「あのバケモノのパイロット、正気か?! 馬鹿みたいに撃ちまくって……そんなに壊したいのか! なんなんだよ、お前は!」
インパルスが先程まで居た場所をタンホイザーに似た太いビームが通過していった。明らかに過剰な火力に舌打ちする。
ふと目をやれば、直線上の先にあった無人の家が焼け落ちていく様を見て思わず叫んでいた。
ベルリンに着いてからずっと絶え間なく手当たり次第にビームが放たれている。誰かの故郷が焼け野原になっていく。その事が悲しくて腹立たしい。
出撃前の打ち合わせ通り、ルナと一緒に回避しながら近づいて攻撃してはいるけど、全然足りない。
オーブを出る時に戦った大型モビルアーマーは刺せばどうにかなったけど、このサイズは大きすぎる。フォースでやるには攻撃する場所を上手く見極めないと。
ソードの対艦刀があれば真っ二つに出来るのに。でも、このビームの群れはフォースじゃないと躱せない。
メイリンに飛ばしてもらってエクスカリバーだけ抜き取ろうかと思ったけど、この弾幕だから届くまでの間にシルエットの方が撃墜される可能性が高い。換装が無理だとは分かっているけど苛立ってしまう。
ちょっとずつやるのは性に合わない。一気に倒す方が良い。羽根と対艦刀と大型ライフル、武装全部載せしたシルエットでも有れば良いのに。
こうして攻めあぐねている間にも被害が広がっている。じれったくなっていると、フリーダムが真横を通過していった。コイツ、さっきまでバカスカ撃っては反射されて街の被害を広げるだけだったのに!
それより止めてくれてたネオさんは?! 振り返れば、片翼片腕でどうにか飛んでいるアビスが目に入った。焦って通信を入れれば、無事な姿が画面に映った。
「よ、坊主。もしかして心配してくれたのか? 大丈夫だ。どうにか飛べるし、なんなら這ってでもステラ達の所には帰るさ。
接触通信でフリーダムのパイロットと話が出来た。あのデカブツを止めたいだけだとさ。こっちだって無駄な争いはしたくない。アレには近接武器が有効だと伝えてる」
言葉通り、フリーダムは俺達と同じようにサーベルで切り付けて攻撃していた。何度もちょっとずつ切ったからか、砲門が積まれていた円盤の一角が崩れ落ちた。
まさか加勢してくれるなんて。目を丸くしてステラのお父さんを見つめれば、鼻の傷をポリポリ掻いて苦笑された。
「意外だよな。オーブのためだけに動いているんじゃ無かったみたいだ。全く、それなら何のために戦っているんだろうな……
なぁ、こんな時に何だが、変なこと聞かせてくれ。俺はネオ・ロアノークだよな? ムウなんて名前じゃないよな?
いや、フリーダムのパイロット、俺の声聞いてムウさんムウさん呼んできてな……人違いだって返したんだが、絶対にそうだってああも断言されるとな……」
言葉通り、おかしな事を聞いてきた人が不安そうにしている。新型に向かいながら、考えるまでもない当たり前の事を返した。
「何言ってるんですか。俺の知ってるアンタはネオ・ロアノークさん。ステラやスティング達のお父さんのネオさんです。ムウさんなんて名前の人、知りませんよ。
いわゆる他人の空似ってやつじゃないですか? 世界には同じ顔が三人いるって言うし、同じ声の人だっていますよ」
「そうだな。確率的に顔と声の両方が同じ事もゼロじゃない、か。手間を取らせた。フリーダムが今回は邪魔しないなら俺はここまでだ。
後は任せたぞ! 頑張れよ、坊主!」
ホッとした顔つきで激励を飛ばしてくれた人に応えようと、飛んでくる腕を刺して撃破する。これで相手の攻撃手段を一つ潰せた事に息をつけば、ミネルバのアスランから通信が入った。
「突破方法が分かった!
スキュラに似たビームが飛んでくるだろう? アレだけ常時発射されていない。かなりエネルギーを消費するはずだ。きっとあの発射口近くにエンジンがあると見ていい。発射直前に刺せば誘爆でそのまま撃破できる。大丈夫だ、必ず出来るさ。頼んだぞ」
「分かりました、解析ありがとうございます!」
情報を分析してくれていたらしい。眉が立っていたあの人もこんな事許せないんだろう。お礼と了解の返事を返す。
ちょうど白と赤のビームが細くなって段々と途切れていった。遠くから見ていたレイが狙うべき所を教えてくれる。発射口の位置は……あそこだ!
