ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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背中合わせの心
共有の議場


 

「ニュースはすっかり様変わりしたな……これまで自分達がどんな酷い言葉吐いてたかなんてすっかり忘れたみたいだ。まったく調子の良いことで」

 

 呆れを含んだ笑いが目の前の人から落とされた。思わず頷きながら休憩室のモニターを眺める。少し前までは怖いぐらいにオーブ批判ばかり流していた。今はすっかり止んでいる。ニュースごとにあの日の会見を話したいところだけ話題にして都合の良いことだ。局によって切り取る部分が異なっていて興味深い。

 

 目まぐるしく本題が移り変わっていった先日の放送の始まりを思い返す。冒頭で言われていたオーブへの非難をやめてほしいという願いは叶えられていると見ていいだろう。これが当人の望み通りの形かは分からないが。

 

 顔を思い浮かべていた新たなる歌姫の姿が画面いっぱいに映る。議長と共にプラントに帰還したらしい。無事な様子に息をつく。彼女はラクス・クラインの立ち位置を取って代わった。その事でクライン派に狙われやしないかと心配していたのだ。

 

 以前ミネルバの会議室で聞いた話は憶えている。守るべき少女本人に刺客を差し向けた可能性が高いとの事だった。そんな信じられない所業を行う過激な派閥だから彼女のことまで敵視していると考えていた。まだ油断は出来ないが、もしかしたら違うのかもしれない。

 

 考えをまとめていると温かいコーヒーが差し出される。礼を言って一息ついていると、ネオが話題を切り替えた。

 

「そういや、次は宇宙に行くんだろ? 今度こそジブリールの野郎に引導を渡す。ディオキアでアスランも合流できたし、補給も済んだ。ジブラルタルにも問題なく着けそうだしな」

 

 真剣な顔で手のひらに拳を打ち付けている。私もあの男には思う節が多々ある。ステラ達を平気で使い捨てようとした相手だ。どうにか一発ぶつけてやりたい。我ながら珍しくそんな決意を固める。大きく首を縦に振っていると、背後から恐る恐る声がかけられた。振り向いて眼を見開く。ミネルバの副艦長が顔をのぞかせていた。

 

「急にすいません。あの放送について話し合おうって事になったんです。移動中で落ち着いてる今が良い機会かと。あの場に居た当事者のアスランも気になることがあるって言ってました。意見共有は大切ですし、良かったら参加してくれませんか?」

 

 ありがたい申し出に感謝する。重要だから子供達も揃って参加させたい。頼めば快く頷かれた。あちらの船に三人とも行っている。向かいながら声をかけよう。ネオの手を取ってトライン氏に続いて足を進めた。

 

 

 

 

「お忙しい中お集まりくださり、ありがとうございます。せっかく会見に出てたアスランも居ます。あの放送で気になるところがあれば遠慮なく」

 

 ナタルと子供達と揃って席に着く。会議室でラーナスがしっかりと頭を下げた。相変わらず開会の挨拶だけは丁寧な口調だ。最後の言葉に全員の視線が一人に集中する。一斉に注目されたからか僅かに身じろぎした後、アスランが困ったように眉を下げてやわらかく苦笑した。

 

「確かに俺もあの場に居たが、放送の中心という程ではないですよ。だからこそ気づいた事もあるんだが……いや、これは後で良いな。答えられる事があれば話します。質問があれば是非お願いします。ラーナス、進行は任せた」

 

 緑の目がわずかに顰められたのは一瞬だった。直ぐに眉間のしわを無くして飲み物を飲んでいる。本人にとっては吉報が明かされたからか、随分と上機嫌なようだ。纏う空気も全体的に角が取れたように感じられる。進行を託された彼の右腕も心なしか浮かれた口調で返事を返した。

 

「はいはい、任せられた。それじゃあ質問がある方は挙手お願いします」

 

 あの日に関しては聞きたいことが多すぎる。迷っているとシンが真っ先に手を挙げる。促された小僧の口が動いた。

 

 

 

「あの、なんでラクス……さんはあそこで割り込んで来たんですかね? ミーアさん、何も悪い事言ってなかったのに」

 

 あの時のミーアさんの言葉はとっても嬉しかった。だからアスランさんの心配も杞憂に終わると思ってしまった。つい尋ねてしまった言葉にラーナスさんが苦笑する。穏やかな声で返事が来た。

 

「あくまでも俺の推測でいいか? 

