「どういう事ですか、これ!? なんでステラがこんな目に!」
「必要な措置です。この子の立場、分かってますか。正規兵かはどうあれ、たった今も敵対している地球連合所属の兵士。彼女自身もガイアの強奪に関与、つまり彼女によってプラントに人的被害が出ています。そんな相手、拘束しない理由が見当たりません。外さないでくださいね。私以外が無理に外そうとすると、端末にアラートが来る仕掛けを付けていますから」
治療中のランプが消えてしばらくしてから入室許可の降りた医務室に入ると、ステラの身体に拘束ベルトが巻かれていた。手足を動かすのも難しい程の状態に思わず叫ぶと淡々と説明される。理屈は分かるけど納得できなくて食い下がろうとした時、横のアスランさんが困ったようにため息をついた。
「先にそうする事で、これ以上酷い目に遭わせないための措置でしょう? そうやって自分だけ悪くなるように言うのは止めてください。それで、結果の方はどうでしたか?」
「傷口から採取した血液から人体に存在し得ないはずの物質の反応と、違法薬物への中毒症状も見られました。そこの装置で詳細は現在分析中です。もう少しで終わるのでお待ちください。また、脳波も計測したところ不自然な動きがあります。間違いなく話にあった連合の強化兵かと」
変わらず単調な声で話している彼女の拳が震えているのを見てハッとなる。この人こそ自分が作った誰かを助けるための技術をこんな事に使われて苦しくない訳がない。申し訳なく思った矢先、聞こえてきた言葉に驚く。可能性として聞いてはいたけれど、本当にステラが強化兵だなんて。呆然としていると何かに気づいた様子のアスランさんがお姉さんの手を引いて奥の部屋に行こうとする。ステラは見てますと声をかけると二人きりになった。心配でたまらなくて思わず手を握ってしまう。小さくて柔らかい。熱で苦しんでいたマユにしていたおまじないみたいにギュッと額に押しつける。早く話がしたかった。
「姉様、怪我してますよね。そんな事になった詳しい経緯を教えてください」
カウンセリング用の防音室に引っ張られた先、不快そうに眉を寄せながら弟が問い詰めてきた。軽傷だった事もあり隠し通せたつもりだったので気づいた事を褒めると照れたようにまなじりが緩んだ後、慌てたように釣り上がる。誤魔化されてはくれなかったみたい。昔のように簡単には流されないように成長した事を嬉しさ半分、寂しさ半分で受け止めながら座るように促すと、そこは大人しく従ってくれた。念のため遮音カーテンで囲って二重で聞こえないようにしてから向かい合う。胸元を緩めて未だ軽く熱を持つ爪痕を見せると、息を飲む音が小さな部屋に響いた。落ち着かせるためにゆっくりと話す。
「あの子にね、つけられたんです。目覚めて直ぐに飛びかかってきて、咄嗟に患者さんにしてた要領で眠らせました。見ての通り私の怪我は浅いし、何の心配もありません。他に人もいなかったのでナイショにしてくださいね?」
あの忙殺された日々の中では、トラウマによる幻覚で暴れ出す患者さんを落ち着かせる事なんて日常茶飯事だった。まさか戦時中に使う事になるとは思っていなかったけれど、何はともあれ外に知られなくて良かった。
あの子、ステラちゃんは、自分の立場や何をしてきたかも理解できていない。ただ、怖いものを倒さないといけないと刷り込まれていた。落ち着かせて眠らせるまでの間、怖いものって何? と聞いたら、ザフトともコーディネーターとも返ってこずにただ、怖いものだよ? と不思議そうに首を傾げられてしまった。あんな子に恐怖や憎しみをぶつけさせる訳にはいかない。あの処置はアスランに言われた通り、彼女を守るためだった。わざと何も教えていないのだろうか。何も知らない事が救いと思ってしまうのは理解できる。私だって辛い過去に囚われて苦しむぐらいなら最初から無かった事にすればいいと考えてしまったのであんなモノを造るなんて過ちを犯してしまったのだから。ただ、それにしても限度がある。