。どうしようかと考えていると、風が吹いてフェイズシフトを切った灰色のモビルスーツが降りてきた。

 

 

 

 セイバーから降りて見ると、やはり人数が足りていない。上手く伝わっていなかったか? 確認のため、声をかけた。

 

「キラ、カガリ。ラクスは何処なんだ?」

 

 何故か口籠もるカガリを庇うようにキラが前に出てきた。

 

「ラクスならアークエンジェルだよ。念のためにね。それより君、ザフトに戻ってたの? 一体いつ?」

 

 念のため? 意味が分からず詳しく聞こうとした瞬間、問いが重ねられた。カガリも不機嫌そうに此方を見ている。確かに報告できるような状態では無かった。先に答える必要が有るな。

 

「オーブが同盟を結んで直ぐだ。連絡しようにも連合の傘下に所属してしまった国に繋げられる訳が無いだろう?」

 

 もしカガリがオーブに留まっていたとしても、周囲はセイランを筆頭とする連合寄りの奴等が固めている。連絡を取っても揉み消されていただろう。いや、それならまだ良い。最悪の可能性は、彼女に近しい者がザフトに居るという情報が利用され、彼女を脅す輩が出てくるかもしれない事だ。だから、連絡しなかった。カガリは政治については未だ勉強中だが、これぐらいの危険性は流石に分かるだろう。必要な情報は伝えた。今度こそ訊こうとすると、いつのまにやら俯いていた彼女が言葉を放ってきた。

 

「……して。どうして、ザフトなんかに行ってるんだ! なぜ直ぐにオーブへ帰ってきてくれなかった!?」

 

 揺れる瞳で睨みつけられる。キラと殺し合って直ぐに彼女と話し合った時が思い出された。あの時も今も怒鳴られているな。どこか他人事のように今の状況を見ながら、問いの答えを考える。何故ザフトに俺は再び属しているのか。以前シンからも尋ねられた事だ。答えは決まっている。

 

「平和な世界にする為に、俺に出来る事をしたいからだ。オーブで“アレックス・ディノ”として生きている間、俺は何も世界に償えていなかった。だから、プラントに戻ったんだ。先程も言ったが、オーブは地球軍に属してしまっただろう。ミリアリアのように、特別な連絡手段も知らなかった俺では連絡の取りようが無い。俺に関してはもう良いだろう。聞きたい事が俺にもある。何故、フリーダムを所持している?」

 

 何か言いたそうにしているカガリを制して聞くべき事を尋ねる。口をまごつかせた後、どこか不思議そうに彼女は話し始めた。

 

「それなら、ラクスに頼まれたんだ。平和のために力が必要だって! 私も最初は驚いたが、クライン派の人達に何かあったらいけないからと言われたそうなんだ」

 

「つまり、クライン派の助言を受けて、ラクスはフリーダムの修理を了承したと言う事か?」

 

 確認の言葉をゆっくりと言うと、得意気に頷かれた。キラも凄いよね、なんて呟いている。キラも知っていたのか。知らなかったのは俺だけだったのか。呑気な様子を視界に捉えながら、フッと足元が消えていっているような気がした。

 ラクスに何故と叫びたい。何故なのですか。どうして、ユニウスセブンの被害を知っている貴女が、核がもたらす悲しみと憎しみを憂いていた筈のラクス・クラインが、核を利用するフリーダムを使う事を許したのですか。例え言い出したのが彼女では無いにしてもその提案を肯定して欲しくは無かった。裏切られたような気持ちを感じつつ、ここに居ない彼女への想いを叫んでも仕方が無いと何処か冷静な自分が問いを重ねる。

 

「フリーダムがユニウス条約違反の機体である事は理解しているな。カガリ、君は何故そんな存在を許した? そんな強すぎる力がオーブに有る事への危険性は考えなかったのか?」

 

 強すぎる力はまた争いを呼ぶ。先日、彼女自身が言った言葉が脳裏に浮かぶ。あんな言葉を言っておきながらフリーダムを隠していたのか? そんな想いを込めて見つめてしまうと、あぁと思い出したように頷かれた。

 

「それは、私も気になってラクスに聞いてみたんだ。そしたら、オーブは条約外だから大丈夫だし、万が一、外に持ち出して誰かに悪用されたら困るからって。ラクスが悪い事に使うわけ無いだろう? それで私も思ったんだ。フリーダムは強すぎるからこそ、私達がしっかり管理して変な事に使われないようにしないとって」

 

 思わず、言葉を失った。ラクスが悪事を働く訳が無い? フリーダムが強すぎるから自分達が管理する?