 たぶん、オーブ政府にいるアスハのオヒメサマが攻撃されると思ったんだと思う。落ち着いたらあの国の上層部に非難が集中するのは目に見えてた。ま、セイランの野郎がやらかしたのは事実だし最大の理由は好感度の違いだろうけど」

 

 好感度の違い? 首を傾げて説明を求めてしまう。ラーナスさんが快く頷いてアスランさんに呼びかける。不思議そうに口を開いていた。

 

「なんだ? その解釈で合ってると思うぞ。ラクスはカガリを友人として大切にしていたからな」

 

「なるほど。お前と考えが合ってるなら確率が高いか。いや、ちょっとした例を見せたくってさ。俺の良い所と嫌なところ、それぞれ言ってもらっていいか?」

 

 脈絡のないお願いに全員が目を瞬かせる。アスランさんが少し考えてから話し始めた。

 

「嫌……というか直した方が良いと思うのは、もう要らなくなった古いものをいつまでも捨てられないところぐらいか? あぁ、それとレオの強化を却下したところ。

 良いところは多いぞ。俺の意図をしっかり汲んでくれるし周りも見てくれる。報告の時、分からない部分はしっかりそう言ってくれる。嘘や隠し事をしない。話が上手くて知らない奴とも打ち解けられる。あとは」

 

 悪いところを少し上げてからは良いところを次々とあげていく。まだまだ言えるみたいだ。ラーナスさんが顔を覆って天井を仰ぐ。手を叩いてアスランさんの注意をひいていた。

 

「はい、ありがとな。それぐらいで充分。レオの件は悪かったって……お前さ、もうちょっと貶してくれると分かりやすかったんですけど……えぇっと、まぁ、その……こんな風にどんな奴にも良いところと悪い所があるわけでして……」

 

 アスランさんの頭を強めに撫でてから珍しく文句を言っていた。ここまで褒められると思っていなかったんだろう。耳まで赤い。咳払いしてから歯切れ悪く解説していた。自慢を聞かせたみたいで居心地悪いんだろうか。気にしなくて良いのにな。そう思いながらつい頷く。目線が行くのはアスランさんだ。拗ねた子供みたいにほっぺがちょっとだけ膨らんでいる。思わず苦笑してしまう。アンタだって良いところも困るところも山のようにあるのに。

 

 この人はステラを助けられるぐらい強いし、今回もラクスさんが介入する可能性にいち早く勘づいたぐらい頭の回転も速い。仕事の能力だけ見たら完璧超人に思える。だけど、日常生活では全然ダメだ。

 

 仕事や趣味の機械いじりに熱中して平気でご飯を抜く。睡眠時間も涼しい顔して削る。挙げ句の果てには自分が熱出してる事にも気づかない。

 セイバーが落とされて直ぐ、医務室に引きずって行く時は僕だけじゃなくてルナやレイにも注意されてた。一回ナタルさんがキツめの指導をしてくれて以来はマシになった。そこが直っても最大の欠点はまだ有る。

 偶にだけど、めちゃくちゃ言葉が足りない。見かねたラーナスさんが同じ言語話してるのに通訳入れてくれることが来て直ぐの頃はよくあった。

 もしもアスランさん一人でミネルバ来てたらと思えばちょっとだけゾッとする。真意を探ろうなんて最初の頃は思いもよらなかったから、きっとここまで仲良くなれていないだろう。最悪インド洋の戦いで叱られて以降、関係は修復出来なかったかもしれない。

 

 それは寂しいなと唇を尖らせてしまう。俺の視線に気づいたアスランさんが見てきた。とりあえず口角を上げると笑い返してくれた。嬉しくなっていると、拗ねたようにラーナスさんに反論した。

 

