ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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明かされる世界

 

「アスラン、だいじょうぶ?」

 

 真ん中に座って何にも言わずに見ていたアスランが下を向いて動かない。心配だから床にしゃがんで顔を見ようとしたら、画面を見ていたアウルがネオだ! って大きな声をあげた。気になってモニターを観る。

 

 大きな画面の中で、小さく見えてたアビスがこっちに近づいてきてだんだん大きくなっていった。ボロボロのまま浮いてたインパルスもカオスとガイアと三人一緒に帰ってくる。みんな無事にホッとしていると、声をかけたアスランが大きく深呼吸をして顔をあげた。なんだか変な笑い方してる。

 

「ごめん、大丈夫だ。ただ、それが……いや、なんでもない。側にいてくれてありがとう。これから俺はミネルバに、シンのところに行くけれど一緒に来るか? きっとアイツも喜ぶよ」

 

 シン。ベルリンの時も今日も怖いのを倒してくれた。シンだって誰かに守ってほしいはずなのに、守ってくれた。優しくてあったかい、守りたい大好きな人。嬉しくなって頷くと、アスランがナタルにお願いして橋を繋げてくれる。

 

 ニコニコしながら見てると、お部屋に遊びに行った時にシンがお話ししてくれた事を思い出したから袖を引っ張って教えてあげる。

 

「あのね、アスラン。お願い。シンのこと、もっと頼ってあげて」

 

 驚いたみたいにパチパチまばたきしたアスランが今度は変じゃない笑顔になった。

 

「これでも充分過ぎるほど頼りにしてるんだが……アイツ、まだ足りないのか」

 

「それ、ステラじゃなくてシンに言って。ちゃんとお話ししないとダメ。シン、くやしそうだった」

 

 困ったみたいな声で言うからムッってなる。お話ししないと分からないのに。シンが辛いのは嫌だからグイグイ引っ張ると、分かったよって頭を撫でてくれた。手を離して外に行こうとしたら、アウルとスティングはネオのお迎えに行くって着いてきてくれた。みんな一緒にエレベーターに乗る。アウルとスティングとお喋りしてると、アスランが小さく小さくすまないって謝るのが聞こえた。誰に謝ったんだろう。聞きたかったけど、シンがオススメしてた本の続きをスティングが話してくれたからそっちが気になった。

 

 

 

 

 

 閉じられた小部屋の中でバレないように肩を落とす。

 核爆発が起こっていないから、フリーダムのニュートロンジャマーキャンセラーが切られたのは確実だ。キラは生きている。

 

 気付けば入っていたシミュレーションルームでシンの特訓を見てしまった後に追いかけてきてくれたアイツが伝えてくれた言葉通りに成功したみたいだ。強くなっただけじゃなく、目的を見失わずに力を使えるようになった後輩には感謝してもしきれない。

 出撃前にステラの一件の礼だと押し切られたが、アレは姉様が関わっていたから俺にもメリットがあった。今回、シンには何の得も無い。大きな釣りが返ってきたな。

 笑ってしまいそうになり、何をしているんだと思考が止まる。未だ胸に残る寂寥感に囚われた。

 

 キラが生きているのが確実だと言っても、直接確認できた訳ではない。大怪我を負っているかもしれない。それだというのに苦しくなくて、ちゃんと呼吸ができることに愕然とした。以前キラを殺したと思った時には自分で自分が制御できないほどに取り乱したのに。もう人間らしく生きられない程に半身がごっそりと持っていかれたような感覚に陥って絶望したのに。今は大丈夫な自分が悲しかった。

 

 なぁ、キラ。師匠に守りたい者は何だと問われたあの日、お前の顔が直ぐには浮かばなかったんだ。カガリの顔も、ラクスの顔も後で浮かんできた。ほんの数ヶ月前だったら君達の顔が真っ先に浮かんで、姉様達ですら後から思い出していたはずなのに。

 

 一番初めに思い浮かんだのはお前が知らない子で、その次はまだまだ手のかかる可愛い後輩達で。さらに次は家に残ってくれた家族と、頑張って助けられた懸命に生きている小さい子達と、そのお父さんとお母さん。

 