「シン! 道は開けるわ! お願い!」
ガイアがブレードをくわえてスラスターの出力を上げる。ルナが周辺の円盤を一気に切り落としてくれた。
遮る光線が無くなった空を一気に駆け上がって、光り始めた発射口にサーベルを突き刺す。狙い通り、内部でエネルギーが溢れて暴発した機体はゆっくりと倒れていった。
離れながら、刺す瞬間に通信が繋がったみたいで聞こえた声を思い出す。
ごめんなさい、と泣きながら謝っていた。もしかして、パイロットの人はやりたくてやったんじゃなかったのかもしれない。
前にアスランさんが言っていた事を思い出す。
地球軍では命令が絶対らしい。
以前ネオさんとナタルさんに聞いてみたら、どんなに嫌でも命令ならやらなきゃいけなかったって悔しそうに話してくれて、思わず謝った。
こんな事をしそうな奴等の心当たりはある。議長が言っていたロゴスだ。
とても心ある人間がする真似とは思えないけど、戦争を続けさせて金を稼ぐために、嫌がる人に無理矢理こんな酷い真似をさせたんだろうか。そんな事を考えれば、はらわたが煮え繰り返るようだった。
急に、世界が静かになった。ずっと響いていた泣き声も聞こえない。あぁ、あれは私の喉から出ていたのか。そんな事にすら気づかなかった今までの自分が可笑しくなっていると、記憶がゆっくりと目の前を流れていった。
激化する戦争の中で、両親は捕虜にすらしてもらえずに撃ち殺された。コーディネーターには血も涙も流れていないのかと心底憎んだ。
運良く出来の良い頭を生かして絶対に一泡吹かせてやろうと新しい強化兵を作ろうとしても上手くいかなかった。姉さんからも子供達を使い潰さないよう頼まれて、憎い奴等を利用する事を思いついた。アイツらの造った技術で首を絞めていくなんて傑作だろ?
そんな邪な考えで大嫌いなバケモノがいる砂時計に降り立った。
狙いをつけていた会社は人手不足らしく、申し込んだら碌な身辺調査や面接もなく即日採用で笑いが出そうになった。
勤務初日、そこは戦場だった。
肩がぶつかったとか些細な事でナイフを向けようとしてくる男、虚空に楽しそうに笑いかける女、居もしない敵と戦い続けようと暴れる子供……
そう言った患者がひっきりなしにやってくる。医師や看護師達の目も生気が無くて、あの場の誰も彼もが壊れていた。そんな中で足元をふらつかせながら空元気を振り絞って動き回っていたのが、彼女だった。
助手を申し出れば嬉しそうに笑われて、そのままフィーと一緒に過ごす事になった。薬をやり過ぎたブーステッドマンで何人かああなったのを診た事があった。その経験を活かせば大袈裟なぐらいに感謝された。やっと上がってこれて宿無しだと嘘をつけば、同性とはいえ自分の部屋にあっさりと他人を住まわせる神経にコイツは何を考えているんだと思った。
馬鹿か? と笑えば、賢いんですからね? なんて、どれだけ化粧を厚くしても隠せていないクマを動かして楽しそうにされた。
そう。アイツは馬鹿で、お人好しな、普通の人間だった。アイツだけがそうなんだと思ったけど、他のスタッフも只々必死に誰かを助けたいだけで。患者の奴等も戦争のせいでこうなっただけだった。
プラントの何処を見ても、もがいて苦しみながらも必死に生きようとする人間達で溢れていた。バケモノなんて居なかった。
それに気づけば、奴等を傷つけるための兵士を生み出す装置なんて造らせたくなくなった。知らないままなら出来たのに。
だけど、一度命令として出された以上、結果を出さなければ唯一残った家族の姉さんが殺されてしまう。だから、頼むしかなかった。
けど、その為に叫んだ言葉は嘘じゃない。この機械は奪うしか無いけど、造る技術はプラントに残る。そしたら一緒に働いた仲間達が楽になるはずだとも考えていた。
結果的に利用してしまった彼女へ決行日に謝ったけど、アレだけじゃ足りなくて。謝って謝って謝って謝って謝り続けて、いつかはもう一度、何の思惑もないあの頃みたいな友達に戻りたい。