「無茶を言うな。小さい頃からお前には世話になったんだぞ? 大事な相手の嫌な所なんて見つける方が難しい……なるほど、ラクスはその逆か」

 

 息をのんで言われた言葉にラーナスさんが真剣な顔で頷く。

 

「たぶんな。誰だって好きな人は良いところしか見えない。反対に嫌なやつだと思えば欠点ばかりが目につく。

 俺達は議長に対して良い人だと思ってる。世界平和のために全力尽くしてくれてる。ラクス・クラインの名前を偽らせた事も自分の責任だと認めて直ぐ謝罪した。国民からの好感度もうなぎ登りだよ。議長が一年でお終いなんて勿体ないって声まであげられてる。

 あっち側は議長が暗殺の首謀者だと考えてた。あの時のミーアちゃんの言葉もめちゃくちゃ悪く考えたらオーブ政府への批判を扇動したと取れる。もちろん誰もそう見てないから安心しろ。ただ、あの時のラクス・クラインは疑心暗鬼と早とちりでそう取った。だから介入したと思うんだけど。シン、追加で質問ある?」

 

「大丈夫です。分かりやすかったです。ありがとうございます」

 

 羞恥心を犠牲にした実演付きで解説してくれたラーナスさんに頭を下げる。少し顔色が落ち着いた人が嬉しそうに笑ってくれた。

 それにしても、早合点して介入するなんて。そのおかげで世界は混乱してる。一回も会った事ないラクスさんに内心でため息をつく。いったいどんな人なんだろうか。アスランさんのさっきの言葉から友達思いだって言うのは分かるけど。そんな事を考えて頬杖をついていると、向かい側のステラが小さな手を挙げた。

 

「ミーア、大丈夫? 嘘つくのはダメ。だけど、ミーア優しい。悪い人じゃないよ」

 

 優しい言葉に心があったかくなる。アスランさんが嬉しそうに目を細めてステラの頭を軽く撫でた。

 

「大丈夫だよ、ありがとう。アプリリウスには無事に着いたって連絡が来た。ニュースでもしてただろ?」

 

 返事を聞いたステラが可愛い笑顔を浮かべる。両隣のアウルとスティング、その後ろのネオさんとナタルさんも安心したように肩の力を抜いていた。

 集められる前に見てたテレビを思い出す。ミーアさんは新しい平和の歌姫としてプラントに歓迎されていた。レイが優しい顔をしていたな。目線をやった親友の口元がやわらかく綻んでいる。喜ばしい気分になっていると、ラーナスさんが難しい表情であごに手を当てた。

 

「ミーアちゃんは問題なく認められた。寧ろ世間はあの放送に出てきたラクスサマが本物かどうかで揉めてるよ」

 

 艦長やルナが一斉に納得したような声をこぼした。目を白黒させてレイに助けを求める。珍しく困ったような顔をして説明された。

 

「そう、だな……俺達、プラント市民にとっての【ラクス・クライン】は一個人の名前ではない。平和を願い、俺達に寄り添ってくれる歌姫を指すものだ。あの介入してきたラクス・クラインはプラントのために何かしてくれたか?」

 

 問いかけに首を振る。むしろ被害を与えてくれたようなものだ。話している内に部屋中の視線が俺達に向けられていた。思わず身じろぎするとレイが軽く笑って俺を気遣ってくれる。

 

「気にするな、シン。話を戻すぞ。アークエンジェルと共にいるとあのラクスは言っていた。放送でミーアが言っていたとおり、武器だけ壊すのはロゴスの利になる行為だ。そんなラクス・クラインを認める訳にはいかない。もしかしたらあのラクスはロゴス陣営が用意した偽者ではという声が上がっているらしい。ラーナス、間違いがあれば訂正お願いします」

 

 レイの視線が中央を向く。興味深そうにアスランさんは頷いている。綺麗な黄色の瞳を細めてラーナスさんが笑った。

 

「いいや。バッチリだよ、レイ。ここ最近のアスランはミーアちゃんの安否気にしてばっかりだったから説明助かる。そうだな、補足を少しさせてくれ。今プラント市民を中心にトンチキ仮説が出回ってる。