 

 確かに、連合とプラントの間で結ばれたユニウス条約に連合の支配から復帰したオーブが従わなければならないかは解釈によるだろう。だとしても、あの中にある核の兵器利用禁止は平和のために最も重要なものだった。それを、平和を謳っていたはずの君達が蔑ろにしたのか? 

 

 込み上げてくる感情のまま言葉をぶつけそうになるが、聞かなければならない事が未だ残っている。必死に落ち着こうとしながら質問を続けた。

 

「何故、戦場であんな事をした? 平和のためなら議長に協力するのが一番良い。オーブが連合に与するべきじゃなかったのは確かに正しい。だが、結んでしまった後で簡単に反故に出来るわけが無いのは分かっているだろう? 態々フリーダムまで出してきて、ザフトまで攻撃して! あれではお前達の敵が増えるだけだ」

 

「本当にザフトに、議長に協力するのが正しいと思ってるの、君は? じゃあ、あのプラントにいる‘ラクス’は何? なんで、ラクスじゃ無い子がラクスの名前を名乗っているの? どうして、ラクスは殺されかけた?」

 

 キラの最後の問いかけに驚きで思考が止まった。ラクスが、殺されかけた?! 

 

「待ってくれ、キラ。ラクスが殺されかけたって、どういう事だ? 詳しく教えてくれ」

 

 やっぱり君は知らなかったんだね、と納得したように呟いてから話し始めた。

 

「オーブでいきなりコーディネーターの部隊に襲撃されたんだ。ザフトの新型MSまで出してきた。だから、隠してあったフリーダムを出すしか無かった。そうしないと僕等みんな、母さんまで死んでた。その後にラクスを名乗るあの子が活動を始めたんだ」

 

「コーディネーターの部隊だって、何で分かる? 暗殺犯が議長の手引きだって言う証拠はあるのか? ザフトのモビルスーツが使われたっていうだけだろう?」

 

「ザフトのMSが使われたんだよ? 僕も誰がこんな事をしたのか知りたかったからコクピットを避けて攻撃してた。そしたら、相手は全員、自爆を……」

 

 目を伏せるキラに相槌を打ちながら、情報を脳内で整理する。

 

 オーブで隠遁していたラクスが暗殺されかけ、相手はザフトのMS部隊だった。襲撃場所から推察して水陸両用機、つまり最新鋭の機体を利用。不利になると全員自爆した。事件後に、ミーアが公に出て来るようになった。だから議長が犯人と目されている。どこか違和感を感じて記憶を辿ると、つい最近あった彼女との食事中の会話が浮かんできた。

 

 

「ユニウスセブンが落ちた時ね、私プラントでライブしてたの。ツアーの最後の会場でね。急に音源が途切れたから機材トラブルかと思ってアカペラでやってたら、会場のモニターにニュースキャスターさんが映って、速報です、落ち着いてご覧下さいって。真っ赤になったユニウスセブンの映像が流れた瞬間、来てくれた人達パニックになったのよ。私も震えそうだったんだけど、ラクス様ってみんなが呼んでくれるから、私が怯えてる場合じゃ無いなって。テンポ落として歌ってたら落ち着いてくれたの。やだ、どうしてアスランが謝るの?! アスランだってお母さんの眠るところがあんな事になってしまったのに! 私こそごめんなさい、無神経だったわ」

 

 気遣いを嬉しく思いつつ気にするなと伝えても、しばらく沈黙が続いてしまった。その後に振られた話題は突拍子の無いものだったな。楽しかった記憶に浸ってしまいそうになり、慌てて意識を戻す。

 

 そう、ミーアは開戦以前から長い間ラクスとしてプラントで活動していた。何気ない会話で嘘をつく理由も無いから、事実だろう。キラ達の認識と矛盾している。仮に議長が指示したとしても、ラクスとしてミーアに活動してもらう前なら兎も角、活動させた後にラクスを殺そうとする動機が分からない。それにザフトの最新鋭機が使われていたから議長が怪しいと言うのは短絡的だ。もしラクスの居場所が分かっているのなら俺に言伝を頼まずに自分で話し合いに来られていたはずじゃないか?

