ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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翳りゆく光
信頼と疑心


「全員のスケジュール空くのはここからだな。休憩時間がそんなになくて悪いけど決めていいか? お前が良いなら会議室とって全員に連絡する」

 

 随分と忙しないが、事情は分かっているし、話す内容は決まっている。連合が来ない限りは特別な予定は無いので頷こうとしてハッとした。

 キラ達との会談内容を話すにあたって、ラクス暗殺の黒幕だと議長が疑われてしまっている理由を説明するためにミーアの事は避けて通れない。箝口令は敷く事は決定事項だが、それでも勝手に話すとミーア本人が困る可能性が頭に浮かぶ。理由は上手く言葉にできないが彼女が悲しむ姿を想像するだけで凄く嫌な気分になる。せめて事前に話は通しておきたいと考えて、電話する事を思い立つ。

 少し待ってもらうようラーナスに頼むと、頭使って小腹空いたからちょっと食べてくると出ていった。内容が内容なので部屋の外で話すわけにはいかなかったから助かる。

 毎日来るメールには返しているが、電話をかけるのは最後に会ったあの日以来じゃないだろうか。久しぶりに声が聞けるな、なんて思いながら登録された番号を鳴らした。

 

 

 

「出立は明日だから、それまでのスケジュールはこんな感じでどうかしら? しんどかったり他にやりたいことがあったら遠慮しないで教えてね」

 

「ちゃんと休憩時間も取ってくれてるし大丈夫! たくさんの人に私の歌を聞いてもらえるだけでとっても嬉しいもの! それに、ボランティアの時とかにね、お礼言ってもらえると疲れなんてどこかに行っちゃうわ。だから心配しないで? 本当ありがとう、フォリィ!」

 

 透き通った雪の降る日の空みたいに奇麗な髪をした頼れる友達は、お礼を言うと小さく口元を崩した。

 前にアスランにも話した通り、最初はぎこちなかったけどたくさんお話ししたから今ではすっかり気心の知れた大事な友達だ。口数の多い方ではないけど嫌では無いし、表情には割と出るからちゃんと見てたら楽しい。姉弟同然に育ったと聞いてそりゃそうでしょうねとなったくらいに、アスランと似ている。その事に気づいた時に伝えたら小さく鼻歌を歌ってて、とっても可愛かった。そんな事を思い出しながら、せっかくの休憩時間だし携帯をつつく。

 連絡先を交換してからすぐ最初にアスランにメールを送った時は忙しいだろうし返事なんて返ってこないかと思ってたけど、短い文面でもこっちのなんてことない話への感想と元気だったとか今日も変わりなかったとか簡単な近況がちゃんと律儀に返ってきたから嬉しくて本当に椅子から飛び上がっちゃった。それからはこうやってやり取りできるのが嬉しくて楽しくてすっかり日課になっている。いつも最後につけてる一言はまだ返してもらった事ない。

 でも、詳しいことは軍事機密とかもあるのか書かれてないけれど昨日夜遅くにわざわざ、良いことがあったって教えてくれた。アスランが喜ぶと私まで幸せになる。今は戦争なんていう悲しい状態に世界はなっているけど、その中でも良いことがあって、そして何よりそれを私に教えてくれたのが思い出すだけで顔が緩みきっちゃうぐらいに嬉しい。

 今日はなんて送ろうかなぁ? 最初の一文字を考えるのにもワクワクしてドキドキする。レイやギルも大事な人だけど、こんなにはならない。大事な気持ちを届けてくれる携帯を撫でると震えて大好きな人の名前を映し出してくれた。びっくりして立ち上がってしまうと、こちらを向いたフォリィが笑った。

 

「もしかして、アスランから電話? 珍しい、あの子がメールじゃなくてかけてくるなんて……ちょっと外の様子確認してくるわね」

 

 気を遣ったのか出ていった友達を見送って、突然のことに緊張しちゃって携帯よりも震える手でボタンを押した。

 

「もしもし、アスラン?」

『あぁ。悪い、今、時間大丈夫か?』

「休憩中だから平気よ。気にしないで。どうしたの?」

『……周りに人は?』

 

