ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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責務の名前

 

「改めまして、お集まりいただきありがとうございます。これより極秘会議を始めます。

 大丈夫だと思うけど、まずは確認な。ミネルバの次回任務内容聞いた? 聞いてたら手あげて」

 

 堅苦しい口調の後、いつものおどけた雰囲気でなされた問いに俺とシン、ルナマリアの手が挙がる。トライン副艦長を通じて集まるように頼まれたのは先刻の事だ。俺達を集めたラーナスがこちらを見まわして小さく頷く。

 

「よし。来てもらった理由も知ってる? グラディス艦長から要請があった。作戦中、アスランを大人しくさせて欲しいって。

 大人しくさせておくかどうか以前の問題がある。一つ、正直に答えてほしい。過信は無し、謙遜も無しで頼む。

 前大戦の英雄フリーダムと、不沈艦アークエンジェル。お前達だけで倒せるか?」

 

 親に疎まれたという黄色の目がこちらを真摯に射抜いてきた。眼を逸らさないまま思考をまわす。

 

 あの作戦が開始すれば、これまでアークエンジェルと対峙してきた時と大きく違ってくる。

 

 いつもは突然現れる彼等に咄嗟の対応を強いられてきた。しかし、今回はこちらから仕掛ける。不幸中の幸いとでもいうべきなのか、介入によってフリーダムの動きに関してデータが溜まっている。数が少ない前大戦時のものと合わせれば分析すればかなりの数だ。

 ミネルバには情報のエキスパートのメイリンがいる。彼女の協力を取り付けてそれらを解析すれば確実に勝利できる。そのための鍵は既に得ていた。

 

 苦い結果に終わったクレタでの戦いの最中、俺は機体よりも攻撃手段となる兵装ポッドを狙われる事が多かった。必死に動かして回避させつつムラサメやミサイルを撃ち落としながら気づいたのだ。

 

 どういう訳なのか知る由も無いが、キラ・ヤマトはコクピットへの攻撃を避けている。それなら最適な機体がある。

 その扱いで右に出る者は存在しないとカーペンタリアを発って直ぐの頃からアスラン直々のお墨付きをもらっている親友が勢い良く首を縦に大きく振った。

 

「俺のインパルスならやれます。準備は必要ですけど。あれなら武器や手足をやられてもフライヤーやシルエットを交換すればダメージを無かった事に出来る。フリーダムを相手にしたシミュレーションのデータ入力はメイリンにお願いしてやってもらってます。

 あの人にはステラを救ってもらった。もしあの日、後先考えないで地球軍に返してたら、ベルリンのデカブツに彼女が乗せられてたかもしれない。そしたら、また知らずに戦ってた。俺はそうならなかったのに、敵だから戦えなんて言えません。

 フリーダムは俺がやります。一度ならず二度までもアスランに大事な人を討たせるなんて真似、絶対にやらせてたまるか」

 

 アスランに必ず恩返しをするのだとシンは折につけて言っている。その願いがようやく果たされる機会がやってきた。ステラ達が生きて明日を迎えられているのは俺にとっても喜ばしい事だ。

 また、俺自身も常日頃から様々な事を教わっている。上官として義務の範疇だと切り捨てるにはあまりにも受け取った知識は多い。

 先程思い返したクレタの戦いでもミサイルの対処やフリーダムの抑え込み等、随分と助けられた。受けた恩は返したい。

 

「シン。フリーダムの対策なら俺も付き合おう。作戦が開始してアークエンジェルと会敵したら、お前の戦いの邪魔立てなどさせはしない。ルナマリア、手伝ってくれるか?」

 

 もう一人の同期に声をかければ、見ているこちらまで勇気が湧いてくるような力強い笑みが浮かべられた。

 

「何言ってるの、当たり前でしょ。私だって、アスランさんにあんな苦しそうな顔これ以上してほしくないわ。

 大丈夫です、ラーナスさん。やれますよ! だって私達、アスランさんにうんと鍛えられてるんですから!」

 

