ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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天使のいる場所

 

「まさか我等の存在が世界中に知られてしまうとは……

 やはり開戦を急ぐべきでは無かったのだ。被害の復興で利益を得た後で良いと言ったではないか……! 君の責任だぞ、ジブリール! 一体どう贖ってくれる?」

 

 大嫌いなやつの血縁が此方を非難してきた。全く、ここまで来ると笑いそうになる。どいつも本当に都合の良い事だ。破損したモビルスーツの修繕費や新造で自分がつい数日前まで大儲けしていたのを忘れたのか? 私以外の全員、耄碌したなら引っ込んでいろ。

 

 此方を睨んできている女はいつも渋い顔でこっちに文句を垂れながらも文化財の補修に人を手配させて名声を欲しいままにしていた。呆れたようにため息をついてきた彼方の男は兵士の治療に必要な薬剤を誰彼構わず高値で売りつけて大儲けしていた。戦争を煽っておいて都合が悪くなれば他人のせいにする。お前達も同罪のくせに。

 

 怒りがそのまま口から出そうになるが必死に堪える。既に私達の居場所は此処だとバレている。充分な猶予を持って為された投降勧告の期限は残り数時間だ。今から仲間割れして内憂外患は目も当てられない。無いとは思うが万が一の場合はコイツら全員囮に逃げてやる。私だけ脱出する算段を脳内でつけながら自信を持って宣言した。

 

「責任なら今から取りますよ。私達を捉えにやってくるデュランダルを返り討ちにしてやります。あり得ないでしょうが仮に奴等が勝ったとて、人の欲望は止めようが無い。世界のシステムは変わらない。せっかく築き上げた今の位置を取って代わられるのは皆お嫌でしょう? 

 ここなら空からやってくるアイツらを蜂の巣にできるニーベルングがある。ベルリンを焼き払ってくれたデストロイも量産できました。パイロットはあの時同様使い捨てですが、また造れば良いだけですよ」

 

 ベルリン以降新型の調整装置が使えなくなったらしい。白衣の男が何やら喚いていたが理由に興味は無かったので忘れてしまった。エクステンデッドが出来なくなったのは痛いがクスリさえ投与すれば強化兵としては問題が無いため、ブーステッドマンとして出力重視で再調整させた。いずれにせよこのまま果てるのを待つ命だ。せっかく造ったモノは有効活用しなければ投資が無駄になる。今回ので失われてもあの技術なら以前のように民間人や非戦闘員を新たな兵士に仕立て上げるなぞ造作もない。

 今後のスケジュールを組み立てながら手元の端末で司令官に命令を授けた。

 

「先手必勝だ。ミサイル全弾装填、ニーベルングの用意を大至急でやれ。奴等の船が見えたら即座に撃て。あちらが定めた時刻など待ってやる必要が何処にある? モビルアーマー、モビルスーツも全機発進用意!」

 

 敬礼すら無く通信が切れたが、眼下は慌ただしく動き始めた。またしても小煩い奴等が文句を言ってくる。

 

「せめて返答は送った方が良いのではないか? 後の世から何を言われるか分からんぞ」

 

「言葉など交わさずとも返答としては充分でしょう? なに、勝てば如何とでも愚かな民衆は丸めこめますよ。歴史は勝者によって紡がれるのをお忘れか? 如何なる正道を歩もうと負ければ何の意味も無い! 先の大戦の折、平和を歌っていた籠の中の鳥でさえ結局は銃を手にしたではありませんか!」

 

 そうだ。勝たなければ何の意味もない。どんなに正しく良い意見だろうと、誰の耳にも届かなければ存在していないのと変わらない。 意図が伝わったのか、総員黙り込んだ。

 

 しかし、先程例えに出した小娘の一派には礼を言いたい。パイロットを殺さずに武器だけ壊すなど、ただでさえ多い需要を更に増やしてくれたようなものだ。おかげで随分と稼がせてもらった。

 敵として見たら忌々しい事この上無いが、此方が何もせずともデュランダルの奴が落としてくれた。奴等が邪魔立てをしてくる事はない。

 

 戦争は兵の数がモノを言う。物量戦なら此方の勝ちだ。我等の存在を知ってコーディネーター共に着くという蛮行を犯した裏切り者達も彼方側にいる。私の邪魔をする奴等は全てまとめて冷たい水底に沈むが良い。口元が綻ぶのを感じながら、憎い人間共の到着を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「解答期限まで残り時間は僅か。未だ何の返答も無しか……この出撃が無駄になってほしいんだがな」

