ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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因縁のカプリチオ

 

「いきなり蹴るな! 彼女に当たったらどうしてくれるんだ!」

 

「舐めるな、加減したに決まっているだろう! 貴様はその口の利き方を改めろ! 俺は良いが、いつか射たれても知らんぞ?!」

 

「……そんな風に言われる筋合いはないが……? こっちは折角心配したっていうのに、そっちこそ随分な物言いじゃないか」

 

 横にピッタリひっついていた歌姫を咄嗟に抱えて回避したアスランが横の次席に文句を言う。足を戻した彼から注意を受けた主席が本気で不思議そうに首を傾げた。

悪気がない時のコイツは一番容赦ないよな、なんて考えていたら不愉快そうな顔でイザーク共々静かに睨まれた。イザークが負けじと睨み返す。最近はとんと見なくなっていた一触即発な状況だ。そんな訳は無いと分かっていても、まるでアカデミーの頃に逆戻りした気分になる。

 

 あの頃と違って、囃し立てて賭けを始めるラスティも、アスランを宥めようとするニコルも、今はもう何処にもいない。

 

 その事に一抹の寂しさを覚えながらもどう振る舞おうかと考えていると、丁寧に手入れされている長い髪が二人の間に割って入った。

 

「ちょっと、アスラン! ケンカしちゃダメよ! わざわざ私のお迎えに来てくださったんですから……ね? 

 ジュール隊長とエルスマン副隊長ですよね? 度重なる延期、失礼いたしました。隊の皆さんもお待たせしてしまってすみません」

 

 彼女が目の前に来た瞬間、アスランが視線を和らげた。スルリと彼の頬を撫でてから此方を向いた歌姫が口調を変えて頭を下げてきた。

彼女の背後の視線が先程に増して険しくなった事を必死に意識の外へ追い出しながら、此方こそ申し訳ないと一礼する。お互い頭を上げると気になるモノに気づいた。

 

「あの、ラクス様。その腕のカワイコちゃんは一体?」

 

 一匹の子犬が彼女の腕の中で抱きしめられている。

ダークブルーともネイビーとも言い切れない毛皮の絶妙な色合いは背後の彼の髪色と全く同じだ。感情まで同期しているのかと言いたくなる程にガルガルと唸ってきている。頭を一撫でされると気持ちよさそうに目を細めた。

唸らなくなった事にホッと息をついた歌姫が嬉しそうな口調で質問に答えてくれる。

 

「この子、アスランがついさっきくださったんです。パーツとか色々と造ってくれて……驚かれました? 本物みたいでしょう?」

 

 思わず目を丸くする。ペットロボだとパッと見では分からないな。

 

それにしても贈り主が誰だかは一目で分かる露骨なカラーリングはどういうことだろう。牽制か? 独占欲か? そんな事するヤツだったか? しばらく会わないうちに随分と愉快な事になっているようだ。

 

 揶揄いがてら詳しく聞こうと近づこうとした瞬間、床に下ろされた小さいのから電流が放たれた。

 

「危なっ?! え? 何これ? スタンガン弄ったやつか?」

 

「まぁ、大体そんな感じだ。発動が遅いから動作不良でも起こしたかと思ったが……彼女に怪我させないためだったか。よし、搭載したAIの自己判断能力はしっかりしてるな。これなら通信で軌道パターンをもう少し学習させれば解決できる」

 

「貴様……一体何を造った?! 言え! コイツに付けた機能、今すぐに全部!」

 

 呆然としていたイザークから大音量のツッコミが入った。

 

 

 

 

「ふざけるなよ貴様! 出発は明日にしてやるから、物騒な機能は今日中に全て取り外せ!」

 

「ハァ?! お前こそ面白くもない冗談は大概にしろ! そもそも、万が一の時のために造ったんだぞ! これでも大分抑えたんだ!」

 

「ほう? 

防刃・防弾等各種コーティングを全身に施した上、防犯機能はエアガン、スタンガン、催涙スプレー、麻酔弾にフラッシュバン……全て威力は市販品より増強済み。更には証拠を押さえるため録音・録画、通信機能付き。

これでか? 頭のネジをどこにやった?!」

 

「防犯機能は全部非致死性に威力は抑えてある! 充分だろう?!」

 

「そういう問題では無いわぁ! 個人の防護にしては余りにも度を越し過ぎていると言っているんだ! 物騒なホームセキュリティか?! 外すのは防犯機能だけで良いと譲歩してやっているだろう!」

 

「お前……本当にふっざけるなよ、馬鹿野郎が! こんなのじゃ全然心許ないんだぞ、こっちは! それなのに何だ、どいつもこいつもデチューンさせようと! これ以上は絶対に嫌だからな! 

