「色々聞いた直後にわざわざすまないわね。あの三機について話がしておきたくて。ロアノークさん達は出立が近いでしょう? アスランから進言があったの。レイ、ルナマリア。貴方達、カオスとガイアに乗り換えるのは嫌かしら?」
申し訳なさそうに軽く頭を下げた艦長からの提案にルナマリアと揃ってまさかと返す。
言うまでもないがセカンドシリーズはザクと比較して機動性や防御力等、基本性能が何段階も上がる。
それに示されたカオスには気になっている武装が積まれていた。ラウが最期の戦いで使っていたドラグーンに連なる兵装ポッド。ラーナスもジェミニと共にミネルバを離れるので、個人的な感情を差し引いた上でも戦術的な意味でアレは後方を幅広く守るために是非とも欲しかった。
一人でもシン達の後ろを守れそうな事に安堵していると、傍らの同期が顎に手をやって言葉をこぼした。
「でも、良いんですか? 私達だけで使ってしまって。他にも必要な人はいるんじゃ……」
「議長に確認は取ったわ。他も戦力は足りている。ミネルバのおかげで取り返せたのだし、好きにしてくれて構わないそうよ。むしろ少数精鋭だから使ってくれると有難いってね。そういう訳だから気にしないでちょうだい。ありがとう」
ホッとしたようにルナマリアの上がっていた肩が戻る。こちらの話を聞いていたロアノークさんが快く頷いた。
「分かった。そちらの船に返すのは元々そうする予定だったしな。ただ……いったいどの口が言うんだと、我ながら虫が良すぎる発言なのは分かっているんだが、できればそちらのモビルスーツを一機、こちらで俺に乗らせてもらえないか?」
横のバジルールさんが咎めるように大佐! と呼ぶのを制して、ゆっくりと真剣な声で確認がとられる。
「そちらの船の護衛の為、ですか?」
「あぁ。俺が乗ってたウィンダムは以前インド洋の基地を出る際、せめてもの詫び代として置いてきてしまった。
ジェミニのパイロットもしっかりしたヤツだが、俺から見たらハタチになったばかりなんてまだガキと変わらない。また子供にだけ危険な役目を負わせる奴にはこれ以上なりたくなくてね。
これは俺のワガママだ。もちろんザクで構わない」
考え込んだ後、声を潜めて艦長が口を開く。
「実は通信で話した折にギルバートがこぼしていたのよ。
輸送班がセカンドシリーズはまだ来ないのかとやけに急かしてくる。解析は何も技術局でしか出来ない訳じゃない。危険な仕掛けなどの問題がない事はこちらで分かったし、ザフトにさえ取り戻してしまえばいつでも出来るわ。もしかして何か事情があるのか、誰か渡したいパイロットがいるのかと聞いても返事ははっきりしない。なにか怪しい、ってね。
それと、さっき聞いたアスランの予測。クライン派の中には現体制に不満を持つ者達がいるだろうっていう。
仮にもかつての仲間だった彼の手前はっきりと言葉にするのは躊躇われたのだけれど、フリーダムを修復した事から今後もアークエンジェルにいる者達が力の利用を躊躇うとは考えにくいのよ。これはあくまで可能性の話だけれど、その輸送班が過激なクライン派だと考えたら急がせてくる理由も見えてくるわ。
こちらが送った新型をラクス・クラインに渡す気かもしれない。まさかと笑い飛ばして下手にこの予想が当たってしまった場合、取り返しがつかない。だけど、ミネルバのモビルスーツ積載数もギリギリよ。ちょうどアビスは水中特化で地球向きだし、そちらと併せて全機使ってしまえば向こうも口出しは出来ない。
重ね重ね言うけど、議長に許可はとったしね。そう言う訳だからロアノークさん、アビスをお任せします。こちらの都合よ、貴方は気にしないでください」
肩に手を置かれたロアノークさんと、その横のバジルールさんがそろって頭を床につくほど深く深く下げる。そろそろ出立しないと見つかる可能性が高くなるわよと困ったような顔をした艦長が言うと、もう一度深く頭を下げて退出していった。見送った艦長がこちらに向き直る。
「話は以上になるわ、わざわざありがとうね。今日はもうゆっくり休んでちょうだい。ちなみに、彼等の見送りはもうすぐよ。明日からだけど、シミュレーターにデータは既に入力済みのため二人は慣熟訓練を行うように。ルナマリア、アスランが貴女のザクのフライトユニットを改良してガイアに移植するつもりだそうよ。構わないかしら?」