 真剣な声でそんな事を聞いてくるって事はきっとラクス様に関係ある話だ。ギルからは何も聞いてないけど、何かあったんだろうか。誰もいないのは分かってるけど自然と声を潜めてしまう。声が強張らないように気を配りながら口をゆっくり動かした。

 

「大丈夫。今、部屋に1人よ」

『実は、ミネルバのクルーの何名かに君の事を話さなくてはいけなくなって……その、構わないだろうか?』

 

 電話にでるまでとは違う意味での緊張に包まれながら聞いた言葉は、思ってたより呆気ないものだった。念のために確認する。

 

「えーっと、私の事を話すから、大丈夫か聞きにかけてきてくれたの?」

『あぁ。その、箝口令はしいて絶対に言わせないようにはするし信頼できる人達なんだが君が嫌なら』

 

 こちらの気分を悪くしたと思ったのか弁明するようにスピーカー越しの声が早口になって慌てている。きっと向こうで本人は大真面目だ。そんなにならなくってもいいのに。

 

「アスランが信頼する人達なんでしょう? それなら私も信じるわ。前にお話した時、良い人達だったのもあるけど。だから、そんなに気にしないで? でも、教えてくれてありがとう! ギルには私から話しておくわ。私達には甘いから許してもらえるし!」

『あ、うん、助かる……え? 良いのか? 本当に? だって君の』

 

 呆気にとられたのか気の抜けた可愛らしい声で返事した後、我に返ったみたいに信じられないと言わんばかりの声音で確認してきた。こんなに可愛い反応が聞けるなんてせっかくのアスランとの電話だし録音しとけば良かったなぁ、なんてちょっぴり残念に思いながらも、もう一回念押ししておく。

 

「良いの! アスランのする事だったら何か大切な理由があるんでしょ? 話せないなら言わなくても良いから。それに、もしも理由がなくっても頼ってもらえたみたいで嬉しいし! あ、お礼ならいらないからね、こうやって電話してくれただけでもう充分! 言っておくけど、アスランだからここまで信じてるのよ?」

 

『どうしてそこまで……?』

 

 小さい子供がおそるおそる質問するみたいに、不思議そうで少し戸惑った声が聞こえる。前から思ってた事だけど、やっぱりアスランったら慣れてない。見返りもなしによくする理由なんて一つだけなのに。どう言おうか悩んでいると、控えめなノックの音を耳が拾う。

 そろそろ時間も迫ってるみたい。せっかくだから最後の言葉はメールの時と同じものを伝えようと決めて、自然と口の端が上がる。どうか伝わるようにと想いをありったけ声にのせた。

 

「私、いっつも書いてるじゃない。大好きよ、アスラン! じゃあ、またね!」

 

 笑って電話を切る。最後に聞こえたのは戸惑って声にもなってない、とっても可愛らしい音だった。

 

 

 

 

「んー、そろそろ終わったか?」

 

 軽くつまめるものを食堂で食べて、美味かったのでアスランに食わせる用も包んでもらってから運良く貸切状態の休憩室でスポドリ片手に雑誌を斜め読みしつつ共用のテレビから流れるニュースを聞き流してダラダラと時間を潰す。携帯弄ろうにも充電が思ったより心許ない。急いで出てきたから充電器も部屋に置き忘れてきた。

 だって、俺がいたら話せないな、悪いけどちょっと出てってくれないかなぁ……と口からは出ていないだけで顔や目が雄弁に語っていた。

 活動再開してからの変化から薄々勘付いてはいたし、もう少ししたら結果聞ける話し合いに出発する前にがっつり自白同然の内容を口走ってたのも重なって何の要件で誰に電話かけようと取り出してたかは分かりきってるって言うのに、まだ俺が気づいてないと思ってるらしい。まぁ、頑張って誤魔化そうとするアスランなんて滅多に見れるものではないから不快どころかむしろ少し面白い。

