「キラ? 良かった、ここにいらしたのですね。その姿は……オーブへ向かうおつもりですか?」
パイロットスーツに着替えて外に出ているとラクスが僕を見つけてくれた。頷いたらお気をつけてと手を握られる。繋ぎ返すと焦る気持ちが少しだけ落ち着いた。
カガリにとって大切なオーブが今度はザフトから攻撃されているらしい。あの国には帰りを待ってくれてる父さんと母さんもいる。助けに行かなきゃ。僕の戦いをさせてくれる新しい機体を見上げる。
ストライクフリーダム。フリーダムの後継機にあたるそうだ。ラクスの願いを受けて核エンジンは使っていないらしい。ラクスに力を貸してくれてるターミナルの人達が教えてくれた技術を使ったってファクトリーの人達が話してくれた。
戦争が始まる前、プラントのカレッジにいた頃のアスランが地球での汚染が無くなるための新しいエネルギー活用方法として将来叶えばって発表したらしい。その時は不可能だとされたそれが今はパワーエクステンダーを利用して実現出来るそうだ。当時無理だった理論を考えるのは難しくて大変だったのは想像に難くない。みんなの為に頑張るなんて相変わらずだなぁと思う。けど、そんな優しいアスランはザフトに行ってすっかり変わっちゃったみたいだ。
ちっとも帰ってきてくれない幼馴染に思いを馳せていると肩に確かな重みがのった。大好きなラクスが僕に身体を預けたまま悲しそうに眼を伏せている。そんな顔はしてほしくなくて、安心させようと笑いかけた。
「大丈夫だよ。今度こそ君にもらった力で大切なものを守ってみせる。そうだ、せっかくだから……」
彼女を無事に送り届けるための方法を話せば真剣な顔で頷いてくれた。無事を祈るように言ってくれた優しい言葉にお礼を言って壁を蹴って浮き上がる。コクピットに乗り込み、発進を促す声に応えていつもの文言を声にのせた。
「キラ・ヤマト、ストライクフリーダム、行きます!」
ペダルを踏み込んでオーブへと全速力で向かう。乗り込む前に間近で見た新しいフリーダムの姿が頭をよぎった。
近くで見ると青い羽根がどこまでも果てしなく続いてるみたいだった。
僕を何処にでも行きたいところへ連れて行ってくれる翼のはずだ。それなのに、戦場からは離してくれない鎖のように思えた。
「待ってくださいよ! なんで俺はダメなんですか!? これまでだって一緒に戦ってきたでしょう!?」
「馬鹿を言うな! これまでのダータルネスやクレタの時と今回は訳が違う! 俺達が撃とうとしているのはオーブそのものだ! お前はそんな事しちゃいけない!」
眉を立てた顔でアスランさんが睨んでくる。負けじと睨み返してしまった。
金色のモビルスーツが現れてから流れが変わった。総崩れだったオーブ軍が息を吹き返したみたいに反撃して押し返してきてる。何処にそんな底力があったんだろう。驚くけど、このままじゃザフトの人達が危ない。本島に上陸しなきゃジブリールを探さないから戦闘は長引くままだ。出ようとしたらアスランさんが止めてきた。
気持ちは嬉しいけど、ジブリールを引き摺り出さなきゃこの戦いは終わらない。戦いを早く終わらせるためだけじゃない。これ以上の被害を出さないためにもあの黄金の機体は俺達が相手しないと。どうしても譲れずに睨み合っていると、ステラが僕の前に出てきた。
「アスラン、だめ。シンのやりたい事のジャマするなら、きらい」
ステラがどんな顔してるか見えない。ハッキリした声にアスランが僅かにたじろいだ。この人だって訓練中に良くステラの事を気にかけてくれている。嫌いなんて言われるとは思ってなかったのか、ちょっとだけ肩が落とされた。いや、あの、とか要領のえない言葉をこぼしてから拗ねたような目で見てくる。眉間の皺が和らいだ。苦笑しながら文句を言われた後、真剣な声で問いかけられた。
