「頼む、お願いだ! これまで支えてくれたラクスの助けになりたいだけなんだ!」
部屋に入って頭を下げる。対峙した行政府長が困ったようにため息をついた。
ラクスからデュランダル議長が怪しい証拠を秘匿回線で教えられたのは先日の事だ。アスランの記憶を操っているかもしれないと告げられて腸が煮え繰り返った。また何か演説をするらしいから先んじて声明を出そうと思えば行政府から待ったがかかった。
──個人的な心情は理解できなくもないですが、やろうとしている事が問題なのです。
そう言って国際回線の使用を拒否された。諦めきれなくてこうして直談判にやってきた。向かい合った白髪混じりの男性が口を開く。
「ご友人の力になりたい。そのお気持ちはご立派です。しかしながら今の世界情勢を理解しておいでですか? 既に世論はロゴス排斥に動いています。その流れは止まらない。ジブリールが金目当てに戦争を煽っていた事は覆しようのない事実。投獄したセイラン親子からも確認が取れました。
確かにデュランダル議長は真実全てを明るみにしていないかもしれません。ですが、それだから疑えと言うのは早計です。ただでさえ我等オーブへの風当たりは増す一方です、その上そんな演説をすればどう取られるか」
悔しい現状に唇を噛みしめる。
ジブリールを逃してしまってからオーブへの批判は止まない。むしろ日を追うごとに過熱している。あまりの言われように国を離れようとする民も増えているとメイド達が噂していた。
私が離れている間、オーブはセイランに都合が良いようにされていた。その立て直しに政府総出で奔走している。ただでさえ忙しいのは身に沁みて分かっている。それでもどうにか力を貸してほしい。もどかしい想いで首を振って声をあげた。
「違う! ジブリールの味方なんかする訳がない! ただ、議長の言うことを全て鵜呑みにして良いのかと声を上げるだけだ!」
「代表の意思がどうあれ、今の世界でそんな言葉はロゴスを擁護していると誤解されかねません。お願いです。貴女を信じてこの国に留まってくれている国民のためにも何卒思い留まってくださいませ」
国民を理由に諭された。帰って来られたあの日にされた哀願が脳裏をよぎる。全身の力が抜けてしまい、出されていた椅子に座り込んでしまった。溢れそうな涙を堪えて俯いていると、再度ゆったりとした声が部屋に響く。
「親しい方にお味方出来ないのは辛いでしょう。心中お察しします。ですが、なりません。お気持ちは理解できますが、国をこれ以上危機に晒す訳にはいかない。二度も焼かれる寸前だったオーブは自国で手一杯なのです。他を気にかける余裕がない。もう貴女に勝手な行動は許されない。全勢力に損害を与えたアークエンジェルと共に現れたカガリ・ユラ・アスハを名乗る人物は今の代表と無関係だと押し通しています。アレはあの男が為した数少ないオーブの益となる事柄でした。ですが、議長は聡い方です。下手すれば其処を突かれかねない。国民が貴女に求めている理想像が崩れます。貴女という夢は醒めてはいけない。どうか堪えてくださいませ。あの船への補給ぐらいなら行政府としては目を瞑ります」
あの時の私の行動が私を助けてくれたラクスの足を引っ張る事になる。そう言われて愕然とした。国民の理想どおりに生きなければならない事にも息苦しさを感じてしまう。かつての礼儀作法の教師が厳しい言葉を重ねてきた。
「ザフトを非難できない理由はこれだけではありません。
あの時、追加戦力としてやって来たミネルバによって市街地近くまで戦線が押し戻されておりました。それなのに市民に被害が無かったのはザフト軍でありながら流れ弾を防いでいたデスティニーのおかげです。アレに乗っているのはザフトが喧伝しているシン・アスカという少年です。市民から自然と広まった噂によると、彼はかつて私達と同じオーブの民であったらしい。祖国を守ってくれた彼を称賛し、英雄視する声も上がってきています。そんな状態でデュランダル議長に楯突くような真似はやり辛いのですよ。お分かりくださいますね?」