 アイツの表情は慣れたら詳細に心情が読み取りやすい事この上ないけど、ここまで読み取るのはそう簡単じゃないから他の奴等にバレる心配はない。シンが精度を上げてきてるけど、アイツももうすぐこの件については知る事になる。今歌姫の傍にいる姉ちゃんは言わずもがな、話題にした事は無いけど姉さんあたりも分かってるに決まっている。

 うちにラクス・クライン信者がいなくて良かったと心底思う。今の歌姫といる時のアスランは表情が柔らかいし楽しそうだから俺は前よりも歓迎してる。姉さんは曲が仕事にも使えてありがたいとは言ってたけど歌い手本人には興味薄かったし、姉ちゃんは寧ろ今の方が好きみたいだし。と言うかあの人、前のは確か……と頭を2年前に飛ばしかけた時だった。

 

「あれ、ラーナスさん。珍しいですね、あなたがそんな風にしてるの。知ってました? 食ってすぐだらけてると太ってそのうち牛になるんですよ」

 

 通りかかったシンが揶揄うように注意してくる。コイツもステラの事が落ち着いたからか、割と言動に余裕が出てきた。戦闘面はさておき、いよいよ日常生活での手のかかるヤツはアスランがダントツでトップなんじゃなかろうか。集中すると寝食を抜かす悪癖は昔から苦労してる。

 そこまで考えてはたと思い出す。目の前の後輩に渡す物があった。せっかくだからと伸ばしていた足腰を直して手招きしてからポケットに突っ込んでいた物を手渡した。

 

「なんです? え、この携帯って、まさか……」

 

「アスランの見た事あるんだったっけか。そ。俺、姉さん、姉ちゃん、アスランは必ず最速で繋がる緊急用携帯。それ、お前用な。万が一の不測の事態起きたら短縮の4番かけて。アスラン以外の全員が会話できるようになってるから」

 

 アスランの赤よりも少し濃い、紅色を渡すと丸くなった目が忙しなく開け閉めして見つめている。少し沈黙が満ちてから震える声で確認された。

 

「良いんですか、こんな大事なもの」

 

「お前ならイタズラに使わないだろ? むしろ任せて悪い。さっき言った番号、出来れば鳴らないことを祈ってるけど、鳴らすべきだと思ったら躊躇せずに鳴らしてくれ。もし些細な事だったとしても誰も怒ったり責めたりしないし、寧ろ鳴らさなきゃ良くて祟られるからな」

 

 任せたぞと肩に置いた手に入る力を抑えながら真っ直ぐに目を見るとしっかりと頷かれた。これでミネルバを離れても安心だ。手を離して、この話はここだけなと笑いかけるとコクコク首が上下に振られた。深呼吸してから気分を切り替えようとしたのか、質問が一つ投げかけられる。

 

「そう言えば、アンタなんでこんな所いたんですか?」

「あー、好きな子と電話するのに邪魔だからって部屋追い出された」

 

 ちょっとしたからかいと後押しを込めて、本人の口から直接言葉にされていないだけで嘘ではない事を答えると、呆気にとられたように再度瞬きがされた後、納得の声が向かいの口からこぼされる。

 

「あぁ、あのお二人仲良さそうでしたもんね。けど、恥ずかしくて追い出すとかあの人もするんですか、敵艦に乗りこむとか胆力の塊みたいな事するのに」

 

「それはそれ、これはこれだろ。そうだ、もう少ししたら報告会やると思うぞ。確定したらメールで送る」

 

「分かりました。ちなみにラーナスさんはアスランさんから内容について先に聞いてないんですか?」

 

「聞いてないよ。口が重そうだったからな。ただ、言いたい事言えずに喧嘩別れなんて最悪な結果だったならもっと落ち込んでてこんな風にお前やステラ達の事まで気にかける余裕は無かったと思うから、最悪ではない。けど良くはなさそう。嫌な話を何度もさせるほど趣味悪くないし。ま、あくまでも俺から見た感じだから話半分に聞いといてくれ」

 

