ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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咎の行く先

 

「よし、これで信号の偽装は完了。さてネオさん、嫌じゃなきゃで良いんですけど、その仮面一回外してくれません?」

 

 スティングとアウルのいる下から上がってきた黒髪が黄色い眼でこちらに手を差し出してきた。この仮面はあの野郎に渡されたものだ。命令もあるが、それよりも出会って直ぐの頃にステラ達が傷が見えていると心配そうにしていたのもあって普段から着けていた。もういいかと思って外せば息を呑む音が耳に届いた瞬間、横から肩を鷲掴みにされる。

 

「少佐……フラガ少佐ですよね?! 生きていたんですか?」

 

 そのまま揺さぶられ、静止させるために手をあげようとすると気づけばその背後に回っていた彼が仮面を片手にもう片方の手で碧い髪を猫のように引っ掴んで動きを止める。

 

「すいません。どうしたんだよ、ちょっと落ち着け。え、何、お前いつの間に地球軍のヤツと知り合ったワケ?」

 

「違うんだ、この人、アークエンジェルにいて……というか、離してくれ!」

 

「あー、ちょっと良いか? まず俺は大佐だし、アークエンジェルに乗ってた覚えもサッパリない。だからお前とは初対面。元アークエンジェルのクルーはいるが、それはこっちのナタルだ。とにかく人違いだよ、悪いな。そういや、初めて仮面外した時も少佐って言われたっけ……俺、そんなに似てんの?」

 

 目をパチパチさせてから、でも、と言った後、背後から今は大人しくしてろと言われて黙り込んだ赤服を見てナタルも同じように呼ばれた事を思い出したから視線をやると何とも言えない顔をしている。僅かな沈黙が降りた後、静かに耳馴染んだ声が聞こえた。

 

「その……確認だが、君はアークエンジェルに乗船経験が?」

 

「はい。ですが、その……貴女とは初対面ですよね?」

 

「あぁ、初めまして。少し話したいんだが……その」

 

 困ったように一瞬こちらを見られる。多分俺に瓜二つらしいその少佐についてだろう。似た顔がいちゃあ話し辛いか。どうしたものかと思うと思い出したような顔をして黒髪が口を開いた。

 

「そういや、下の二人そろそろ起きると思います。親しいアンタから話してもらえると有難いんですよね」

 

 早く言えと文句言ってから笑って頷いて下に向かう。

 思えばアウルもスティングもコイツらに煮湯を飲まされている。説得がうまくいく事を祈りながらエレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

「つまり、あの人はやはりフラガ少佐ご本人である事がほぼ確定しているが、本人は自分をネオ・ロアノークだと思っているという事ですか?」

 

「そうだ。何気なく聞きだしたところ幼少期から前大戦時の記憶まであるから無理もない。上から脅されていたなど理由はあるが、あの状態で仮に言ったとしても信じてもらえるかどうか……」

 

「待ってください。貴女は何の措置も受けていないんですか?」

 

 衝撃的な内容を確認した後、気になる事を問うと自嘲するような笑みが浮かべられる。

 

「助けられた相手に問われたある男の死に様を話したら気に入られてな。一方的に決められた褒美だそうだ。とにかく今告げても混乱させるだけだと思うから、すまないな」

 

「いえ、貴方のせいでは無いのでしょう? 謝ることは何も」

 

 頭を下げてきた相手に返しながら思考をまとめる。

 

 あのラボで見つけた日誌に書かれていた最初の被験体はきっと彼の事だったんだろう。確かに、何の覚えもないだろうが貴方は別人なのだといきなり言われても困惑する。今は黙っておくしかないのは分かるが、飲み込みきれなくて戸惑っていると考えを読んだように横の相棒が笑って肩を叩いてきた。

 

「詳しい対処法は姉さんに帰って聞こうぜ。あの人ならこういう案件も詳しいはずだから。今はそっくりさんって事にしとけ。困ったらこう頭の中で唱えろ、世界には同じ顔が三人いる」

 

 随分な暴論に思わず笑ってしまうと楽しそうに頭を揉みくちゃにされる。目の前の人が安堵したように息をついたのと同時にエレベーターが上がってくる音が聞こえた。

 

 

 

 

 

「先程は申し訳ありません。その、本当に生き写しで……」

 

「もう良いさ、気にすんな。それより、その仮面どうするんだ?」

 

「発信機の類が付いてるかと思ったんですが、何も仕込まれて無かったので好きにして良いですよ。それよか、そっちの二人が?」

 

 バスケットボールよろしく指先で回されていた仮面がこちらに投げられた。キャッチした後、視線を向けられた二人が少し強張ったため、笑ってしまいながら紹介する。

 

