「授与式会場のジブラルタルに来ています。今回の主役はなんといってもあの人でしょう! 初陣から瞬く間に戦果を積み上げ、先の大戦の英雄でもあるプラントの守護者、アスラン・ザラと今ではミネルバで共に肩を並べるエースパイロット、シン・アスカ! 開始までのお時間、皆さんと共に彼の輝かしい功績を振り返っていきたいと思います。
初出撃時からアーモリーワンでテロリストを退け、ガルナハンでは連合の圧政に苦しむ人々を助けました。ベルリンを焼いたあの恐ろしい機体を撃破した後、戦場を混乱に陥れたかつての英雄、フリーダムとの一騎討ちでは見事な勝利を納めました。直近のヘブンズベースの戦いでも卑劣な攻撃を行ったロゴスの軍を友軍と協力して蹴散らし、華麗な活躍を披露してくれました!
映像が届いています。生中継では無いですが、改めてもう一度ご覧ください。どうぞ!」
アナウンサーがテンション高く話した後、画面が切り替わる。
ステラのインパルスが出撃したところからだ。
先行してたデスティニーに追いつこうとしながら邪魔してくるウィンダムを斬っている。僕とスティングも手伝ってやったっけ。ステラの横に並ぶようにガイアも援護してくれてあっという間に後続の道が空いた。
次の瞬間、レイがジャベリンを使ってデストロイをぶった切ったのが画面に大写しになる。あの後、効率が悪いからってインパルスのソードシルエットからエクスカリバーが配られた。ステラが懐いてる赤い髪のCICの女の子、離れた位置にいる僕等にそんなに時間差が無く届けられるなんて凄い腕前なんだと舌を巻いたのを思い出す。
ネオの作戦で僕等がデストロイの周りを飛び回り、どれが来るのかと相手が気を取られたところをステラが正面からやったところが流れて嬉しくなる。横で一緒に見てるヨウランとヴィーノにもこの時凄かったよな! と褒めてもらえた。
アロンダイトを展開したシンが残った二機のデストロイへ一直線に向かっていく。まとめて貫いた背後でアスランの赤い機体が人をいっぱい殺したあのビーム砲をバラバラに解体してるのが小さく見えたと思ったら映像が終わった。この後ナタルに習った要領で僕が基地の武装をたくさん壊したのに。思わず唇を尖らせてしまうと両横から頭をワシャワシャされた。ネオとナタルとスティング以外はなんか落ち着かない。止めろよ! と言ってしまったら、分かったよと気にした風も無く笑われて小さく肩を叩かれた。謝る出鼻を挫かれて黙り込んでしまうと代わりのようにアナウンサーの人が喋り出す。
「ミネルバ隊の活躍、流石でしたね。どうやら式典開始はCMの後となるようです、チャンネルはそのままで!」
お決まりの文句と共に中継が一旦終わる。思いっきり息を吸って吐き出してから勇気を出してヨウランとヴィーノにありがとうとごめんを言えば嬉しそうに笑ってくれた。
ホッとしながらウサギみたいな赤い目をした今日の主役を思い浮かべる。
表彰が決まってからアスランに礼儀作法を叩き込まれてた。それを知ったナタルがどんな職業に就くにしても覚えておいて損はないって言い出して僕達も一緒に習った。茶化しに来たネオを巻き込んでナタルにビシバシ教えられたの、あの時は大変だったけど今は楽しい思い出だ。
教える側と習う側、どっちも必死になってたあの二人は今頃何してるかなと思いながら式の開始を待った。
「そうか。ジブリールは宇宙には上がっていないんだな。それならまだ地球に留まっているか。ヘブンズベースの結果を受けて反ロゴスの気運はますます高まっている。ジブリールの協力者も大幅に減っただろうから潜伏先も絞り込める。月にいるブルーコスモス残党と合流したいはずだから方法はどうあれ必ず行くはずだ。此方も情報収集は続けるが、そっちでも引き続き警戒を頼む」
真剣な声をした同期が通信越しに小さく頭を下げてきた。頼まれるまでもない事だと頷けばホッとしたように眉間の皺が緩む。
折角のハレの日だと言うのに顰めっ面は似合わない。直接会っていたら思いっきり背を叩いてやりたい気分だ。せめて言葉だけでもかけてやりたいと考えて口許を上げる。ため息なぞついている好敵手に発破をかけてやった。
「あまり無理をするな。情報部も総力をあげて奴の行方を追っている。
それよりも貴様、くれぐれも式典では辛気臭い顔をするなよ。後輩にいらん気苦労をかけるな。ヤツが本日の主役だろう?