 他の奴等は知らないが、少なくとも俺は人の嫌がる様子で酒が進むのはかなり相手が限定される。親しい奴相手ならむしろ逆だ。

 それはさておき、いつもなら小さい頃からの習慣も相まって、大抵のあった事を話してくれるアスランが今回は言いたくなさそうだった。内容は気になるけど、好きなやつから無理に聞き出すなんて流石にゴメン被るし、ネオさん達の件でそれどころじゃ無かったとかもあって今日までおあずけだった。そういう意味ではシンとの約束は本当に助かった。

 さっき話した通り、たぶん言うべき事や言いたい事は言えたはずだ。そうじゃなきゃ、あれを言うべきだったのに、あっちの方が良かったんじゃないか、これも言いたかったなんて反省と自己嫌悪に陥って周りが見えなくなってたはずだから。

 ああなったアスランは本当に手がかかる。この言い方が適切かは分からないけど、耳には入るが頭で飲み込めていない感じで中々言葉が届かなくなる。だからって放っておいたらいじけて拗ねるし。今は慢性的にちょっとだけ寄っているけど、そこまで酷くなる前に引き戻せている。シン達がみてくれているのもあって船を離れてる間は持つだろう。

 きっと先の大戦におけるヤキンの結末に加えて今回の発端となったユニウスセブン落としやがった自己満野郎共を引きずってるんだろうなとは想像つくけど、話題に出せる訳がない。自分の思考も嫌な方向へ向かっていきそうになっている事に気づき、意識を切り替えようと上の時計に目をやるとそこそこ時間が経っている事に気づく。

 流石に電話も終わっているはずだし、まだ余裕あるけど会議室の確認もしたいからそろそろ部屋に戻った方が良いな。シンに一声かけて立ち上がった。

 

 部屋に戻ると、アスランがパソコンで何やら操作していた。きっと話す内容を書き出しているんだろう。気になる画面を見ないように注意しながら声をかけると、顔を上げて質問を飛ばしてきた。

 

「お帰り。話す内容も変更加える必要無くなったから、さっき言った時間で頼む。そう言えば、大佐……いや、ネオさん達はどうするんだ?」

 

 確かに、姉さんはステラ達の治療のために向こうに籠りきりだし、会議中、あの人達と関係の深いミネルバクルーは全員連絡に出るのが難しくなる。可能性は低いが、合流してすぐ内談は変に疑われることも考えられる。いっそのこと呼んでしまうか? 思いついて相談すると少しだけ考えて頷かれた。

 

「あの人達も口は堅いから信頼できる。言い方は悪いが、借りをつくっているから下手にこっちの信頼を裏切るような真似はしないだろうし、声かけてもらえるか? そうだ、せっかくだからあの三機をどうするかも報告会終わったら決めた方が良いと思うんだが」

 

 ついでのように重要事項もサラリと言われる。艦長に追加でメール送らないと。

 出来たら兵装ポッドを積んで広範囲をカバーできるカオスはレイにやりたいな。シンにはインパルスがあるし、ルナマリアには砲撃装備の多いアビスよりも近距離できるガイアの方が向いてる。フライトユニット無いのは痛いけど、ザクに付いてるのをそのまま移せるか? アスランに聞いてみると、少し輝いた目で図面が渡され、わずかに浮き足だった口調で説明される。

 

「軽量なガイアだと重量を支えるのはザクにつけた物で問題ないんだが、今のままだと出力の違いで地上時と移動速度に差があって操作が不便だろうから、これは速度重視してブースターつけた場合の改造案。エイブス班長とかにも見せて問題無いってお墨付きもらった。そんなに手間じゃ無いそうだし、どうだ?」

 

「うん、良いと思う。ちなみにお前、これいつ描いた?」

 

 紙のよれ具合や変色加減からガイア奪取して直ぐとかじゃない。奪い返す事になるなんて考えてなかっただろうしいつの間にだと不思議に思って聞けばキョトンと返される。

 

「ザクの改造前。コンペ行うって言ってただろ、納期の都合で流れたけど」

 

