「指令書はそちらにも届いたんだな……大丈夫か?」
気遣わしげな顔をしたイザークが画面の向こうに問いかけた。核を使ったビーム砲という点でジェネシスを彷彿とさせる兵器に親父さんを思い出して憔悴しているかと心配だった。思わず通信を繋げてもらったが瞳に悲嘆そうな色は見えない。強い意志を宿した光を携えてはっきりとした声が返ってきた。
「心配するな、俺なら大丈夫だ。ダイダロス砲台の完全沈黙は急務だしな。しかし、もう一枚は何故今になって……」
「こちらで保護したダコスタ氏に向こうから接触があってな。議長に判断を仰いでお繋ぎした結果だ。どうやら彼方も全員が完全に同じ方向を向いている訳ではないらしい。二枚目に関しては俺の隊とそちらにしか出されていないと言っていたぞ」
不審そうに首を傾げた歳下へイザークが経緯を説明する。
あの連絡が来た時は心底驚いた。久しぶりに顔を目にしたオッサンは随分とやつれていた気がする。砂漠の虎なんて呼ばれていた男が牙を抜かれたようだった。様々なものに板挟みになった心労からだろうか。自分達にも責任はあると副官共々沈痛な面持ちだった。
そんな情報を思わず付け加えてしまうと話を聞いていた新緑の瞳が見開かれ、感嘆の息がこぼされた。
「そうか……すごいな。人は自分の選択を間違っていると認められない事が多いそうなのに」
「確かに。中々出来る事ではないな。酸っぱいブドウなんて寓話も残っているぐらいだ」
聞き慣れない言葉にアスランと揃って首を傾げる。趣味の資料として知ったと得意気に笑ったイザークが語り始める。
「あるところにキツネがいた。腹を空かせていたところブドウの木を見つけ、これは旨そうだと欲しくなる。しかし高所で実っていて手に入らない。疲れて諦めた奴はこう言うのさ。『どうせ酸っぱいに決まっている。あんなブドウ、欲しくなんかない』と。自分から望んでおきながら手に入らなくなると貶すなんて褒められた行いではないがな。
諦めたという自分の選択を正当化する奴への皮肉や本当は欲しいはずのものが手に入らない時の負け惜しみの例えとして一部の地方で使われていたらしい」
流石、民俗学が趣味なだけある。興味深いがコイツのこういう話とアスランの機械語りは早めに止めるのがクルーゼ隊の鉄則だ。止めるタイミングが分からなくなったら最後、延々と続く。どう声をかけるか思わずこっそりと見計らってしまう。小さく笑ったアスランが勉強になったと返した瞬間、あちら側からノックの音が聞こえてきた。それじゃあ、と通信を切ろうとした同期に真剣な顔つきに戻ったイザークが声をかける。
「アスラン。あの砲台の存在が公になった今、ダイダロスの方も何らかの対策を必ずしてくる可能性が否定できん。アルザッヘルの艦隊は総力をあげて叩いておくが、そちらも気をつけろよ」
「当たり前だ。その事はシン達にも忠告はしている。そっちこそ死ぬなよ」
瞬きを繰り返した後、頼もしい笑みが浮かべられる。思わず頬が綻んでいた俺達の顔が暗くなった画面に映っていた。
「ステラ、お願いだ。何かあったら直ぐに連絡して。何処にいても駆けつけるから。どうか気をつけて」
向こうの船に戻ろうとするステラに頼み込んでしまう。今回は俺達が敵を引きつけている間、ナタルさんやスティングが砲台を破壊する作戦だ。昔ガルナハンで俺がやった役回りをステラ達がやる。心配で堪らなくて思わず抱きしめてしまうと小さな手が嬉しそうにまわされた。細い指が頭を撫でてくれる。可愛い声が胸元で聞こえた。
「大丈夫。ステラ、ちゃんとシンの所に帰ってくる。約束だよ。ちゃんとまもるから。じゃあ、またね?」
嬉しそうに笑ってくれた子を家族のところに送り返す。笑顔のまま扉が閉まった。約束してもらったけど、心配は尽きない。なにか飲もうと誘われて入った休憩室内を歩き回ってしまう。ルナが咎めてきたけど、落ち着かないものは落ち着かない。ジュール隊長との通信を終えたアスランさんがレイに呼ばれて出てきた。俺の方を見て小さくため息をついてくる。硬い声で名前を呼ばれた。