 それよりイザーク、随分と遅くなったな。デスクワークばかりして身体が硬くなったんじゃないか? 大丈夫か?」

 

「うわぁ、アスランさんがアカデミーの頃のシンみたいな言い争いしてる……」

 

 ミネルバが修理に入ったから、私達クルーはしばらくは出入り禁止になった。晩までには入れるようにしておく、とはジブラルタルの修理チームの人の言葉だ。そう言えば何分か前にアスランさんと歌姫さんが船外に行ったはずだと思って出ると、ちょっとした騒ぎになっていた。

 

 アカデミーの頃はもちろん、伝説的な活躍したクルーゼ隊でもエースの座を取り合っていたと噂の二人が高速で組み手をしながら言い合っている。遠巻きの人垣を気にせずに、なんか装備を外すだの外さないだので揉めているみたいだ。

 

 本当に珍しく感情的になっているアスランさんがジュール隊長からの攻撃を全部躱しながら煽った。額に青筋が何本も立った銀色の人が貴ッ様ァ! と吠えて殴りかかる。ヒョイッと涼しい顔で避けて鼻で笑ったアスランさんへ舌打ちがこぼされた。エルスマン副隊長が必死の形相で間に入って取りなし始めた。

 

 どうやら終わったみたいだ。周りの人達もやっぱスゲェな! とか言いながら散っていく。

いつの間にやら護衛対象の彼女と共に側に来ていたフォリィさんが心なしか光のない気がする遠い目でため息をついた。

 

「あの子ったら……何もかも悪気が無い分、余計にタチが悪いんですよね……あれだけ昔お説教したのにな……

 ラクス、その子イヤじゃない? 貴女のお願いならアスラン全部言う事きくと思うから、防犯機能外してもらうようお願いする?」

 

 サラリと中々凄い事を言ってから問われた歌姫が顎に指を当ててちょっとだけ考えた後、小さく笑って首を振った。

かなり物騒な機能が満載だったから、ちょっとビックリする。思わず理由を聞いてしまうと、ひっそりとやわらかい顔で答えられた。

 

「だって、どの機能もアスランが私を想って付けてくれたんですもの。要らないなんて言いたくないわ。

あのね、この子造ってくれてる時のアスラン、とっても楽しそうで真剣な顔してたの。あんな顔見せられちゃもっと好きになるしかないじゃない。今でさえ、これ以上どうしたらいいのか分かんないくらい好きなのに。きっともう私、何されちゃっても許しちゃう」

 

 本当に好きなんだなぁって言うのが声色ひとつでうんと伝わってくる。こっちまでなんだか照れてしまっていると、たった今話題にしていたアスランさんが遠くから此方に向かってきた。

 

「メイリン、この基地のマップを貰っても? 訓練場を使いたいんだが場所が前いた頃と変わっているらしくて」

 

「分かりました。アスランさんの端末に送りますね。ジュール隊長と勝負ですか?」

 

「あぁ。絶対に負けられない。そうだ、結果が出たらミネルバのレコードに同期できるか? シンの先日の記録は抜いたんだが、今日はアレより良い結果が出せる気がする。目標値になればと思って」

 

 シンったら、復帰直後のアスランさんに抜かれて地団駄踏んでたらしいんだけどなぁ。お姉ちゃんからため息混じりに聞かされた話を思い返しつつ、できるので了解の返事を返す。端末が震えて楽しそうな計画を告げてきた。私ばっかり話しているのもアレなので挨拶してから少しだけ離れてこっそり恋人同士の会話を聞いた。

 

 

「んもぅ、アスランったら。今日一日また一緒にいられるって思ったのに……」

 

「すまない。だが、アイツを勝たせるわけにはどうしてもいかなくて」

 

 先程ディアッカから提案された勝負の内容を思い出す。

 訓練規定に、クルーゼ隊でもよくしていたオールレンジを加えた五本勝負でイザークが勝てば防犯機能を外す事。俺が勝ったら、これに関して金輪際文句は言わない事。逃げたら不戦敗とも言われたので逃げるわけにはいかない。

 

 今日を最後にしばらくまた顔を合わせるのは難しくなる。彼女に人が死ぬ様なんて見せたくなかったから、付けた機能はどれもその場で相手が死なない程度だ。いざという時を考えると、これ以上外す訳にはいかなかった。それに加えて、気がかりな事もある。