シンの意外な行動に耳を疑う。アイツ、オーブを憎んでいたはずなのに。確かにあの機体は市街地を守ってくれていた。でもアイツがそんな事する訳ないからまさかと思ったのに。
混乱して何も言えないでいると、念を押すようにもう一度問われた。力なく首を縦に動かす。安堵の息をこぼした長官が自分の執務室から出て行った。分厚い扉が閉められた室内で相手もいないのに謝罪の言葉が口から溢れる。
「すまない、ラクス……」
私に取って一番大切なのはオーブだ。わざとではないとは言え、民を見捨ててしまった私を彼等はまだ慕ってくれている。これ以上の自由はしたくても出来なくなってしまった。
あれだけ勇気付けてくれて道を示してくれた親友に何も返せないのが悲しくて、ひたすら涙を流し続けた。
「うぅん……なんなんだろ、このモビルスーツ……」
自分のモニターに写したデータを確認して首を傾げる。
あの時はフリーダムに気を取られていて気づかなかったけど、アークエンジェルに降りていく熱源が確認されていた。ジブリールの手がかりが見当たらないかと空いた時間にログを見返していて見つけたものだ。この熱源は大きさからしてモビルスーツだ。登録されている機体のどれとも合わない。まぁ、これはあの勢力だから今更かもしれない。こっちの技術部が徹夜して考えた機体のデータを躊躇いなく消すなんてするんだから。思わず冷めた目になってしまっているのは自覚がある。咳払いしながら変な機体に頭を悩ませた。
オーブへの追加戦力かと思ったけど、違う気がする。だってオーブの防衛には出てきていない。あの時のオーブ軍は立て直している最中だった。助けは多い方が良かったはずだ。それに、ジブリールのシャトルを追うのにも参加していない。あの時は所属勢力関係なく全員が同じ行動を取っていた。なのに出てきていない。この機体はただアークエンジェルに収納されただけだ。
不可解な機体に唸っていると、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。振り向いて目を見開く。アスランさんがブリッジに来ていた。ドアが開いた事にも気づかなかった。ちょっと反省してから慌てて席を立つ。きっとさっき艦内に流した放送に関してだろう。
今日、議長と歌姫さんが世界に向けて何か発信するらしい。始まるのはまだ随分と先だ。きっとまた大事な話だろうから聴くように伝えてほしいと艦長に頼まれた。
とっても大事にしている恋人が心配なんだろうか。場所は分からないけど、CICの意地にかけて繋げてあげたい。座りますか? と聞けば不思議そうに首を傾げられた。
「いや、そこは君の席だろう。今はイザーク達に繋げてもらう要件も無いよ。書類の提出に来ただけなんだ。随分と難しい顔をして唸っていると思って。何か気になる事でもあるのか?」
言われた言葉に恥ずかしくなって辺りを見回す。艦長達も心配そうに私を見ていた。顔が赤くなるのを自覚しつつ、意を決して謎のモビルスーツの情報を伝えた。副艦長の驚いた声が響く中、アスランさんの綺麗な顔に皺ができる。険しい表情で顎に手を置いていた。
「確かに不可解だな。キラとカガリを除けばパイロットはバルトフェルト氏ぐらいだ。彼が乗っているなら戦場に出てこない訳がない。つまり乗っているのは戦闘要員じゃない。そしてあの時はフリーダムが注目を集めていた。君も記録を見返さなければ気づかないままだったろう?」
問いかけに頷く。偶々とは言え気づけて良かったのかな。そんな事を思いながら余計に分からなくなる。
お姉ちゃんみたいに専門的な教育を受けてなくてもAIのサポートがあるからただ動かすぐらいならどうにか出来る。でも、わざわざそんな人をあの状況下で地球に下ろすだろうか? 同じことを考えたのか、私達の話を聞いていた艦長が戸惑ったように声をあげた。
「あのひっ迫した状況下で戦力にならない人物を態々派遣する? そんな事をして何になるの?」
「あくまでも予測の範疇を出ませんが、戦力派遣よりもその人物を地球に届ける方が重要だったのでしょう。恐らくは秘密裏に。ここまでしてアークエンジェルに乗せた人物……いや、まさか……だが、これが当たったら……クソッ!