 呆気に取られたように瞬きを繰り返す黒髪の彼にもう一度力強く頷く。美しい黄色の眼が弧を描き、感慨深そうにため息がこぼされた。

 

「お前達、ほんっと成長したなぁ……初めて会ったあの時の俺に言ってもちょっと信じられないかも。

 アスランにキャンキャン噛みついてたやつと、何考えてるか読めなかったやつ、デリカシー皆無のお転婆達が一丁前にアスランの事気にかけてくれてるなんて……本当に立派になったな。

 そうだ、全部終わったらアスランに今の聞かせてやっていい? きっとアイツ、泣いて喜ぶよ」

 

 ワシャワシャと順番に頭が撫で回される。少し驚いたものの、スキンシップは嫌いではないので大人しく受け取っておく。最後のルナマリアには肩を叩くだけにしようとして催促されていた。

 手を離したラーナスが嬉しそうな顔で提案してくる。常日頃から跳ねている髪がよりボサボサになったシンが苦笑いした。

 

「良いですけど、作戦成功してからそういうのは言ってください。俺達調子乗っちゃいますよ? 

ていうか、第一印象そんなだったんですか……」

 

「大丈夫大丈夫。本当に調子こく奴はそんな事言わないから。

 悪い。もちろん今は真逆だよ。

 いやだってお前、あの頃の自分振り返ってみろ。インド洋での話聞かない猪突猛進っぷり、酷かったぞ? これも今だから言うけど、久々に家の役割に基づいて行動して、アスラン止めないで殴らせようかとちょっと思った。時間経ってるからこそ良い笑い話に出来る」

 

 

「……うわ、はっずかしい……やめてくださいよ、今思い出したら黒歴史です……あの時はすみませんでしたって……!」

 

 おどけたような口調で言われたとおりに昔を振り返ったのか、シンが痛いところを突かれた時の顔をして項垂れた。ルナマリアがその肩をポンポン叩く。

 

「諦めるしかないわ。私もだけど、あの時のシンがお子ちゃまだったのは本当だし、今は皆頼りにしてるから。

 それよりラーナスさん。家の役割って、一体なんなんです?」

 

 気になっていた言葉について言及してくれた。少しだけ引っかかっていたので助かる。

 

 彼はアスランの従者だ。いつだったか、護衛や外部交渉が主な業務だと言っていた。俺達との付き合いまで外交扱いするような人ではないのは知っている。あの時のアスランを制止した事に従者の仕事は関係ないはずだ。 首を傾げたまま見ていると、困ったような顔をされた。

 

「あー、そこ気になる? まぁ、外に隠さなきゃいけない決まりも無いから良いか。

 俺達みたいに古くから仕えている家は、その家ごとにザラに対する役割が違うんだよ。

 護衛業務と秘書業務っていう専門分野の違いなんかじゃない。ザラの何を護るために動くのか。ザラ家の何を重視するべきかが決定的に俺と姉さん達じゃ異なる。

 俺のファリアスはザラ家の当主の意思、願いを最優先。そのためなら何だってやるよう教えられてる。

 俺の先代はそこら辺バカ真面目でさ。普段は損得勘定のみで動いてるのに、パトリック様に頼まれたらどんな事でもホイホイやってた。その結果、あの人の墓さえ大っぴらに建てられない。

 姉さんとこで育ったのとそんな反面教師の存在もあって、今じゃミドルネームで形だけ残してほぼ形骸化させてる。アスランがヤバくなる事分かってて止めないなんて馬鹿みたいだろ?」

 

 そんな役割があったとは。目を丸くさせていると、今は違うと否定された。確かに、その先に破滅しかないと知っていながら忠言の一つもしないのは良くない事だ。頷けば笑って言葉が続けられた。

 

