ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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戦禍への激鉄

 

「確かなのですね、国防委員長。ベルリンに向けて連合の新型が進軍中というのは」

 

 通信画面に映る赤毛の上官が先程述べた内容を復唱して確認する。

 戦火を拡大させるような真似を続ける連合に苛立ちを覚えていると、静かに首肯された。

 

「あぁ。警告もなく突然だ。奴等、本当に救えない。

 発見直後に近くの部隊が迎撃に向かった。相手の一機を取り囲んで攻撃したというのに、こちらの被害を増やしただけだった。

 兵だけではない。民間人にまで被害が及んでいる。侵攻ルート上にあった市街地が焼き払われた。これ以上無駄に命を散らせる訳にはいかない。

 今現在地球に居る部隊で最も個々の戦力が高いのは貴艦だ。議長からも推薦があった。クレタ沖での傷が癒えたばかりで済まないが、受けてくれるか?」

 

 ザフトの危機に断る理由は無い。ミネルバの修理は整備班とジブラルタルのスタッフの尽力で終わっている。先日のジュール隊長の訪問に端を発する一連の出来事で、クルー達もリフレッシュできたはずだ。

 

 了承の意を示して敬礼をすれば、深々と頭を下げられた。

 

「助かる。今は時間が惜しい。準備でき次第最大速度で向かってくれ。

 任務成功の暁に話したい事がある。改めて繋げてもらっても構わないだろうか? それでは、諸君らの健闘を祈る」

 

 こちらが失敗する事など微塵も考えていない未来への約束だ。どう答えるか考えている内に決まり文句と共に敬礼がなされた。慌てて返せば、頼むともう一度頭が下げられてから画面が暗くなった。

 

 内線でアーサーを呼び出し、発進準備を急がせるよう伝える。全く、近頃は大きな動きが無いと思っていたら、まさか新型機で侵攻してくるとは。

 こうしている間にも被害が増えている事に思いを馳せてしまい、焦燥感に駆られていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁああん!! ごめんなさい、ごめんなさいゴメンなさい……」

 

 そのまま啜り泣く声が船内に響き渡る。聞くに耐えんな、と彼女をああした地球軍の一員としては言うべきでない言葉が気づけば口から溢れた。周囲の面々は頷き返すか素知らぬ顔をしてくれている。苦楽を共にしてきた乗組員達に感謝しながら、向かってきたザフトの部隊諸共に町をビームで燃やしている遠方のデストロイを見る。廃棄寸前の資料を見る機会があったが、進軍先のベルリンはあのパイロットの生まれ故郷ではなかっただろうか。

 

 ブルーコスモス所属だという白衣の男が連れてきた憔悴しきった女性は、機体に乗せると様変わりした。あれだけ同志を土に埋めてくれたバクゥ達がなす術もなく沈んでいくのに胸がすくような思いだったのは最初だけだ。

 

 先程のように通信では泣き声か謝罪の言葉のどちらかがパイロットから絶え間なく延々と壊れたラジオのように繰り返し流されている。こちらの責任だと罪を突きつけられるようだった。

 耐え切れなくなった通信兵がクソッタレ! と叫んでスイッチを切ったのを咎める者は居らず、寧ろ良くやったと肩を叩かれている。小さな疑問が胸の内で囁いた。

 

 本当に良いのだろうか。目を逸らした事にならないだろうか。

 

 頭を振って感傷を振り払う。我々は軍人だ。どんなに途中で任務が嫌になろうとも命令には従うしかない。きっと今も泣き続けている女を先頭に燃える家を踏みつけながら船を進ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、アスランさん! 聞きましたか? ベルリンに大至急向かって、連合の新型を破壊せよって指令が来たそうです。

 アンタ、機体まだ来てないでしょ。どうするんですか?」

 

 通路を歩いている人を見かけて駆け寄る。さっき部屋に来たトライン副艦長が伝えてくれた任務を話した後、この人の機体がまだない事に気づく。確かこのジブラルタルに届くって言ってたから、また別れて到着待つんだろうか? 気になって聞くと、振り返って返事された。

 

「任務に関しては聞いた。俺もミネルバに乗る気なんだが……戦えないと、やはり迷惑か?」

 

 違う、そんな意味で言ったんじゃない。悲しそうに笑うこの人の姿なんか見たくないから首をブンブン振って否定した。

 

「違いますよ! アンタが一緒で嬉しいです。俺だけじゃなくて、レイもルナもメイリンも、ヨウランもヴィーノも、みんなそうですから。

 そんな悲しい事、もう言わないでください。アンタが戦えるから要るんじゃありません。アンタがアンタだから居てほしいんです。分かりますか?」

 