もちろんです、と頷いた彼女と揃って部屋を後にして、自室まで並んで歩く。せっかく新しい機体になるというのに、いつもならテンション高くアレコレと話してくるはずのルナマリアが今は何故だか黙りこくっている。彼女といる時にこんなにも沈黙が続くのは初めてだ。何か気がかりな事でもあるのだろうか。心配になって尋ねてみる。
「ルナマリア。何か、気がかりな事でもあるのか?」
「え、あぁ、ちょっと、ね……あのさ、レイ。連合兵って、ステラ達みたいな子、多いのかな。その……あんな風に何してるかも分からずに戦っているような子達」
「……いや。シンから聞きだしたが、あの場では大勢殺されていたそうだ。だから生き残っている人間はほとんど居ないはずだ」
動揺して体調を崩してしまい最後まで遂行できなかった任務を思い出す。どうしても気にかかり、渋っていたシンに教えてもらったが本当に非道い有様だったそうだ。自分達で何の選択も出来ないままに大人の都合で好き勝手に利用された命達にやりきれない想いを抱いていると、深いため息が耳を打つ。ここではないどこかを見ている目で言葉が吐き出された。
「私ね、あんなに可愛いステラのこと、自分と似つかない怖い別の生き物だろうって会うまでは思ってて。だから、最初医務室に姿を見に行った時、本当に驚いた。もしかしたら敵だと思ってたモノも本当はこんな風に分かり合えて仲良くなれたかもしれないんじゃないかって、そう思って……」
泣き出しそうな声が止まり、普段から丁寧に手入れされている事が窺える唇から血が出そうな程に噛み締められている。相手が自分と変わらない存在だと分かり、揺らいでいるのだろう。
いつだったかラウが話してくれた言葉が思い出された。
「なぁ、レイ。人が一番残酷になれるのはどんな時だと思う? 相手が憎い時、許せない時……うん、それも間違いではないさ。私? 私はね、自らの正しさを信じ切ってしまった時だと考える。そう、自分は絶対に正しいのだから何をしても構わないと思ってしまった時に人は信じられないような凶行に及べる。これは悪ではない、何故なら自分が正しく、相手が間違っているのだからと。全く、人の業はどこまでも果てがない」
そこまで思い出して思わず息をのんだ。
キラ・ヤマトやラクス・クラインも自分達が正しいと信じきっているからフリーダムを修復してしまったり、不必要な介入を行ったりしているのではないだろうか。己の行いが世間からどう見られるかの自覚もなく、悪であるわけがないと盲目なまま。どうかアスランのために忠告を聞き入れて目が覚めている事を願いながらも、この今は迷っている大切な仲間を立ち直らせる方が先決だ。自分にも言い聞かせながら口を開いた。
「たとえそうだとしても、話し合いの道を拒んだのはあちら側だ。今は構わないが、戦場では考えるな。そんな事をしていたらどうなるかは分かっているだろう?」
「分かってるわよ、ちゃんと切り替えるわ。そうしなきゃメイリンが危ないもの。ごめんね、厳しい事言わせちゃって」
こちらを気遣われたため気にするなと返しておく。せっかく助けられた彼等の見送りには行くとして、この後はどうしようか。考えていると、悪戯を目論むような顔で提案してきた。
「ワーカーホリック気味のアスランは禁止だったけど、私達はしなくていいって言われただけよね? せっかくだし、ステラ達の出発までだけでも少しだけ訓練先にやっておかない? もちろん、その後は艦長に言われた通り、ゆっくりするから」
少しだけなら良いだろう。頷くと、楽しそうに笑って手を引かれる。どうやらいつもの調子に戻ってくれたようだ。安心して息を吐いた。
「はい、了解しました。それじゃあ、機体の移動直後に出発で。いえいえ、今後ともよろしくお願いします」
部屋で準備を手伝っていると端末が鳴り、まとめ終えた荷物を持ったラーナスが笑って返して通信を切った。こちらを向いて内容を教えてくれる。
「ミネルバにはカオス、ガイアが積まれる。俺のジェミニと交換だな。パイロットはレイとルナマリア。ミネルバに積んだらパイロットが足りないからアビスはてっきり本部送りかと思ったけど、あっちでネオさんが乗るってさ。
じゃあ、ありがとな。片付け手伝ってくれて助かった。もう少しで船ごと出るけど、俺が居なくてもしっかりやれよ?」