 

 通信越しに眉を寄せた顔でそんな事を言われた。自機の調整しながら言う言葉じゃ無いけど、気持ちは分かる。思わず苦笑しながら口を開いた。

 

「そりゃそうなりゃ嬉しいけどさ。あんまし期待するなよ。こっちに味方してくれた元地球軍の人曰く、詳細不明だけどヤバめの対空兵器があるらしい。ま、そんな機密情報知ってる奴にまで裏切られるとは奴等の人望の無さが伺える。その分手段に躊躇いないやつって事だ。気を付けとけ」

 

 情報は何よりも大切だ。報告にあった極秘兵器も事前の情報提供のおかげで対策出来たらしい。急拵えながら、ザフトの技術部と姉さんの上司が提携して対ビームシールドの量産に成功したのだとか。降下部隊に持たせておくそうなので被害は軽減出来るはずだ。それにしても相手の人徳の無さにはつい呆れてしまう。

 

 最重要情報を与えられていた人まで耐えかねて此方に来たのだからジブリールという人物は人の心が無いと見た。以前聞き取りした時、ネオさんだけじゃなくナタルさんまで不愉快さを隠そうとしなかったからよっぽどだろうと想定していたが想像以上だ。

 

 そんな人物が上に行く手段は限られる。人格を差し引いてもなお優秀か、恫喝や脅迫等手段を選ばなかったかの二択だ。たぶん後者だなと考えていると、会議中のはずのブリッジから通信が来る。少し息を吸って気分を切り替えてから回線を繋げた。予想通り画面には議長の顔が映る。

 

「忙しい中すまないね。あぁ、楽にしてくれたまえ。心苦しい事だが、会議の結果どうやら君達には働いてもらわねばならない可能性が高い。ところで、君達から見て今の状況はどうかな。連合から此方に味方してくれた勇気ある人々もいるが軋轢などは無いかい?」

 

 敬礼を即座に返す。まさか前線に出てくるとは、この人割と自由に動くよな……楽にするよう返された為、敬礼をといた後に礼儀として頭を下げれば頷かれた。投げかけられた問いには少し待ってもらうようお願いして考える。

 

 

 ロゴスの存在を知った途端こっちに着いてくれた連合兵は想像以上だった。

 あの時は余りにも遠くに居たしデストロイに皆引きつけられていたから分かったのは俺ぐらいだろうが、ベルリンを焼いたアレの遥か後方にいた船までジブラルタルのドックに居た時は心底驚いた。話してみると意外と良い人達だったので何人かは親しくなれた。今その船は俺達の先鋒を務めてくれている。

 

 他の人達も相手が同じ人間だと分かり合えたのか、連合服とザフトの服を着た人間が並んで同じメニューを食堂で食べている光景も段々と見慣れたものになってきている。

 今は人種関係なく、ロゴスに従うか否かという新たな色で世界は塗り分けられようとしている。コーディネーターとナチュラルというこれまでの対立図式は終わったのかもしれない。少し前なら夢物語だと諦め切っていたソレが現実になっている今に礼を述べようとすれば、アスランが先に口を開いた。

 

「そうですね……彼等と敵対された議長の前で名前を出すのは少々心苦しいのですが、ナチュラルとコーディネーターが共にロゴスへ立ち向かおうとしている現状は何処かアークエンジェルのような雰囲気を感じます」

 

 それぐらいの機微は流石に察せたのか、珍しくおずおずと意見を述べたアスランに穏やかな笑みが向けられた。何か不快そうな反応をしたら話題を逸らそうと身構えた為、驚きを内心に押し込んで返答を聞く。

 

「謝るのはこちらの方だ。君は何も心苦しく思う事はない。寧ろこれ以上無い最高の褒め言葉だとも。ありがとう、アスラン。あの船を知っている君からそう見えると言う事はナチュラルとコーディネーターの垣根が無い世界が近づいて来ているという証左に他ならない。結局は力を振るうしかないのかと憂鬱な気分になっていたがね、君の今の言葉で自信が持てた。これからも私の進む道を見定めておくれ。ラーナス、君はどうかな?」

 

 アスランの欲しいであろう言葉を的確にくれた事に舌を巻きながら、先程よりも深々と頭を垂れて感謝の意を述べた。

 

「ありがとうございます、デュランダル議長閣下。我が主への称賛、心より感謝いたします。私も同じ想いでございます。思い描いていた夢が現実に叶いつつある事に感激しております」