「ステラはズルいだろう……それで? 今からやろうとしている事は、本当にお前がしたい事なのか? よく考えてみろ」
忘れてしまいそうになった時もあったけど大丈夫。僕が何のために力が欲しかったのか、ちゃんと憶えている。頷いてから誤解を生まないように自分の想いをしっかりと言葉にのせた。
「なにもオーブと戦いたいわけじゃありません。ただ、俺が出ない事で他の誰かが傷付く方がもっと嫌です。だから行かせてください。撃つためじゃなくて、護るために。お願いします」
黙って俺の言葉を聞いていたアスランさんが大きな大きなため息をついて考え込む。ルナと一緒にいるレイがお前は優しすぎると呟くのが聞こえた。そんな言葉を言ってくれるレイや態々気遣ってくれるアスランの方がよっぽど優しいと思うんだけど。
周りの人達の優しさに感謝を抱きながらも戦場の様子が気になってモニターを確認する。大将機に向かって離れたライフルのビームが盾すら構えていない相手に当たって一斉に跳ね返された。グフやザクの腕が爆発したのに驚いて思わず声をあげてしまう。俺の声に顔を上げたアスランさんが困ったような顔で呟いた。
「対ビーム反射素材をコーティングしたのか……あの黄金の塗装箇所全てだと見ていい。コスト面から考えて、オーブにとっては虎の子の機体のはずだ。しかし、開発計画にあんなの無かったんだがな。まぁ、また俺には知らされていなかっただけかもしれないが」
秘密裏に造られたと示す最後の言葉に眉を顰める。あんなに武力を嫌って綺麗事を言ってたアスハも結局は力を必要としてた。虚しい気分になっているとバタバタと忙しない足音が聞こえてくる。国内でデモが暴動になろうとしている話を聞いてからずっと外で電話しっぱなしだったラーナスさんが飛び込んできた。
「マズイぞ、セイランが民衆とオーブ軍によって捕えられた! 奴等の屋敷に居たらしいジブリールは現在オーブ国内を逃亡中! 急いで……おい、嘘だろ……」
全員に緊張が走った。セイランが捕まったのは良かったけど、ジブリールに逃げられたら元も子もない。急いでハンガーに向かおうとした矢先、ラーナスさんが愕然とした顔でモニターを見つめた。いったい何だと俺達も振り返る。映った光景に思いっきり眼を見開いた。
フリーダム。あの日、これ以上戦わせないために撃った機体がオーブを守るように翼を広げていた。その背後には白い艦影も見える。きっとアークエンジェルだ。フリーダムと何かやり取りをしたのか、影になって見えなかった黄金色の機体がオーブ本島に降りていくのが見えた。
呆気に取られていると、少しだけ呼吸が荒くなったアスランさんが今にも泣き出しそうな顔をした後、大きく息を吸ってから一瞬で表情を消した。怖いぐらい整った人形みたいに綺麗な顔に哀しくなる。感情を我慢した方が余計に辛いのに。何か言葉をかけたいけど、何を言えば良いんだろう。迷っていると、淡々とした声で報告された。
「今朝方イザークからメールで連絡があった。宇宙でフリーダムに酷似した機体とエターナルが確認されたそうだ。恐らくあの機体はフリーダムの後継機だろう。すまない、通信を繋げて詳細を聞いてから報告しようと考えていたんだ」
フリーダムの後継と聞いたラーナスさんが瞬く間に移動して壁の端末を操作する。遮蔽されたブリッジ内にいるメイリンの顔が映った。
「メイリン、悪い! あの新型フリーダムから
「ちょっと待ってください! ……ありません! あの機体はバッテリー使用です! 恐らくこちらの分類でサードステージに属するものかと!」
核が使われていない事実にアスランさんがホッと息をついた。対照的にラーナスさんが舌打ちをする。良い事なのにどうしてだろう。つい目線を向けてしまったレイが険しい顔で口を開く。
