ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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それぞれの行方

 

「そうか……それであんなに必死だったんだな……」

 

 二年前、連合との戦闘中に救命ポッドを捕まえようとがむしゃらだったキラが脳裏に浮かんだ。まさかポッドの中にキラの初恋相手が乗っていたとは。おまけにその少女はアークエンジェル内でキラに寄り添ってくれたらしい。カガリから仲間だとは聞いていたが、予想外の事実に驚く。キラがやけに必死だったから印象的な出来事だ。

 あの時のキラを思い出す。フリーダムの損傷度合いなんか気にもとめていなかった。詳しく知った今なら納得できる。心配で止めてしまった事を謝ると困ったような声が降ってきた。

 

「知らなかったんだからしょうがないよ。僕だって驚いてるんだから。ユニウスセブン落とした人達が何言ったかとか、パトリックさんの最期の言葉とか全然気にしてなかった。君がまだオーブにいた頃にちゃんと聞けてたら良かったな……」

 

 後悔するように目を伏せたキラに慌ててしまう。先の大戦が終わってからキラの方こそボロボロだった。もし尋ねられていたとしても話さなかっただろう。俺だって世界に対して父上の分まで償わなくてはならないと切羽詰まっていた。キラをこうしてしまった責任は俺にもある。再び頭を下げれば穏やかな笑い声と共に嗜められた。

 

「もう、そんなに謝らないでよ。僕だって君に酷いことしたんだから。お互いさまだよ。もう謝るのなし。それに、こうやって話してみて分かった。僕と君とじゃ守りたいものが違うでしょ?」

 

 キラから言われるとは思っていなかった言葉に驚く。自室でシン達と話している時に思った事だ。シン達を知ってくれた今なら同じじゃないだろうか。恐る恐る問いかけると、やわらかく微笑まれた。

 

「うん。シン君は良い子だしね。こうやって人となりを知ったら守ってあげたいとは思うよ。他の人達はまだ分からないけど……それに一番信じられない事が起こってたし。まさかアスランに恋人が出来るなんて……君、バカみたいに鈍いじゃない」

 

 信じられないものを見るような目で見つめられる。そこまで言われる筋合いはないと思うんだが。力加減に気をつけながら額を弾けば可笑しそうに笑われた。幼い頃に戻ったような気分になっていると真剣な声が防音仕様の部屋に響く。

 

「守りたい人の違いもあったけどさ、それだけじゃないよ。君は世界とか平和とか、そういう大きなものの為にも動けるでしょう?」

 

 キラの言葉にシン達と話しながら考えた事を思い出す。あの子達の側に居続けたのは議長が道を間違えなかったのも大きな理由だった。そうかもしれないと肯定すればやわらかく微笑まれた。

 

「凄いよね、君もラクスもそうやって動けて。僕はそんな風に出来ない。世界がどうとか国がどうとか、よく分からないし。大事な人のためならどうにか頑張れたけど……ちょっともう、疲れちゃった」

 

 強張った肩をほぐすようにキラが伸びをする。腕の肉が落ちているのが目に見えて分かった。やっぱり側についていてやるべきだったんだろうか。不甲斐なさで唇を噛んでしまう。そろそろプラントに着くからもう少し休ませてやらないと。席を立とうとした瞬間、真っ直ぐな問いが鼓膜を震わせた。

 

「ねぇ、アスラン。僕らまさかお咎め無し……って訳じゃないよね。そんな事したら、僕等と似た行動を取る人達が現れた時に止められる理由が無くなっちゃうでしょ。それぐらいは分かるんだ。ねぇ、僕たちはいったい何処へ向かうの? ラクスもカガリもいったいどうなるの? 教えて」

 

 戻ってきたラーナスからラクスとキラに対する処罰は聞いている。法務部勤めの親戚筋に確認も取ったから間違いない情報だと言っていた。しかし、今伝えて良いのか戸惑ってしまう。こちらから目線を逸らさないままでもう一度頼まれた。真摯に向き合ってくる瞳に覚悟を決める。大きく息を吸ってから彼等の行方を告げた。

 

 

 

「議長はこれ以上の犠牲を出したくないらしい。元々大人の身勝手で始めた戦争に巻き込んで命まで奪うのはあんまりだというお言葉でな。ラクスはプラントへの入国禁止処分。監視付きで謹慎だそうだ。お前はモビルスーツへの搭乗禁止。それと移動に制限がかけられる。だいたいお前は元々戦わなくても良かったんだ。もう良いんだよ、キラ。ゆっくり休んでくれ」

 

 アスランが優しい声で教えてくれながら頭を撫でてくる。本当に昔に戻ったみたいだ。懐かしい気分になりながら大人しく頷く。安心したようにやわらかい笑顔が浮かべられた。ちょっとだけホッとする。フレイに頼まれた本当のお願いをようやく叶えられそうだ。今度こそは守ってみせると胸の中に居る彼女に改めて約束する。アスランが珍しく神妙な顔つきで聞いてきた。

 

「その……ラクスと一緒じゃなくても構わないのか?」

 

 アスランからされると思ってなかった問いかけに考える。

 確かにラクスも大切に思ってる。支えてくれた事にも感謝してる。それでも、僕にとってはフレイの方が大事で忘れられない。

 だって、さっきの夢の中ではラクスの事を欠片も思い出さなかった。僕の意識の全部がようやく会えたフレイを焼き付けるのに夢中だったから。もし奇跡が起こって生き返ってくれたら他の何を置いても僕はフレイの所に行くだろう。彼女との記憶を思い出すのが辛くなくなった今、はっきりとそう言えた。

