ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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緋蝶の羽ばたき

 

「月近くで複数のコロニーがプラントに向かって動いている、か。一体何故……おい、まさか奴等、ユニウスセブンを落とされた報復を行う気ではないだろうな!?」

 

 一番近いコロニーへボルテールを最大速度で向かわせる。熱源探査の結果通り、大量のモビルアーマーやウィンダムが見えてきた。あの時の俺達のように破砕しようとしているのではない。明らかにアレを守るための布陣だ。何故かと思考をまわし、考えうる最悪の可能性を思わず口にしてしまう。通信を繋げていたディアッカや他の隊の隊長達がより一層険しい顔になった。一刻も早く停止させるためにそれぞれ別々の方向から攻めようと作戦を共有する。ブリッジにも最大火力をぶつけろと指示を出す。力強い返事が返ってきた。焦る気持ちを落ち着かせようと大きく深呼吸する。息を吸ってペダルを踏み込んだ。

 

「イザーク・ジュール、グフ、出るぞ!」

 

 尊敬するかつての隊長が操っていたものと同色の機体を全速力で駆る。

 向かってくる相手を墜としながら動力部は何処だとコロニーの観察を試みた。戦闘の合間を縫ってカメラの焦点を合わせて拡大する。一瞬の画像を頭に叩き込めば内部に特殊な加工が施されている事に気づいた。何処かで見覚えがあるように感じる。鞭をしならせながら必死に脳内を漁る。思い当たったモノに息をのんだ。

 

 叙勲式の直前に来たアスランからの通信だ。ヘブンズベースでの戦闘記録を送ってきた。悔しそうに震える声で吐き出された言葉が脳裏で再生される。

 

「ビーム反射技術は連合の方が先を行っている。ガルナハンの大型モビルアーマーやベルリンの殺戮兵器だけじゃない、先の大戦時、オーブでの戦いからビームを屈曲する機体は実戦投入されていた。今後も奴等はこの技術を悪用してくるはずだ。これ以上犠牲を出さないためにこのデータを役立ててくれ」

 

 下唇を強く噛んでいた姿がまざまざと思い出される。血が出るのではないかと一つ下の戦友を慮って話題を切り替えたものだ。

 アイツの受勲理由はもちろん憶えている。あの忌々しい対空砲を根元から叩き斬っていた功績も挙げられていた。故に送られてきた搭乗機の映像記録には砲塔の周囲に張り巡らされた特殊な装備がしっかりと鮮明に映っていた。中央の砲塔が放ったビームを屈折させて上空に散乱させ、目標を撃ち落とす仕組みだ。

 

 あの装甲が現在対峙している筒型のコロニー内部のものと似ている気がする。違いは砲塔がないだけだ。ビームを曲げる都合上、発射する砲台はどこかに必ずある。しかし、常日頃から注視しているアルザッヘルに不穏な動きは無かった。一体どこだと脳内を探る。地球軍が常駐しているところがもう一つあったと思い当たって息をのんだ。

 裏側のダイダロスだ、あそこは資源採掘用という触れ込みだった。こちら側からはアルザッヘルが壁となって確認できてない。舌打ちしそうになりながら懸念を共有しようと回線のボタンに手を伸ばす。押そうとした瞬間、ディアッカから通信が来た。

 

「動いていた遠方のコロニーが停止した! このままこっちも止まってくれたら何よりだ。プラントにぶつけようとしてるなんて阿呆な事、こっちの杞憂なら良いんだがな!」

 

 安堵の混じった報告を聞いて懸念が確信に変わる。鏡の反射と同じだ。適切な位置に置かなければ光は目的の場所に届かない。震えそうになった指を叱咤し、宇宙にいるザフト全軍へ繋がる回線を開いた。

 

「こちら、ジュール隊隊長、イザーク・ジュール! ジブリールが再びプラントを焼こうとしている! 可能な部隊は助力願う! 今から言う座標に集結されたし! 」

 

 今いる座標を告げて通信を終わらせる。檄を飛ばした友軍の攻撃がより一層激しくなった。これさえ破壊できれば目標であるプラントへの攻撃は無効化できる。終わりが直ぐかどうかも見えない時間との戦いだ。しかし如何せん相手の数が多い。ディアッカがエンジンを狙い撃とうとしているが射線上に割り込まれて防がれている。段々と数は減ってきているがいつ放たれるかもしれない攻撃に焦りが募っていく。味方は誰も彼もがむしゃらだ。アスラン達はジブラルタルに着くまであと少しかかると話していた。ミネルバを待てる余裕はない。念のため呼びかけてはみたが、宇宙上のザフト部隊の多くは最前線であるここ、月に集結している。