 そこまで考えて伝言を忘れかけていた事に気づく。考えを纏めながら口を開いた。

 

「彼女は、開戦前からラクスとしてプラントの人々に慕われている。地球のジブラルタルやカーペンタリアにも何度か降りているそうだ。ラクスの暗殺を仕掛けるなら、順番がおかしい。それに、ハッキリとした証拠は無いんだな? それで疑うのは早計だろう。議長は、ラクスと平和を望む同志として話し合いを希望されているような方だぞ? もし会ったら伝えるように、お忙しい中態々頼まれたんだ」

 

「それは、確かにそうだけど、犯人じゃないっていう証拠も無いでしょう? そんな怪しい人とラクスを会わせろって言うの!? ラクスの偽者を使ってるのは事実なのに?」

 

 思いっきり嫌そうに二人が顔を顰める。詳しく説明した方が良いが、ラクス・クラインが平和に過ごしていることが分からないと心が落ち着かないあの感覚は、実際にプラントで長く暮らさないと分からないだろう。俺だってそうだった。言葉だけでは理解してもらえないが、大切な事だけ伝えておく。

 

「プラント市民には、どうあれラクスが必要なんだ。そういうものなんだよ」

 

 言い聞かせた言葉に不思議そうにしている二人を見ながら、すっかり話が逸れてしまった事に気付いた。イザーク達の手を借りてしまった手前、何故あんな事をしたのか分からなかったなんて口が裂けても言う訳にはいかない。

 

「犯人については俺も帰ったら調べる。議長がラクスと話したい事は彼女にも伝えてくれ。話を戻すぞ。ラクスがそんな事があったのなら、尚更だ。何故戦場にまた出てきた? どうしてあんな事をしたんだ?」

 

 ラクスが暗殺されそうになって身を隠すのは理解できる。先の大戦時と今では状況が違うのに、態々戦場に出て敵を増やすような真似をするのは理解できない。何故か知りたくて問うと、カガリが叫んできた。

 

「オーブの兵達に死んで欲しくなかったからだ! いや、オーブだけじゃない、誰も争ってはいけないんだ!」

 

「それなら、君はこんな所にいるな! 今すぐオーブに帰って条約を何とかしてくれ! 戦場に出てからじゃ遅いんだ! 今ならまだ間に合う。くだらない事をしている場合じゃないだろう」

 

 出立前にラーナス経由で手に入れた情報だが、オーブはカガリとフリーダムが戦場に現れた事を国内に一切報じていないそうだ。カガリの求心力は落ちていない。今なら帰還して軍部を纏め上げてセイランを糾弾すれば、条約締結をアイツのせいに出来る可能性がある。かなり力技だが、賭けるしかない。俺だってオーブを撃ちたくないし、何よりもシンに撃たせたくない。語気を強めた先、目を見開いて声を荒げられた。

 

「くだらない……くだらない事だと!? 力があるから皆争ってばかりなんだ! お前、本当に分からないのか! どうして……やっぱり、ザフトなんかに行ったからじゃないか?!」

 

 押し留めていたものが溢れる気がした。フリーダムの修復経緯も、不必要な戦場への介入理由も聞いて理解した。任務を果たした今、我慢する道理は無い。激情に任せて口を開いた。なぁ、カガリ。君はザフトを何だと思っている? 

 

 

 

 

 呆れた声で言われた言葉に腹が立ってついムキになって言い返してしまった先、アスランの表情がスッと消えた。さっきまでの怒鳴り声とは違う、感情の読めない淡々とした声が静かに広がっていく。

 

「三度目だな」

 

 何の事か分からなくて聞き返すと、いつもみたいに困ったような溜め息も吐かないで返される。

 

「三回目だと言ったんだ。ミネルバで一回、先程ザフトに服隊したと告げた時に二回、そして今。アナタがザフトなんかって俺の前で言ったのは。オーブでよく言われている格言に習って三度目までは我慢した」

 

 指折り数えられる事柄の何が問題か見当もつかない。首を傾げると、憐れむように眼を細められる。

 

「講師が悪かったのか、アナタにも怠け癖があったのか。本気で分かっていないようだな。中立を掲げるオーブの代表がザフトを蔑ろにするような言い回しをする危険性を。一度目の時は生きた心地がしなかった。ザフト兵一人の失言を、あたかも全体がそうであるかのように大勢の前で責めるんだからな。ザフトとオーブの間で開戦の火種になりかけても可笑しくなかった」

 