戦禍塗れの今の世の中で自分が対峙しているものが何かも分からないのは危うい。あの返答には逆上してしまう兵士もいる可能性は大いにあった。自由意志や過去全て、必要な知識を奪わないよう制御OSにリミッターをつけていたけれど改造の際に外されてしまったんだろう。どれだけ後悔しても足りないが、そんな感傷に浸ってもただの自己満足だ。今為すべきなのはそんな事ではない。素早く思考を纏め上げ、意識を切り替える。渋々でも頷いてくれた可愛い子を安心させるために笑いかけると、何かを思い出した表情を見せてから何故か途方にくれた顔で呼びかけられた。
「あの、姉様。どうしてシンは彼女をあそこまで気にかけるんでしょう? いくら助けたとはいえ一度会っただけなのに。あの子の境遇に同情はしますが、あまり庇い過ぎるとシンにもあらぬ疑いがかかります」
思わず笑顔が強張りかけた。一度話しただけのミーアちゃんに対して、物心つく前から頼りにして大切にしているフォリアを態々護衛につけたこの子が何を言っているのだろう。話を聞いた時は相当驚いた。
いつかの夜、一人で待たせてしまう事を心配したアスランに連れてこられた彼女と話すと、真っ直ぐで明るい子で確かに気に入りそうだなと納得してしまったのは記憶に新しい。無自覚なら自覚させた方が良いだろうか。
私達姉妹としては身内にあの子を迎えるのはやぶさかではない。人見知りで警戒心が人一倍強い妹は大層気に入ったようで、たくさん話をしてくれただけでなく、好きな味付けや肌に合いそうな化粧品、髪の手入れ用品などを嬉々として調べていた。確実に末永く傅く気満載だ。我が妹ながら、気に入った子にはやり過ぎな程に尽くしてしまう。
正面で考え込んでいるこの子もそうだ。気に入った相手とそうでない人への対応の差が激しすぎる。嫌な相手には必要な事すら手を貸そうとしないのに、一度好ましく思ったら手のひらを返したかのように自分からあれこれやってしまう。良くも悪くも愛が重い。私達には慣れたものだけど、それを面倒くさく思う人もいるだろうなと考える。
アスランに自覚させたら方向性はどうあれ対応が変化してしまうのは間違いない。それで関係が悪化したら悲しい。下手に言うよりも自分から気づいてくれた方がいいだろう。今はヒントを示すだけにしようと決めて、丁寧に答えを返す。
「たぶんですけど、好きだからじゃないですか? 一目惚れとか。人間って好きになった人に対して、外聞がどうとか立場がどうとか気にしてられないんですよ」
ひとめぼれ、と言葉を覚えたての頃のように呟いて考え込んだ後、頭が追いついたのか真っ赤になった可愛らしい弟につい笑いそうになるのを押し留めてまた気持ちを戻すと、見計らったように声が響いた。
「フィルさん! ステラが目を覚ましました! 早く来てください!」
ふわふわと景色が浮かんでくる。冷たくてとても怖かった水の中から助けてくれたキレイな赤い眼の男の子。まもるって約束してくれた。
まもる。心があったかくなって怖くなくなるステキな言葉。それからナタルとお着替えして、海がいっぱい見えるところでみんなで美味しいご飯を食べた。
こんなに楽しいのを、どうしておぼえてなかったんだろう。あの男の子、ううん、ちがう、シンのことも。こんなに痛いぐらいにドキドキするのに。ステラの気持ちが分かったみたいに、名前を呼んでくれるシンの声が聞こえた。
目をあけるとまっ白でまぶしいからパチパチさせる。ちょっとだけ身体が痛いなと思ったら、シンがなにか大きな声を出してすぐにきてくれた、少しお話ししたお姉さんが外してくれた。なんでか顔がクシャクシャのシンが笑ってギュッとしてくれる。
あったかいな、うれしいな。そうだ、うれしいことしてもらったらこう言ったら良いんだよってネオとナタルが教えてくれた。
「ありがと、シン。約束、また、会いにくるって」
また会いに来てくれたことがうれしくてうれしくて。習ったおれいの言葉を伝えたら、ギュッとする力が強くなった。