ハッと意識が浮上した。腹が熱い。
直前まで考えていた事に可笑しくなる。走馬灯って本当にあるんだな。笑おうとしたら声の代わりにゴボリと血が出た。
まぁ、あれからどうにか姉さんのために命令通り動いてたら、守りたかったあの人は変貌する子供達を憐れんで直訴して、愛した子供に撃たれて死んだ。私はその後どうにか頑張ったけど、姉さんお気に入りの子が死んだと聞いて心が折れてこのザマだ。
もうすぐ死ぬけど、一つだけ救いがある。もうエクステンデッドは造られない。
どうにか意識がマトモだったうちに連合にある全てのゆりかごに破壊プログラムを仕込んだのだ。私の心臓が止まったら、全部機能を停止して自壊する。二度と起動しない。自殺はやっぱり怖くて出来なかったけど、コレでようやく償える。
ロアノークの所のは船ごと沈んだから無理だったけど、海の藻屑になってるならどうせ使い物にはならないから同じ事だ。
散々好き勝手人を利用し尽くしてくれたクソ野郎共よ、ザマァ見ろ。
恨み言はそれだけにして、先に死んだ姉さんに会えるだろうかと思いを馳せる。もうとっくに生まれ変わってるだろうか。それとも、列が長くて待機中か?
来世では、真っ当な保育士にでもなってるといい。今回みたいにブルーコスモス傘下なんてロクでもないぞ。
私は、そうだなぁ……うん、また看護師が良いな。子供達に散々酷い事したからお詫びに小児科医でも良い。それでさ、アイツと会って、絶対にまた大親友になるんだよ。あぁ、アイツもナイショで妹いるんだから四人でショッピングとか行こうぜ。ちょっと良いランチ食べてさ、流行の服とかメイク買いまくるんだ。絶対楽しいよ。きっと平和なんだから忙しくないだろうし。姉さんもフィーも優しいから気が合うだろうなぁ。嘘じゃないよ、必ず気にいるって。
あぁ、でも早死になんかされたら嫌だなぁ……生まれ変わるの待っててやるからゆっくり来いよ……
瞼がうんと重くなる。楽しい夢が見れる気がして、そのまま身体を預けていった。
「任務、ご苦労だったな。流石はミネルバだ。実力あるエースならアレに対処できる事が世界に知れ渡った。あの新型はこれ以上のさばらんだろう」
とは言え、もし出てきたら力無き者は蹂躙される。全体の練度向上に務めなければ。俺も久方ぶりに教鞭を振るうか。
口には出さぬまま呟けば、画面内の艦長が静かに礼を返してきた。
「あの機体の暴挙は一刻も早く止めなければなりませんでしたから。それで、ご用件とは?」
問われた内容に頷いて、上がってきた報告書に目を落とす。
──アークエンジェル並びにフリーダムがベルリンに出現。サジタリウス所属の随伴艦戦闘員が阻止のため会話を試みた所、目的は此方と同一。援護あり。インパルスが機体を撃破した後、移動。諸々の遺恨はあるが、今回は助けられたため追撃せず。
今度は隠す事なくため息を吐く。
俺も昔は軍属でない身で戦場を荒らしまわった過去があるが、それでもザフトと連絡は取っていた。作戦目的や相手の情報を知る事で出来る事が変わってくるからだ。もちろん最初は不審がられたが、プラントの利になると分かれば快く応じてくれた。なんなら要請が来る事もあり、随分と稼がせてもらった。
自画自賛する気はさらさら無いが、比べてアークエンジェルの彼等はどうだ?
今回、此方が会話しなければ何も言うつもりは無かったのだろうか。事前に知らせてくれれば、注意点等を共有する事もできたと言うのに。
愛弟子からの報告にあったザフトへの疑念はそれ程根深いのだろうか。眉を顰めるが、彼等が援護をしてくれた事は覆しようのない事実だ。
どうしたものかともう一度息をこぼす。既に提出した作戦は承認された。実際、いつまでも好きにさせておく訳には行かないのもまた事実だ。重大な作戦が続く今後、不安の芽は摘んでおきたい。息を吸って、口を開いた。
「アークエンジェルとフリーダムの事を聞きたかった。彼等は敵だと思うか?」
問うた先の女艦長が、静かに目を見開いた。