 ミネルバでの騒動を思い出す。そう言えば、不謹慎な発言をしたザフト兵を咎めてる途中でアスランが急に声を荒げて止めてきた。思い出してみたらあの時もザフトなんかって言っていたかもしれない。でも、そんな言葉尻一つで戦争の切掛に? 信じられない想いでいると、同じ事を考えたのか横のキラが怯えたように恐る恐る口を挟んできた。

 

「あの、アスラン、それは、えっと……大袈裟なんじゃ」

 

「お前にとってはそうだろうな。俺とカガリにとっては違うんだ。言葉遣い一つで国全体の利益にも不利益にもなる。大衆に見られる場なら特に言葉に気を配れ、失言は絶対にしてはならない。政治について学ぶ時、一番最初に習うだろう。寝てたのか。そうだとしても、あんな馬鹿をする前に国内の社交界で恥の一つでもかいて覚えるはずだが、過保護も考えものだな」

 

 そんなの聞いたこともない。昔から、窮屈なドレスを着て面倒な礼儀作法を覚えるより、ズボンで街を駆け回る方が皆の暮らしに触れられるし、好きだった。社交界デビューをそろそろとマーサか誰かに言われた気もするが、ヘリオポリスのモルゲンレーテが怪しいという噂が気になっていたから確かめた後に、と返した。それからレジスタンスに入って、アークエンジェルの世話になってオーブが焼かれてしまってからお父様の後を継いで必死にやってきた。社交界なんて行く暇は無かった。政治の勉強も実務で必要なものを覚えるのに精一杯で、礼儀作法は丁寧な言葉遣いをしてくださいねと言われたぐらいだ。言い返したいが、アスランの眉一つ動かさない表情と冷たい声が恐ろしい。どう返せば良いか分からず狼狽えてしまうと、アスランの目が私から逸れて何故か悔しそうに伏せられた。

 

「変わったんだ。自分の立場を自覚しろ。フリーダム修復の件は、オーブが核の兵器利用を容認したと取られる可能性が高い。それだけの事だ。本当に平和な世界を今も望んでいるなら、とにかく、オーブへ帰れ。君が戻れば中立派も盛り返して何とかできる。ラクスに関しては、俺も調べておく」

 

 背を向けた彼にキラが問いかけた。

 

「君は、帰ってきてくれないの? 撃ちたく無いんだ、撃たせないで」

 

「俺だって撃ちたく無いよ、キラ。だから、どこか安全なところで大人しくしててくれ」

 

 振り向いてくれたアスランが先程までの人形みたいに綺麗で怖い顔じゃない事に気づけば口が勝手に動いていた。

 

 

「どうして一緒に来てくれないんだ! 私を守るって言ってくれたじゃないか!」

 

 久々に本気で怒った相手が睨んで来た。まさかミネルバで揉めた時の危険性すら理解できていないとは考えもしなかった。シンの事もあったからと気遣いせずにあの時叱っておくべきだった。俺だったから個人的な説教で済ませたが、また大勢の前で同じ事を繰り返していたら本当に危ない。後悔しつつも眉を顰める。ヨウランの発言は確かに軽率だったが、ザフト全体の総意では決して無いのだ。そしてオーブが核を容認するのか、という言葉に否定は返ってこなかった。中立国としてのオーブの友好国であったプラントを守るための軍であるザフトを蔑ろにするのかという言葉にもだ。彼女は変わってしまったんだろうか。悔しくて怒りも冷めてしまった。だが、それならせめて中立の意思を貫き通してほしい。そんな想いで助言をした。忸怩たる思いを抱きながらも、問いかけに関して考える。

 

 どうしてキラ達と一緒に行かないのか。今の彼らの行いで戦争が終わるとは思えない。それに、ミネルバやプラントには守りたい人達がいる。

 

 例えば、ここに来る途中の別れ際に心配して連絡先を渡してくれた先輩。負けられないと思わせる二人だけ残った同期。これからを楽しみにしている世話焼きな紅い目の後輩。俺より口数が少ないけど自分の意見をちゃんと言ってくれるその相方。赤い髪を揺らして話しかけてくれる姉妹。幼い頃から知っている桜の眼をした厳しくも優しい姉、騒がしいけどやりたい事を見守ってくれる兄。大抵の無理を聞いてくれる、しっかり者の姉。そして、毎日の何気ないメールで元気をくれて故郷のために頑張ってくれている真っ直ぐな髪と心を持った歌姫。

 もちろんキラ達だって大切だけど、俺が居なくても大丈夫だろう? フリーダムの事がそうだったように。

 