「そうだ。うちの自慢の息子達、スティングとアウルだ。今はちょっと緊張しててな、悪い」

 

「人見知りならこちらにもいるので気にしなくていいですよ。よろしくな!」

 

 差し出された手を威嚇するように引っ掴んだアウルが爛々と燃える目で噛み付くように訊いた。

 

「色変え野郎のパイロット、どっちなんだよ!」

 

 ナタルが挨拶! と叱り飛ばしたのを気にも留めず、顔を見合わせてから黒髪の方が手を挙げてから納得した顔になった。

 

「なるほど、お前アビスのパイロットか! あの時はどうも」

 

「なんだ、勝ったからって余裕かよ、腹立つ! まだ着くまで時間あるんだろ、シュミレーターで勝負だ! 次は負けないからな!」

 

 ハイハイと慣れたように笑って大人しく引っ張られた黒髪と次男坊を見送ったナタルが戸惑ったようにスティングに問いかける。

 

「お前達、良いのか? その、今から行く船とは色々あっただろう?」

 

「確かに勝てなくて悔しかったけどな。ただ、それとこれは別。俺達が戦うのはネオの敵だ。ネオがそっちに着くなら一緒に行くさ。連合の奴等で他に思い入れあるのなんて居ないし」

 

 先程下で聞いた答えが繰り返される。もう少し嫌がるかと思ったが二人ともアッサリしたものだった。

 驚いたように瞬きした後ナタルは笑ってぎこちなくスティングの頭を撫でている。照れくさそうにしている長男を見ていると声をかけられた。

 

「そろそろ着きます。すいませんが、まずはネオさんだけ艦長室まで一緒にお願いします。話は通していますので」

 

 頷いて、つい先日まで撃たなければいけなかった黒い戦艦を視界に収める。緊張もあるがどんな人物が乗っているのか少し楽しみだった。

 

 

 

 

 

「ネオ! お迎え、来てくれたの?」

 

「ステラ! 無事で良かった……痛いところはないか? 苦しくないか?」

 

「ううん、あのね、シンやルナと遊んでね、楽しかったの! そうだ、ステラね、ちゃんとありがとう言えたよ!」

 

 連絡橋を繋ぐと、駆け寄ってきたステラが言葉通り楽しそうに話してくれる。偉いなと頭を撫でてやるとくすぐったそうに笑い声をあげた後コホコホと咳をする。後ろから追ってきていた白い髪の美女が険しい顔で速度を上げた後、ステラの背中をさすりながら柔らかく微笑んだ。

 

「ステラちゃん、あっちの船に行ってお薬飲んで休憩してからにしましょう? そしたら後は好きなだけお話ししていいから、できる? うん、いい子ね。すいません、失礼します」

 

 つい先日聞いた声と同じだったためステラの主治医だと分かった。反対方向に向かう背中に頭を下げる。とにかくステラの無事を祈るしかできない自分が歯痒くて仕方なかった。

 

 

 

 

「初めまして、タリア・グラディスです。早速だけど今後の貴方達の処遇について話させてちょうだい。

 ギルバート……議長の方には連合の非道な行いに耐えかねて反旗を翻した協力者であると話しています。連合について知っている事を話してもらうのと引き換えにこれまでを不問とする許可が降りたわ。貴方達と主に対峙していたのは私達ミネルバですし、船への損害もあのアークエンジェルから受けた被害の方がずっと深刻よ。よって、ザフト兵からの反感も僅かかと思われます。ただ……」

 

「そのままだと地球軍の奴等に裏切った事が直ぐに露見するので船の外観だけでも取り繕っておきたい。医師の方からもあの子達を一度戦場から離したいと打診もあったので、一度スミス、こちらのドックに入ってもらう事が望ましいのですが、いかがでしょうか? 移動式ですので、合流も容易かと思われます」

 

 どこかナタルに似た雰囲気を感じさせる艦長の言葉を引き継いで先程までの砕けた話し方とは全く異なる言葉遣いで黒髪が提案してきた。

 確かにこれでは裏切った事が丸わかりだ。潔癖症なジブリールの奴が裏切り者を許すはずが無い。確実に狙ってくるだろう。単純だが船の見た目を変えると気づかれにくくなる。それに、ステラ達に戦い以外の世界も見せてやりたい。納得して頷くと、空気が弛んだ。

 

 

 

「ステラちゃんの処置は完了。後は投薬治療に移って……あのブロックワードとか言うふざけたデメリット満載の奴も解除したいですね。あ……すいません、そっちのけにしてしまって。ご協力ありがとうございました」

 