「ま、俺の役割は置いといて、お前達でやれるなら安心だ。アスランを大人しくさせる道理と手段は揃ってる。そこは心配しないでくれ。俺も久々に出るから、作戦ではよろしく頼む。忙しい中わざわざありがとな」

 

 立ち上がった彼が頭を下げてきたのに慌てて返す。顔を上げたシンが口を開いた。

 

「こちらこそありがとうございます。良かったらこのまま一緒にミネルバ帰りましょ。ラーナスさん、合流してから全然来てくれないじゃないですか。どうしちゃったんです?」

 

 問われた先、黒髪がサラリと揺れて苦笑された。

 

「ごめんごめん。合流して直ぐの時に部屋行ったら馬に蹴られて殺されそうだったんだよ。こっちも居心地良くってついそのまま……アイツ、カノジョと離れてから大丈夫そう? 初手からしてアレだったから、悪化してないか心配で」

 

「ちょっと落ち込んじゃってる時もありますけど、元気ですよ。カノジョさんとメール毎日最低三回送り合ってるらしくて、ヴィーノが羨ましがってました」

 

 シンが答えたアスランの様子に一つため息がつかれた。初手と先程言っていたが、なにかあったのだろうか。

 彼がミネルバに来る前、アスランと初めて会った後のミーアにどうだったか聞いてみた。私達と同じ普通の人だったわと笑って答えられ、特別な情報は得られなかった。

 不思議に思って訊ねれば、遠い目で答えられる。

 

「初対面のその次が問題なんだよ。姉ちゃんに護衛頼んだ。無意識だろうけど、俺達より歌姫さんの優先順位が高くなったって事だ。そうじゃなくても会わせるってことはいきなり親族に紹介するのに等しい。何段階かすっ飛ばすにも程があるだろ……

 そんな訳で初対面から好感度高かった。その上でトドメにセイバー落とされた時に全速力でこの船飛ばした俺より速く来てアスランに付きっきりだ。向こうも好いてくれてるのは知ってたけど、あそこまでとは嬉しい誤算だった。 その分離れてから俺の見てないところで不安に駆られて暴走してないかと思ったんだけど、大丈夫そうなら何より。

 お言葉に甘えて久々に向こうの部屋で寝るとしようかな。話したい事もたくさんあるし。

 そうだ、作戦に必要な物があったらどんな手を使ってでも用意するから何でも言ってくれ。とりあえずコレ渡しとく。フリーダムの設計図、正真正銘本物な。構造上無理な動きとかあるから、そこからも対策練れるだろ」

 

 楽しそうに笑った彼から、先の大戦での最重要機密がついでのように渡された。受け取った紙を丸めようとしていたシンがヒェッと悲鳴をあげる。皺が出来て見づらくなってはいけないから必死に伸ばす。ルナマリアが反射的にシンの頭を叩いてその場にあったクリアファイルを押し付けていた。書類を入れ終わって全員で大きなため息をつく。俺達の反応を見ておかしそうに笑い声をあげた彼に続いて部屋を出た。 考えるのは集まる切っ掛けとなったアスランの事だ。

 

 先日ミーアに贈ったペットロボからも分かるように、彼は大切な相手に対する執着心が人並み外れている。キラ・ヤマト達に対するその感情が薄れていて、説得が上手くいく事を心から願った。今は何をしているのだろうか。どうか束の間だけでも良いから心穏やかに過ごしていてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでね、ジュール隊長ったらとっても良くしてくれたの! 私に何かあったらアスランに殺されるなんて冗談言ってて。意外と面白い人なのね? 

