目を覚ますと、評議会を背に兄が覗き込んできた。
「おはよ。今から議長に話聞きに行くぞ。体調とか平気?」
その言葉で一気に意識が浮上した。人目も気にせず振るまったことを思い出し、頬が熱くなる。
「おはよう、アスラン君。先程のことは気にする必要はない。我々も、君も、誰も知らなかったのだから驚くのも当然だ。気分は悪くないか?
フリーダムはオーブに現れた、ということだからな。君はオーブから来たから、我々より知っていることが多い。それに、あの場に一人置いておくとパトリックに祟られそうだったしな。無理に連れ出してすまないが、よければ議長との会談に同席してほしい」
気にするな、と笑ってフェデラーさんが声をかけてくれた。外まで聞こえていたことに反省しつつ、言葉を返す。
「おはようございます。こちらこそご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません。何が起きているか知りたいので、是非ともお願いします」
頷きが一つ返ってきた後、翻された背に続く。俺が不在の間に、オーブで何があったのだろう。今はただ、それが知りたかった。
「デュランダル議長、突然の要請にも関わらず、このような場を設けていただき誠に有り難く思う。早速ですまないが、フリーダムがオーブに現れた経緯について教えていただきたいのだ。
あぁ、アスランは私も勧誘していてな。説明していた際、この知らせが入った。この件については彼も全く知らなかったそうだが、ご存じの通り、先日までオーブに滞在していたことだし、フリーダムとも縁がある。その視点から新たな情報が得られるかもしれないから、彼も同席させたい。宜しいだろうか?」
「いえ、こちらこそわざわざお越しくださり、ありがとうございます。彼の同席については願ってもないことですよ、歓迎します。しかし、君でさえも知らなかったとは…… いや、それが分かっただけでも有り難い。さぞ驚いただろう、アスラン。大丈夫かい?」
「ご心配ありがとうございます、議長。大丈夫です。突然の参加だというのに、許可してくださりありがとうございます。あの、いったいオーブで何が起きたのですか?」
議長にまで驚かれてしまったことに申し訳なく思いつつ、今一番知りたいことを問う。下がっていた眉が上がり、険しい顔で答えが返ってきた。
「まず、君と話して少しした後、オーブが世界安全保障条約に批准した。同時に、アスハ代表とユウナ・ロマ・セイラン氏の婚約と結婚が発表された。そして、結婚式当日、会場にフリーダムがアークエンジェルとともに現れ、代表をさらったそうだ。彼女は未だ帰ってきていない。理念を大切にされていた代表の行動としては意外だが、残念ながらオーブは条約に批准したことで、中立の立場を自ら崩したことになる。また、フリーダムの出処も不明だ。調査を進めたいところだが、中々手が回らなくてね。フェデラー代表も、このような情報しかなくて申し訳ない」
「いいや、とんでもない。突然のフリーダムの再来に協力者含め気が動転して我々では前後関係が掴めていなかった。詳しい状況が分かってとても有り難い。既に条約が結ばれた状況で、オーブ代表の婚約阻止を何のために行ったのだろうな。アスラン、何か予想できる事はないか? 間違っていても構わない。とにかく、どういった可能性があるかを知りたいのだ」
そう問われ、思考をまとめる。もし条約批准が婚約後ならカガリをさらうことで引き延ばすことはできる。しかし、既に条約は両国間で結ばれた後だ。なので条約阻止よりもカガリの身柄が目的だろう。婚約に問題があると思い当たる節がないことはない。だが、そんな理由でフリーダムとアークエンジェルを動かすだろうか? 悩むが、今は質を求められていない。自信はないのですが、と前置きを置いて口を開いた。
「アスハ代表とセイラン氏は仲が良くは見えませんでした。彼女と親しい彼らが本人の意思に沿わないであろう婚姻を疎んだ可能性はあります。また、ご存知かもしれないのですが、現在、アスハ家以外の氏族は連合寄りの人物が多いです。その代表格のセイラン家との婚姻を防ぐことで彼女の完全な傀儡化とそれに伴う軍部の掌握を防ぐ目的もありえます。セイランは文官として優秀ですが、軍での支持は彼女ほど高くない。元々二人の親が決めたもので、お互いの支持基盤を共有してオーブの内政をより固めるために必要な結婚でもあったそうですから。
すいません。私が思いつくのはこの辺りです。ただ、今まで秘匿していたはずのフリーダムとアークエンジェルをわざわざ出すほどか、と言われると弱いです」
「いや、助かるよ。議会で話題になる際の討論材料として参考になった。本意ではないが必要な結婚、か。気持ちは分からなくもないがね」
そう呟かれた議長は、一瞬だけだが、どこか遠い目をしていた。
「まぁ、まだ彼らも若いから必要であっても心が納得しないのは理解できる。だが、アレをわざわざ使ったのは看過できん。
さて、話が少し変わるが、デュランダル議長。オーブがあの条約に批准したならば、ここにいるアスランの処遇はどうなる?」
眉間に皺を寄せていたフェデラーさんが、咳払いの後、俺のことを議長に問いかけた。