艦長! 大至急出撃許可を! 例の特殊弾頭も使用許可願います! アレを使わないと遅くなる! もし彼女に何かあったら……」
自信無さそうに艦長へ答えを返したアスランさんが少しの間考え込む。弾かれたように顔を上げた後、悪態をついて床を鳴らした。常に無い焦った様子に目を白黒させてしまう。最後の言葉にハッとした。たぶん、歌姫さんの事だ。
彼女はプラントのために誰よりも頑張ってくれている。けど、ラクス様本人じゃない。もしこっそりと降りたのが本物のラクス様なら大変だ。あの人の身に何か起こるかもしれない。アスランさんが心配で堪らないと言った顔のまま、艦長を見つめていた。
慌てながらバレないようにメッセージをハンガーに送る。エルピスの準備を急ぐようにお願いした。理由も言ってないのにヨウランとヴィーノから了解の返事が来た。胸を撫で下ろしてから内心で頭を抱える。
特殊弾頭は私一人じゃ手配できない。確か、ラーナスさん経由で技術部から陽電子砲を使った加速実験の装備を受け取った。それの事だろう。アレは向かう場所が分からないとどうしようもない。アスランさんなら聞いて知っているはずだ。でも、今は声をかけられない。静まりかえった艦橋にグラディス艦長のため息が響いた。
「なるほどね。そうやってあの人物を送るとはやってくれるわ……理由はわかったけど、わざわざ直接貴方が出向く意味は何? 確かにこの情報は重要よ。でも伝えるだけならメイリンがやるわ。傍受されないよう注意は払う。それに悪いけど、貴方全然口が上手くないでしょう。演説の場に行っても大した助けにはならないと思うけど?」
いつもは優しい艦長がそんな厳しい言葉を言うなんて信じられない気持ちになる。早く逢わせてあげたいのに。こうなったら居場所を聞いてどうにかしようと腹をくくる。息を吸ってアスランさんを呼ぼうとした瞬間、当の本人が凛とした声を放った。
「それでも、会いに行きたいんです。彼女は俺が苦しい時に隣にてくれました。何もしてくれなくて良かった。ただ横に居てくれるだけで救われた。そうしてくれた人が危機に陥るかもしれないというのに、此方だけ何もしない訳にはいきません。
ここで行動しなければこれまで伝えてきたあの言葉が全て嘘になる。申し訳ありませんが、完全に私情です。罰なら後でいくらでも受けます。だからお願いします。どうか今だけは……!」
公私混同だと認めた人に目を見開く。その上でなお深々と頭を下げている彼に口添えしようと立ち上がった瞬間、小さな笑い声が聞こえた。
「それが自覚できているなら良いわ。意地悪を言ってごめんなさいね。貴方の恋人が何処にいるか分かるかしら?」
いつも通りのやわらかい声が響く。どうやらアスランさんの本音を確認するためにあんな言い方をしたみたいだ。お母さんみたいな人が変わっていない事に胸を撫で下ろす。問いかけにはアスランさんが即座に答えた。
「ありがとうございます。居場所は今朝もらったメールから分かります。演説会場はディオキアで間違い無いかと」
「分かりました。では、私のフェイス権限においてアスラン・ザラに伝令を命じます。帰ってきたらトイレ掃除一月と自室での謹慎三日ね。建前があるとは言え公私混同した罰よ。それとさっき私に言った言葉を彼女にも伝える事。良い? 分かったら早くパイロットスーツに着替えてらっしゃい」
アスランさんが再度お辞儀をしてからブリッジを出て行った。トライン副館長が恐る恐る艦長に声をかける。
「良いんですか、艦長?」
「あら、忘れてるかしら? 私だってフェイスよ。今回は軍としての建前も出来てるから与えられた権限を使っただけ。何も問題は無いわ。大丈夫、アスランに罰則を与えておけばシン達が真似するのも防げるから。あの二人には私達と同じ後悔をしてほしくないだけよ」
艦長が小さく真剣に呟いた最後の言葉は聞こえなかった。気になったけど、悪戯っぽく笑って思い出させるように胸元の翼を指でつまんで強調された。珍しい顔に驚いてしまう。了解の返事を返した副艦長に力強く頷いていた。真剣な声で私達に指示が飛ばされる。
「では、本艦はこれより彼のサポートに入る。