 そうそう、ディアッカさんから聞いたんだけど、アスラン、アカデミーでもこの前みたいな勝負たくさんしてたんでしょ? 良いなぁ、私もアスランと一緒に学生生活おくってみたかったわ。二人で登校できてたら、月曜日も待ち遠しくて仕方なかった」

 

 本心から思わず言ってしまうと、嫌そうなため息が受話器から聞こえてきた。

 

『絶対に嫌だが。軍学校だぞ? 万が一そうだったとしても男子寮と女子寮は距離がある。一緒に登校は出来なかった。

 それにしても、随分と世話になったようだな。二人には俺からもしっかり言っておく。特にディアッカには』

 

 一見にべもなく聞こえる返事を読みとくのもすっかりお手のものになった。危険な目に遭わせるのが凄く嫌なんだろう。態々名指しにされた相手に不思議に思ってつい訂正する。そういえば二人とも、アスランの前で自分達をファーストネームで呼ばないようにって別れ際すごく言ってたけど、何かあるのかしら? 

 

「ちょっと、ジュール隊長の方がお世話になったわ。あと赤服の方。シホさんって言う人なんだけど、知ってる? イザークさんが好きみたいだったから、たっくさん恋バナしちゃった!」

 

『へぇ? その話、詳しく聞かせてくれるか?』

 

 嬉しくなって色々話す。お互いの好きな人のここが良いとか、あそこも一見ダメに見えるけどやっぱり可愛いとか、そんな話をたくさんしたのをアスランに聞いてもらった。フォリィが淹れてくれた美味しくって喉にも良いハーブティーを一口飲んで車の外を眺めていると、大好きな人の髪と同じ色の尻尾が目の前で揺れた。外の様子が気になるみたいだけど、小さな足がフラフラ宙に浮いてて危ない。もらってからうんと考えて決めた可愛い子の名前を呼んだ。

 

「アスラン、少しだけ待ってくれる? レオ、お膝おいで! よしよし、良い子ね……ごめん、ちょっと窓枠から落ちちゃいそうだったから……」

 

『落ちるようには造ってない。今度会ったらちょっと貸してくれるか? 余計な事しないようにさせる』

 

 不機嫌そうなアスランがムッとしたような声で言った内容は大慌てで止める。

 

「ちょっと、ダメよ! こういう所も本当の子犬みたいで気に入ってるんだから! ごめんなさい、せっかくアスランと話せる時間だものね。今は人も居ないし、好きにさせておくわ」

 

「なら良い。それにしても、メールで教えてもらった時から聞きたかったんだが、なんでレオにしたんだ? 別に駄目な訳じゃないが、色合い的に獅子とは言い難いぞ」

 

 ホッとした声の後、不思議そうに質問が飛んできた。笑って理由を説明する。

 

「この子、可愛いのにいざとなったらすっごく強いでしょう? そういう所がピッタリじゃない? 何よりアスランと同じ音の何処かの国の言葉がね、ライオンって意味らしいのよ。流石に綴りは違うらしいんだけど。それ知った瞬間、もう絶対コレしかないって思ったの!」

 

 話しながら悩んでいた時に教えてもらった驚きと興奮が蘇ってきて、つい大きな声を出してしまう。ハッとして口を押さえて辺りを見回しても、広い車の後部座席には私一人だ。

 今はギルから大事な要件があると呼ばれてアプリリウスに向かっている。緊張をほぐすためにアスランとなんて事ない話がしたくて繋げたら、今時間ならあるよと優しく返された。柔らかい彼の相槌を聞きながら車内を見渡す。

 

 身体を優しく包むふかふかの座席も、頼む前に出てきた甘い飲み物も、あんなに必死にオーディションを血眼になって受けなくても向こうから舞い込んでくるお仕事も、全部私が“ラクス様”だから貰えるものなんだろうか。そんな事を考えていたら、不思議そうに私の名前を呼ばれた。我に返って慌てて返事をする。

 

「ごめん、大丈夫よ。少しだけ考え事しちゃってたの。ねぇ、アスラン。ラクス・クラインって、平和の歌姫って、なんなのかしら。

 ラクス様が居たから平和の歌姫って呼ばれるようになったの? それとも平和の歌姫にラクス様がなったの? いったい、どっちが先にあって大切なのかしら」

 

 思わず尋ねてしまった問いかけに、彼が息をのむ音がした。

 

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