 

「そうか、ありがとう。君の献身には眼を見張るものがある。引き続き望むままに支えてくれたまえ。では、失礼するよ。レイやシン達、他の皆にも声をかけに行きたい」

 

 小さく笑った顔が映って画面が消える。流石は研究者でありながらプラントの管理AIに政界への適性を見出されただけある人だ。ここで死なれたら余りにも惜しい。ミネルバに一発も当てさせるものかと調整に入る熱が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

「ステラ、調子どう? 分からない事ない?」

 

 デスティニーの調整も終わったので、コアスプレンダーに乗っているステラの所に行く。顔を近づけて聞けば、嬉しそうにありがとうと頷かれた。正直言って凄く複雑だけど、ステラがただ守られるだけの子じゃないって事はもう分かってる。

 

 あの日からステラ達は本当に一生懸命努力していた。

 スティングはラーナスさん経由でグフのパイロットとして一番長いハイネに連絡取って色々と教わっていた。アウルはナタルさんから砲撃のコツを叩き込まれてる。ステラも見てるこっちがハラハラするぐらいネオさんと必死になって訓練に取り組んでいた。

 

 もちろん俺達も全力でやった。デスティニーは凄い機体だ。アイツとならやりたい事が全部出来る気がする。シミュレーターで大激闘を繰り広げたアスランさんからも俺じゃないと相手は難しいなんて分かりにくい褒め言葉をもらえた。

 

 ステラもレイもルナもアスランさんもラーナスさんも、ミネルバにいる議長と艦長とヨウランとヴィーノも、絶対に誰も死なせたりしたくない。

 

 心の中で家族に呼びかける。父さん、母さん、マユ。今度こそ僕は守りたい人を護ってみせるから。どうか見守っていて。

 

 そんな事を考えていたら、髪に軽い感触を感じた。シートから立ち上がったステラが小さな手で僕の頭を撫でてくれている。嬉しいけどバランスを崩したら危ないから止めなきゃ。手を伸ばそうとしたら、優しい声が降ってきた。

 

「シンは偉いね。インパルス、すごく大変。あんなにキレイに動かせるの、いっぱいいっぱい頑張ったんだね。でもね、大変なのはおしまい。もうだいじょうぶ。シンはステラがまもる。約束、ね?」

 

 偉いねすごいねと温かい声と手でこれまでの努力が褒められる。なんでか目頭が熱くなった。心配かけたくないから袖で乱暴にゴシゴシ擦る。不思議そうに見つめてくる大好きな子に繰り返してきた約束をもう一回口にして指を絡めた。

 

「ありがとう。ステラは僕が守るから。絶対にこの先もずっと一緒に生きていようね」

 

 花が咲くみたいにステラが笑う。肩に捕まったままピョンッと降りてきた大好きな子とおでこをくっつけて一緒だよと笑い合っていたら、後ろから咳払いが聞こえた。他の人も周りにいる事を思い出して恥ずかしくなる。慌てて離れようとすると、抱きついたままで俺の背後を見たステラが嬉しそうに歓声をあげた。

 

「ネオ! どうしたの?」

 

 一番拙いと冷や汗をかきながら恐る恐る振り返る。俺の顔を見たネオさんがなんでか吹き出した。

 

「おいおい、そんな顔すんなよ。これでも俺はお前を結構買ってるんだ。嫁にはまだやらんがな。うちの可愛いステラの事、よろしく頼む」

 

 嬉しくなって顔が緩む。お父さんのところに駆け寄ったステラがお母さんはどこか聞いてる。あっちの船だと頭を撫でてもらっていた。チョイチョイと手招きされたので、内緒話をするみたいに小さな輪っかを三人でつくればそのまま抱きしめられた。ステラと一緒に眼を丸くしていると、小さな声が鼓膜を震わせた。

 

「今から言う事、ログに残すのは流石にまずいかと思ってさ。直接言いに回ってんだ。ステラ、シン。頼む。怖いものを倒さなくても良いから。命を捨ててまで勝とうとしなくても良いから。絶対に生きて無事に帰ってきてくれ。お願いだ。

 本当は、ずっとずっと前からお前達に言ってやりたかったんだ。やっと言えた」

 

 疑う余地もない程の優しい想いが込められた言葉に息をのむ。勝たなくても良いから帰ってきてほしいなんて誰かに聞かれたら不味い事になるのに、こうして伝えにきてくれた事がとても嬉しかった。抱きしめ返して約束をする。