「シン。ステラが信じられないのか?」
「そういうわけじゃないですけど……心配なんですよ。もし何かあったらってそう思うと……」
ステラの事は信じている。けど、あの日の僕の家族みたいに失うのは突然で一瞬だ。その可能性が消えないのが怖い。どうしようもなく世界は残酷だ。
そんな事を考えてしまう自分が嫌になっていると首に冷たいものが当たった。驚いて足が止まる。思わず悲鳴をあげてしまうとアスランさんが甘いカフェオレの缶を差し出してきた。首の血管を冷やすと落ち着くらしいぞと笑いながら言っている。ラーナスさんが自販機近くで悪戯っぽく笑っているし、この前目をあっためた仕返しじゃないだろうか。唇を尖らせながらお礼を言って冷たい飲み物を流し込む。隣に寄りかかってきた人が諭すように言葉を投げかけてきた。
「それならそんな風にするな。彼女を不安がらせるだけになるぞ。信じているなら疑うように見える素振りをするんじゃない。信じて任せたならこちら側の仕事を全力で行うだけだ。こちらに注意が向けば向くほど、彼等に気づいても対応する余裕を連合から奪える。ガルナハンの時と同じだな」
同じ作戦を思い出していた事に目を瞬かせてしまう。それってつまり……
「アンタ、ガルナハンの時も俺の事信じてくれてたんですか。何かあって失敗する事とか、考えてなかったんですか」
「当たり前だろう? 元から実力はあったし訓練でも良くやっていた。あれだけの努力を見ていて失敗を疑うなんて出来るか。そんな真似、あの時のお前に対してあまりにも失礼だろう」
思わず聞いてしまった言葉に当たり前みたいな顔して返された。落ち着いた体温がさっきまでの不安とは全く違う感情で上がっていく。背筋を正してお礼を言えば少し照れくさそうに笑っていた。
大きく深呼吸して気持ちを定める。確かに、あれだけ頑張っていたステラを疑うなんて酷い事だった。信じている大好きで大切な子の成功を祈ってから立ち上がる。作戦の始まりを告げるメイリンの強張った声がスピーカーから響いた。
「ミネルバ総員に通達。これより作戦トリシューラを開始します。本艦は基地より発進後、ターンホイザーと特殊弾頭を併用し、大気圏より高速で離脱。ダイダロス基地の強襲を行います。本艦は陽動のため、宙域到着後は即座にモビルスーツを発進させます。パイロット各員は機体にて待機願います」
あの砲台を破壊したら連合の奴等やジブリールにもう打つ手はないはずだ。あれさえ壊せば、どうしようもない戦争はもう起きない。絶対に成功させようと全員で目を合わせて頷きあう。足を踏み出したタイミングは綺麗なほどに全員一緒だった。
「おい! アルザッヘルからの援軍はこれだけか! もっと寄越すようコープランドの奴に伝えろ! 早くしないと奴等が来るかもしれないだろう!?」
「あちら側もザフトから攻撃を受けています。通達は送ってみますが、こちらを気にかける余裕はないでしょう。フォーレに配置している艦隊を呼び戻す事なら出来ますが、あそこを破壊されればレクイエムの根幹が成り立ちません。発射しても意味がない」
中継コロニー自体は脆弱だ。真上に配置してあるフォーレが無ければレクイエムのビームは我等の故郷である地球へ向かってしまう。無茶を言うなと言いたいが、以前のような癇癪を爆発させられると堪らない。反応を窺っていると蹴飛ばした遠くの椅子に渋々座り直した。舌打ちをこぼした盟主に呆れそうになる。あくまでこの男とは利害が一致しているだけだ。人間として尊敬できるところは欠片もない。
先程様子を見に行ったデストロイのパイロット達を思い返す。どれも酷い有様だった。正気を失ったようにひたすら高笑いしてばかりのモノ。嫌だ嫌だと喚いて暴れようにも胴体と座席を縛り付けられていたモノ。死にたくない死にたくないと虚な瞳で言いながら涙をこぼしていたモノ。あれを生体CPUと呼称する奴等の気持ちも分かる。同じ人間として見たらあまりにも哀れだ。