タンホイザー起動。マリク、面舵十。船首をディオキアの方向に向けて。チェン、ミサイル管に特殊弾頭トロイメライ装填。出力の最適化急げ。メイリン、エルピスの発進準備の状況は?」
「たった今整備完了しました。後はパイロットの搭乗待ちです。搭乗後、いつでも発進出来るようカタパルトにセットしておきます」
慌しくブリッジが動き出す。船体の速度が上がったからか、シン達から通信が来る。艦長に報告すれば全体モニターに三人の顔が映った。事情を聞いたシンとお姉ちゃんはいつかやると思った、なんて苦笑いしている。一緒になって笑った後、レイは少しだけ上を見て考え事に耽った。少しだけ嬉しそうな表情で綺麗な目が真っ直ぐにこちらを見てくる。
「そういう訳でしたら発案者に俺とシンの名前も入れてください。俺達だってフェイスです。四人も乗っている都合上、全員の意志だと示した方が良い。シン、構わないか?」
間髪入れずにシンが首を縦に振っていた。全体の通信が一度切られた後、レイから個人的にアスランと話したいってメッセージが来る。今のやり取りの間で機体に乗り込んでいたアスランさんに繋げれば、さっきよりも真剣な声がインカムから聞こえた。
「アスラン。彼女は俺にとって姉のような存在です。貴方に置き換えればフィル医師とフォリア女史を合わせた人に等しい。泣かせて帰ってきたら撃ちます」
物騒な発言に驚く。この前の衝撃的な話でも、レイは亡くしたお兄さんをとっても大事に想っているみたいだった。家族愛が強いのは二人とも似ているなぁ。そう思った矢先、真面目な声で返事が返される。
「知っているよ。もし悲しませたら是非ともそうしてくれ。……ところで、そういう事なら君は俺の弟になるのか?」
「ラウ以外を兄と呼ぶ気は今のところありません。……その自慢の兄に鍛えられた貴方なら、必ずミーアを幸せにしてくれると信じています。ご武運を」
珍しく冗談を言ったアスランさんに素っ気なく返事した後、照れくさそうな声で無事を祈ってから通信が切れる。驚いたように瞬きしてから緑の眼がやわらかく細められた。
「お礼ぐらい言わせてくれ……メイリン、他の準備は?」
「三分以内に完了する見込みです。もう少しだけお待ちください。レイには私から伝えておきますよ。にしても珍しいですね、アスランさんが冗談言うなんて」
尽くしてくれた恋人にやっと恩返し出来るからテンション上がってるんだろうか。無言で待たせるのも悪いので雑談がてら言ってみる。いつかジュール隊長に向けていたように本気で不思議そうな表情で首を傾げられた。
「さっきのやり取りで冗談なんて口にしていないが……? それより、今回は助かった。君が気づいてくれなかったらどうなった事か。ブリッジの皆さんや他の人達にも無茶を言ってすまないと伝えてくれ」
本気で添い遂げる気だ。結婚式には呼んでほしいなぁ。思わず場違いな事を考えていると準備が終わった。
すっかり聞き慣れた艦長の号令と共にタンホイザーの後を追うように真っ直ぐ飛んだ弾頭が空中で弾ける。大気中の陽電子量が調整され、星屑のように輝いた道が出来た。明るい気持ちで声をかける。
「準備できました。かなりの負荷が予想されます。気をつけてください。それでは、どうぞ!」
「ありがとう。アスラン・ザラ、エルピス、行ってくる」
カタパルトからエルピスが勢い良く打ち出された。直ぐに速度が上がり、紅い流れ星みたいになって見えなくなっていく。どうか上手くいくように心の底から三回願って見送った。
「ミーア、すまないね。今回も君には負担をかけてしまう。まさかオーブに対する批判がこれ程までに過熱するとは。私も想定外だった。流石に誰かが収めなければならない。どうか力を貸しておくれ」
ギルの優しい言葉に頷く。今回の演説は私の願いでもある。何にも悪い事してない人が辛い目に遭っているのを見るのは好きじゃない。どれだけ頑張ってもオーディションに落ち続けていた私が重なって見える。でも、怒っている人達の気持ちも痛いぐらいに分かる。だからちょっとだけ怖い。またアスランに電話しても良いかしら? 話せるだけですっごく勇気がもらえるから。本当は直接会いたいけど、ワガママは言えない。せめて声だけでも聴きたいから携帯を握って頼もうとした瞬間、慌しく扉が開いた。