 言われて記憶を辿ると、シンの件でアスランに事情聴取する前、マウス片手に何やら夢中になってた光景が出てきた。あの時かぁ……

 コレ、ザクに下手に着けてたらオーバースペック過ぎて不味かったんじゃないか? まぁ、シミュレーターで慣熟訓練はやるから問題ないか。

 当たり前だが、セカンドシリーズとザクでは性能差がありすぎる。前の機体と同じ感覚でペダル踏み込んだら予想以上にスピード出て突っ込み過ぎるとか機体を乗り換える時の要注意事項だ。コレのデータも突っ込んでおいて慣れてもらおう。その時間に改造進めてもらうか。本人達の許可も今日取った方がいいな。

 考えをまとめて立ち上がる。そろそろ話し合いの時間が迫っていた。ここまでしないとコイツが話してくれないなんてよっぽど嫌なんだろう。罪悪感はあるが、コレに関しては流石に言葉にしてもらわないと何も分からない。割りきって急かすと覚悟をきめた顔で頷きが返ってきた。

 

 

 

 

「一度まとめさせてちょうだい。議長が本物のラクス・クラインの暗殺を指示したと疑っているから彼等はあんな真似をしたって言うの? 仮に本当だったら確かに大問題だけれど、証拠はないんでしょう?」

 

「物証はなく、状況証拠のみ。それもザフトの最新鋭機体が使われていたというだけです。根拠としてはあまりにも弱すぎる。艦長ならご存知でしょうが、議長以外でも権力ある人物なら、最新鋭の機体はいくらでも好きに動かせます。第一、議長にはこんな危険な橋を渡るメリットが無さすぎる。先程も申し上げた通り、短絡的だと指摘はしておきました」

 

「個人的には脱出もせずに自爆したって言うのが気になる。それも話から察するに、フリーダムに近づきすらせずだろ?」

 

 何か被害が出ていたらキラもあの場で言うはずだから、そうだろう。肯定して説明を求めると、サラリと返された。

 

「雇われの暗殺者とかだったら、アイツら自分の命大事だから絶対に脱出するんだよ。んで、恨みがあるやつは外に出て白兵戦でどうにか殺そうとしてくる。雇い主の機密保持を優先するなら自爆はアリだけど、普通大抵は死ぬか運が良くて大怪我負うから、よっぽどの訳アリで恩があるとかじゃ無い限り普通のやつならしないし、やるにしても俺だったらせめてフリーダムに近づいてからやるな。ラクス・クラインの暗殺が果たせない以上、相手の最大戦力のフリーダムには損害与えてやる。ただ何もせず自爆したなんてただ襲撃があった事実だけが残る。あるのを知っていたかはさておき、眠れる獅子を起こしたようなものだ。大迷惑にもほどがある。モビルスーツまで用意してるのにそんな最後の行動は一貫性が無い。まるで目的は別にあるみたいじゃないか?」

 

 目的は別だなんて思いもよらなかった。ラクスが暗殺されかけたなんて聞いたから目的はラクスの命だと思い込んでいた。考えていると、シンが記憶を辿っているように目線を遠くにやって口を開いた。

 

「好きだった小説で、こんな話があるんです。

 とある場所でボロボロになった車ごと年月の経った死体が発見された。誰もが犯人は死体を隠すためにこんな事をしたと思った。でも犯人は交通事故の傷ができた車をボロボロにして傷を分からなくして車ごと事故を無かったことにしたかったから、年月が経った時点で犯人の目的は果たされていたっていう話。

 えっと、その、もしかしたら、ラクスさんの暗殺の成果より、犯人達には、さっきラーナスさんの言ってた襲撃されたって事実を残す方が目的だったんじゃないですか? すいません、理由は思いつかないんですけど」

 

「いや、理由ならなんとなく分かる。

 その、だな……アンタ達に返す新型を奪うよう命令を受けた時に、ジブリール、前にいた所のクソ上司にこう言われたんだ。『成功するに越した事は無いが失敗しても大きな争いの火種にはなる』ってな。

 今思えばアイツ、ステラ達の命なんてやっぱりどうでも良かったんだろう、あの人間の屑が……」

 

 シンの話を受けて所在なさげに口澱んだ後、ネオさんが心底嫌そうな顔で教えてくれる。恨み節が続きそうになるのをバジルールさんが制止して説教に移ったのを眺めながら情報を整理して考えを組み立てていく。

 高確率で暗殺が主目的ではない。つまり、ラクスの生死は重要視していない。シンの考えが正解ならば、彼等の目的は襲撃を行った時点で果たされていた。なんの切っ掛けが作られた?