 どうしてだろう。大切にしたいはずなのに、いつの間にか大事に出来なくなった。お前が大丈夫じゃないかもしれないというのに取り乱さずに他の事を考える余裕がある。いつからこんな酷い人間になったんだろう。

 

 自己嫌悪に陥りながらも、扉の開く軽い音を耳にした身体が勝手に足を動かす。そうして動けてしまう事すら嫌になっていると、胸ポケットに入れていた携帯が震えた。シンに何かあったんだろうかと足を止めて画面を開く。ちょうど会いたいと顔を思い浮かべていたミーアから、一番守りたい女の子から電話が来ていた。

 

 

 

「アスラン・ザラ? どうした?」

 

 私に気付かず機械のように歩いていた少年が突然立ち止まった。名前を呼べば慌てた仕草で振り向いてくる。手にされた携帯電話が震えていた。困ったように眉が下がっている表情で状況を察し、近くにあった空き部屋のロックを解除する。

 安堵の息をこぼしてからお礼の言葉と共に頭を下げて飛び込んでいった。扉が閉まる寸前、先に行っててくれと声をかけられたステラがコクリと頷く。呼びかけても反応がなかった数秒前までの彼を心配そうにみていたアウルが声をあげた。

 

「なに、アイツ? さっきまでなんか頭いっぱいって感じだったのに……変なの!」

 

「こら、アウル。敵対した相手が相手だ。今回は仕方がない。今のは恐らく外せない大事な電話だろう。誰かに聞かれたら困る類のものは彼のような立場だと有り得る話だ。

 ネオはもう帰ってきているが、彼を待つか?」

 

「はいはい。ラーナスも戻って来てるんだろ? なら大丈夫そうだし、かあさ……ナタルと一緒に行くよ。ステラはシンのとこ行ってやれば?」

 

 呼び間違いに気づいて照れくさそうにした後、手を引いてくれる。名前を呼ばれたステラはネオとも行くと笑って反対側に回ってきた。振り向いて頷いたスティングの後に続いて並んで歩く。

 些か不安だった少年の先程の様子を思い返す。画面を見た瞬間、一気に生気が戻り息を吹き返したようだった。あそこまでさせる相手とは誰なのだろう。僅かばかり気にかかったが、子供達に呼ばれて足を進めた。

 

 

 

 

 

「すまない、ミーア。遅くなった。どうしたんだ?」

 

「全然大丈夫よ、アスラン。私こそ急にごめんなさい。その、今から頑張らないといけなくって。だから、ちょっとだけ声が聞きたくなったの。それだけよ。しんどそうな声してるけど、どうしたの? 私、切った方がいい?」

 

 元気が無さそうなアスランの声が小さな部屋の中に響いた。心配だし、迷惑になるのは嫌だから切り上げようとしたら慌てた声で止められる。

 

「いや、切らないでくれ。俺も今ちょうど、君と話したかったんだ」

 

 思いもよらない言葉に嬉しくなる。つい弾んでしまう声で聞き返したら優しい声で本当だよって笑ってくれた。思わずはしゃいでしまうとアスランがホッとしたみたいに息をつく。そのままポツポツと独り言みたいに言葉が聞こえてきた。

 

「大切なものが無くなったんだ。なのに、思っていたより平気で。昔はあんなに大事で失くせなかったのに、いつの間にかアイツを犠牲にしていいぐらいに他のものの方が失えなくなってた。自分が平気なことが辛いなんて、変な感じだ。

 もし戦争なんて無かったら、今頃アイツとシンだってあんな事にならないで仲良くしていたかもしれないのに。俺が、あの時もっと上手く説得出来ていたら……あぁ、すまない。何を言ってるか分からないよな。忘れてくれ」

 

 珍しく弱音が聞こえたと思ったら我に返ったように声がハッキリしてくる。謝ってから無かったことにしようとしてきた。それが悲しくて断ってしまう。勘違いしてほしくなくて言葉を重ねた。

 

「嫌よ、忘れない。アスラン、辛い時には辛いって言っていいのよ。無かった事になんてしてあげないから。ちゃんと聞きたいの。それに、ちっともおかしくなんてないわ。それだけ大切だったんでしょ? 今じゃなくて良いから、いつかその人との思い出、私にも教えてね」

 