 額の汗を拭う暇すらなく機体を動かす。つい口から悪態がこぼれた。プラントをこれ以上焼かれないためにこれは破壊しなくてはならない。ユニウスセブンの悲劇は誰しもが憶えている。血のバレンタインを繰り返すわけにはいかない。

 そして、部下達のかけがえのない命も失いたくない。発射されたら総員退避させなければ。どちらも護らなければならないものだ。白服を着てからというもの、涼しい顔で激務をこなしていた隊長の技量に改めて感服している。思わず緩みそうになる口元を引き締めた。いつ来るか分からない不可視の死神の鎌に追い立てられるようにエンジンを死守しようとする相手を静かにさせていく。万が一間に合わなければ俺一人張り付いてでも止める覚悟は出来ている。ただ、ワガママを言わせてもらうなら援軍が欲しい。せめてあと一機、一機だけで構わない。

 

「ニコル、ラスティ、ミゲル……! 隊長……!」

 

 俺が隊長だと睨まれたのだろう。集中的に狙われ始めた。ディアッカが呼びかけてくる。俺は気にせずコロニーを壊せと命じれば悔しそうに了承の返事が来た。アイツはやってくれる奴だ。信頼できる同期の成功を祈りながら操縦桿を動かし続ける。腕が痺れて感覚が鈍くなってきた。突破しようにも数の暴力で隙間もキリも見えない。ここまでかと弱気が胸に去来する。向こう岸へ渡ってしまった仲間達の名を呼んでしまった瞬間、眼前の敵が一斉に切り伏せられた。驚いて光の先をモノアイで追えば朝焼け色の美しい羽根が見える。面倒見の良かった先輩を思い出させる明るい声が回線に乗って宙域に響き渡った。

 

「こちらは特務隊フェイス所属、ハイネ・ヴェステンフルス! さっきの通信を聞いて助力に来た! さぁ、みんなでこのデカブツをぶっ壊そうぜ!」

 

 待ち侘びた援軍に肩に翼が生えた心地になる。アスランが気にかけている赤目の後輩が駆るものと酷似した機体に乗ったハイネが笑いかけてきた。

 

 

 

「グレイト! 流石はハイネ。イザーク、お前の奮戦のおかげで相手も大分減った。バッテリーの残量は?」

 

「心配するな。コレを壊すまでは保たせてみせる。良いからとっとと進まんか! ハイネ、助かった。この礼は必ず返す。ところでその機体は……」

 

 安堵の声で通信が騒がしくなる。随分と部下に慕われているようだ。

 先行していたザクが後ろを振り返ってきた。口笛を吹いたディアッカが嬉しそうに返事して加速する。現場に着いた俺にまずはとにかくイザークを! と切羽詰まった声で頼んできた。助けられて何よりだ。並んで共に前進するイザークが機体について聞いてくる。自分の髪色と同じ色に設定した羽根を広げて答えた。

 

「デスティニーインヴォーク。シンが今乗ってる機体の先行試作機だ。試験運用されないまま倉庫に眠ってたコイツに乗って飛んできたってワケ」

 

 

 仕事で視察に行っていた。アスランとも知り合いだという技術部長がこんな機体があると見せてくれたのだ。

 

 本当はデスティニーにもインパルスの分離機構を採用したかったが、燃費と機体構造の問題で叶わなかったそうだ。分離機構無しのセカンドシリーズという条件下でどこまで可能か軽く組んでみようと造るだけ造ってみたらしい。その後、クレタの戦いでアスランが機体をロストした事でサジタリウスからサードシリーズの共同開発が持ちかけられた。そちらに夢中でこの機体は眠っていたという話だ。制式採用されたデスティニーに使われているパルマフィオーキナは無く、レールガンはグフの無反動砲になっている。燃費の都合上だろう。

 

 面白い機体に胸を踊らせているとせっかくだから乗ってみるかと愉快そうに言われた。どうせなら機体のカラーリングを俺好みにしてもらった瞬間、イザークの全軍通信を傍受したといういきさつだ。本当にタイミングか良かった。直ぐさまフェイス権限で機体をもらい受け飛び立った。あのバッジはただの飾りじゃない。こういう時に自分のしたい事を通すためにある。