 

「大丈夫です。必ず守って帰ってきますから。あなたもお気をつけて」

 

 瞬きした傷のある人が心の底から安心したように肩の力を抜いて笑ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

「解答期限まで残り僅かとなりました。ヘブンズベースはどのように動くのでしょうか?! あ、彼方をご覧ください! ザフトと元地球軍……いえ! ロゴスに抗おうと嘗ての敵と手を取り合った勇敢なる人々の艦隊が見えてきました!」

 

 落ち着かない気分でニュースを聞く。日頃の習慣で出社してきた社員達も自分の端末や社内のテレビで同じチャンネルを観ているだろう。無理もない。今日はもう仕事にならないと見越して業務に取り組まないようにさせたのは正解だったかな。心の中では今も元気な姿を見せてくれる愛しい人に問いかけつつ、懸念事項に眉を顰める。

 

 マティウスやザフトの技術部と協力して量産化したアンチビームシールドはジャスティスに積まれていたソレと同じだ。熱吸収の限界を越えれば当然盾としての機能は果たせなくなる。歳が近いであろう国防委員長は回避の術を叩き込んだとも言っていたが、もし回避しようのない飽和攻撃をされてしまえば意味がない。

 

 一抹の不安に囚われていると、デスクに湯気の立つハーブティーが置かれた。目線をやれば栗色の髪をした少年がニコリと微笑む。側を離れた右腕の昔馴染みである事に加え本人の愛嬌もあって可愛がられている彼に礼を言って蜂蜜入りの優しいソレに口をつけた瞬間、画面の中が俄に騒がしくなった。

 

 ヘブンズベースからミサイルが放たれ、ウィンダム達が空へと舞い上がる。レポーターが慌てたように口を開いた。

 

「どういう事でしょう?! 何の声明も発表されぬまま、ヘブンズベースが攻撃を開始しました! 繰り返しますが、未だ返答は為されておりません!」

 

「ローゼン社長、これは……良いんですか、こんな酷い事!」

 

 信じられない光景に耐えきれないように問われる。オーブからの避難民でもある彼には嫌な事を想起させただろうか。無論、良いわけは無いので首を振る。最低限の世界の決まりすら守れないとは、ロゴスというのは礼節を知らぬ獣の集まりか何かだろうか。

 思わず握りしめた手に力が入るのを感じながらも、これから開かれる戦端でどうか被害が出ないように祈った。

 

 

 

 

 

 

「解答返さずに攻撃かよ。奴等、金の事しか頭にない猿か虫ケラの群れだったのか?」

 

「ラーナス、口を慎め。流石に猿と虫に対して失礼だろう。彼等の方がまだ社会性がある」

 

 いきなり撃たれたミサイルに口を開けてしまっていると、インカムからそんなやり取りが聞こえた。憤慨したラーナスさんに淡々と返したアスランさんもこの仕打ちには怒ってるみたい。誰だって当然の怒りだ。

 

 先を進んでいた地球軍の船が沈んでいくのが視界に入って唇を噛む。あの船には私達を可愛がってくれたメイク上手なお姉さんが乗っている。

 

 この前ジブラルタルの売店にお姉ちゃんと三人で行って私達に色々と見繕ってもらったばかりなのに。軍内部で揃えられるものが今は良いけど、終わったらアタシお気に入りのショップに行きましょなんて大人っぽく笑ってくれたあの人が無事であるように願っていると、モニターに嫌なものが写った。探査結果で熱源もベルリンの時のデータと一致したため、震えそうになる声を必死に張り上げる。

 

「ベルリンで見たデストロイを確認! その数、五! その他ウィンダムやモビルアーマー群、海中からも熱源反応を多数確認!」

 

 トライン副艦長が驚きの声をあげる。悔しそうに眉を寄せた議長から迎撃の指示が出された。

 

 直ぐに艦隊からミサイルが撃ち込まれ、他の船からモビルスーツが発進する。デストロイのビーム照射を避けている機体が何機もあってホッとした。シン達も出たそうにしてるけど、これならば既存の戦力で問題ないだろうと言われて大人しく頷いていた。

 

 宇宙からも降下ポッドが降ってくる。盾を持ったままのザクやグフが降りてきた瞬間、遠くの山肌が動いた。光を反射する穴の中に尖った筒のようなものが見える。話にあった対空兵器だろうか。気をつけてくださいと警告を発したのが合図になったかのように空が一面絶え間ない緑色の光に包まれた。

