集まりゆく力
「あれからロゴスだと名指しされた企業は軒並み不買運動と取引停止。社員さん方もボイコットにサボタージュ行ったうえ、出頭しなかった社長達を捕縛。今逃亡してる人は数える程で指名手配中ですか。凄いですね……確か、制裁から逃げおおせてくれたロゴス幹部の皆さんは何処かに集まって籠城中でしたっけ?」
ニュースを観ていた姉様が感嘆したように呟いてから問いかけてきた。淹れてもらったお茶に口をつけつつ頷く。
「地球軍の本部でもあるヘブンズベースに潜んでいるそうです。引渡し要求と降伏勧告が既に為されました。聞き入れてくれると良いんですが……それにしても人々がこうも積極的にロゴスを排斥するとは驚きました。彼等の指示で動いていた地球軍まで反旗を翻すとは」
ロゴスの彼等は軒並み大企業の経営者だったため、いきなり排除に動けるのかと不安に感じていた。しかし、ニュースや新聞で報道されている先程の流れのように民衆は自ら進んでロゴスを世界から追い出している。無論これ以上戦争へと駆り立てられない為には良い事だが、こうも迅速だと驚きが勝る。ここジブラルタルだけでなく、ディオキアやカーペンタリアでもロゴス打倒のために入港してきた元地球軍の受け入れに忙しいと聞く。つい素直な気持ちを口にしてしまうと目の前の姉様が昔から変わらない優しい微笑みを浮かべた。
「演説でミーアちゃんも言ってた通り、誰しも平和な世界を望んでますから。戦争をさせようとするロゴスの存在を知ってしまった以上、そんな企業にお金なんか誰だって払いたくないですよ。地球軍の人も真実を知って敵対するほど私達コーディネーターが憎いわけではないようですしね。
確かに大企業が潰れたから何処も無害とはいきません。私は社長から内密に聞いて発表前から動けていたとはいえ、新規取引先探すのには苦労しました。いきなり知らされた他はもっと今必死です。何人か競合先の知り合いが泣きついてきました。
でも悪い事ばかりじゃ無いんですよ? ロゴスという大木が倒れたことで日の目を見れた中小企業がグングン成長してます。良いところが沢山あって、今まで邪魔されてた仕返しみたいに勢いが凄いんです。ロゴス企業の社員さん達に罪は無いですから、そういった所にヘッドハンティングされてるそうで何人か知ってる方が新しい所で再会が叶いました。
こんな風に大勢の人が動いてるって事は、世界が変わろうとしてるんです。何人かが必死に頑張ったって世界全部は救えないんですよ。その数名が潰れたらそこまでです。変えたかったら、こうやって抜本的なシステムを変えるしかない。その為には皆さんに動いてもらうのが一番です。だって、世界は誰か一人で動かせるんじゃなくて皆で形創るものでしょう?」
幼い頃によく聞いたあやすような声でたくさん話してくれた。少人数では変わらないという言葉は患者が急増して必死だったという時期の経験に基づいているんだろうか。気になったが聞いて良いものか迷っていると、すっかり聞き慣れたメイリンの声がカウンセリングルームのスピーカーを鳴らした。
「アスラン・ザラ、シン・アスカ、レイ・ザ・バレル。以上三名は至急ジブラルタルの発着ゲートにお越しください」
急な指示に立ち上がる。話を聞きながら飲み終わったハーブティーのカップをソーサーに置いてから一礼して部屋を出た。
「アスランさん! なんか聞いてます? 急な呼び出しなんて……」
発着ゲートに着いて待機していると、仔犬のようにシンが駆け寄ってきた。その後ろからレイが来るのも見える。二人の姿に思わず口元が綻ぶのを感じながら問いかけに答えた。
「ラーナスが俺の機体がやっと着くと今朝から上機嫌で出かけていったからな。俺が呼ばれたのは分かるんだが、お前とレイまで呼ばれた理由は分からない」
「え、やったじゃないですか! おめでとうございます! アンタ、出れなくてずっと悔しそうだったから良かった……どんな機体なんでしょうね?」
目の前の後輩が自分のことのように嬉しそうに破顔した。俺よりも楽しみにソワソワとし始めた様子を眺めていると、微笑ましい気分になる。追いついてきてシンから話を聞いたレイからも良かったですねと柔らかい声で言われた。感謝の言葉を返していると、強い風が吹く。
着陸したシャトルから人影が降りてくるのが見えた。頭を下げて歓迎の姿勢を取る。一瞬戸惑った声を上げたシンが俺とレイに倣うのが見えて心の中で苦笑してしまう。後で礼法を教えておくとするか。覚えておいて損はない。どこまで習わせるか考えていると、俺の前で人が立ち止まった気配がした。長い髪が視界に入った瞬間、目を見開いて勢い良く顔を上げる。先日思わず告白してしまったミーアが勢い良く抱きしめてきた。