 

 療養中に彼女がジブラルタルにいた経緯から端を発し、聞くことになったディオキアでのキラ達の行動だ。

今はもう指揮官の無いオーブ軍が前線に出ることは不可能になった。戦場への介入は無いだろう。

 

しかし、直接ラクス・クラインと名乗らずシャトル強奪なんて手段に出た事から彼等がまだ議長への疑いを持っていることが分かった。あまり考えたくはないが、ラクスの疑念を重視しすぎたクライン派によって、ミーアの身にも危険が及ぶかもしれない。

 

 しかし、勝負の間、彼女を放ったらかしにしておく事になる。念のためにと俺とラーナス、ステラがいるシン以外の男が一定時間以上近くにい続けたら弱めの威嚇をするようにプログラムを組んでいるが、心配だ。なるべく早くイザークを叩きのめそう。

 決意を新たに頷いていると、ギュッと両手を握られた。

 

「大丈夫だから。この子と一緒に応援してるわ。ラーナスさんがね、訓練場の様子を中継できるようにさっき交渉してたの。大きいモニターでアスランのカッコいい所が他の人にも知られちゃうのはちょっと複雑だけど……私のためだって分かってるから。負けないでね、アスラン。頑張って!」

 

 真っ直ぐな応援に心が温かくなり、笑って頷く。先程聞こえてきた嬉しい言葉を思い出す。君に何をされても嬉しいのは俺の方がそうなんだが。誰かに聞かれるのも癪なので抱きしめてからこっそりと伝えると、嬉しそうにギュッと抱きしめ返された。

 

 

 

 

 

 

「容赦ねぇ……あの人、俺達との訓練では加減してたのかな……」

 

 シュミレーター内の風景がジブラルタルのモニターに映し出される。射撃訓練ではミネルバで見た事ない桁数の記録を二人とも叩き出し、アスランさんが勝った。

 

 今のシュミレーターではジュール隊長の機体が息つく間もなくボッコボコにされている。俺も前やられたけどアレ一回ハマったら抜けられないんだよな。そんな事を考えているとジュール隊長がどうにか反撃でモビルスーツの片足を切り落とした瞬間、鮮やかなカウンターを決められた。周りで歓声が上がる。ポップコーンやドリンク片手の人が多い。すっかりお祭り騒ぎだ。

 

 こんな世の中だからって楽しみがないのはあんまりだ、たまに息抜きしないとダメになるぞ? とはコレを通したアスランさんの片腕やってる人直々の言葉だ。

 

 良いのかなぁと思いつつ塩加減が抜群のチキンとポテト、何故かあったおにぎりを頬張っていると、レイがアイスティー片手に解説してくれた。

 

「そんな器用な真似をアスランは出来ない。お前だって分かっているだろう? 忙しい合間を縫って造った彼女への贈り物に口を出されたんだ。火事場の馬鹿力とは少し違うが、普段よりリミッターが緩いんだろう。怒ったお前と似ているな」

 

「あの人プライドあるから分からなくないけど……うわぁ、そこからそう繋げるんだ……格ゲーのコンボとか上手そう……ステラ、これあげる。さっき飲んだけど甘くて美味しかったわよ」

 

「すごい、どっちも速い……ん、ほんとだ、美味しい……ありがとう、ルナ! シン、えっと、ひとくちどーぞ?」

 

 差し出されたシェイクを一口もらうとステラが嬉しそうに笑う。可愛いなぁと思っていると、背後から二人分の重みが襲ってきた。

 

「シン、それくれ。代わりにチョコバーやるから。

 おっ、決着付いたな。まぁ見たまんまアスランの勝ち、と。次は組み手か……おい。シュミレーターから銀色のが飛び降りてそのまま取っ組み合い始めたぞ? 良いのか、あれ?」

 

「解説出た! そのままマットに吹っ飛ばしたからオッケーだってさ! コメジルシでクルーゼ隊ではよくありましたってあるけど何? 緑のやつ、さっきから判定甘くない? ヒイキじゃないの? 