「議長! ミーア! 空からアスランが! 至急お会いしたいとの事です!」
信じられない奇跡が聞こえた。思わず早足でフォリィの所に駆け寄る。
「アスラン?! ねぇ、アスランが来てるの? 彼はどこ? 何処にいるの?」
「落ち着いて、今基地のハンガーで機体を収容してもらってる! ……ちょっと、ミーア!?」
居場所が分かった瞬間、一秒でも早く会いたくて走り出してしまう。エレベーターを待つ時間がもどかしくて階段を二段飛ばしで駆け降りていった。息を切らして着いた扉の先には誰よりも大好きな人の姿が見える。どうか夢じゃない事を祈って一目散に飛びつけばしっかりと抱きしめ返される。嬉しくって涙がこぼれそうだった。
「アスラン! 来てくれてありがとう……本当に、本当に会いたかった!」
少しだけ身体を離して伝えれば綺麗な翠の瞳が幸せそうに微笑むのが見える。直ぐにもう一度抱きしめ直された。アスランが緊張したみたいに息を吸う。耳元で私にだけ聴こえるように告げられた。
「俺も、君に会いたかったんだ。何も出来ないかもしれないけど隣に居たくて。ミーアが俺にそうしてくれて凄く嬉しかったから」
この宇宙で私だけが聞けた告白に涙が抑えきれなかった。思わず漏れた嗚咽にアスランが慌てて顔をあげる。宥めるように大きな手が髪を撫でてくる。嬉し泣きだから大丈夫よ。どうにか伝えてしばらく引っ付いたままでいると、ギルがやって来た。さっきまで居た部屋へアスランにエスコートされて通される。横並びで座ったソファーで身体をあずけながら、彼の口から信じられない話を聞いた。
「つまり、ラクス・クラインがこれから始まる世界に向けた放送に介入してくる可能性が? いや、よくぞ知らせてくれたアスラン。気づいたメイリン共々、これは勲章ものだよ」
「俺は勲章よりもミーアをいただきたいです。演説後、万が一の際にはディゼンベルにある俺の屋敷で匿います。よろしいですか?」
褒め言葉をにべもなく扱われたギルが苦笑するのをニコニコしながら見つめてしまう。だって勲章より私の方が価値があるってアスランは思ってくれてる。欲を言えばせっかくのアスランのお家、もうちょっと素敵な形でお呼ばれされたかったんだけど。ひとしきり笑ったギルが可笑しそうに口を開いた。
「無論だとも。いつぞやオーブに現れた君の幼馴染よろしく攫っていってくれたまえ。ただ、そうはならないよ。彼方側の思惑がこうして知れた以上対策が打てる。何より、ミーアの献身を知って邪険に扱うほどプラントの民は愚かでないはずさ。私は少し準備してくる。君のお姉さんをお借りして良いかな?」
アスランが頷けば二人っきりになる。静かになった部屋で少しだけ顔の赤い彼と向き合った。もしかして冷静になって照れちゃってるのかしら。そんな所も可愛くって見つめていると、アスランの真剣な声が私の名前を呼ぶ。
「ミーア、大丈夫だ。議長もああ仰られていたし、万が一の備えもしてある。君は俺が絶対に」
唇に指を当てて止める。困惑した表情で閉じられたそれをフニフニと触りながら言葉を重ねた。
「良いのよ。何にもしてくれなくたって良い。私は貴方が来てくれただけで嬉しいの。アスランだってさっきそう言ってくれたじゃない。貴方が何したって気持ちはおんなじよ。愛してるわ」
驚いたみたいな顔をするアスランを抱きしめる。気持ちが伝わるように抱きしめていると、おずおずと腕が回される。私の名前を繰り返し呼ぶのに答えている。返事を返すたびにギュウギュウと力が強くなる。一際強く抱きしめられたと思ったら顔が上げられる。海の深い所みたいにゆらゆらと水をたたえている目が私を見てきた。
「俺も君のこと、愛しているよ。君が歌姫じゃなくなっても、俺にとって代わりはいない。他でもないミーア・キャンベルを世界中の誰よりも愛してる」
ずっとずっと欲しかった言葉を一番大切な人に言ってもらえてまた涙があふれる。
二人揃って幸せで泣きながら、どちらからともなく唇をあわせていた。