皆、憎きコーディネーター共に殺された息子と歳が近かった。そんな少年少女達が乗るデストロイは戦場に駆り出される準備が出来たようだ。
いっそのこと彼等は早く楽になると良い。天国にいる我が長男は中々に面倒見が良いと近所の子供達からも評判だったから。妻との間に新たに授かった泣き虫の次男坊を空から見守ってくれているだろう。きっとあの子供達の事も労ってくれるはずだ。
胸ポケットにいつも入れている遺影をひっそりと撫でていると、通信兵が声をあげる。
「十時に熱源反応有り! ミネルバ、来ました! コレは……移動速度が尋常じゃありません! 距離詰められます!」
予測通り来た奴等に意識を軍人として切り替える。薬を急激に大量摂取させられた事で彼等は未来と引き換えに莫大な性能を手にしている。戦力としては申し分ない。人の親としての自分を押し込めて号令を発した。
「デストロイ、全機出撃! 他の機体は距離を取りつつあの船を沈黙させろ!」
「あの機体……ジブリールの奴、性懲りも無く! どいつもこいつも、自分の行動で誰かを泣かせる覚悟は出来てるのかよ!」
例の機体が現れた事にシンが激昂する。俺も思わず拳を握りしめた。
ベルリンでは機体の爆発によってパイロットが跡形もなくなった。ヘブンズベースでは彼等の遺体が回収できたらしい。薬学の見地から検分に立ち会ったフィル医師によると、薬の急性中毒によって生き残っていても先はなかったそうだ。噂を聞いて治療を受ける際に問いかけたところ、悔しそうに教えてくれた。機体はデストロイという名称だったが、敵だけでなく中のパイロットまで破壊するとは。この砲台と言い、ジブリールが成す事は悉く人間の所業とは思えない。
あの機体が現れたという事は、未来を投げ捨てさせられた命があるという事に他ならない。どんな命も生きたいはずだ。自分から将来を閉ざすような真似はしないだろう。
爪が食い込みそうな掌をどうにか開いて操縦桿を握る。先を行ったアスランとシンに続いて発進を促される。どうにか落ち着こうと吐き出した声は怒りで低くなっていた。
「レイ・ザ・バレル、レジェンド、発進する……!」
踏み砕きそうな力でペダルを勢い良く踏み込んだ。
「準備できました! ご武運を!」
ジブラルタルの整備士達に礼を言ってマスドライバーに船を乗せる。
今回の作戦ではミネルバが先行して敵の目を引きつけている内にこちらが砲台本体に奇襲をかける。アルザッヘルを陽動として現れるミネルバをさらに隠れ蓑にする算段だ。
彼等の無事を祈りながら月へと一気に加速する。青空を見渡していると一隻の船が視界に映った。敵の援軍かと拡大して目を見開く。彼等もミネルバと同じ方法で大気圏離脱は出来るのだった。震える指で懐かしい通信コードを押す。大きく息を吸ってから呼びかけた。
「こちらはミネルバ随伴艦パンドラ艦長、ナタル・バジルール。何故今宇宙に上がるのか。貴艦の行動目的を述べよ、アークエンジェル!」
かつて自分も乗っていた白い船を問いただす。声は揺れていないだろうか。画面に映るラミアス艦長は信じられないものを見たように眼を見開いていた。
「分かりました。グラディス艦長には私から報告しておきます。それでは」
火傷跡の残る顔を微塵も動かさずに敬礼しようとした自分の手をバジルール副艦長が戸惑ったように見た。所在なさげに下ろした後は厳しい顔つきになる。通信を切ろうとした彼女に艦長が声をかける。
「待って! ……生きていてくれてありがとう、ナタル。ムウにもそう伝えてくれるかしら?」
通信先の紫苑の瞳が限界まで見開かれる。緩んだ口元が泣き出しそうな声をこぼした。
「貴女は優しすぎる……私が何をしたのかお忘れですか? 戦いが終わったら彼に、ネオにも伝えておきます。では、また」
今度こそ切られた通信に艦長が寂しそうに笑う。目尻から溢れる涙を拭おうともせず優しい言葉がこぼされた。
「覚えているわよ。それでも、貴女が生きててくれて嬉しいの。だけどもうムウは帰ってこない……あの人はネオなんていう私の知らない人になったのね……」