 本物のラクス・クラインは帰らぬ人となった。でも、そんな事知らされたら一大事だ。ただでさえ戦後復興で手一杯だったのに大混乱になる。だから秘密裏にされた。議長が居場所を教えてもらえなかったのもそのせいじゃないかって」

 

 信じられない仮説に目を見開く。ラーナスさんは可哀想なものでも見るような目でどこか遠くを見ていた。

 

「で、不安を抑えるためにミーアちゃんに議長が代役を頼んだ。そして、彼女開戦前から地球にも降りてただろ? そのラクス人気に目を付けたロゴスの奴等が自分達の有利になるラクス・クラインを作ろうとした。でも時間がかかって登場が今になったんじゃないか……って割と無茶苦茶なヤツ。結構信じられてるんだよ、コレ。確かにあっちを本物だと証明出来る確実な証拠は無い。とはいえ冷静になりゃ前提条件から破綻してるよな。本物死んでたら流石に何かしらの情報掴めるって」

 

 呆れたように苦笑している。考え込んでいたメイリンが口を開いた。

 

「信じたくないんだと思います。本物のラクス様がプラントに帰ってこなくて、オーブの味方だって。そんな辛い現実を直視するぐらいなら無茶苦茶な夢に縋った方がまだマシだって考えてるんじゃ」

 

 辛そうに眉が寄せられていた。ルナが背中を撫でながら目を伏せて声をこぼす。

 

「どうして帰ってきてくれなかったんですかね。私達、何も特別な事を望んだわけじゃない。世界を救って欲しいとも、戦争を停めてほしいとも願っていません。ただ、ラクス様にはプラントで、私達のそばに居て歌を歌ってくれるだけで良かったのに」

 

 いつもより元気がない声がさみしい。回ってきたステラがルナの背中にギュッと抱きついて頭を撫でていた。目を丸くしたルナが大人しくされるままになってる。プラントの人達にはそれだけショックなんだろう。確かに俺もアスハがいきなり連合と同盟を結んだ時は信じられなかった。頭では理解できても心が納得できない事なんか沢山ある。少しだけ気持ちは分かる気がした。

 

 ルナがステラを抱きしめ返してお母さんの所に連れて行く。席に戻ってきてから手を組んで思いっきり伸ばしていた。憂鬱な気分を振り払ってるみたいだ。そのままの勢いで手が挙げられる。悪戯っぽい表情を浮かべて質問を投げかけていた。

 

「ちょっと気分転換に質問です。アスランさん、ミーアさんとラクス様、同じ対の遺伝子ですよね? なんであんなに対応違うんです?」

 

 

 

 揶揄い混じりにした問いに固まっているアスランさんを見る。考え込んでいるのか眉間に皺が寄っていた。重苦しくしてしまった空気を変えるためにした質問だけど、気になってるのは本当だ。

 

 アスランさんとラクス様は全然交流が無かった。戦争中で忙しいと分かっていてもヤキモキしたのは覚えてる。

 それなのに、ミーアさんとは毎日メールと電話してる。凝ったペットロボまで送る始末だ。さっきラーナスさんに文句言ってたけど改良する気まんまんみたい。ジュール隊長と揉めて大乱闘したの忘れちゃったのかしら? 

 確かにミーアさん側の行動も違う。ラクス様は戦艦へ直接お見舞いになんて来ないだろう。でも、それだけじゃない気がする。見つめた先で綺麗な翠がこっちを真っ直ぐに見てきた。照れたように頬を染めて言葉が紡がれる。

 

「その……俺にとってラクスは結婚しなきゃいけない相手で、ミーアは結婚したい相手なんだ。結婚は別に好きじゃなくても出来る。ほら、カガリだってオーブのためにユウナ・ロマ・セイランと式を挙げようとしただろ?」

 

 かけらも夢がない事を言われた。そりゃあ上流階級じゃ政略結婚とかあるらしいけど。この人にとっては当たり前なんだろうか。どこか釈然としない気持ちになる。ラーナスさんが久々に焦った顔で解説入れてきた。どことなく顔が引きつってる気がする。