 僕にもちょーだい、これと、ネオがなんか持ってくるから、好きなの先に選んで良いよ」

 

 チキン二つの代わりにチョコバーとガムが紙箱に入る。アウルの言葉通り、色々手にしたネオさんとナタルさんが近寄ってきて苦笑した。

 

「お前ら、元気ねぇ……うわっ、アスランのやつ、頭突きして反撃うつった。お坊ちゃんの癖にそういうの躊躇いねぇなぁ……」

 

「確か彼等がいたのは多種多様な任務を万能にこなせる特殊部隊だったと聞きます。実戦では手段を選んでいられませんから。

 あぁ、こら、勝手に取るな。さっきシン君にアウルが取っていいって言っただろう? よし。悪かった。どうぞ」

 

 お言葉に甘えて大きな紙皿にそれぞれ盛られていたパスタとチャーハンとハンバーグとステーキ、追加のチキンを自分の皿に取る。好きなものだけ取れるのは良いよな、なんて思っていたら横から素早く野菜が何枚か足される。

 てっきりレイかと思ったら、ラーナスさんがメイリンを引き連れて笑っていた。久々に会えた姿に嬉しくなって笑うと、楽しそうに頭をワシャワシャされた。

 

「ちょっとだけで良いから野菜も食っとけ。久しぶりだな。楽しんでるか? ってのは、その皿を見たら分かるけど」

 

「ありがとうございます。どれも滅茶苦茶美味いですね……! この基地の人達、いつもこんな美味いの食べてるんですか?」

 

「いや。姉ちゃんがアスランの快気祝いにって材料買い込んできてたんだけど……この所業にお怒りでな? 食材に罪は無いから、この騒ぎで使えって。

 ま、たまにはこういう馬鹿騒ぎも悪く無いだろ? こっから先はどうなるか分からないし、今ぐらいは楽しんどけ。

 あぁ、お礼言いに行かなくて良いよ。姉ちゃんは厨房立たずに歌姫の虫除けやってる。アイツがアレ造ってたから、問題ないとは思うんだけど……

 メイリン、機材の調整助かった。料金払わず食べれるようにしてるから行ってきてくれ。あっちのケーキとか、使われてるチョコが何処ぞの王国専属やってたショコラティエ作らしいからオススメ」

 

「いえいえ、私も楽しかったですから。本当ですか?! お姉ちゃん、ステラ、ナタルさんも行きましょ!」

 

 極秘らしい情報を聞いてスイーツコーナーに揃って駆け出すメイリン達に引っ張られて行った奥さんを見送ってから、ネオさんがラーナスさんの肩を叩いて労った。

 

「お前もお疲れ様。奢りなんて太っ腹だねぇ。

 それにしたって今回の発端になったアレ、お前なら上手く丸めこめてデチューンもう少し出来たんじゃないの?」

 

 悪戯っぽく笑って傷痕を歪ませたネオさんに対してラーナスさんがスンッと静かな顔になった。辺りを見回してから、集中してどうにか聞き取れるような声量でポツリと呟く。

 

「バクゥ。オートで動くミニバクゥ、近づいて長居する彼女狙いの男は最悪こっそり蜂の巣仕様。それをあそこまで引き下げるだけで良くやったと思いませんか? 簡易小型化したトリスタンとか積もうとしたんですよ……開発局に見つかったら転用まっしぐらじゃねぇか……初期設計図はストーブの灰にしました」

 

 乾いた笑いまで漏らした人の頭をネオさんが無言で撫でまわしてから一際でかいステーキを切って口に押し込んだ。

 無言で平らげられる肉を見ながら、あの人を本気で怒らせないようにしようと誓っていると、周囲がどよめく。

 

 モニターでは顔にアザを作った二人が訓練用のナイフと銃をそれぞれ構えていた。まさか、コレ……

レイと顔を見合わせて思い浮かべた言葉がアナウンスされた。

 

『えっと、マイクテスト、マイクテスト。

 中々決着がつかないため、最後に予定されていた、ナイフ、銃、なんでもありの実戦形式、名付けてオールレンジ戦に移行します。なお、ナイフ戦と組み手もこれに統合されるため、コレが最後の勝負となります。三点分がこの一戦に含まれるため、これに勝てばジュール隊長の逆転勝利となります』

 

 うぉぉっと歓声が上がる。最後のが一番配点高いやつだ……! 

 テンション上がりながらステーキを飲み込んだラーナスさんを何気なく見ると楽しそうに笑っていた。

 その顔を見た瞬間、不思議な点が見えてくる。

 

 モニター使うのもあんな直ぐに交渉できるだろうか? 知り合いの多いこの人だから、二人の実力が近いのも分かってたはずだ。もしかして、この展開読んでた? 