 もしかしたらキラって人に、フリーダムに何かあったのかもしれない。辛いだろうから何があったかは聞かないでおく。いつか話せる時に話してねって声をかけたら、小さく息をのむ音がした後に泣きそうな声でありがとうって言われた。気にしないでって返しながら、ギルから教えてもらった非道い人達の事がますます許せなくなる。

 

 ロゴス。お金儲けの為に戦争なんて引き起こした人達。今回ユニウスセブンが落ちた後の地球はたくさん被害が出た。その復興を後回しにして開戦した連合の信じられない行動もその人達のせいなんだって。他にも小さな子達をモルモットみたいに扱って、酷い事たくさんして戦争の道具に仕立ててるっていう話も聞いた。

 戦争なんて誰だって嫌なのに。こんなに苦しんでる人達の声が届かないのかしら。聞いても何にも思わないのかしら。余計に許せない。これからギルが始める演説で頑張ろうと想いを新たにする。電話の向こうの彼に呼びかけた。

 

「あのね、アスラン。私、頑張るから。はやく戦争が終わるように。もうすぐだから切るね。出てくれてありがとう」

 

「うん。俺も同じだ。だが、無理はしないでくれ。じゃあ、また」

 

 決意を伝えたら不思議そうな声のあと、私を気遣ってくれる優しい言葉が聞こえる。やっぱり好きだなぁと想いながらいつもの言葉を返そうとすると、こっちに聞こえてくるぐらい大きく息を吸ったアスランが先に名前を呼んできてくれた。

 

「ミーア! その……かけてきてくれてありがとう。本当に、嬉しかった。好きだよ、愛してる」

 

 初めて彼から先に言ってもらえた言葉が幸せすぎて泣きそうになるのを我慢しようとしてダメだった。折角してもらったメイクを台無しにしてしまう。心配かけたくないから声が震えないようにする。すっかり言い慣れてたはずの同じ言葉をどうにか伝えて電話を切った。

 

 扉を開けると、外で待ってくれてたフォリィが眼を丸くして見てきた。

 

「どうしたの、ミーア?! アスランったら、いったい何てことを……」

 

 早とちりして握り拳を震わせる友達に慌てて声をかける。

 

「違うわ、フォリィ。あのね、初めてアスランが私が言うより先に好きって、愛してるって……! うれしい……!」

 

 そのまま嬉し泣きしていると、パチパチ瞬きした側にいてくれるお姉さんがフワリと綺麗に笑った。良かったわねと優しい声で背中をさすってくれる。これまで生きてきた中で今が一番幸せで、思いっきり笑顔になれた。

 

 

 

 

 

 

 

「シン! おつかれさま! がんばったね、すごいね……!」

 

 家族そろって来てくれたステラが抱きついてきた。受け止めてお礼を言っていると、父さんよりも大きな手が頭の上に乗った。ネオさんがよくやったなって頭を撫でてくれてる。なんだか泣きそうな気分になっていると、何かの電源が入る音が聞こえた。

 天井に吊り下げられてる小さなモニターに艦長の顔が映る。全体放送なんて、いったい何だろう。驚いて見上げていると、珍しく戸惑った様子の艦長が口を開いた。

 

「今から議長がプラントから世界中に向けて緊急放送を行うそうよ。繋げられる機器全てで流すから、出来る限り全員聞いてちょうだい。メイリン、お願いね」

 

 きっと大事な話だ。大きな画面で観たいから近くのレクリエーションルームに行く。同じ事を考えた人は多かったみたいでレイとルナ、ヨウランとヴィーノ、エイブス班長も皆いた。なんとか一人分のスペースが空いてたからステラに座ってもらう。近くで立ち見しようとしたらシンも座ってってお願いされた。お行儀悪いけど床に座ろうかと思って辺りを見回す。何人かそうしてる人がいたから良いかなと腰を下ろした瞬間、ドアが開く音がした。

 ラーナスさんと並んでアスランさんが入ってくる。フリーダムが倒された後だから酷く落ち込んでるかと思ったのに大丈夫そうだ。俺がやった事だけれど気がかりだったので意外に思う。話したいけど何を言ったら良いんだろう。迷ってしまっていると背後に来たアスランさんがしっかりした声で話しかけてきた。

 