エンジェルダウンとベルリン、ヘブンズベースでの功績を鑑みてとはいえ、隊長経験の無い者がフェイス着任なぞ前代未聞だ。色々と僻みやっかみも多いだろう。貴様がそういった方面を得意としないのは知っているが、少しはフォローしてやれ。
それにしても驚いたぞ。まさかお前が二つ目の勲章を受け取るとは。どういう風の吹きまわしだ?」
広報部のプロパガンダもあるとは言え、各種メディアで大々的に取り上げられていた赤眼の少年を脳裏に浮かべる。コイツの反応からして、あまり聞き心地が良くないあの異名はミネルバに伝わっていないようだ。
ジブラルタルの食堂で顔を合わせた黒髪の猫を思わせる男が脳内を横切る。あくまでも予想だが、サジタリウス所属だと言うソイツの手によるものだろう。アスランが随分と目をかけていた後輩にそんな通り名が付けられた事実を知って情報を遮断したらしい。随分と過保護な事だ。
そんな事を考えながら、意外だった受章者に問いかける。今でさえコイツは地位や名誉に辟易しているはずだ。これ以上の重荷はてっきり辞退すると考えていた奴の口元が僅かに緩んだ。意外な反応に目を見開いてしまった俺へ何処か照れたような声が返される。
「お前の言うとおり、勲章欲しさに戦ったわけじゃない。ただ、彼女を守るために貰えるものは貰っておくかと思っただけだ。
心配されなくともシン達との関係は良好だ。軽く見られないように礼儀作法は教えた。授与式の日取りが決まってから叩き込んだが、音を上げずに着いてきてくれたよ。あの調子ならもっと出来るだろう。本当、良い人達に恵まれた」
彼女と言うのは誰を指すのかは直ぐに見当がついた。あの物騒な手製の仔犬を贈った歌姫だろう。彼女の正体がバレた時に備えて後ろ盾となるものは多いに越したことはない。
彼女には部下達も俺も随分と元気をもらった。こちらが待つばかりでは無く向こうから出向いてくれる今の歌姫の人気は恐らく二年前をゆうに越している。不埒な考えを起こした輩をあの仔犬が仕留めた時は思わず負けて良かったと思ってしまった程だ。無論、そいつらには説教と拳骨に加えて独房と反省文をくらわせてある。いざという時は俺達も力を貸すと頷けば、ディアッカが以前言っていたとおりの独占欲が上回ったのか、僅かに眉が顰められた後に渋々頷かれた。
笑ってしまいそうになりながらも、部下達との交流を自慢そうに話された事に自然とこちらも頬が上がる。俺の隊も負けていないと返せばこっちの方がと意地の張り合いになりかける。後ろで聞いていたディアッカが止めに入ってきた。
賑やかだったあの頃と変わらないと気づき、どちらからともなく笑い出してしまう。通信先のアイツにも移ったのかクスクス笑い声をあげている。その事実が余計に喜ばしくなって、しばらく部屋には笑い声が響いた。
久しぶりに和やかな雰囲気の通信が終わり、仕事に戻るかと向き合った扉が忙しなく音を立てる。開ければCICを務める部下の一人が敬礼してきた。楽にするよう告げ、ジブリールが見つかったかと聞けば残念そうに首を振られる。青い顔の通信兵から耳を疑う情報がもたらされた。最悪の知らせを持ってきてくれた部下に詰問したいのをどうにか堪えて礼を述べれば、再度敬礼をしてくれた後に慌しく持ち場に戻っていった。共に見送ったディアッカが大きなため息をついてから悔しそうに真剣な声を発する。
「グラスレー隊がエターナル発見後、ストライクが現れた。その後フリーダムに酷似した機体によって隊は壊滅的な被害を受けた、ね……無事な奴等はストライクとフリーダムが立て続けに出てきたって怯えきってるとはやってくれるよな。
アイツ、オーブが引っ込んだんだからもう戦わなくても良くなったはずだろ? なんでまた……
どうする? アスランにかけ直して知らせるか? アイツが一番キラ達の事気にかけてるだろ」
最後の問いかけに逡巡する。苦々しい想いで首を横に振った。
「内容はどうあれ今日は祝いの日だ。辛気臭い顔をするなと発破をかけたばかりだと言うのに、奴の顔を曇らせる事は出来ん。日を改めて必ず伝える。今は仕事に戻るぞ」