「あの技術はアスランのエルピスが最初の実用機。機体の構想を練り始めたのはインド洋での戦闘後だと伺っている。つまり、ザフトの技術部かサジタリウスの内部に開発途中の極秘技術を横流ししたスパイがいるという事だ」
思わず副艦長みたいな声をあげてしまう。ラーナスさんが一瞬吹き出しそうになってから慌てて口元を引き締めた。
「レイ、サンキューな。うちの方は身元調査はしっかりやってからスカウトしたんだけどな……核利用なんて最悪最低よりはマシとはいえ……こうなったら他のアレやコレも盗られたか? 悪い、先に出ててくれ。
アスラン、お前の携帯のアドレス帳見ていい? カノジョが帰った後にハインラインさんと連絡先交換してただろ。公的にも問い合わせるけど繋がらなかった時の保険かけときたい」
技術局に何か異変がないか訊く気だろう。アスランさんが素早く頷いてから全員でエレベーターに乗り込む。俯いたままの碧い髪の人を四人揃って心配そうに見てしまう。俺達の視線に気づかないまま、力ない声が口からこぼされた。
「どうして……キラ……」
大切な幼馴染が再び戦場に出てきた嘆きを音にしながら手のひらへ爪が食い込んでいた。血が出そうなぐらい込められる力が増していく。出撃前に負傷とかダメだ。なにより、この人にこれ以上自分を傷つけてほしくない。声をかければ指が緩んだ。
思わず肩を下ろしていると、いつも通りの真剣な声で肩に両手を置かれた。
「シン、お前はオーブと戦うな。押し返した戦線の流れ弾が市街に行かないよう防衛を頼む。まだ避難民や地上兵が残っているから後々ザフトを非難させないために必要な事なんだ。お前がオーブを守れ。守るために出るっていうなら、それぐらい出来るな?」
嬉しい言葉に頷きそうになって我にかえる。今の前線にはフリーダムがいる。俺が抜けるわけにはいかない。お礼を言って断ろうとしたら、ステラに袖を引かれた。澄んだ目でこっちを見て首を振られる。
「ステラ、シンのやりたい事のジャマしたくない。だいじょうぶ、シンはステラが守るから」
「そうだな。それともなんだ、俺達の実力が信用出来ないのか?」
少し意地悪な言葉とは裏腹に柔らかい笑顔を向けられた。親友の問いかけに勢いよく首を振れば可笑しそうに声をあげて笑われる。長い付き合いの中でも珍しい姿に嬉しくなっていると、思いっきり背中を叩かれた。
「それじゃあ、流れ弾とかはお願いね。フリーダムは私達に任せときなさい!」
みんなが頼もしい笑みを向けて力強く頷いてくる。良い人達に恵まれた事に泣きそうになりながら頷き返した。
「皆、長らく国を空けてすまない! 状況はどうなっている? カグヤの封鎖とジブリールの行方は?!」
キラに前線の防衛を任せて向かった軍本部では皆が敬礼を返してくれた。顔が腫れ上がったユウナが自由にできない身体を芋虫みたいに動かして叫んでくる。
「カガリ、酷いじゃないか! 君が居ない間ずっと頑張ってたのは僕だよ?! こんな仕打ち、あんまりだ! 国民達も避難船に乗り込む前に一人一発は殴って来たし……
君まで逆賊なんて言わないよね? 僕は被害者だ!!」
「どの口が言っている!!」
思わず腹を蹴りつけてしまう。カエルみたいな声をあげて意識をとばしたユウナを将校数人が抱えて出ていった。
確かに私にも咎はある。だがしかし、ジブリールを匿った上に国民の避難すらさせていなかったなんてアイツは国民の事を気にかけてすら居なかった。
あんな奴を少しでも信じていた悔しさに俯きそうになるが、これ以上気を遣わせるわけにはいかない。顔を上げて報告を受けた。
「国民の避難、カグヤの封鎖共に完了しました。しかしながらジブリールの行方は未だ知れず! 戦線は押し返していますが、向こうからも新手が……」
指し示されたモニターに映った光景に思わず声をあげてしまう。かつて世話になったミネルバから発進したモビルスーツが一斉にフリーダムへ向かって来ていた。キラ、どうか無事で……!