なんだか場違いな気持ちを持て余しながら、どうしようかと思ってしまう。
シンの想いが姉様が先程言ったとおりかはさておき、ミネルバでの彼女の立ち位置は捕虜だ。それも、あの新型を強奪した船に関わりがある。せめて何か情報は得ておかないと、薬物中毒という治療が長期に渡る病を治させる名目が立たなくなる。ただでさえ資源管理が厳しい航海中だ。何の利益も無しに貴重な医療品を敵国の兵士に惜しみなく使うほど余裕は無い。同じ事を考えていたのか、姉様が肩を静かに叩いて手元のメモを見せてきた。
『今は本人に聞いてもダメだと思いますよ。自分が何と戦っているのかすらも分かってないみたいでしたから。艦長や上層部には医療所見を提出しようかと思ってます。
現在記憶は連合の非道な人体実験によって混濁しているが、治療によって回復し情報を聞き出せる可能性あり。また回復以降の尋問を考慮して該当捕虜とは友好関係を築くことが好ましい。
こんな感じでどうでしょうか?』
『俺の立場を使ってでも通させます。ありがとうございます』
人道的な配慮もされた内容を有り難く思いながら返事を書き足すと、音もなく微笑まれた。これで問題なく治療を受けさせてあげられる。姉様の腕なら何の心配もない。
安心して大きく息をつくと、入室時からずっと微かに音を立てて動いていた機械が一際大きく鳴った。突然の騒音に怯えたステラはシンが背中をさすると、ふにゃりと笑って身体を預けた。
姉様が吐き出された紙を取りに動く。さっき言っていた薬物の詳細な分析結果だろうか。遠目に見える波形が細かく刻まれたグラフの見方は専門じゃないから正しく分からない。教えてもらおうとした瞬間、姉様が無言で手招きして先ほど出てきた防音室を指差した。シンも来るように言われている。ステラは姉様が俺も処方されている薬を飲ませて少しすると小さな寝息を立て始めた。悪意から護るための拘束具を丁寧に巻き直すと、踵を返してすぐ確認のために先程の紙を広げて凝視している。
二人続いて入って分厚い扉が閉まったのを確認してから、義足で机を蹴って大きな舌打ちをされた。信じられなくて固まってしまう。
こんなにも姉様が分かりやすく怒りを露わにしているのは見た事がない。姉様の機嫌の悪い時は親しくない人にはちっとも分からなくて、怖かったけれど他の人には分からない姉のご機嫌が分かる自分が少し自慢だった程だ。次いで大きなため息が吐かれる。誰かの喉が鳴る音が響いた。綺麗な髪を乱雑に掻きむしった後に振り返った顔からは何の感情も読み取れない。背筋が凍るほどの声で信じ難い内容が告げられた。
「このままだとダメです。分析の結果、彼女に投与されていたモノのいくつかは依存性と毒性がとても強い。あまりの危険性に本来なら生命に与える事を禁忌とされている代物です。どうにかしないと確実に……」
言い淀まれた先は死だと嫌でも分かった。信じたくないのかシンは何かの間違いじゃないかと問い詰めている。シンの襟を引っ掴んでやめさせると、震える声で叫ばれた。
「だって、こんなのってあんまりじゃないですか! あんなに死ぬのを怖がってたステラが、このまま何も出来ないで死ぬしかないって言うんですか! ふざけないでくださいよ!」
「冗談でこんな事言うぐらいなら医者なんてとっくに辞めてますよ! 私だって、誰かをこんな目に遭わせるために作ったんじゃないのに。どうにかしたいのは本当ですけど、こんな違法薬物の一括在庫処分セールみたいな馬鹿げたラインナップ、揃えるには時間もツテもありません!」
つられて叫んだ姉様が正気に返ったように口を押さえる。静かになった部屋で悔しそうなシンが頭を下げた。
「ごめんなさい。違うんです、フィルさんを責めてる訳じゃなくて……悪いのは誰かを助けるための力をこんな事に使った連合の奴等なのは分かってますよ。すいません、少し頭冷やしてきます」