先程とは打って変わって気分が重く沈み込むのを感じながら執務室の席に座る。テレビが入場のファンファーレを響かせる中、苛立ちをぶつけるように目の前の仕事を片付けていった。
「ミネルバ所属シン・アスカにネビュラ勲章を授け、特務隊フェイスの一員とする!」
勲章を受け取ったシンが指先の揃った敬礼をしてから綺麗なお辞儀を返した。聞こえないと分かっていても同期の勇姿にヴィーノと並んで懸命に手を叩く。アウルも不思議そうな顔をしながら何処か楽しそうに真似してくれた。後ろのエイブス班長は苦笑いしてたけど、ちゃんと拍手してくれてた。画面の中のレポーターがにこやかに中継を締めくくる。
「今回フェイスになった事でフリーダムキラーの今後の活躍が益々期待出来ますね! それでは、式典会場からスタジオにお返しします!」
笑顔のお姉さんが消え、通常のニュースに戻る。まだ連合に与している国では民衆による抗議デモが活発になっているらしい。ロゴスが悪いのは事実なんだからさっさと手を切っちまったら良いのに。国の偉い人でも脅されてるんだろうか。そんな事を考えてたら、アウルがソファーに背中を預けながら聞いてきた。
「にしても、良かったの? シンにあの呼び名のこと教えなくって」
言われるかなと思った内容が質問されたので思わず肩を竦める。
フリーダムキラーなんて呼び名がシンに付けられたのを知って内緒にしようと言い出したのは俺だ。メイリンやラーナスさんも手伝ってくれてどうにか守れてる。あの時は咄嗟に口から出た言葉だけど、これで良かったと思ってる。あの日を思い返しながら口を開いた。
「フリーダム倒して帰ってきて直ぐのシン、ちっとも嬉しそうじゃなかったんだよ。あんなに頑張ってたから喜ぶと思ったのに。俺ちょっと肩透かし食らっちゃった。それなのに、あんな呼び方されてるの知ったらきっといい気しないだろ? お願いだからアウルも内緒にしてくれよ」
見てるこっちが心配になる量の努力を必死に重ねて皆で協力して勝ったって言うのに、浮かない顔だった。優しいアイツの事だ。アスランさんの前の仲間を倒して後ろめたかったのかもしれない。知らない方が良いこともある。素直に頷いたアウルの頭に手を伸ばせば、今度は嫌がられなかった。嬉しくなって二人で揉みくちゃにしながら、優しい友達が嫌な思いをしないように願った。
「シン、この度はおめでとう。これからも争いの無い平和な世界を実現するために励んでくれたまえ。レイ共々フェイスとしても期待しているよ」
「はい! ありがとうございます!」
堅苦しい式典が終わり、一息ついていると議長が嬉しい言葉をかけてくれた。勲章を貰った時と同様に敬礼してからしっかりと頭を下げる。お辞儀のタイミングや角度の他に言葉遣いも叩き込まれたけど、バッチリ出来ていただろうか。恐々と目線をあげれば、議長の背後の壁近くにいるアスランさんがこっちに目線をやって得意気な笑顔になるのが見えた。大丈夫みたいだとホッとする。議長もしっかりしているねと褒めてくれた。
名前を呼ばれて近づいてきたアスランさんに大きなモニター付きの通信端末が手渡される。喉から手が出る程欲しいけど買えない羨ましいものを見る時の眼をした議長が遠くの小部屋を指差した。
「此処に来られるのは軍内部の関係者のみだ。彼女自身も各地の激励に忙しく飛び回っている。せめて顔を見ながらお祝いのメッセージだけでも伝えたいとせがまれてしまってね。あの部屋は防音仕様だ。他の人達は君の自慢の右腕が引きつけてくれている。存分に話しておいで」
その言葉を聞いた瞬間、不思議そうに受け取ったアスランさんの顔がサンタさんからプレゼントが来た子供みたいにパァッと輝いた。人目を気にしたのか直ぐに取り繕われたけど、まだ口元は緩みっぱなしだ。本当に嬉しそうな様子に見てるこっちまで嬉しくなってくる。こういうの、幸せのおすそ分けって言うんだっけ。いつか母さんが教えてくれた優しい素敵な言葉を思い出していると、議長へ深々と頭が下げられた。