「市街地の方は任せてください! 必ず守ります! みんな、どうか無事で!」
吹っ切れたような笑顔を浮かべたシンが下へ降りていく。大丈夫そうだなと呟いて親友を優しい眼差しで見つめてくれている隊長に声をかけた。
「アスラン。貴方はあまり前に出ないでください。シンにオーブを撃たせたくないのと同じように、貴方にも辛い思いはしてほしくありません」
紛れもない本心を述べれど、頭は縦に動かなかった。ルナマリアも口添えしてくれたが取りつく島もない。せめて最初の一撃だけでも、と言い連ねれば渋々了承される。そのまま手出しをさせないように考え、前を行くルナマリアとステラに追いついて伝えれば賛成される。頼もしい仲間とともにラウの仇目がけて一気に速度を上げた。
アークエンジェルから通信が来た。上空で別れたラクスは僕が注意を引きつけている間で無事に着けたみたいだ。彼女を無事に地球へ降ろせた事に息をついているとコクピットに警告音が鳴り響いた。咄嗟に避けて振り向いて目を見開く。
フレイを殺したあの人を思い出させる機体がこちらに砲塔を向けていた。驚いて上手く息が出来なくなる。違う、アレはあの人じゃない。僕が二年前に倒した。だから違うに決まっている。
どうにか落ち着いた瞬間、黒い機体とインパルスが左右から同時に切り掛かってきた。サーベルを使って咥えているブレードの柄を折り、対艦刀を振りかぶった手を蹴り飛ばして相手のバランスを崩した。武装を壊すために追撃しようとしたところをビームが狙ってくる。その隙に体勢を立て直した二機も戦闘に復帰してきた。避けたビームがオーブ本土に当たってないか気になって少しだけ下を見たらこの前テレビで紹介されてたデスティニーが盾で弾いて海中に叩き落としていた。必死なのかこっちには何もしてこない。見事に息のあった連携に遠くに居る赤い機体は手を出せないでいる。あの機体はたぶんアスランだ。味方を巻き込むかもしれなくて怖いのかもしれない。話がしたいのに出来ないのがもどかしく感じていると、降下ポッドが一つ降りて来た。
「ええっ、なんですかアレ? 友軍? 敵軍?」
突然現れた降下ポッドが割れ、中から三体のモビルスーツが現れる。見た事ない機体だけど全部同型機みたいだ。中継を観ていたらしいラーナスが通信を繋げてきた。珍しく焦った声で彼等の正体が告げられる。
「今現れたの敵です! 正確にはクライン派!
技術局に確認が取れました。量産機の開発コンペから落ちたエリート用機体と、エルピスのベースにしたジャスティスの発展系、量産用フリーダムのデータが共有サーバーから全部消えてた! やりやがったな、あのお姫様方! メイリン、この知らせと今送ったドムトルーパーの詳細情報、急いでアスラン達にも!」
「もう流してます! ラーナスさん、今から出ますか? ジェミニの発進いつでも行けますよ」
名前を呼ばれたメイリンが間髪入れずに返事した。お礼を言った黒髪の子が一気に加速して地上に降りようとしていた三機に向かっていく。こっちもアークエンジェルの相手で手一杯だ。向こうもせっかく助かった命なのに、どうして危険に晒すんだろう。忸怩たる思いを抱きながら砲撃指示を飛ばした。
「なんなんだよお前ら! 主人の不道徳を諫める度胸も無いのか?!」
こっちの機密情報を躊躇いなく利用したラクス・クラインにも、その振る舞いを咎めない周りにも腹が立つ。何が駄目か教えてくれる人間は近くに居ないんだろうか。だったらカワイソウに。ちょっぴり同情しそうになるけど今は関係無い。
警戒するのは左胸の装備だ。アレが使われたらビームの多いこっちは逃げ回るしか出来なくなる。上手く破壊したいけど、三体の連携はかなりのものだ。攻撃を避けつつ隙を伺っていると、奴等に向かって真横からブレードが飛んできた。エルピスのブーメランだ。すっかり頼もしくなったアスランの顔が視界に映る。
「無事か?! キラはレイ達に任せた。先ずはこの機体を!」
二人揃えば負け知らずだ。頷いてアスランのサポートに徹する。味方の武装の妨げになるからか、あの武装は展開されずに済んだ。このままいけるかと思った瞬間、艦長から通信が来る。
「島の裏側からシャトルが発進した。ジブリールが乗っている可能性が高い! 総員止めて! 最悪の場合は撃墜も許可します!」