「アスラン、会いたかった……!!」
驚いたのか固まった一瞬の後、心底幸福そうに笑って抱きしめ返した旧友の忘れ形見が私と議長に気づき、慌てて敬礼をとった。恋人と身体を離した刹那、心なしか不愉快そうに眉が寄せられたのは見間違いでは無いだろう。楽にするよう議長がやや楽し気に返すのを眺めながら、内心で大笑いしてしまう。全く、レノア女史と付き合い始めたばかりのパトリックそっくりだ。
もう十年以上前の話だ。いつもは一番に来るはずのアイツが集まりに来なかった。大慌てで居場所を聞いて迎えに行ったら逢引き中だった。渋るパトリックを諭してくれた彼女に礼と詫びを入れて車に乗り込ませてから会議が終わった後迄も、折角逢えた時間を割かねばならなかった事に延々と恨み節を言われた。
今となっては懐かしい思い出だが、当時はその執念に辟易した事も鮮やかに甦る。家族も帰るディゼンベルのザラ本邸に人が滅多と呼ばれなかった理由は安全のためという用心深さも確かにあるが、妻を見せたくない嫉妬心と独占欲が主たるものだ。個人的な付き合いもなく旧友に対してあれこれ評価をしている人々が知ればどう思うのだろう。
そんな事を考えながら、あの日から一番会いたかった相手のところに向かう。アスランと歌姫の仲睦まじい様子に顔を赤らめている彼の肩を叩いた。
「シン・アスカ君。一度ディオキアで顔を合わせたが、覚えてくれているかね? サジタリウス代表、シモン・フェデラーだ。先日のインパルスによるフリーダム撃破、心より御礼を申し上げる」
自分より数回りも歳下の少年に深く深く頭を下げた。
「え? ちょっ……フェデラー代表? 頭上げてください……俺、何も感謝されるような事はしてません……!」
突然話しかけてきたフェデラーさんに深々とお辞儀をされて慌ててしまう。困ってしまって辺りを見回せば眼を丸くしたミーアさんの横でアスランさんがしっかりとした頷きを返してきた。テレパシーが使えるわけじゃないんだから、それだけじゃ分からない。途方に暮れていると、顔を上げた髭のある人が強い光を宿した眼を少し伏せて首を振ってきた。
「いいや。あの戦闘は大きな意義のあるものだった。バッテリー駆動の機体で忌々しい核動力機を下したのだ。セカンドステージの機体が戦闘場所によっては上回る事は理論上示されていたがね。実際に成果を聞くと救われた思いになった。
確かにアレを使えば思考を凝らさずとも簡単に無限のエネルギーが得られる。だが、それで負けてしまっては核汚染の危険性を持つデメリットしか残らない。そんな機体を造ろうとはもう誰も思うまいよ。
君はアレが蔓延った世界が訪れてしまう可能性を無くしてくれた。本当に感謝してもしきれない」
もう一度頭を下げられる。いつだったかラーナスさんに、ボスの核嫌いはユニウス遺族の中でも群を抜いていると聞いたのを思い出す。核を燃料に動くフリーダムは存在するだけで心穏やかじゃなかったんだろう。なんとなく分かる気がするけど、軽々しく分かりますとは言えない。なんて返せば良いんだろう。迷っていると、顔を上げた代表が三度目のお礼を言って節くれだった大きな手で頭をポンポンと叩いてくれた。お爺ちゃんが居たらこんな人だったのかな。なんとなくそう思っていると、議長が近づいてきた。
「本当に良くやってくれたよ、シン。今日は君とレイに渡したいものがある。運び込みも終わったから、下に降りるとしようか」
全員でエレベーターに乗り込んで、身体が少し浮いてから沈み込むような独特の感覚に陥った。仲良さそうだなぁとアスランさんに寄り添ったままのミーアさんを何気なく見る。彼女の横に居る人が怖い眼で睨みつけてきた。
みどりのめをしたかいぶつ。学校の図書館に置いてた古い演劇の台本で嫉妬の象徴とされていたソレを思い出してしまっていると、議長の声が狭い箱の中に木霊した。
「先程フェデラー代表のお話にあった通り、セカンドステージでは戦う場所を選ぶ事で核動力を上回るバッテリー機を実現できた。今回ロゴスとの戦いの為に開発したサードステージは、アスランが以前書いたバッテリー利用の論文が基となっていてね、私達プラントが誇る技術者達の尽力もあって核にも劣らない出力と武装の充実が実現できた。ユニウス条約が形骸化している今、バッテリー機でやる必要があるのかと思われるかもしれないが。これはフェデラー代表の強い意向もあり、同時にプラント市民の強い願いも込められている。