 まさかと思うけど、この人、戦力にならないと価値がないとか思ってるんじゃないだろうな。そんな訳ないのに。

 ちょっと恥ずかしいけど、鈍いこの人にはちゃんと言葉にしないと伝わらない。とっくに分かっている事を改めて確認して、思っている事を一息に伝えた。これでジュール隊長がされてたみたいに本気で不思議そうに首傾げられでもしたら泣く自信がある。

 

 ちゃんと分かってくれたか不安になって、穴が開く勢いで顔面を凝視してしまう。見つめた先のアスランさんが綺麗に笑ってくれた。そのまま頭を優しくワシャワシャと撫でられる。

 

「ありがとうな、シン。負担をかけてしまうが、よろしく頼む。

 そうだ、レイとルナマリアがどこにいるか知ってるか? 連合の新型については、これまでの系統からある程度予測が出来る。着くまでの間に話しておきたいんだが」

 

 気持ちが伝わったみたいでホッとする。その後の言葉に思わず目を瞬かせた。情報全然ない新型の予測って出来るんだ。二人とも部屋のはずだから一緒に回れば良いかもしれない。

 頼られた嬉しさが抑えきれず、つい弾んでしまう声で返事を返した。

 

「良いんですよ、これくらい全然平気です。

 レイは今なら部屋にいます。ルナもそうじゃないかな。一緒に行きましょ」

 

 誘えば頷いて着いてきた人を視界から逃がさないようにしながら歩く。無理もないけど、やっぱりまだ本調子とはいかないみたいだ。

 

 ごく偶にだけど、アスランさんはいろんな事を悪い方に受け取って酷く落ち込む時がある。あんな辛い事があったから、完全に吹っ切るには長い時間がかかるんだろう。 今みたいにフォロー入れたら持ち直してくれるし、ちゃんと働けてるだけでもう充分頑張っている。

 

 これ以上泣いてる人を増やさないのが一番の目的だけど、この人にもっと頼ってもらうためにも、早く連合の新型をどうにかしたい。

 

 そんな事を考えながら歩いて行けばいつもの顔ぶれが揃った。そのままアスランさんの部屋に招かれる。ルナが嬉しそうに笑って口を開いた。

 

「アスランさんの部屋にお邪魔するの、なんだか久しぶりな気がしますね! 私は良いんですけど、大事なお話なのに会議室取らなくて良かったんですか?」

 

「あの部屋は静か過ぎる。前回と違って作戦中だからな。何か聞き逃す訳にはいかないだろう? さ、どうぞ」

 

 入ると予め用意されていたらしいちょうど良い温度のお茶が出された。受け取って座ると、少し前の不安定さが消え去った真剣な顔のアスランが話を切り出した。

 

「結論から言う。今回、遠距離武装は使うな。下手を打てば街の被害が増えるだけだ。

 スエズでの作戦、覚えているか? あの場にいた大型モビルアーマーに積まれていたリフレクターが今回も採用されていると考えて良い。

 シンがオーブ沖で撃破した際に発見した通り、ビームサーベル等の近接攻撃には弱かった。なら近づけさせないために遠距離から一撃で仕留めるよう武装を見直しているはずだ。分かっている弱点を補わないのは有り得ない。こちらが回避できないよう多砲門かつ高威力といったところだろうな。あくまで予測だから参考程度に留めてくれ。

 今の俺が出来る事はこれぐらいだ。すまないな」

 

 

 これぐらいの範疇超えてると思う。三人揃ってお礼を言ったらホッと息をつかれた。頭を小さく下げたレイが静かに意見を口に出す。

 

「充分助けになります。ありがとうございます。それなら遠距離主体のカオスは念のため後方でミネルバの守りを務めます。驚く事ではないでしょう。貴方の技術者としての才も信頼していますから」

 

 鳩が豆鉄砲をくらったみたいに目を丸くするアスランさんに、少しだけ楽しそうな声を発したレイのやわらかい微笑みが投げかけられる。ルナが笑って後に続けた。

 

「それじゃあ、私はシンと一緒に前線で。アスランさん謹製のフライトユニット、フォースにだって負けないんだから!」

 

「じゃあルナと俺で弾幕避けつつ接近して撃破、だな。最初はフォースにしてもらうようメイリンに言っとかないと。情報、ありがとうございました」

 

 いや、別に……と照れたように素っ気なく返してきた。笑ってお辞儀してから部屋を出る。ルナがニッコリ笑ってレイを小突いた。

 

「珍しいじゃない。レイがアスランさんにあんな風に言うの」

 

「事実を言ったまでに過ぎない。あの人はもう少し自信を持つべきだ。それに、アスランは心の傷を癒している最中だからな。誰だって怪我人には優しくするだろう?」

 