 

 信じられなくて息をのむ。しっかり構えていたはずのシールドが熱を受け止めきれなかったのか歪な形に溶けていく。その事に中の人が怯えたのか盾を動かした瞬間にコクピットが貫かれていった様をモニター越しに見てしまい、思わず顔を背けてしまった。

 永遠にも思える一瞬が終わった後、空にはボロボロになった機体が何機も残っていた。緩慢にしか動けなくなった彼等をデストロイやウィンダムが流れ作業のように落としていく。きっと地上には散らばったパーツが沢山あるはずだ。

 もうやめてと叫び出しそうになる口を必死に押さえて呼吸を荒くしていると、眉を立てたアスランさんとシンの顔が同時に映った。

 

「議長! 出撃許可願います。これ以上の被害を黙って眺めている事はもう出来ません!」

 

「お願いします! 早く発進を! こんな事もう許しておけません!」

 

 二人の強い視線と嘆願を受けて、失われた人達を思ったのか眼を伏せた議長が力強く頷いた。艦長の命令を受けて発進シークエンスに入る。

 

「発進スタンバイ、全システムの起動を確認しました。発進シークエンスを開始します。ハッチ開放。射出システムのエンゲージを確認。カタパルトオンライン。射出推力正常。針路クリア。エルピス、デスティニー、両機発進どうぞ! アスランさん、シン、お願いします!」

 

「アスラン・ザラ、エルピス、出る!」

 

「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」

 

 色づいた二機が先を争うように最前線へと突っ込んでいく。残っていたザクに近付いていた光線が弾かれて、辺りの機体へビームを放とうとしていたデストロイがリフターの対艦刀で真っ二つになった。エルピス本体は少し離れたところでモビルアーマーを撃破している。

 無事な人が増えた事に息をつきながらお姉ちゃんとレイの発進を見送る。最後に出る妹みたいに大切な可愛い子に声をかけた。

 

「ステラ、気をつけてね。みんな無事で帰ってきて」

 

「うん、ありがとう。心配しないで、メイもみんなも守るから。

 ステラ・ルーシェ、コアスプレンダー、行くよ!」

 

 空中で合体したインパルスが飛び立っていく。シンを守ってくれた機体がどうか彼の大切な人も守ってくれるよう願って、行く先の戦場を見つめた。

 

 

 

 

 

「先越されたか。だが、この船での先陣は俺が切らせてもらうぞ。二人ともいいか? お願いだから約束は守ってくれよ。それじゃ、ネオ・ロアノーク、カオス、出るぞ!」

 

「ん。ありがと、ネオ。ナタルも気をつけて。この船が沈んだら僕らどこに帰ったら良いか分かんなくなっちゃう。大丈夫なら良かった……いってきます。アウル・ニーダ、アビス、出るよ!」

 

 心配そうにしつつ先陣を切ったあの人を見送れば、砲術を叩き込んだ子が不安気に言ってきた。沈む気は無いので頷けばホッとしたように笑みが浮かぶ。スティングが嬉しそうに口を開いた。

 

「負けても生きてていいんだろ? あの頃は考えも出来なかった。それじゃあ、スティング・オークレー、グフ、発進する!」

 

 作戦行動中だと言うのに最後の言葉に唇が上を向く。全員で生きられる今という未来に繋げられたあの時の選択は間違いでなかったと漸く安堵して前を向いた。

 

 

 

 

「なんだコレは……如何なっている! ニーベルングですら降下部隊の全滅には至らなかったでは無いか?! 裏切り者が情報を洩らしたのか? デストロイは?!」

 

 指揮官を見下ろして問えば、全機撃破されましたとホラー映画でも観ているかのような表情で報告される。まだミネルバが出てきて半刻も経っていない。こうなったら私達を焚き付けてくれた若造の首を差し出そうとあの腹立たしいニヤケ顔を探すが何処にも居ない。最悪の裏切り者に気づいて唇を噛むも後の祭りだ。

 

 投降すれば最低限命の保障はされる。暴徒どもになぶり殺しにされるよりはまだ良い。肩を落としてしまいながら指示を出せば、基地の空気が一気に緩んだ。

 

 

 

 

「白旗が確認できた。本当によくやってくれた……! 後はゆっくり休んでおくれ」

 

 戦闘を停止して両手を上げたウィンダムを前に息をつく。腕を落とそうとしていたブレードをしまって此方も敵意が無い事を示せば大人しく地上へ降りていった。

 