核は手軽な強化パーツ等では決してない。これ以上は何があっても使われてはならないものだ。故に、これらの機体に私は大いに活躍してほしいと考えている」
エレベーターが止まって扉が開く。三機のモビルスーツが並んでいた。一番奥の機体のところにいたラーナスさんが、さっきアスランさんとレイがしてたみたいに深々とお辞儀をしてきた。俺もああいうの出来た方が良いのかな。そんな事を思ったのも束の間、やっぱり目の前の機体に目がいってしまう。 こっちを見た議長が笑みを浮かべて口を開いた。
「やはり一番眼を引く中央の機体から紹介としようか。
ZGMF-X2T、デスティニー。インパルスのデータを参照して造られた機体だ。火力、機動力、防御性能、全てにおいてインパルスを上回る最強の機体と言っても過言ではない。シン、君に合わせた調整が成された君のための機体だ。
その手前がZGMF-X3T、レジェンド。レイ、君の機体だよ。先の大戦で奮戦したプロヴィデンスのデータを元に彼の使っていたドラグーンを量子インターフェイスの改良によって新たなシステムで搭載している。どうだろう、気に入ってもらえたかな?」
レイが感慨深い口調でラウの、と呟くのが聞こえた。俺も自分のための機体という言葉でとても嬉しくなる。
ベルリンの戦いの最中に全部合わせたシルエットがあったら良いなんて思ったけど、あの時考えてたのよりも凄いのが来た。
議長の問いかけに大きく頷いてレイと一緒にお礼を言う。思わずニコニコしてしまっていると、アスランさんが優しい眼で見てくれてるのが視界に入ってなんだか照れくさくなる。
こっちに来たラーナスさんが議長に丁寧な挨拶をしてからフェデラーさんに頷いた。俺に眼をやった後はすぐさま恋人に視線を戻したアスランさんの名前が呼ばれて、ゴツゴツした指が奥の機体を指し示す。
「奥の機体がPGMF-X1T、エルピス。元はサジタリウスが主導で開発していたが、ザフトも協力してくれた。言わばプラント全体で造ったアスランの専用機だ。先程議長が話した二機の先行試作にあたる。近接特化の機体でな。とはいえ、流石に遠距離武装がビームライフルだけでは心許ないとザフトの天才が打診してきてな。後付でリフターが開発された。セイバーに載せてあったフォルティスの改良版を積み込んである。詳細はラーナスから聞いてくれ。設計からほぼ全てに関わっている」
確か、ギリシャ神話の希望の女神様だったっけ。ジャスティスも女神だったしこの人縁あるなぁと見つめていると、フェデラーさんにお辞儀してお礼を言っていた。
解散を告げられて真っ先に恋人とエレベーターに二人きりで上がっていく人を見送る。本当に大好きなんだなと思いながら、同じ事を思ったのか苦笑している人に駆け寄った。少しだけ気になる事を聞く。
「ラーナスさん、なんでアレ、ジャスティスの名前付けなかったんです?」
エルピスの武装はリフターとかジャスティスを思わせる装備もある。その事も相まってか、全体的にジャスティスの発展版って雰囲気が何処となくするのに。見つめた先の黒髪の人が、アスランさんがいるであろう上に目線をやって答えてくれた。
「まぁ、ザフトの開発班からもジャスティスのリベンジって事で是非とか早口で言われたんだけどな? 完全に俺個人の願掛けみたいなものだよ。ジャスティスの名前を付けたら、またアスランがアイツらの所に行っちゃいそうな気がして嫌でさ。あ、コレ絶対に内緒で頼む。
そうそう、お前達の専用機のデータもシミュレーターに入れてある。今日から解禁だからやり込んで慣れとけ。セカンドシリーズより性能が段違いだ。予算の都合とはいえ、この三機だけなのも頷ける。
俺、ジェミニにビームシールド付ける事にしたからさ、まだ此処にいる。先行ってていいよ」
思ってもない理由に驚いたけど納得する。オーブには言霊なんて言葉もまだ残ってるぐらいだ。願掛けしとくのは悪い事じゃない。
この人がやっと盾を持ってくれる事に安心する。エンジェルダウンで近くにいたルナが回避が凄かったけどヒヤヒヤしたってちょっぴり困ってたから。でも、なんで急に? 思い切って聞いてみると、頭を揉みくちゃにされた。
「お前達のおかげだよ。アスランのピンチに駆けつけてやれるのは俺だけじゃないって信じられたから。ちょっとだけ速度落としてもアリかなって思えたの」
嬉しそうな笑顔で言ってくれた言葉に、心があったかくなった。
お読みくださりありがとうございます。
デスティニーとレジェンド、動力周りを変えたので認識番号を少し変更してます。