 

 呼びかけようとすると、一瞬だけこっちを向いて内緒な? と呟かれる。モニターを見つめたまま、周りのざわめきにかき消される声量で教えられた。

 

「イザーク・ジュールはお前と同じでアスランがザラだなんだを気にせずに突っかかっていく奴だからさ。体調不良だったとはいえ、アスランに一回でも勝てた男だ。うんと身体動かしたらスッキリするだろうし、同期だから話せる話もあるだろ? 歌姫様がアスラン優先してくれた瞬間、思いついたんだよ。博打要素多かったから、ここまで上手く行くとは思ってなかったけど。実際、アイツもメンタル回復したし、俺達も娯楽扱いでリフレッシュできてウィンウィンって訳。アスランに目論見バレたらヤバいからジュール隊には通してない。本当にナイショな?」

 

 

 アスランさんのためにあらゆるモノを巻き込んだって事だ。少し茫然としながらも反射的に頷くともう一度頭を撫でられる。一礼してお代わり取りに行きながら、不思議に思った。

 

 ここまでアスランさんに尽くすなんて、あの人達の間にいったい何があったんだろう? 首を捻っても答えは出ない。

 

 スナックコーナーにあったポテチを食べながら二人の対決に夢中になっているうちに、そんな疑問はすっかり頭の中から消えていた。

 

 

 

 

「そこまで! 勝者、アスラン・ザラ!!」

 

 鳴り響いたアナウンスに二人揃って膝をつく。ペイント液が降ってくる頭を振って顔を上げると、得意気な笑みを浮かべた好敵手が目の前にいた。

 

「また俺の勝ち、だな。イザーク」

 

「そうだな。次は負けんぞ。

 とはいえ、約束は約束だ。あの犬はそのまま連れていく。部下にもあまり歌姫の側に長居しないよう伝えるさ。アスラン・ザラに首ったけだから諦めろ、とな」

 

 珍しい吉報を揶揄ってやると、慌てたように頬が赤くなった。ラクス・クライン相手にはこうならなかった事にどこか可笑しくなって笑い声をあげてしまうとバツが悪そうに唇を尖らせて何やらこぼしてから真剣な顔つきになった。

 

「いや、彼女がどうかは……その……

 それより、気をつけろ。“ラクス”が宇宙に上がったということは、間違いなくアレも……」

 

「今現在の居場所が分からん以上手の打ちようがない。そう心配しなくても警戒はしておく。お前の恋人には傷も虫もつけさせん」

 

 アークエンジェルも修復されていたのだ。書類上はザフトに返還された扱いになっているものの姿を見ていないエターナルもクライン派が保有していると見ていい。苦々しい思いはひとまず置いておく。しっかりと目を見て頷いてやれば、またしても不思議そうに首を傾げられた。

 

「いや、お前がついてるなら不安は無いんだが……全く、このままどこも大人しくしてくれていたら戦争なんか直ぐ終わるのにな」

 

「そうなるに越した事はないが、上層部はまだ続くと見通しているようだ。俺とディアッカにも新たな機体が来るそうだ。貴様もそうなのだろう?」

 

 ため息とともに零された希望は叶ってほしい事この上ない。しかしながら、まだ遠いだろう。早く手繰り寄せなければと考えながら、機体を失った相手に問いかければ、真剣な顔で肯定された。

 

「到着はまだかかってしまうそうだがな。ミネルバが次の任務を受けるまでに間に合えば良いが。

 そろそろ出るか。いつまでもいたら基地の人に悪いし」

 

 

 そう言って立ち上がったアスランに続けて訓練場のドアを開けると、歓声に包まれた。

 

 お疲れ様です! 凄かったですね! あの、あそこの動きってどうやったんですか? まさかその場でプログラムの書き換えを? カウンターのコツとか教えてください! あ、ズルいぞ、射撃のコツもお願いします! 

 

 口々に質問と称賛が飛んでくる。誰がどれを言ったかも判別がつかない程だ。訓練中の攻撃は的確に捌けるのに、こう言った事には目を白黒させている同期の背を思いっきり叩く。こういった方面では、俺の勝ちだな。

 

「静かに! 質問があるやつは後日、書面で答える! 連絡先はジュール隊のアドレスだ! 一時解散!」

 

 手を叩けばワッと散っていく。向けられる視線はどれも好意的なものだ。人が多いジブラルタルだから噂が広まるのも早いだろう。

 やけに中継の準備が早かったから、この事態を読んでいる奴がいた事には気づいていた。悪意が無く、迷う事が多いコイツの助けになるため放置した。コレもお前の狙い通りか? 

 少しだけ上の階で動いた影に微笑んでから、固まっている友人の背を叩いて食事会場へと足を進めた。

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