「ありがとうございます。勲章等よりも余程良い、最高の報酬です。それでは、お言葉に甘えて早速失礼いたします」
頭を上げて小さく笑ってから白兵戦の訓練を思い出させる俊足で示された部屋へ向かっていく。瞬く間に閉まった扉を見て議長が可笑しそうに笑った。
「勲章など、か。その栄誉欲しさに無茶をする者も居るというのに。彼にとっては持っていると便利な只の装飾品に過ぎないようだね。君にとってもそうかい?」
考えもしなかった事を訊かれる。分からないまま、貰えて嬉しいですと答えた。議長にニコリとされたから良かったのかな。考えていると偉い人達に挨拶し終わったレイが戻ってきた。俺も行かなきゃ。焦って離れようとしたら議長に構わないので居てほしいと頼まれる。横並びになった親友が丁寧な挨拶の後、声をひそめて口を開いた。
「この度は格別の御配慮をありがとうございます。議長のご期待には全力で応える所存です。
しかし、よろしいのですか? いくら二人が世間的には婚約者であり実情も相思相愛といえ、こう贔屓すると何か貴方に言ってくる人も居るのでは?」
心配そうにしているレイの肩に議長の手が置かれた。優しい顔で穏やかな声が小さく返される。
「君はもちろんのこと、可愛がっている子に私はどうも弱いようでね。
心配ありがとう。だが、どうやら大丈夫なようだよ。周りの人々の目をご覧。誰も彼も微笑ましいものを見ているようじゃないか。恋人からの通信だとラーナスが隠さずに説明したのだろう。対応として間違っていない。なにせ二人はプラントの希望だ。仲睦まじいに越した事はない。
君達にだから話せる事だが、こんな世の中で心から愛する人に巡り逢えるのは奇跡のようなものだ。最も、奇跡すら見えざる手によって初めから定まっているのかも知れないが。すまない、今の一言は無粋だった。何はともあれ折角の仲を存分に育んでほしいという想いがあって、つい肩入れしてしまう。
古い話になるが、実は私にも彼女しか居ないと思える愛する人がいてね。あの二人の行く先が私達と同じ結末になるのか、また違った可能性を示してくれるのか、密かに期待しているのだよ。彼女は私が運命でないと初めから知っていたら、それでも……おっと、この話は内密に頼む。
やぁ、タリア。この度はおめでとう。君には本当に助けられているよ」
意外な話をしてくれた議長が少しだけ遠い目になった。直ぐに我に返ったかのように内緒にするよう言われたから頷く。アスランさんと同じくミネルバの代表として来ていた艦長が近づいてきた。議長が振り向いてお祝いの言葉を述べる。
流石にこれ以上は悪いと思って離れたらラーナスさんが呼んでくれた。知ってる人の側だと安心できる。レイと一緒に向かいながら、一回中に人を入れた後はちっとも開かない二人だけの小部屋を見る。あの人が今過ごしているであろう幸せな時間が少しでも長く続いて、また直ぐ訪れるためにも逃げたジブリールが早く見つかって戦争が終わる事を心の底から願った。
「もしもし? ミーアか?」
議長に示された小さな部屋に入って直ぐさま起動させた端末に声をかける。明るくなった画面に待ち望んだ彼女の顔が映る。俺の姿を見つけた瞬間、表情が明るくなり弾むような声で名前を呼んでくれる。
「アスラン! 良かったぁ。ギル、ちゃんと渡してくれたのね。中継観てたわ。おめでとう……で良いのかしら。ロゴスの人達は捕まえられたけど、たくさん被害も出ちゃったから……」
失われた命を思った優しい海色の眼が伏せられる。返答よりも先に放たれたミサイルと対空兵器によって少なくない被害が出た。事前情報が無ければ降下部隊は全滅していたかもしれないと新聞に載っていたのを思い出す。
助けられなかった人達に思いを馳せ、すまないと呟いてしまう。アスランのせいじゃないわと優しく返された。そのまま力強い目線で話される。