 どう言おうか考えていると、昔キラが言ってきた言葉が思い出された。あの時は納得出来ずに地球軍の奴等に良いように利用されているんじゃ無いかと穿った見方をしてしまったけど、彼等の事情を知った今だと、言葉通りに受け取れる。 うん、コレなら分かりやすい。

 

「今のお前達のやり方じゃ平和にならない。それに、守りたい友達がいるんだ」

 

 今度こそ振り向かずに乗り込んだ。

 

 

 少し微笑んだ彼に呆気に取られている内に紅く染まった機体が上がっていくのを3人揃って見送る。しばらく誰も何も言わなかった。カガリが力無く呟く。

 

「どうして、アスラン……」

 

 久しぶりに本気で怒ったアスランを見た。昔から言葉遣いには煩かったし、相変わらず怖い。色々調べてくれるって言ったけど、戻ってきてはくれなかった。カガリが聞いてくれた時に答えていた最後の言葉が引っかかる。あの言葉は、言わなくちゃいけなくて僕が言った言葉だから。

 ゼミの友達と一緒に巻き込まれたという事はオーブで和解してやっと言えた話だ。そんな余裕がそれまでは無かった。もしかして、アスランもあの頃の僕と同じで何か事情があって来れないのかもしれない。ラクスに相談しないと。そう言えば、笑ったアスランを見たのはいつぶりだろう。顔をあげるとずっと黙って話を聞いていた友達が目に入った。心配になって、声をかける。

 

 

 

 

「ミリィは、これからどうするの? もし良かったら、一緒に行かない?」

 

 そう言って貼り付けたみたいに緩く笑うキラを見つめる。ディアッカに頭を下げられて、アスランの応対も丁寧だったし個人的にって言う話だったから今回繋げたのに、色々と衝撃的な事が多い。ラクスさんの暗殺なんてフィクションみたいな話も、まだ難しい政治の話も、カガリの失言に静かに激怒していたアスランも、2年ぶりに会って別人みたいなキラも。

 

 ヘリオポリスで何も知らずに笑い合えていた頃を思い出す。あれからサイともカズイとも会えていない。ねぇ、トール。貴方が居ないと私達、友達じゃいられなかったのかもしれない。振り返れば、平和だったあの頃でも怠け者なのに何でもできるキラに思うところが無かった訳じゃない。私も何個か課題手伝ってもらった事はある。面倒くさがりながらもちゃんとしてくれたし、私達よりうんと優秀だから良いんじゃ無いかって。そんな甘えがあのみんなギリギリだった筈の状態でもあったのかもしれない。気づいていた筈なのに、見ないフリをしていた。話し合いにキラだけ居ない時も、フレイが夜に抜け出してキラの部屋に向かっているのを見かけた時も、トールが出撃するあの時も、眼を逸らした。だってキラは何でもできるんだから守ってくれるはず。そうやって背けていたらトールは居なくなってしまった。

 

 アイツが悪いとかそういうのを辞めた今、思ってしまう。私が何かをしていたら、あるいは何かを辞めていたら、今の景色は変わっていたのかもしれない。名前を呼ばれてハッとする。

 

 確かに世界が不安定な今、気心の知れたアークエンジェルに乗り込んだら私は楽だし安全だ。でも、トールを失った場所でもある。少しだけ苦しい。キラはトールの事で私に負い目があるだろうし、また彼にもたれるような真似をしてしまいそうな自分を見るのが嫌だった。誰かの重荷になる自分なんて、知らないままで良かった。これ以上見たく無い。それに、今の仕事に誇りを持っている。だから、私は私のために同じことを繰り返さなかった。

 

 

 

「そうなんですの、まさかアスランが……キラの言う通り、何か事情があっての事かもしれません。ミリアリアさんはご自分の道を貫くのですね。まず決める、そしてやり通す。これがきっと物事を成す唯一の方法ですわ。カガリさん、そんなに落ち込まないでください。アスランもきっと分かってくださいます。想いだけでも力だけでも世界は護れないのですから。証拠が無いと動けないと言うのは、裏を返せば証拠さえあれば動いて下さるのでしょう?」

 

 帰ってきたキラ達の報告を聞いたラクスが情報を纏めながらカガリを励ます。俯きっぱなしだった代表がハッと気づいたように顔を上げた。

 

「私、プラントに行って、必ず、証拠を探し出して来ます」

 

 ラクスが力強く頷いた。

 

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