「お疲れ、シン。今回は本当に感謝してもしきれない。ありがとう。これからも頼りにしている」

 

 ずっと言って欲しかった言葉がもらえて嬉しくなる。大きく頷きながら、ステラがなんだか得意気にしているのが見えた。さっきまで一緒だったから何か言ってくれたのかもしれない。大好きな子の頭を撫でると嬉しそうに笑ってくれた。

 辺りが俄かに騒がしくなる。画面に映った真剣な顔の議長が口を開いた。

 

「全世界の皆さん。私はプラント現議長、ギルバート・デュランダルです。プラントと地球が争っている最中、突然このような放送に驚かれている事でしょう。申し訳ございません。ですが、どうか聞いていただきたい。平和を望む人間の一人として、今こそ皆さんに知っていただきたいのです。どうして未だに争いは続くのか、そもそも我々は同じ人類でありながら何故こうして刃を向けあってしまうのか。真に戦争の無い世界のために私達が戦うべき本当の敵について」

 

 聞き入りながら最後の言葉にハッとする。一度言葉を切った議長が悔しそうに眉を寄せてから口を動かした。

 

「先ずは、こちらをご覧いただきたい。各国の政策に基づいて流していないところも多い。未だ知らぬ方々も居られるでしょう。かなり刺激の強い映像ですので、ご注意ください」

 

 そんな前置きの後、あの日のベルリンの映像が流れる。映像とはいえ、あの機体がまた現れて街を焼いていく。皆の力を合わせて倒すことができたけど、誰かの故郷が受けた被害を悔しく思うのは変わらない。倒せたところで映像が終わり、再び議長の顔が映る。沈痛そうな面持ちで言葉が発せられた。

 

「ご覧いただいたのは、先日ベルリンに連合の新型巨大兵器が侵攻してきた際の映像です。地球連合に属しているユーラシアの都市を、守るべきはずの連合が何の勧告も為さずに焼き払ったのです。無論、住民の方々は避難が間に合わず多くの犠牲が出る事となりました。我等ザフトは直ぐさま対処いたしました。ですが、それでも失われた命はとても数え切れません……

 彼等の目的は支配からの解放という事でした。しかし、何の知らせもなく命を奪うことが解放だと言えるでしょうか?! 大人も、子供も! 何一つ世界を知らない赤ん坊まで炭と化した! 

 ……失礼いたしました。確かに、我々は地球連合に異を唱え武器を手に取りました。しかし、それは人ならば誰しもにある生まれ育った故郷を護りたい一心からです。故に、同じ思いを持ち連合やユーラシアから独立を望む人々には支援を行ってきました。戦いばかりの日々と決別し、ただ大切な人達と穏やかに生を重ねたいと願う方々と我々は手を取り合う事ができました。しかし、そうして私達と手を繋ごうとした西ユーラシアの人々を連合は許さなかった……!」

 

 途中で声を荒げた議長が呼吸を整えてから再度話し始める。あんなに酷い行い、誰だって怒って当然だ。頷きながら聞いていると、モニターには並び立つインパルスとセイバーが映った。

 懐かしいな、ガルナハンだ。コニールの奴、元気にしてるだろうか。辛い中でも懸命に生きてた女の子を思い出していると、また画面が切り替わった。

 

 映像を流してる間に移動したのか、星の髪飾りをした歌姫さんが議長の横に立っていた。本当の事を知らないヨウランやヴィーノがラクス様だ! って嬉しそうに声をあげる。真後ろで立ちっぱなしのアスランさんが大きく息をのむ音が聞こえた。まるでそれが届いたみたいに画面の中のあの人の恋人が真っ直ぐにこっちを見て声をあげる。

 

「今回の戦争は一部のコーディネーターが行った許しがたい大きな惨劇がきっかけとなって始まりました。確かに、それを止められなかったことは私達の責任です。そうして生まれた悲しみや怒りによる沢山の悲劇も、それによって誰かを泣かせてしまったことも決して忘れません。私も地球に行ってみなさんの想いをお聞きしたからこそ、そのお気持ちはよく分かります。

 でも! このままだといけません! 私達生きてる人みんな、大切なものを失った悲しみが奪った相手を倒しても消えないことを、戦っても虚しいだけだって二年前に充分思い知ったじゃありませんか! 