 連携しながらデストロイをそれぞれ撃破していたシンやステラ達に声をかければ全員まだまだ余裕がありそうな声だ。すっかり立派になったなと笑いながら帰投する。

 

 脳裏を掠めるのは出撃前に思わずその名を口にしてしまった船の事だ。今回は出てこなかった。当たり前だ。ヴィラード隊の現場調査ではアークエンジェルも沈んでいないが被害はかなりのものだろうという報告だった。今は船も乗組員も体を休めている事だろう。そのまま全員船から降りていたら良いのに。

 

 特にキラは巻き込まれてしまっただけだ。もう戦場になんか出てこなくて良い。

 きっと何処か安全なところにいるはずのキラに思いを馳せる。争いが終わって平和な世界になるまで、大切な幼馴染とはもう出会わないで済む事を切に願った。

 

 

 

 

 

 

 

「ヘブンズベースの戦闘はザフトの、議長の勝ちか……キラ、お前、大丈夫か? そりゃフリーダムが落とされたんだ。ショックなのは分かるけど、偶には外に出ないとどんどん気が滅入っちゃうぞ。ほら、キサカが変装して少しだけなら外に出て良いって。一緒に行こう」

 

 皆で中継を見た後ため息をついていたら、カガリが肩を叩いてくれた。気遣いにお礼を言って別れてから部屋に入る。

 

 あれから無事にオーブに着く事は出来たけど、フリーダムは失われた。第一エンジンを切り離したアークエンジェルもボロボロで修理には時間がかかる。目的は達成出来たけど負けたみたいな変な心地だ。

 

 ダーダルネスで見かけた時から随分と強くなっていたインパルスのパイロットの言葉が頭の中で鳴り響く。

 

 ──散った花は二度と咲かないんだよ! そこにまた花が咲いても、それは同じ花じゃない! 

 

 平和は破られてもまた創り出す事が出来るのに。同じじゃなくてもっと良くなってるだろうから良い事なんじゃないかな。相手に聞こえないと分かっていてもそんな返答を零してしまいながら考える。

 

 もしかしたら花が指してるのは平和じゃなくて命なのかもしれない。それなら最後の言葉も説明がつく気がする。その事に気づいた瞬間、苛立って思わず椅子を蹴った。

 

「分かってるんだよ、そんな事」

 

 本当に何も知らないくせに、好き勝手言ってくれる。

 

 僕はフレイが大好きだった。誰よりも護りたかった。今はラクスを愛しているけど、彼女の存在があってもフレイを失った穴は誰にも埋められない。

 

 僕が守りたい世界に残ったのは父さんと母さんとカガリとラクスと、アスランとアークエンジェルの皆だ。だからせめてこれ以上失わないようにラクスが願う平和な世界を創りたくて頑張ってるのに。カガリの願いを叶えていたらフリーダムが落とされて、アスランも遠くに行ってしまった。

 

 生中継に映っていたジャスティスに似てるけど違う紅い機体を思い出す。あの戦い方は間違いなくアスランだ。なんでまた戦ってるんだろう。あんなに一緒だった昔は君の事なら何だって分かったのに、今はちっとも分からない。ラクスにも会えないし嫌な事ばっかりだ。

 

 何度目か数えるのも億劫なため息をついているとノックがしてカガリの声が聞こえた。大分ダボダボになった服を着る。扉を開けると初めて会ったあの時みたいに帽子を被って男の子みたいな格好をしたカガリがいた。懐かしいな、その服! と僕の格好を見て笑ってくれる。

 手を引かれながら歩いていると、誰に言うともない呟きが口から出ていた。

 

「僕達は……いったい何をしてるんだろうね……」

 

 キラ? と不思議そうに名前を呼ばれる。思わず立ち止まって考え込んだ。

 

 やっぱり今のままじゃダメだ。もし何かあったら、また守れない。あんな思いはもう二度としたくない。

 そうだ、クライン派の人が僕に新しい機体を造ってくれてるって話だった。でも、いつ届くか分からない。これ以上待ってなんかいられない。

 顔を上げた先で困ったように首を傾げて見上げてくる妹に頼み込んだ。

 

「カガリ、お願いがあるんだ。僕を宇宙に連れてってほしい。僕の戦いをするために、新しい機体を取りに行かなくちゃ」

 

 僕とよく似た顔立ちの黄金の瞳が大きく見開かれた。

 

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