顔を覆った人から落ちた雫が浮かび上がっていく。目的地はもうすぐだ。自分の一部のように馴染んだ舵を動かす。腕で眼を擦った艦長が久々に聞く凛とした声で彼に出るよう命じた。
「ごめんな、助けられなくて」
最後のデストロイに突き刺したジェミニのサーベルを抜く。直接接触した俺しか気づいていないだろうが、これに乗っていたのはあの時撃てなかったシャトルのパイロットだ。何回も夢に出てきた声で死にたくないって叫んでた。今際の際に正気を取り戻したのか、はっきりした声でありがとうなんて言ってくれた。こんな事しか出来なかったのに。嫌な気分になりながら群がってくるウィンダム達を落としていく。
アスランも分離させたリフターとエルピス本体を同時に動かして基地への障害を薙ぎ払っている。目的に集中してると並行処理上手いんだよな。大丈夫そうだと安心していると、どうしたのか聞かれた。さっきの言葉が聞こえたのだろう。重苦しい鉛を飲む気持ちで何でもないと返す。これも墓場まで持っていこう。自分の中で整理し終えたので気持ちを切り替える。うじゃうじゃ湧いてくるモビルアーマー達にため息が出た。
数の暴力は連合の強みだ。ハイネやディアッカ達が奮戦しているアルザッヘルや今相手してるダイダロスの艦隊だけじゃなくこっちに砲撃飛ばしてくるコロニーの守備部隊までいる。隙間を縫って守備部隊を潰しながら思わず苦笑した。
ダイダロスの目は前線に釘付けになっている。ミネルバや障害物の陰に隠れながら砲台へと進んでいるナタルさんの船なんて誰も気にしていない。レーダーは映しているが、見る余裕が無いんだろう。上手く行きそうだと笑った瞬間、アラートが鳴り響く。何も無かった背後から特殊な装備を背負ったウィンダムが現れた。ミラージュコロイドか! 向こうも使ってる可能性がすっぽり抜けてた自分に舌打ちしながら盾を構えるが、背後からも敵が来る。どうにか上下に抜けたいが行けるか……!?
息を詰めながらレバーを動かそうとした瞬間、散々見た色とりどりの光線が辺り一帯にいる敵の装備を灼いた。そのまま廃棄コロニーのエンジンも使い物にならなくなる。武器が無くなったことにホッとしたような素振りをしたウィンダム達が基地へと戻っていく。ボロボロになった盾を手放して信じられない気持ちでカメラを操作した。初めて聞くアスランの親友の声が響く。
「ミネルバ、聞こえますか! こちらはアークエンジェル所属、フリーダム! 砲台の破壊に協力します!」
白い戦艦を背にフリーダムが蒼い翼を広げていた。
「お前、どうして……!」
予想だにしていなかった登場に声をあげる。遠くにはエターナルの姿も認められた。議長のもう一枚の指令はこれを予期してかと納得しながらも問いかけてしまうと、口元を緩めたキラが静かに力強く声を発した。
「僕はデスティニープランが良いとは思えない。議長の事もまだ信じられない。けど! それとは関係なく、これはあったらいけないものだ。そうでしょう?」
じっとこっちを見てくるキラに頷くと肩がおりて目尻が緩む。そのまま回線を繋げて作戦を共有すると、こっちで砲台破壊した方が早くない? と首を傾げられる。身も蓋もない意見に笑ってしまった。
「なんでも一人で背負おうとするな。この数だぞ。連合の彼等を無力化するのが先だ。俺と一緒に来い。後ろは任せた」
「うん!」
キラがあの頃と変わっていないように嬉しそうに頷く。思わず笑い声をあげてしまうと、基地に肉薄して艦隊相手に暴れていたシンが慌てたように上がってきた。拗ねたような声が耳を打つ。
「ちょっと、俺達も頼りにしてくださいよ! レイとルナも片付けたらこっちに合流しますから! ステラは砲の発射路を降りて行ってるそうです。こっちも急ぎましょう! ……あと、キラさん」
緊張した面持ちで呼びかけられたキラが首を傾げる。瞳を彷徨わせた後、もう一度大きく息を吸ったシンがガバリと頭を下げた。
