「そう言えば、さ。お前の婚約者、だいぶ雰囲気変わったけど、久々に会ってどうだった?」
車内に入って暫くして、そんな質問が飛んできた。家の外部との関係に関して相当詳しいコイツまで聞いてくるので、盛大にため息をついてしまう。
「父上とシーゲル様の間で色々あっただろ。婚約は解消済みだ。まさか、お前まで知らない訳じゃないよな?」
先日のミーアの反応を見ると公には発表されていないらしいが、内部関係者は知っているはずだ。少し目線を険しくすると、苦笑と共に答えが返ってくる。
「婚約が解消になったのは、そりゃ知ってる。あれだけ両家が大揉めしたから解消が暗黙の了解だし、二人が本気だったら継続できたけど、まだそこまでの仲じゃなかっただろ?
ただ、お前らの婚約は普通の上流階級の政略結婚じゃ無い。対の遺伝子、プラントの希望……婚姻統制のプロパガンダとして、めちゃくちゃ取り沙汰されたからな。今の関係はどうあれ、婚約解消しました、って発表出来ないんだよ。
で、さっき聞きたかったのは、性格まるっと別人みたいに変わった彼女をお前がどう思ってるのかな、ってこと」
そうだったな、と納得する。彼女を守りたいという気持ちはあるが、父上にとっての母上のように、失って狂うほどの存在かと言われると違う。それだと、キラと彼女の今の関係を穏やかには見れないだろう。
それとは別に、婚姻統制に与える影響が大きいことも理解はしている。
まだ13だった俺とラクスを婚約させることで、幼い彼らも従っているのだから、と反発を収める目的もあったのだ。
それにしても、今の彼女…… ミーアをどう思うか、か。
「先日会う機会があった。…… 色々と変わったところはあるが、プラントの人々を想う気持ちは変わっていない。慰問活動に積極的に取り組むのは良いが、安全には十分に気をつけてほしいところだな。頑張りすぎて変に疲れないと良いんだが」
彼女がラクスで無いことに気付かれないように言葉を選んで答える。一拍おいて、そうかと楽しそうな声と共に車が加速した。
「着いたぞ。車出て廊下進んだら応接室だ。ボスも楽しみにしてる」
言われた通りに進みノックして扉を開けると、昔と衰えていない大柄の男性が出迎えてくれた。
「おぉ、よく来てくれた! 久しぶりだな、アスラン君」
「失礼します。この度はお忙しい中ありがとうございます。お久しぶりです、フェデラー代表」
頭を下げれば小さく笑い声が聞こえた。礼法は物心ついた時から叩き込まれているが、どこか不味かったかと恐々と顔を上げる。懐かしそうな顔で俺を見ていた。
「相変わらず真面目だな。流石はパトリックが手をかけただけある。代表と言っても私は発起人なだけだ。堅苦しく呼ばずにフェデラーさん、もしくはシモンさんで構わない。なんなら呼び捨てでもいいぞ。ラーナスと君は屋敷で仲が良かったと聞いていてな。本人の希望もあって迎えに行かせたが、驚いたか?」
はい、と頷くと、嬉しそうに微笑まれた。椅子をすすめられたので大人しく座っておく。向かいに座った彼は、さて、と前置きして口を開いた。
「今回、君の能力と人柄を買ってスカウト状を送らせて貰った。君は先の大戦を生き残った実力ある戦士だし、何より平和のために自ら考え、決断ができる。正に我々が欲しい人材だ。おまけに、メカニックとしても優秀だろう? 開戦前に書いた特許論文や製作課題を拝見する機会があったが、どれも素晴らしい出来だった。マティウス育ちの奴らが赤服を着ていなければ開発班に必ず入れていたとよく話していたしな。
君が知りたがっていたスカウト理由はこんなところだ。ところで、議長からも復隊を進められたと聞いたが本当か?」
随分と高く買われていることに驚く。プラントのハイスクール在籍時に書いたエネルギー利用論文を見たアマルフィ議員から、お褒めの言葉をいただいたことを懐かしく思いながら答えた。
「ありがとうございます。そのようなお言葉をいただき、光栄です。
仰る通り、デュランダル議長からも復隊のお誘いを頂いています」
そう言うと、軽く頷かれた。
「事実を言っているまでだ。君は本当に優秀な、パトリック自慢の息子だからな。
ザフトの件はこちらとしても都合が良い。ラーナスが話したかもしれないが、我がサジタリウスは兼業が可能でな。ザフトのようにカモフラージュとしての有名無実化した職で無く、ダブルワークの形となる。君の負担にならなければ、是非とも入ってくれると嬉しい。その際はザフト兵との兼業をこちらからお願いしたい。
今後はザフトとの共同作戦が主だろうから、普通にザフトの一員としてプラントのために励んでもらうだけで構わない。デュランダルとの交渉は私がやるし、優秀な人員は確保しておきたいからな、許可も出るだろうから、受けてくれるか?」
お願いされるとは思わなかった。後ろにいる幼馴染も言っていた通り、それが、プラントの利益になるのだろう。喜んで励みたいとも思うが、懸念事項がいくつかある。口を開こうとした時、乱雑に扉が開けられた。
「失礼致します!! シモンさん、よろしいですか!!
オーブに、フリーダムが現れました!!」
信じられない情報に耳を疑う。先程の好々爺然とした雰囲気が消え去ったフェデラーさんが声を張り上げた。
「なんだと!!? デュランダルに今から向かうと連絡を入れろ!!
アスラン君も来い!! …… ラーナス、連れてきてくれ。ジュリアス、連絡助かった、車とシャトルの運転を頼む!」
呆然としていると、後ろから腕を捕まれ、元来た道を引き摺られていく。
「おい、アスラン! ボーッとするな!! お前あっちの陣営いたんだろう! フリーダムのこと、話してもらわなきゃ困る!!」
怒鳴り声が頭に響く。思わず腕を振り払っていた。
「知らない、何を話せって言うんだ!! あの機体は、フリーダムは、回収したけど機体も半壊してて、キラは無事だったけど、まともに使える状態じゃなかった!! なんで今オーブにいるんだ!! 俺が、僕が聞きたい!」
あの機体は、ラクスがキラに与えたフリーダムは、ヤキン・ドゥーエで探し回って見つけた際、ボロボロになっていた。直されたなんて話は聞いていない。あのまま分解され、廃棄されたものだと思っていた。
訳が分からなくてボヤけた視界の中で、黒髪の兄が唖然としているのが見える。知っていると思ったんだろうな、と少し悲しくなると、優しい声が聞こえた。
「そっか、お前が知らないってこと、知らなかったんだよ。怒鳴って悪かった。だから落ち着け? とりあえず、議長のとこなら詳しい情報入ってるかもしれないから、一緒に話聞きに行こう、な?」
よしよし、と頭を撫でられる。ふと、うんと小さい頃の記憶が頭をよぎった。家の庭を探検中に二人で迷子になって、不安で泣いていた時に慰めてくれた兄との思い出と今が重なって思えて、意識が遠くなっていった。