泣き笑いみたいな顔をしてシンが出ていく。動けずにいると、力無く椅子に座り込んだ姉様が行ってあげてくださいと促してくれた。不安になって、姉様は悪くないですよと声をかけてから早足で向かう。部屋を出る瞬間、気のせいかと思うような小さな呟きが耳に届いた。
「あんなモノ、造らなきゃよかった」
扉が閉まる。心配になって開けようと力を込めても、プライバシー保護のためか外からは開けられない仕組みになっていた。
仮に自分が作った機械が奪われた上に知らないところで悪用されていたら俺も正気でいられない。心配だが、患者を放ったらかしにする事は責任感の塊で患者を第一にしている姉様に限って絶対に無い。
気持ちを切り替えて前を向くとスヤスヤと眠るステラの頭をシンが優しく撫でていた。泣くのを我慢しているように瞳が揺れている後輩に声をかけるのを躊躇いそうになるが、ここで黙っていても埒が開かない。意を決して口を開いた。
「お前、どうする気だ?」
目的語とかが端折られた言葉に手は止めずに考える。ここに居るだけじゃ、ステラは助からない。
フィルさんは頑張ってくれるだろうけど、ステラを助けるには法律や条約違反の薬が必要だ。そんな物をちゃんとした医者であるあの人が持っているわけもない。本人にもさっき入手手段が無いと言われたばかりだし。そんなのを知っていたらそれはそれで嫌なのでいい事だけれど。
何もせずに死なせるぐらいならと一つの選択肢が頭をよぎる。あの日、海辺で会ったお兄さん達は本気でステラを心配していた。あの人達なら何とかしてくれるはずだと信じて賭けるしかない。少なくとも、治せる薬や設備は向こうにあるんだから。悪い事なのは分かっている。それでも、また誰かを失うよりはよっぽど良い。覚悟を決めた瞬間、強く名前を呼ばれた。
「まさかとは思うが、連合に彼女を返すのだけはやめておけ。状況が悪化するだけだ」
「何で断言してくるんですか! あのお兄さん達に頼めばステラを助けてくれますよ! いつも一緒にいるって言ってたし、あんなにステラを必死に探して、大切にしてたのに!」
心を読まれたみたいで動揺する。決めつけるみたいな言い方に腹が立って反論すると、お姉さんそっくりのため息が吐かれた。
「まず、彼女を返す軍としての正当な理由がない。勝手な返還は重大な軍規違反だ。お前は何らかの罰を負う。死ぬかもしれないんだぞ。それに、あの時の彼等が全員正規兵だと確証があるか? 彼女がそうだったように強化兵である可能性の方が高い。もし仮に正規兵が居たとしてもだ。確かに治療を受けてその場の命はもたせてもらえるかもしれないが、上層部から彼女を出すように命令があれば逆らう事は出来ないはずだ。連合の階級制度は俺達やオーブよりも厳しいからな。そして、彼等は俺達と戦うためだけに造られている。使わないなんて選択肢はあり得ないんだ。この子は連合に帰ったら自分の意思と関係なく、戦わないと生きられない。そうなったらお前は戦えるのか?」
静かな問いかけに返事が出来なかった。最悪な理屈は綺麗に通っている。連合に返してもステラは命と引き換えに戦わされてしまう事がどうしようも無いと分かって、目の前が真っ暗になった。最後の一押しとばかりに諭される。
「無理だろう? もしそれでルナマリアやレイが彼女に撃たれてみろ。どれだけ大切な存在でも、憎くなって、撃って、死にたいぐらいに後悔するぞ」
まるで実際にそんな目に遭ったみたいに悔しさがこれでもかと詰め込まれた声に顔をあげると、アスランさんはどこか遠くを見ていた。
「なんで、そんな自分が見てきたみたいに……」
「見てきたんじゃない。俺が実際にやってしまった事なんだ……こうなったら、話しておく。お前が俺と同じ目に遭うより、ずっと良い」
思わず聞いてしまうと、目が飛び出るような事実を話した後何かを決めた顔のアスランさんがさっきも使っていた赤い携帯を取り出す。フィルさんに部屋を開けてもらうよう連絡をしていた。