 そりゃそうだけど。レイが口火を切ったのが意外だっただけだ。

 コテンと首を傾げた姿になんだか兄心がくすぐられ、いつも頼りにしている親友の頭をマユにしてたみたいに撫でてしまう。嫌がられずにすんなり受け入れられた。割と甘やかすと嬉しそうにするんだよな。もしかしてレイ、お兄さんかお姉さんがいるのかな。でも、前に家族は居ないって言ってた。……今はいなくても、昔は居たのかも。

 

 なんとなく思い当たった事は軽々しく聞けないと思っていると、副艦長が本部から送られてきたデータを持ってきてくれた。

 タブレットを覗き込めば、さっき聞いたアスランさんの予測通りにビーム砲を大量に積んだタイプだった。これなら、さっきの作戦でいけそうだ。

 あの人の慧眼に驚きながらメイリンに話を通そうと、三人一緒に艦橋へと向かっていった。

 

 

 

 

 

「ベルリンはそろそろだな。ザムザザーやゲルズゲーの発展型……俺も出れたら良いんだが、あのタイプだと砲門が多いアビスは逆にカモにされる。口惜しいな」

 

「知り得る限りの情報は提供しました。人事は十分に尽くしましたよ」

 

 本当に無念そうな声音を出すこの人にそう返すのが精一杯だった。そうかなと呟かれ、どうにか頷く。どう返せば正解だったのか途方に暮れていると、それまでの思考を吹き飛ばすモノがレーダーに映し出された。思わず叫ぶ。

 

「たい……ネオ!! ベルリン近くで熱源探知! 目標の新型に加えて、フリーダム! 更にはアークエンジェル、ムラサメとストライクルージュが居ます!」

 

 呼び慣れた階級名ではもう呼べないと気づき、咄嗟に子供達と同じ呼び方をしてしまった。目を丸くさせた彼が次の瞬間には嬉しそうに破顔する。

 

「いや、まさかお前からそう呼んでもらえるとはな! この先ずっとソレで呼んでくれ。

 しかし、なんで大天使サマがベルリンに? オーブと何か関係あったか?」

 

 ベルリンとオーブの親交はそれ程無かったはずだ。首を横に振り、並んで進む知恵の女神の艦長に繋げる。

 あちらでも同じ結果を見たところらしく、モニターに映ったグラディス艦長は頭が痛そうにため息をついてこめかみを押さえていた。嫌味たっぷりにこぼされる。

 

「流石、アークエンジェルと名乗るだけあるかしら。助けの呼び声あれば何処へでもって事? それなら、私達がオーブを出るあの時だって来てくれても良かったんじゃないかしら? 

 共闘出来たらと思わなくも無いけれど、こちらは既に人的被害がオーブによって与えられている。クルーの心情を考えると出来ないわ。

 そして、あちらから何の申し出もないから目的が不明よ。手を出したくは無いけど、フリーダムにあれ以上砲撃させたらどんどん街が壊れていく。言って聞いてくれるならアスランは落とされていない。力づくで食い止めるしかないわね」

 

 確かに、と頷く。外部カメラが映し出したフリーダムは手段を探っているのか、一斉にビームを集約させている。

 アークエンジェルはオーブが現れる戦いにこれまで出ていた。地球軍との戦闘経験は乏しい。アレの前身であるモビルアーマーとは対峙する機会が無く、突破方法を知らないのだろう。

 あちらの事情を考慮できなくはないが、彼等自身のためにもこれ以上被害を広げさせる訳には行かない。考えていると、傍らの人が手を挙げた。

 

「俺が出る。アビスも船の偽装ついでにフライトユニットをもらったから大気圏内でも飛行できる。ナタルは子供達と船を任せた。おいおい、そんな顔するなよ。

 ついさっき良い事があったからな。今なら不可能を可能に出来そうな気分なんだ。そうだ、せっかくだから管制員頼む。んじゃ、行ってくるから帰り待っててくれ」

 

 止める間も無く大きな手に頭を撫で回される。かつてのあの人が言っていた言葉が同じ声で唱えられ、息が止まった。ヘルメットを持った後ろ姿まで重なって見える。どうにか口を動かして、ご武運を、と祈りの声をかけた。

 

 

 

 

 

 不安なのか震えるナタルの声に手を挙げて返事する。

 俺のファーストネームを呼んだ後、慌てたように少しだけ頬を染めていた可愛らしい彼女を思い出す。いつか赤毛の国防委員長に間違われた事を本当にしても良いかもしれない。彼女の気持ち次第だが、実現すれば俺はもちろん、子供達も喜ぶだろう。

 本気で考えながら機体に乗り込む。先程知らず口から出ていた言葉のように、本当に今なら何だって出来る、無敵のヒーローになった気分だった。

 仕事モードに切り替わってしまったのか、すっかり平静になった相手の声を聞きながら、俺も気分を切り替える。

 ここからは戦場だ。何が何でも生きて帰らなきゃいけない。

 

「ネオ・ロアノーク、アビス、出るぞ!」

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