 道中、今回の作戦に間に合わなかったと溢していた仲間にも声をかけたら来てくれた。オレンジショルダーの奴等が背後から並んでくる。ジュール隊長の義理に報いたいと艦隊までお出ましだ。敵がみるみる減っていく。鼻歌混じりで進み、高揚する気分のままにグフを駆った時と同じ言葉を放った。

 

「ザクとは違うんだよ、ザクとは!」

 

 先行したディアッカが周囲の奴等は片付けてくれている。イザークのテンペストと一緒にエクスカリバーをエンジンに叩き込む。ダイダロスから高エネルギー反応感知が検知されたと通達が来たのはほぼ同時のタイミングだった。ただのガラクタとなったコロニーを捨て置いてイザークが全軍退避の指令を出す。急いで離れて息をついた。放たれた太い光がそのまま進んでくる。何も傷つけないまま虚空に消えていった。

 

 

 

 

「レクイエム、命中せず! 繰り返します! レクイエム、命中ならず! プラント全基、健在です!」

 

 青ざめた顔で声を震わせる若い通信兵を見る。目を溢れ落ちそうなほど見開き、驚愕を顔に貼り付けた指揮者が何が起こったと尋ねてきた。

 

「その、こちらの発射後にグノーが破壊された模様でして……」

 

「ふざけるな! 分かったなら途中で止めろ!」

 

「無理ですよ……情報来たの、あなたがボタン押したちょっと後だったんですけど。だいたいレクイエムは機械です。一度周り出した歯車は壊す以外で止められ」

 

 論戦好きなコイツは若さゆえ口答えしてしまった。止めようとした言葉が不自然に途切れる。入隊したての若造の口から血が溢れた。煙を上げる銃を片手にした独裁者がヒステリックに叫ぶ。

 

「うるさい! うるさいうるさいうるさいうるさい!!! ドイツもコイツも! 私が世界の中心だぞ! とっととグノーを直せ! 第二射の準備も急ぐんだ! 言うことを聞かなきゃこうしてやる! 死にたくなかったら言う通りにしろ!」

 

 小部屋の扉が乱雑に閉められた。全く、うちの息子でももう少しマシな癇癪を起こす。見限りたいがコーディネーター共を根絶やしにしたいところだけは一致している。まだ未来のあった男を内密に弔ってから作業に入るよう指示を出した。

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、一時はどうなるかと思ったぜ……プラントもみんなも無事で何よりだ。どうする? この勢いでダイダロスも一気に攻めるか?」

 

「いや。あれだけの出力、連射は厳しいはずだ。攻撃の中継地点となるコロニーもこうして破壊した。なにより火器の使いすぎでモビルスーツもバルテールも損耗が激しい。帰れなくなったら元も子もない。一度プラントへ帰投する」

 

 汗だくのイザークが撤退を促す。本当に無事で良かった。去っていくハイネ達を敬礼で見送る。プラントに帰ろうとザクを動かした瞬間、何かが視界をかすめた。カメラで追って気づく。脱出ポッドだ。一人しか入れないタイプのもの。イザークに報告して判断を仰ぐ。回収するように指示が来た。息を整えながら言葉が紡がれる。

 

「せっかく拾った命だ。出来ることなら助けてやりたい。総員、よくやってくれた。すまないがボルテール帰投後、コクピット内にて待機。もう少しの辛抱だ。俺とディアッカで相手をする」

 

 昔のコイツからは考えられない台詞に嬉しくなる。文句は一つも上がらない。なんやかんや面倒見が良いコイツは人望がある。ポッドを優しく包んで保護し、漂う残骸に背を向けた。

 

 

 コクピットから降り、ロックを解除する。圧力が抜ける音とともに意外な人物が宙に浮かんできた。

 

「狭かった……さて、ここは一体……君達はイザーク・ジュールとディアッカ・エルスマン?」

 

 名前を問うてきた彼に揃って目を見開く。マーチン・ダコスタ。かつて不時着した砂漠で面倒を見てくれたオッサンの副官だ。三隻同盟でもエターナルで一度再会した。なんでこんなものに? 尋ねようとした瞬間、思いっきり頭を下げられる。

 

「良かった、頼む! 助けてくれ! ラクス・クラインはこのままじゃ踊らされて見捨てられる!」

 

 アスランからある程度の懸念は共有されている。クライン派内の過激派の一部は今の彼女のありようを認めておらず、貶めようとしている可能性があるというものだ。

 どうやら的中していたらしい。顔を見合わせてから頷く。隊員達に休むよう告げたイザークが懇願する大人を別室へ案内した。

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