サジタリウス。
戦後のプラントで創設されたザフトと異なる指揮系統にある軍事組織だ。先の大戦のパトリック・ザラのようにコーディネーターへの害が大きい行動をとるような為政者に対しては粛清組織と化す、監視機関のような存在だと聞いた。
何故パトリック・ザラの息子である自分にスカウトを送ってきた? 戦火を拡大させた父を憎んでいる人も居るだろう? 疑問をぶつけると、電話先で姉が困ったように口を開いた。
『…… そっか。プラントに帰るの久々だし、できた発端がパトリック様だもんね。オーブに詳しい情報は流せないし、仕方ないか。
よく聞いて。あの組織は、少なくともトップの人は、貴方のお父上個人に悪い感情を抱いていない。 構成員も完全なる中立派、もしくは無党派の人が多い。元ザラ派でパトリック様個人と親交がある、貴方の知り合いも居るわ。書状はメールで送るから、気になるならスカウト理由聞くだけでも会ってみたら?』
じゃあね、と唐突に電話が切れる。
頼み事をきいてもらえるのは安心だが、検討事項が増えた。
構成員の詳細は個人情報保護の観点から知らされないとあり、政治思想についての言及も無かった筈だ。
代表は公に知られているそうだが、情報はオーブで目にできなかった。
優秀とはいえプラント一市民にすぎない彼女が構成員の情報まで知っているということは、親しい人間が構成員なのか?
尋ねる間もなく切れたものを少し見つめると、メールが来た。
食事を食べるように、との短い文章とともに添付ファイルが一つ。
パソコンで同じアカウントに入り、ファイルを開く。
宛先欄には電話の通り俺の名前があった。続いて、どうか力を貸してほしい、是非に関わらず話をしたいので一度会ってほしいという旨が流麗な文字で描かれていた。パソコンでの文書作成が普及したこの時代に、手書きとは珍しい。興味深いと思いながらスクロールして差出人を見る。 驚きで、思考が止まった。同時に、姉がトップは憎んでいない、と言った理由も朧げながら理解する。
サジタリウス代表 シモン・フェデラー
血のバレンタイン以前から父と交流があり、同じユニウス遺族でもある人物だった。
二度、会った事がある。一度は母上のご存命時に父上との会合の為に屋敷に来られた時。二度目は、血のバレンタイン後の遺族式典で、あの人が妻子を亡くしたばかりの時に。
確か、フリーダムとジャスティスの完成と同時に国防委員を自ら辞職されたと聞いている。
あの人は、核を嫌悪していた。当たり前だ。誰が自分の家族を殺した兵器を好きになれるものか。
俺のせいで死んだニコルの父上の願いがあったからこそ、核を搭載したジャスティスに乗ることを決めた。彼の戦争を終わらせたい願いが本物で、その為だけに造られたと分かったから。あの悲痛な願いを聞いていなければ、母上を奪ったものを動力にしたMSなんか乗りたくなかっただろう。
いくら父と親しくし、個人的に嫌ってはいなくても、父がジェネシスを作り、それを撃った行動は許し難いものの筈だ。
今、父をどう思っているのだろうか。俺なんかを自らの組織に呼ぶ意味が、より分からない。強いて言うなら、下手な事をしないかの監視だろうか。
返答に関わらず会いたい、と書かれていた。どちらにせよ、連絡しない道は無さそうだ。今は返答すら決まっていないが。
名前の下にあった電話番号を打ち込み、ボタンを押した。
「もしもし、お時間よろしいでしょうか? 私、アスラン・ザラと申します。いただいた招待状の件で、シモン・フェデラー様にアポイントメントを取りたいのですが……」
『アスラン君、よくかけて来てくれた! 久しぶりだな。君をプラントの墓地で見たと噂で聞きザラ邸に便りを出したが、5日待たずに連絡が来るとは。アポイントメントなら…… 急ですまないが、明日の15時はどうだろうか?』
本人が出るとは思わなかったため少し驚いたが、返事を返す。
「問題ありません。私こそ急な連絡となってしまい、申し訳ありません。どちらに伺えばよろしいですか?」
『すまない、教えられないのだ。君の居場所は分かっているから、少し早いが13時に迎えをよこそう。君も良く知る者だから、安心してくれたまえ。では、明日を楽しみにしている』
「分かりました。お手数をおかけしてしまい、すいません。ありがとうございます」
電話を置いてから、軽く食事を済ます。
書状送付のお礼と明日会うことになった事を姉にメールすると、明後日に面接が決まった、と報告が返って来た。大丈夫だろうと思ってはいたが、進行が早い。
何はともあれ、明日の昼から忙しくなりそうだ。