 私達プラントの人も、地球にいる人達も、もうこんな事終わりにしたいのに! どうして私たちの世界はこんな終わりのないことを繰り返してしまっているの?! 

 どうして? 平和ではいけない事情でもあるのでしょうか?! そんな訳ない、こんなにもみんなが望んでいるのに! 今の状況はまるで、戦え争えと誰かに操られているみたいじゃありませんか!」

 

 目を赤く腫らして真っ直ぐに言葉を放ってきた。アスランさんが俺でようやく聞き取れる程潜めた声で悔しそうにミーアと誰かの名前を音にした。

 呼ばれた名前を何処かで聞いた気がして思い出す。セイバーが落とされた後、アスランさんに護りたい人を尋ねたら誰よりも先に挙げられた名前だ。きっと今画面の中にいる人の本当の……思い当たった事に心の中で息をのんでいると、落ち着かせるように議長がその肩に手を置いた。

 

「そう。我等に戦いを強いる者が遥か昔から居るのです。それも、義憤や信念に駆られてでは無く、ただ自らの利益の為だけに! 

 戦え、殺せ、アレは敵だと常にそう叫び、我等を煽動する者が武器を手に取らせた。初めから争う必要がなかった敵が居なくなればまた新たな者を敵に仕立て上げ、討ち滅ぼせと指し示す! 何故か?! 戦争が終われば自らの懐に入る金が減るから。それ故に平和な世界にだけはさせまいとする! 今回の西ユーラシアの惨状も、さらに言えば先の大戦そのものすら彼等ロゴスの仕業でしょう。

 何故なら、我等コーディネーターを過剰なまでに忌み嫌うブルーコスモスも彼等が創り上げたものに過ぎません。その事をご存知でしたか?」

 

 突然の発表に室内がどよめく。とうとうロゴスの奴等の存在を議長が明らかにした。みんなザワザワ言っていると、モニターが何度目かの点滅をしてロドニアで観たラボの映像が映し出された。慌ててステラ達を見るけど、何ともない。それでも心配で手を握ったら嬉しそうに笑ってくれた。視界の隅で、ナタルさんが火傷の痕が残る手で反対の腕を軍服に皺ができるぐらい強く押さえた。ネオさんがその身体をそっと抱きよせる。映像が流れつつ議長の声が流れ出した。

 

「彼等は戦争を継続させる為ならば手段を問いません。非道な人体実験を行い、生命ある人を機械の部品のように消耗品として扱うなどという同じ人間としてあるまじき禁忌を犯しています。

 彼等の正体は、軍需産業複合体。死の商人であり、最初にお話しした平和を望む私達全ての人々が真に倒さねばならぬものです! 

 初めにお伝えしたとおり、誰一人の命も失われない本当の意味で平和な世界を心から私は願っています。彼等ロゴスはその実現を妨げるものです。故に、私は彼等を根絶するために戦う事を今ここに宣言いたします!」

 

 誰からともなく拍手が起こる。小さかったソレが段々と大きくなっていった。俺も感動したから手を叩く。戦争を、僕から家族を奪った戦争を起こすロゴスは悪い奴等だ。アークエンジェルみたいな事情もないし、心置きなく戦える。他にも人がいるのか、画面の中からも拍手の音が聞こえた。深々と頭を下げた議長が、少し眉の下がった表情で言葉を紡いだ。

 

「ありがとうございます。しかし、彼等はこの世界の現在のシステムを形作っている。協力してくれた方々によって明かされた、全ての構成員が此方となります」

 

 人の名前と顔写真がズラリとモニターに映し出される。俺でも名前を知ってる大企業の社長や会長がゴロゴロいた。驚きながら見つめているとまた議長の声が聞こえてきた。

 

「私は何も彼等に軍を差し向けるなどという馬鹿な真似はしたくありません。ただ、彼等によって戦わされるこんな世界はもうお終いにしようじゃありませんか。誰だって傷つけあいたいわけではないでしょう。我々は言葉によってお互いを理解し、歩み寄って生きていけます。戦い続けなければならない世界へ共に別れを告げようではありませんか!」

 

 議長が話し始めてから止まっていた拍手が勢いを増して再開される。鳴り響いた今度の喝采は暫く止むことが無かった。

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