あのカウンセリングルームはミネルバの会議室と同じで防音機能バッチリだ。他の人には聞かれたくないんだろう。扉が開くと、カードキーをアスランさんに押し付けていた。戸棚から薬品を取り出しながら振り返らずに声が飛んでくる。
「何話すかは聞きませんから、好きに使ってください。こっちはどうにか毒性の低い類似品作って無事な時間を延ばしてみます」
頷くと、アスランさんが慌てたように備え付けの端末に移動した。素早い操作の後、小さな画面に艦長の顔が映る。
「艦長、ガイアはまだミネルバにありますか?」
「え? えぇ、あるわよ。ただようやく取り返せた機体だから直ぐプラントに戻すよう指令が来たわ。何か気になることでも?」
「申し訳ありませんが、輸送を1時間……いえ、30分だけでも待っていただけませんか。無理を言っているのは承知ですが、お願いします」
「謝らなくて良いわ。そう言えばガイアの点検、まだだったわよね、アーサー?」
「え、確か向こうで実施……い、いえ、なんでもないです、そうですね、こちらではまだですね」
「何か仕込まれてるかもしれない機体をそのまま技術局に渡したら大問題だもの。よく気づいたわねアスラン。調べるのは整備クルーに任せるから一晩はかかるでしょう。それだけ有れば、貴方の知りたい事は分かるかしら?」
「ありがとうございます。十分すぎます。ラーナスがコクピット周りに行くかもしれませんが、よろしいでしょうか?」
「人の出入りは多いもの。誰も気にしないわよ。それでは、何か決まったら連絡をちょうだい」
画面に向かって敬礼するアスランさんに頼もしい笑みを向けて通信が切れた。反対の手で操作されていた持ちっぱなしの携帯電話が耳元に当てられる。
「ラーナス、聞こえていたな。ガイアの直近の稼働記録から出発位置を割り出せ。時間がないから1時間以内に。分かったらこれに連絡を。あぁ、他のデータもさらえるだけ全部頼む」
言うだけ言って切った後、手招きされた。扉が閉まった後、真剣な顔で、信じられない話が始まった。
「すいません、待ってください。一回整理させてください。アンタはその月で幼年学校ずっと一緒だったお友達と戦って、その人に同期の人が殺されて、それで殺し合ったって言うんですか」
「そうだ。その時に地球軍の機体が来て。俺もあの頃はキラ……アイツが地球軍の兵士にいいように騙されていると思っていたからな。戦闘の邪魔もされて、そいつが死ねばキラの目も覚めるんじゃ無いかと考えて、殺した。うんと後から、その彼もヘリオポリスで巻き込まれただけの民間人だったと聞いて、ショックだったよ。あの戦闘が終わってからしばらく親友を殺したと思って死ぬほど後悔した。復讐なんて何も生まないと身をもって思い知ったよ。俺の場合はソイツが生きていてくれたからまだ良かったが、あんな奇跡はそう起こらない。軽々しく起こるならニコルも死んでない。とにかく、お前は俺と同じになるな」
「……分かり、ました。地球軍にステラを返すのはやめておきます。でも、このまま何もせずにステラを諦めるのも嫌です。どうにか出来ないんですか。俺にできる事なら何でもするので」
先の大戦での辛い過去を話してまで止めようとしてくれたこの人の気持ちを踏みにじる訳にはいかない。頷くと、大きく肩が下ろされた。それでもステラをこのままには出来ないからどうにか出来ないか考えるけど思いつかないから頼ると、震えた端末を見たアスランが少し笑って画面を見せてくる。座標数字と網は張ったという2行だけの短いメールだ。
「ラーナスにガイアのログを辿って母艦の予測位置を割り出させた。お前も言った通り、ステラにその上官達が情があるなら、しばらくは帰還を待って留まる。あの子を治せる設備は現状あちらにしかない。あの子を連れて行くんじゃなく、向こうをこちらに連れてきてしまえばいい」
とんでもない作戦に息を呑む俺に構わず、静かに燃える瞳で宣言された。
「母艦ごと強奪された新型を奪い返す。今何でもするって言ったな? お前にも準備を手伝ってもらうぞ。これ以上姉様を泣かせてたまるか」