 この気持ちをずっと抱えたままこれ以上一緒に居るのはラクスに悪い気がする。それに、一つだけ気になる事があった。

 

 ラクスは平和な世界での僕を知らない。彼女が好きになってくれたのは戦いの中での僕だ。やらなきゃいけないから嫌だけどやるしかなくて僕にしか出来なかったから戦っていた頃の僕。

 コペルニクスやヘリオポリスで暮らしていた平和だった頃を思い出す。あの頃はやりたい事しかやらなかったし、アスランとか他に頼れる人がいたらよく甘えていた。完全な平和になったらきっとああなってしまう気がする。そんな僕を見てもラクスは好きでいてくれるんだろうか。フリーダムをくれて、それが無くなったらストライクフリーダムをくれたラクスが。その事を考えると、少しだけ怖かった。

 

 もちろん、それだけじゃない。悔しそうに眉を寄せている幼馴染を見る。アスランは昔から気持ちが表情に出やすい。口の代わりに顔で全部喋ってるみたいだ。ちっとも変わらないところに笑いそうになりながら読み取っていく。 僕の行動も制限されるってさっき言っていた。僕にも監視が付くんだろう。そして何より、僕個人と親しくない人達にとって僕とラクスを一緒にはしておきたくないはずだ。またこんな事になったら怖いだろうから仕方ないと思う。

 よく寝てすっきりした頭で考えたら納得できた。安心してほしくてアスランの眉間のシワをギュッとつまむ。驚いたような声に可笑しくなって子供みたいに笑ってしまった。

 

「アスランったら驚きすぎ。僕なら大丈夫だよ。僕の心には彼女がずっといてくれるから。ラクスがいなくても寂しくないんだ。もし、ラクスと話す機会があったら今までありがとうって伝えてくれる?」

 

 瞬きをしたアスランが笑って頷く。病院から出たら何処に行くのか聞いてみた。まだちゃんと決まっていないそうだ。予測は出来るがまだ秘密だと楽しそうに笑っていた。気になってねだってみる。地球じゃない事だけは確かだと肩をすくめて教えてくれた。何でか聞くと真剣な顔つきになる。

 

 

「ラクスには生きて償ってもらうのが一番だ。万が一の事があった場合、行動だけを見た人々によって父上の二の舞になる可能性がある。しかし、また彼女の名声を利用しようとするクライン派に唆されないとも限らない。それに……」

 

 なるほどと頷く。協力してくれた人達がこっちをいいようにしていたと聞いたさっきは心底驚いた。地球と宇宙の移動はそう簡単じゃない。ラクスを連れ出そうとしたら絶対に分かるはずだ。それで彼女は地球行きなんだろう。

 言葉を切ったアスランが不安そうに口ごもる。もうラクスのところには行かないよと目を合わせて言えば悔しそうに続きが聞こえてきた。

 

「ラクスに恨みを抱く人間が宇宙には多いんだ。今回の事も理由だし先の大戦時はやむを得ない行動だったとはいえ、人の恨み辛みはそう簡単に消えるものじゃない。今思えば二年間帰らなかったのは彼女なりに怯えていたのかもしれないな」

 

 寂しそうに肩を落としたアスランに手を伸ばす。ずっと気になってた事を気づけば口にしていた。

 

「それは……どうなんだろう。本当は帰りたかったのかもしれないよ。最近のラクスね、平和の歌姫なんか大変だった嫌だったって何回も言ってたんだ。あんなに言われると負け惜しみみたいに聞こえちゃった。もしかしたら心のどこかでは歌姫として迎え入れてもらいたかったんじゃないかな?」

 

 しばらく黙り込んだアスランの緑の瞳は大きく見開かれていた。心配になって手を振ってみる。ハッとして何かを呟いたアスランが怖いものを振り払うように頭を振った。

 

「酸っぱいブドウか…………いや、本心はどうあれ、ラクスはプラントに帰ることを許されなくなった。以前そうだった俺だから言えるが、自らの意思で帰らない事と帰りたくても帰れない事は大きく違う。充分な罰になるはずだ。他人に踊らされた結果とはいえ、道を選んだのはラクス自身だ。どんな道を選ぶかはそれぞれの自由だろう。しかし、どんな行動を取っても自分の決断の責任は取らなくてはならない。そうだろう?」

 

 真面目な話をし始めたアスランにとりあえず頷いておく。苦笑した彼が毛布をかけ直してきた。まだ疲れてるんだから寝ておけと優しい言葉に甘えてしまう。温かい温もりに包まれながらカガリの事を聞く。アスランも心配そうに返してきた。

 

「彼女はオーブの人間だからな。俺達も詳しい事は分からない。ただ、オーブ政府はデスティニープランの導入を前向きに検討しているという話だ。実際、あれ以上に世界を平和にする代替案は思いつかないしな……心配するな。カガリも代表のままだそうだからきっと悪いようにはなっていないよ。おやすみ、キラ。ゆっくり休んでくれ」

 

 優しい声に安心する。確かに、デスティニープランを否定してもより良い世界にするにはどうしたら良いのかなんてちっとも分からない。アスランが教えてくれたけど、今はそんなに悪いものにも思えなかった。睡眠不足とストレスで僕も追い詰められていたのかもしれない。

 また眠気が襲ってきて大きなあくびをする。起きたらきっとめんどくさい病院だ。大変だけど頑張らないと。

 ゼミに居た頃、彼女がよく付けていた香水の良い香りが鼻をくすぐる。幸せな気持ちのまま目を閉じた。

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