待ち望んだジブリール発見の知らせに手足を飛ばした相手を放って全速力で向かう。オーブ軍にも情報がまわったのか、ムラサメが俺達と同じ方向に飛んでいった。民衆から見捨てられたセイランに協力者が残っていたんだろうか。速度で揺れる機体の中で思わず舌を鳴らした。
「チッ、気づかれたか……ほら、急げ! さもなきゃ殺されるぞ!? 死にたくはないだろう?! それなら私を宇宙に連れて行け!」
構えた銃の先でパイロットが怯えた声をあげる。下から向かってくる奴等を振り切らせようと急かせば引き攣った顔でレバーが押し込まれた。
セイランが用意していたシャトルに乗り込めばあの人が来るまではと渋られた。随分な忠臣が残っていたものだ。民衆から捨てられた奴は来ない。焦って銃を突きつければシャトルは進んで行った。
やはり人を従わせるには力に限る。宇宙に上がればレクイエムがある。アレなら小うるさい民衆もデュランダルも全て私に従うはずだ。しかし、ここはせっかくだから確実に逃げ切れるもう一手を打っておくか。人道主義で通っているアイツはこれで此方を撃たなくなるはずだ。青い顔で震えている相手に指示を出した。
中々落とせないシャトルに焦りが募る。ラーナスが放ったスキュラは翼の先を掠めるに留まった。レジェンドの一斉砲撃すら掻い潜っている。戦闘をやめて同じ方向を向いてくれたキラも俺達を巻き込む可能性があるフルバーストを使うわけにはいかないのかライフルに留めている。いっそのことリフターをぶつけるかと考えてボタンを押そうとした瞬間、メイリンから戸惑った声で全員に通信が来た。
「あの、今追っているシャトルから国際救難チャンネルを使って通信が発せられています。繋ぎますね」
ジブリールの奴、こちらを嘲笑いに来たのか? 苛立ちながら繋げられた通信で予想外の声が耳朶を打った。
「や……やめてください! 撃たないでください! ごめんなさい、でも殺さないで! 嫌だ、死にたくない、まだ死にたくない! 明日もその次ももっとずっと生きていたい!」
俺達と歳の近いであろう声で切実に生を望まれた。ジブリールに脅されたパイロットか?! シンが戸惑った声を上げる。レールガンを繋げようとしていたデスティニーの手が止まった。他からの射撃も止み、眩しかった空が元の青さを取り戻す。心底嫌そうなため息をついた後、再度スキュラを発しようとしたジェミニの前に慌てて立ちはだかる。
「やめろ、ラーナス! アレには脅されてる人が乗ってるんだぞ!」
「分かってるよ! だからっておめおめジブリールごと見逃せるか?! 議長の方針もあってお前らには撃てないだろ? けど、ここは誰かが泥被んなきゃ。そんな顔するなよな? 頼む、退いてくれ。今撃たなきゃ間に合わなくなる」
悔しそうに声を荒げられた後、宥めすかすように無理な笑みを浮かべられた。いつになく真剣な顔での頼みに機体を反転させて射線を開ける。やるせなさに拳を震わせているとごめんな、という謝罪が微かに聞こえた。白と赤の光線が放たれようとした瞬間、フリーダムが割って入って来た。驚いて声を上げる。
「キラ?! 退け、アレにはジブリールが乗っているんだぞ?! このまま宇宙に行かせてしまえばプラントが危ない!」
「分かってる! でも! あの子、死にたくないって、まだ生きていたいって! 仕方ないからって見過ごすことは僕には出来ない! それとも君には撃てるって言うの?!」
「キラ!」
そんなの誰だってしたくない。もどかしい思いで覚悟を決める。ハルバートを抜こうと手を動かした瞬間、背後から静かに声がかけられた。
「良いよ、アスラン。もう戦っても無駄だ。押し問答してる間に行っちまった。全軍にも撤退命令が出てる。
……じゃあな、キラ・ヤマト。勘違いするなよ。こっちだってあの子を殺したいわけじゃなかった」
普段の兄からは想像もできない冷えた声がキラに向けられる。遠く空を見上げればシャトルは既に見えなかった。静かに佇んでいるフリーダムに声をかける。
「キラ……今後、オーブは荒れるだろう。カガリに頑張れと伝言を頼む。それじゃあ」
気持ちは痛いほど分かる。俺だって本当はそうしたかった。何も答えてくれない親友に背を向け、仲間の元に降りていった。