 

「お前、それ、今の、カノジョには絶対言うなよ!? ええっとな、ルナマリア。あの時のコイツ、結婚しなきゃいけないって意識が先に来てた。ラクス・クライン個人として見れる機会が無かったんだよ。ま、それは向こうもそうだったろうからお互い様だけど。ミーアちゃんにはそんな気負いなく出会えたからな。そこの差だろ。これで良い?」

 

 大きく息を吸って言葉を区切りながら言い聞かせられていた。慌てたように釘をさしてる。アスランさんが不思議そうにしながら一応頷いてた。ラーナスさんが少し早口で懇願するように見てきた。可笑しくなって笑ってしまう。頷けば大きく息をつかれる。笑い声を上げた艦長が真面目な顔になって手を挙げた。

 

「私からも一つ聞かせて。議長の言っていたデスティニープランの詳細は分かる?」

 

 ずっと気になっていた言葉について漸く詳しく分かる。デスティニープランについては成功例として紹介されたミーアさんの例から何となく想像がつく。たぶん、遺伝子をもとに婚約者や向いてる仕事を見つけるためのものだろう。ニュースの予想も似た感じだ。急な発表だったからまだ広報部から発表は何もない。答えを知っているはずのアスランさんが一つ頷いて口を開いた。

 

「分かりました。デスティニープランについては会見後に議長から詳細をお聞きしています。遺伝子操作によって適職診断を全人類に行う。それによってナチュラルとコーディネーター間の格差を無くし、対立原因を断つための計画だと」

 

 みんな揃って首を傾げる。コレ、また言葉が足りてないんじゃ……スティングが戸惑ったように口を開いた。

 

「悪い、説明頼む。なんでテキショク診断したら戦争しなくなるんだ?」

 

 アスランさんが瞬きを繰り返す。思いがけない質問だったみたいだ。困ったように視線を向けられたラーナスさんが苦笑した。優しい声で口を開く。

 

「スティング。ナチュラルとコーディネーターの違いって何だと思う?」

 

「遺伝子弄られてるかどうか、だろ。違うのか?」

 

 質問で返されたスティングが間髪入れずに答える。正解だと頭を撫でられてた。ステラにも褒められて嬉しそうだ。なんでか自慢げにしてるアウルをネオさん達と一緒に微笑ましい気分で見てしまう。ラーナスさんがこっち側を向いてきた。

 

「はい、じゃあルナマリア。コーディネーターなら生身で空飛べると思うか?」

 

 次はステラかアウルにいくと思ってたから油断した。学校の授業でも受けてる気分だ。少し楽しくなりながら答える。

 

「無理ですって。超能力が使えるんじゃないんですから……」

 

 高く跳べても羽がある訳じゃない。笑ってしまいながら答える。どこか嬉しそうに頷かれた。

 

「正解。コーディネーターも人間の枠から離れられていない。アスランだって熱は出すし風邪は引くしな。つまり、ナチュラルの能力の限界に違いは無い。成長速度が違うってだけだ。ほら、テストでどれだけ早く解き終わっても満点以上は取れないだろ? あんな感じ。実際、レイやクルーゼ隊長、ネオさんみたいに大多数のコーディネーターより凄いナチュラルも何人か居る。特定分野だともっと多いと思うぞ。ナタルさんの砲撃戦術は俺も突破が難しい。後はアークエンジェルの操舵手だな。エンジェルダウンでのアレは目を疑った。レーダー潰されて目視であの動きは神業だ」

 

 ちょっぴり複雑そうに敵対した相手を褒めている。うんと前に思える作戦を思い返す。確かに、艦橋に当てる気は無かったとはいえあの船は良く避けてた。何か見えない力が働いてるのかと疑ってしまった程だ。レイと揃って渋い顔になっていたらしく可笑しそうに笑われる。ラーナスさん、もしかしたら先生とか向いているかも。そんな事を考えていると全員が見渡された。

 