「いや、こちらこそ。本当にどれだけ感謝しても足りない。そうだ、専門分野という事ならお聞きしたいのですが……」

 

 ステラの治療を終えて汗を拭う女医に声をかける。先程彼等にも告げた話をすると、深いため息を吐かれた。実際の時間は僅かだろうが永遠にも思える重い沈黙が続いた後、美しい瞳がこちらを向いた。

 

「今のところはその対応で良いと思います。これまで本意で無い事ばかりされてきたのでしょう? 記憶が戻った場合、今まで辛かったネオさんとしての記憶がそのフラガ氏の記憶に押し流されて消えてしまう……正確には脳の深くに封印される可能性が高いんです。今と反転する感じでしょうね。それでもお望みなら戻せますけど、いかがなさいますか?」

 

 思わぬ申し出に考えるより先に気づけば首を振っていた。やっと大佐はあの子達と自分の道を選ぶ事が出来るようになったところだ。私のエゴでネオ・ロアノークを消し去ってしまう事はどうしても出来なかった。向かいの桜色の目が柔らかく笑って口を開いた。

 

「分かりました。本当は私もお勧めしたくなかったので良かったです。洗脳と教育は紙一重なんて言葉もあるぐらいですからね。自分から取り戻してもらわないと、『貴方はムウ・ラ・フラガである』という押しつけになりかねないですもの。ステラちゃん達の治療の際に聞き取り調査して経過観察しておきます。改めてこれからよろしくお願いいたしますね。絶対に助けますので。私自身の償いの為に」

 

 最後の言葉が気になるがそれほど信頼が築けていない今聞くのは気が引けてしまう。強い意志を宿した瞳に少し気圧されてしまいながらも差し出された手をおずおずと握ると、しっかりと力が返ってきた。

 

 

 

 

「アスランさん、ステラは無事ですか!?」

 

 あの船が無事に来てからステラが連れて行かれて、アスランさんも艦長室に行ったらしいとルナから聞いたので前で出待ちしてたらやっと出てきた。擦り傷一つ無い事に安心して一番気がかりなステラの容体を訊ねると、さっきまで真面目な顔で見ていた緊急用らしい赤い携帯を口角を上げて見せてきた。

 

「治療は無事に終わったそうだ。姉様の腕はお前も知っているだろう? ほら、写真。お前にって」

 

 画面には寝心地良さそうなカプセル型のベッドに腰かけて顔色が良くなったステラが笑っている。安心して全身の力が抜けてしまい思わず座り込んでしまうと、慌てたように手が差し出された。掴んだ後は中々力が入れられなくてしばらく立ち上がれない。こんなに気が抜けたのは初めてだと思う。目の前の人が心配そうに眉を下げた顔をして焦った声で名前を呼んでくるから大丈夫だと返すとホッと肩が降ろされた。いつまでもこのままだといけないから力を込めて立つ。手を離してそのまま深く深く頭を下げた。

 

「本当にありがとうございました。この恩は必ず返しますから。俺にできることがあれば何でも」

 

「そんな大げさにしないでくれ。俺は姉様のためにやっただけだ。それよりも今後の事なんだが」

 

 戦艦の拿捕なんて大仕事だったに決まってるのに大した事でもないように言ってくる人に驚く暇もなく話された今後の予定を聞く。

 

 フィルさんの言うとおりステラ達はしっかりとした治療が必要だろうし、一回離れるのは納得できる。ステラとしばらく離れてしまうのは寂しいけれど元気に生きていてくれるならそれだけで充分だ。

 

 改めてお礼がしたくてもう一回頭を下げるともう良いと嗜められた。いつか絶対に恩返しすることを心に決めて一人頷いていると、呆れたような撫然としたような声でラーナスさんが話しかけてきた。

 

「シン。そういう事だから、俺と姉さんがいない間のコイツ、本当にマジで頼むな? 飯も休憩も抜きとか平気でやり出すから。渡したいものあるんで後でちょっと部屋寄らせてくれ。んで、アスラン」

 

 確かに体調管理してくれる身内が居なくなったらここぞとばかりに無茶しそうだ。これまでよりももっと注意しようと決意して視線を移すと釈然としない顔でラーナスさんを睨んでいたアスランさんは名前を呼ばれて不思議そうに首を傾げた。

 

「ステラちゃんの一件でバタバタしてたけどさ、シンとの約束忘れてないだろうな? 俺も状況はきっちり理解しておきたいし、離れる前にやってもらうぞ。アークエンジェルの奴等との話し合いの報告会」

 

 言い出した俺が忘れていた事を指摘され、ハッとなる。目線の先でアスランさんは覚悟を決めた顔で静かに深く頷いた。

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