「そうか。地球軍がいつ来るか分からないから、少しでも慣熟訓練の時間を多めにさせないとな……心配しなくても大丈夫だ。見送りには行く」
「はいはい、嬉しいけど無理はすんなよな。その後はゆっくりしとけ。どうせならせっかくの自由時間だしカノジョへのプレゼントの準備進めといたら? この前相談してくれたアレなら問題ないと思うからさ」
わしゃわしゃと頭を撫でられながら言われた提案に思考をまわす。
ミーアへのプレゼント。作ると言っただけであんなにも喜ばれたのは初めてだったのでお礼にと思いつく限りの護衛機能を搭載させようとすると何故か必死めいた表情でデチューンを頼まれた。渋々防衛機能にしぼった設計案を出したら、目の前のこいつが呆れたような顔をしていたのはまだ記憶に新しい。あれも彼女を護るのには充分心配ないだろうと考えて、せっかくだからエイブス班長に頼んでいたパーツを受け取って組み立てようかなと気分が弾み出すのを自覚する。
まずは見送りだと意識をもどせば待っていたように、先に乗り込んで準備しとくと笑って出て行った。扉が閉まった瞬間、間取りが変わったわけでもない部屋がどうしてか広く感じられた。
「ステラ、元気でね。絶対にまた会いに行くから!」
「うん、ありがと、シン……あのね、シン会いに来てくれたから、こんどはステラが会いに来る。やくそく、ね?」
ふわりと無邪気に笑われて見惚れていると申し訳なさそうにメイリンが出発のアナウンスをしてくる。我に返って慌てて叫んだ。
「楽しみにしてる! またね、ステラ!」
声が届いたのか、遠目に見えたやっと助けられた子が笑顔になったのを見て息をつく。これから治療を頑張らなきゃいけないのに辛い顔はしてほしくなかった。次はきっと言っちゃいけない言葉も無くて、普通に元気になっているはずだ。ステラのこれからには良い事がたくさん待っている。次に会える時が楽しみで、仕方なかった。
出発して少し経った。ブロックワードの解除も目処が立ったため、目の休憩も兼ねて展望デッキに来れば、幼少期から相変わらず髪を伸ばしたままの従兄弟が物憂げなため息をついていた。
「浮かない顔して、どうしたんです? アスランと別れたのがそんなに心配? 気持ちは分かりますけどあんまり思い詰めたら体壊しますよ」
「そんな顔した姉さんにだけは言われたくないんだけど。シンにも頼んできたし、あいつもいつまでも小さい頃のままじゃないのは流石に分かってる。そうじゃなくて、フリーダムだよ。アークエンジェルの奴等共々、何のためにこんな事してるんだか」
「話し合いの内容はナタルさんから教えてもらいましたけど……目的、平和のためじゃないんですか?」
いろいろと話すようになった歳上の女性を脳裏に浮かべる。子供達の話から見つかりにくい航路まで話題は多く、少し楽しい。
彼女の話では彼等が世界の平和のために動いているのは言うまでもない前提条件のように思えたが、違うのだろうか。不思議に思って問いかけた先、心底嫌そうな顰めっ面で答えられた。
「もしそうだとしたらさ、これまで大人しくしてた事の説明がつかないんだよ。アスランみたく罪人の子だから帰ってこない事こそが平和のためになる訳じゃない。むしろ逆だろ。ラクス・クラインがとっとと帰ってきてたらプラントの全員が安心して、姉ちゃんが今守ってるあの子だってあんな事せずに普通に暮らせてたはずだ。戦争までの二年間はダンマリ決め込んで平和維持活動の一つもせず、戦争になってから武器を手に平和を叫ぶなんて、笑い話にもなりゃしない」
確かにと頷く。アスランにとっては大事な友人だから面と向かっては言いにくいけれど、彼等の行動はどこか筋が通っていない気がした。ステラちゃん達の治療の合間に考察する事を考えながら、カウンセリングの時間が近づいているので声をかけて後にする。
カウンセリングといっても、簡単な聞き取り調査だ。好きな事は何か、反対に嫌いな事、苦手な事は何か。やりたい事はあるか。学校に習って言えば進路調査のようなもの。彼等がどんな願いを持っていてどんな選択をするのかはまだ分からない。けれど、あの子達が自分で選んだものならどんなものであれ応援しようと心に決めて、ドアを開いた。
レイとルナマリア、カオスとガイアに乗り換えました。
また、ガイアは飛べるようにしています。
お読みくださり、ありがとうございます。