 キラ達との話し合いをもう一度頭の中で再生して気づく。キラ達は襲撃があったからこそフリーダムとアークエンジェルを動かした。つまり、彼等を表舞台に引きずりあげる楔になった。

 狙いはそれか? なら、そこから絞り込める。こんな事になって誰に得がある? 

 幼い頃、長い朱い髪がサラサラしていてお気に入りだった先生の言葉が浮かび上がる。

 人はみんな、自分を幸せにするために生きている。だから自分にメリットが無ければ動かない。お金や地位なんて分かりやすいステータスを欲しがる人もいる。誰か大切な人の幸せなんていうステキな人もいる。どうせなら、きれいなものを欲しがれる人になってね、なんて優しい想い出を大切にしまって脳を再び回す。

 こんな形でラクスを表舞台に出して利益を得るのは一体誰だ? やはり議長は真っ先に除外される。ミーアの存在がアキレス腱になるから、やるメリットは逆立ちしたって見当たらない。こんな選択をあの人が行うとは考えられない。となると、相手は議長に損害を与えたい人物か? ザラ家関係者で最新鋭機を自由にできる力のある人は残っていない。他家でとなると、にわかには信じ難いが、残った可能性はこれしか無い。そして物証は何も無いから、これもあくまで仮説だ。

 

「クライン派が、ラクスを表舞台に出させようとした?」

 

「自作自演という事ですか? それにしては最新機まで利用して随分と大がかりですね。大切なラクス・クラインが傷つくのを彼等は厭うのでは?」

 

「自作自演っつーか、強いていうなら内乱? クライン派と言っても、あくまで穏健派のトップがシーゲル・クラインだったからそう呼ばれているだけだよ。あの人個人を慕っている人も中にはいるけど利害が一致したからあちら側についた人間の方が多いみたいだったし。後、あまり気分いい話じゃ無いけど、最悪死んでも良かったんだろ、死人ほど担ぎやすい御輿は無いから」

 

 議長に疑いが向けられた事を知ったからか、不満そうな顔をしていたレイはラーナスが顔を顰めながら答えた最後の言葉に目を見開いて黙り込んだ。顔の険しさを増しながら話が続けられる。

 

「死んだラクスサマはこう言っていた、なんて自分がやりたい事に他人を利用するには絶好の言い訳が手に入るからな。

 そうでなくても、プラントの危機に帰ってこない、せっかくあの時支援したのに何の見返りもないなんて腹が立つ気持ちも分からんでも無いし。

 とりあえずその線で怪しい所調べさせてみるけど、仮に見つかってもアークエンジェルの奴ら、下手に疑ってるせいで禁止カード使ってくる可能性があるんだよ」

 

 禁止カード? と首を傾げると、周囲の面々に怒らないでくださいねと前置きをして、呆れきった声音で告げられた。

 

「その人を議長が操っていた可能性は無いのですか、ってヤツ。黒幕探しはこういうところが厄介で面倒なんだ。悪魔の証明を誰も試したがらない理由」

 

 聞き慣れない言葉に首を傾げると、同じく知らなかったらしいルナマリアに問われたシンが説明してくれた。

 

「悪魔がいるの証明は悪魔を連れてきたら良い。でも居ないってなると宇宙の隅々まで探して、何処にも居ない事を確かめに行かなきゃいけない。宇宙に端なんか無いから無理だろ? だから、無いの証明は出来ないって事の例えだよ」

 

「だが、シン。その可能性があると言うならまるであちら側が議長を犯人にしたいように思えてしまうんだが」

 

「誰だって自分に良くしてくれると思っていた相手が実は裏切っていたなんて信じたくないからな。否定したくなる気持ちは理解出来なくても無いが、今は彼等も突然の事に混乱しているだけで落ち着いて考えれば、少なくとも議長が指示したなんて事はあり得ないと分かってくれるはずだ。流石にそこまで彼等も馬鹿じゃない」