「あんな酷い兵器作るロゴスが悪いのよ。あれを造るのに使ったお金でお薬をたくさん作れば大勢の人が長生き出来たわ。料理を作ればお腹を空かせてる子は誰一人いなくなる。もっと優しいお金の使い方をすれば良かったのに。よりにもよってあんなの造るなんて……ごめんなさい。せっかくアナタと話せるのに、こんな話」
構わないと首を振る。
彼女の言ったとおり、戦争なんてせずとも平和に利益を得る事は出来る。こんな方法を選んだロゴスに共感出来る部分は一つも無い。今も逃げているロゴスはジブリールだけだ。潜伏先として怪しい地域のリストを脳内で広げようとして今は止めておく。貴重なミーアの顔を見ながらの通信だ。せめて表情を目に焼き付けておこうと眺めていると、桜色の唇が艶やかに動く。
「あのね、アスラン。生きててくれてありがとう。酷いかもしれないけど、無事で本当に良かったわ」
他の遺族を慮った言葉の後に無事を喜ばれた。身近な人間の無事を喜ぶ事が非難されるわけが無い。そう返して感謝を述べればやっぱり優しいのねと微笑まれた。俺なんかより君の方が優しい。そう伝えれば笑みが深まってから何故だか泣きそうな顔になった。そんな表情は見たくなくて話題を変える。少しでも笑ってほしくて、楽しい未来の話をした。
「なぁ、ミーア。今度はいつが空いてる? 見せたい所があるんだ。桜がとっても綺麗に咲く俺の大切な場所。君と一緒にいきたい」
心の中で今も色鮮やかに咲き誇る優しい花が脳裏を舞う。あそこで別れた幼馴染は遠く離れてしまったけれど。それでもあの場所には光に満ちた思い出ばかりだから。誰よりも大切な代わりのいない彼女を連れていきたい。
問いかけた先、ミーアが何よりも美しい笑みを浮かべた。思わず見惚れてしまい、知らずに入っていた肩の力が抜ける。楽しそうな笑い声と共に約束が一つ結ばれた。
「ありがとう、アスラン! お誘いは嬉しいけど、今行ってもまだツボミのままよ? 春になったら二人でお花見に行きましょ。私、絶対にお休みを取るから。お弁当作っていくからアスランも忘れないでね?」
「あぁ。花が咲いたら、だな。絶対に忘れない。ロールキャベツは入るか?」
思いもよらない提案に心が躍る。思わずリクエストをしてしまえば当たり前よと返された。嬉しくなって笑い声をあげれば彼女も笑う。気持ちが同じことに何にも代え難い幸福を感じていると、彼女の側からノックが聞こえた。申し訳無さそうに顔を覗かせた姉を見つめればため息をつかれた。腕時計を確認した後、三分だけなら待ってあげるわと扉が閉められる。いつものまたねの代わりを言わないまま切らずに済んだ事にホッとして、祈りを込めて言葉を紡いだ。
「それじゃあ、今日はありがとう。嬉しかった。くれぐれも無理はするなよ。今度は顔は見れないが、また晩にはメールか電話する。愛してる、ミーア」
嬉しそうに頬を染めたミーアが最初の電話から変わらない言葉を満面の笑みで返してくれた。
「私こそありがとう! アスランこそ気をつけてね。今夜も楽しみにしてる。私の方こそ大好きよ、愛してるわ、アスラン!」
そのまま電源を落とす事も出来ずに見つめ合えば慌ただしくノックの音が聞こえてきた。困ったような顔をしたミーアがもう一度またねを言って画面が真っ暗になった。まだ三分経っていないのに。
苛立ちを抑えつつドアを開ければ、レイが立っていた。本当に珍しい彼の焦った様子で緊急事態だと判断する。浮き足立っていた気分を切り替えて何があったのか問えば深呼吸の後、信じ難い内容が述べられた。
「ジブリールの行方が分かりました。奴の行き先は、オーブです。
既にカーペンタリアの部隊が向かっていますが、我々ミネルバも直ぐに出るようにと議長から要請が出ました。行けますか。その端末はこの部屋に置いて行ってくださいとの事です」
頷いて部屋を飛び出す。無意識のうちに潜伏先候補から除外していた国の名前に噛み締めた唇から血が出た。頭から冷水を浴びせられた気分だ。誰にいうとでもない呻き声が口から溢れてしまう。
「やってくれたな、ジブリール……!」
考えうる限り、最悪の行き先だった。