「すいませんでした! その……前のフリーダム倒した時、キレてて言い過ぎたなって反省してて……アナタも辛いこと沢山あったはずなのに……」
エンジェルダウンを思い出す。中継されていたのは映像だけだ。通信は聞こえてこなかったが、一体何を言ったのだろう。首を傾げながら向かってくるウィンダムの腕を切り落としてやる。シンが悔しそうに声をあげてきた。キラとの話に集中したいだろうから気を利かせてみたのに。おかしそうに笑ったキラが穏やかに返した。
「いいよ。僕もいろいろ言っちゃったからおあいこね。こっちこそごめん。今は一緒に頑張ろう。もうこれ以上、花を散らさないために」
ハッとした顔つきのシンが心の底から嬉しそうに頷いた。三人揃って進んでいると、インパルスが発射口から飛び出してくる。砲台本体はエネルギーが溜まっており巻き込まれそうで無理だったが、制御室の鎮圧には成功したらしい。これで発射の危険性は無くなった。後は発射口そのものを破壊するだけだ。発射直前だったという今ならエネルギーの逃げ場はない。内部の反応炉も一緒に誘爆で破壊できるだろう。そう告げればシンがレールガンを構え、キラが照準を合わせる。俺も背負い直したリフターに積まれているフォルティスを向ける。最大出力の攻撃が三連、忌々しい大穴を焼き払った。
「何を言っている! ダイダロスだけでなくアルザッヘルまで降伏するとはどういう了見だ!」
乗り込んだ戦艦で怒声を上げる。画面の先のコープランドは困ったような顔つきを崩さない。怯えながらもハッキリと声を上げられた。
「ただでさえ強者揃いのミネルバにフリーダムまで合流したら誰の手にも負えない。戦う前から確実に負けると分かっている勝負をやる人間がいるかい? 抗戦したがった将校もいたが、そう問えば黙ってしまったさ。
何よりね、みんなもう疲れたんだ。ヘブンズベース以降は私達のための戦争じゃない。君を正しくするための戦いだ。そして全て負け戦に終わった。もううんざりだ。これ以上はこっちを巻き込まないでくれ」
「ふざけるな! そっちに着いたら覚えていろ!」
腹が立って通信を切る。呆れたようなため息までつかれた。なんなんだアイツ。イライラして爪を噛む。船を動かしていた将校が不審気な声をあげた。いったい何だと舌打ちしてしまう。
「いえ……周囲に微弱な熱源がありまして。破壊された機体の残骸にしては随分高い……まさか、コレは……!」
息を飲んだ男が舵を滅茶苦茶に動かす。急な加速に座席にしがみついていると船の後方で爆発が起こった。アラートがけたたましく鳴り響く中で思わず悲鳴をあげると、顔を歪めた相手が冷静に解説してくる。
「自動制御されたミサイルです。気づいて良かった。破壊された区画は切り離しました。速度は落ちるので先程のような回避は無理ですが、航行自体はどうにか……どうされましたか?」
振り返った男の背後を指さす。黒いモビルスーツが小さな砲台を幾つも飛ばしてきた。何発も何発も熱線が飛んでくる。さっきの攻撃で避けられないこちらに対してあんまりな仕打ちだ。
熱い。痛い。苦しい。気が狂いそうだ。
「嫌だ……死にたくない……私はまだ!」
全てが焼かれていく中で何処かで聞いた言葉が耳にこだまする。いったい誰の声だろう。煩わしい事この上ない。忌々しい不快感の中、意識が潰えた。
月の両端から白い光が打ち上げられる。
近くにやって来たアスランの赤い機体が手を差し出してきた。やったなと笑いかけてくる。嬉しくなって掴めば綺麗な緑色の目がますます細められた。
デスティニーに乗っているシン君の側に一機黒い機体が近づいてくる。どうしたのかと親しげに聞かれた声が弄ばれた命達の弔いに行っていたと静かに答える。何処かで聞いた気がするなぁと思いながらやっと戦争が終わる事に息を吐き出した。その瞬間、身体が傾いだ。通信を繋げていたアスランが名前を何度も呼んでくる。大丈夫だからと言いたい口は思ったとおりに動かないで意識が深く沈んでいった。