「誰にだって苦手なものと得意なものはあるだろ? 分野をどんどん細かく絞ればナチュラルでもコーディネーターに勝てる確率は上がる。実際、アスランに何でも良いから勝とうと思ったら芸術分野に絞って勝負仕掛ければ良いだけだしな。よっぽどの音痴かつ画伯じゃない限り大抵の奴が勝てる」

 

 顔を真っ赤にしたアスランさんがお兄さんの頭を咄嗟にはたく。どんな絵描くのかちょっとだけ気になる。本人に聞いたら嫌がられそうだからフィルさんにお願いしようかなぁ。チラリと目線をやった白い髪の人が意図を汲み取ってくれたのか小さく笑ってくる。メイリンと机の下で音を抑えてハイタッチしてしまう。口に放り込まれたお菓子を飲み込んでため息をついたアスランさんが話し始めた。

 

「まぁ、そんな風に特定分野で働くことで格差は解消できる。それによってナチュラルとコーディネーターという対立図式は消え、戦争は終わるだろうというお考えだ。若い世代ほど有利だろうな。自分の能力に適した教育が受けられるから」

 

 戸惑ったようにシンが手を挙げる。

 

「待ってください。今まで向いてない分野でずっと頑張ってきた人達はどうなるんですか? まさかお払い箱ですか?」

 

 怖い可能性が提示された。アスランさんが首を傾げた後、小さく頭を下げた。

 

「すまない、言ってなかった。デスティニープランは強制ではないんだ。遺伝子検査の結果は配布されるがその結果に従うかは個人の意思に委ねられる。だから向いていないというだけで辞めなくても良いとの事だ。経験によって補える部分があるのは事実だしな」

 

 安心して気が緩む。私だって射撃が上手いわけじゃない。けど、それを理由にミネルバから降りろって言われたら嫌だ。胸を撫で下ろしていると、フィルさんが感心したような声をあげる。

 

「なるほど。それで全世界同時導入が提案されたんですね。住んでいる国によって格差が生まれないように……人は皆知りたい生き物ですから」

 

 確かに、産まれた国で違いが出たらズルいって思うだろう。自分に何が向いているか知りたいと他の国に向かおうとする人もいるかもしれない。議長はずっと先まで考えてるんだなぁと尊敬する気持ちがますます強まる。

 アウルがそっと手を挙げた。気まずそうに口を開く。

 

「でもさ、コーディネーターの方が成長は早いんだろ? 子供をコーディネーターにしようって奴等が増えるんじゃないの?」

 

 また嫌な可能性が出てきた。どう答えるんだろうと見ているとネオさんが笑ってアウルの頭を思いっきり撫でる。

 

「ちゃんと考えられて偉いな、アウルは。たぶん大丈夫だ。ラーナス、ちょっと良いか?」

 

 呼ばれたラーナスさんに何か耳打ちしている。少し物憂げだった表情が明るくなった。マイクを渡されたネオさんが立ち上がる。

 

「アンウィッシャーって聞いたことあるか? 遺伝子調整が上手くいかなかったコーディネーターの事だ。アスランより少し上の奴等じゃ結構問題になってさ。俺達も良く覚えてる。コーディネートは必ずしも思い通りにいかない。わざわざ高い金を払って失敗するかもしれない賭けをやるよりプランで良い職業につかせてやった方が良いって思うだろ。なんせそっちの方が失敗の可能性が限りなくゼロに近いからな」

 

 

 ジブラルタルでラーナスさんの過去を聞いた時にレイから教えてもらった言葉だ。あの時はなんでレイが産まれる前のそんな事知ってるんだろうと思ったけど、彼の出生を知った今なら理由も分かる気がする。

 

 安心したように大きな息をついているレイを見ていると、マイクを回収しに来たアスランさんにナタルさんが問いかけた。

 

「それで、君が言っていた気になる事とは一体なんだ? 良ければ聞かせてほしい」

 

 意を決したようにアスランさんが深呼吸する。

 

「ラクスについてです。彼女の周りに、本当の意味での味方は居ないかもしれません。正確に言うと、頼りにできる大人が」

 

 思いもよらない可能性が現れる。部屋が静寂に包まれた。

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