 

 同期同士の会話に意見を挟んでしまうと、レイは渋々頷いてくれる。ルナマリアがハッとした顔で聞いてきた。

 

「それよりも、今のラクス様が本物じゃないっていつからですか? 私達がお会いした時には、もう?」

 

「俺はその頃プラントを離れていたから実際は知らないんだが、休養期間を挟んで復帰したんだろう? その復帰後からずっとだよ。よく頑張ってくれている。信頼できるかどうかも分からない大勢に知られたら彼女の身に何があるか分からない。この部屋を出たら誰にも言うな。ここにいる全員、お願いします」

 

 全員揃って頷いてくれたため、安堵して息をつく。こちらを向いたまま、戸惑ったようにメイリンが口を開いた。

 

「でも、なんだか信じられません。みんなを励ましてくれてる今のラクス様が偽者で、本物のラクス様はアークエンジェルと一緒にこんな事をしているなんて……」

 

 確かに、この状況だとどちらが平和の歌姫か分からなくなる。なんと声をかけようか迷っていると、レイが静かに力強く問いを投げた。

 

「本物ならば為すこと全てが正しくて許されるのか。どんなに善い事をしても存在が偽りというだけで悪と言われてしまうのか? なぜ?」

 

 問われた先、誰も答えられずに黙りこくってしまえば部屋が静かになる。艦長が小さくため息をおとして口を開いた。

 

「今の彼女については、話すだけで余計な混乱をもたらすだけよ。アスランも言った通り、この会が終わったら忘れて過ごしなさい。

 それより、最後になってしまったけれど貴方を行かせた最大の理由である戦場への介入理由とフリーダムの修復経緯については本当なの? 前者はアスハ代表の意向で、後者が穏健派閥のクライン派の提案だなんて」

 

 残念ながら、と頷くとやはりシンが怒り出す。

 

「そんな事して平和になるって本気で思ってるんですか……あんだけ綺麗事言っといて!」

 

「落ち着けよ、坊主。なまじ前の大戦の時に武力行使して上手く行っちまったからなぁ。最初からこうすりゃ良いって味をしめちまったか?」

 

「こちらも地球軍も戦後処理に忙しく、彼等とコンタクトを取る暇も無かったですものね……

 態々行方知らずの子供達を探し出して今回は特例中の特例で許すけど本来はいけないことよ、って教えるなんてあの忙しい中じゃ後回しになって忘れ去られて当然でしょう。オーブも復興で余裕なんか有るわけ無いし、代表の行動を態々咎めるなんて誰もしたくなかったでしょうしね」

 

 誰もこんな事態が訪れるだなんて思ってなかったから当時の人達を責めても仕方がない。俺も手一杯だったとはいえ、言っておけば良かった。今更ながらの後悔を抱きつつ頷くと、もちろん貴方のせいでも無いわよと真剣な声で言葉が付け足される。驚いて顔をあげると、柔らかく微笑まれた。

 

「貴方一人の責任じゃ無いわ。少なくともこんな手段を選んだのは彼等なんだから、あちら側が負うべきものよ。

 アスラン、辛い話だったでしょうのに、こうして伝えてくれて本当にありがたいわ。知りたい事は全て分かったからお開きにしましょう。

 全員、箝口令は今後常時厳守すること。特別に今日だけは訓練規定も艦長権限で免除するわ、アスランは禁止ね。貴方、昨日の夜から働きっぱなしでしょう? みんな衝撃的な事を聞いて驚いたでしょうからゆっくり休んでちょうだい。これは命令よ。

 あぁ、悪いんだけど、ロアノークさん達とレイ、ルナマリアは少し残ってくれる?」

 

 態々俺だけ言い換えられた事に対して不思議に思ったのが表情に出ていたのか、苦笑される。ラーナスやシンも艦長の言葉に深く頷いているため、有り難く従っておく。残った彼等を後にして、部屋に帰る事にした。

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