「ねぇ、ラビィ。シン、まだかなぁ? そろそろかなぁ?」
待ちきれなくてつい話しかけた先のラビィがシンとお揃いの赤い目をパチパチさせる。ちょっと待ってると黒い耳を動かしてお返事してくれた。励ましてくれてるみたいに見えて嬉しくなる。それが合図になったみたい。大好きなシンからもうすぐ着くよって連絡が来た。
嬉しくなりながら、ミーアからこっそり教えてもらった新しい曲を口ずさんだ。今にも踊り出したくなるぐらいに楽しくなる、素敵な歌。思わずリズムを刻む足が広いリビングへ飛び出しそうになっちゃう。我慢しながら卵を割って、お箸で混ぜて準備する。今日は二人一緒にいれる嬉しい日だからシンが好きだって教えてくれたオムライス。大きなお口でいっぱい食べてお代わりしてくれる。ステラの一番得意なお料理。シン、今日も美味しいって笑ってくれるかな。ドキドキしながらフライパンを見ると良い感じになってた。慌てて火を止めればフォリィから習ったトロトロふわふわの卵が出来た。ラビィがテシテシと鼻でつついてくる。シンがもうすぐ帰ってくるっていう可愛いお知らせ。慌ててチキンライスをお皿に盛り付けて卵をそっと載せて、ゆっくり丁寧に包丁を入れる。綺麗な黄色がパァッと広がった。大成功したのに思わず声を上げちゃったのが聞こえたみたいに、ドアの開く音が聞こえる。嬉しくなったけど、シンに怪我してほしくないから包丁を流しに置く。今度こそ我慢せずに走って、とびっきりの笑顔でいつもの言葉を言う。
「シン、おかえりなさい! 今ご飯できたよ!」
「ステラ、ただいま! すっごく良い匂いするけど、今日もしかしてオムライス?」
褒めてもらえたのが嬉しくてブンブン頷く。やった! と嬉しそうに笑ってくれたシンがリビングに行こうとするのを追い越して二人一緒にご飯を食べた。
「シン、しばらく一緒なんだよね! 何したい?」
ごちそうさまの挨拶をして食器を一緒に洗った後、ソファーで横に座ったシンにワクワクしながら聞いてみる。シンは新しく出来たライブラでのお仕事をすごく頑張ってる。何か出来ることがあるならやりたい。
ライブラが出来た時、ステラはシンと約束したから二人のお家で待ってた。最初は毎日帰ってきてたシンも最近はミケールっていう悪い奴のせいで今回みたいに遠くに行く仕事も増えてる。
そしたら一人は寂しいからって、シンに相談されたアスランから話を聞いたミーアがステラを誘ってくれた。踊るのもずっと大好き。新しいステップや曲を習えてとっても楽しい。デスティニープランの結果でステラに才能があるって言われたし、ミーアにも嫌じゃなかったら一緒にステージに出てみない? って誘われてる。今度大きなお仕事があるんだって。でも、そしたらもっと大変になってお家に帰るのが遅くなるかもしれない。シンの帰りを待ちたいからお返事を待ってもらってる。シンに相談したいけど、その前にシンのお願いを叶えたい。ソワソワしながらお返事を待ってると、シンがとっておきのプレゼントを出すみたいにチケットを渡してきた。なんだろうと読んでビックリした。嬉しいサプライズにわぁっと歓声を上げてしまう。シンがホッとしたみたいに肩をおろしてから弾んだ声で改めて誘ってくれた。
「ステラ、僕と一緒にオーブ行かない? ネオさんやナタルさんには僕も会いたいし、マユや父さん、母さん、僕の家族にもステラの事、紹介したいし。ステラと一緒の今なら行ける気がするし。泊まる場所も取ってるから二人でゆっくりしよう」
お仕事でオーブに行ったネオとナタルに会えるのは久しぶり。嬉しくてギュッと抱きつけばシンがビックリした声をあげる。あったかくて大きな手がそのまま頭を撫でてくれた。もっと幸せになって体があったかくなる。大事なオーブ行きのチケットを握りしめてありったけの気持ちを伝えた。
「シン、ありがとう! 大好き!」
シンが嬉しそうにお日様みたいな笑顔を浮かべてくれる。楽しい旅行の予定を話しながら荷物の準備を一緒にする。ネオとナタルはビックリしてくれるかな。喜んでくれるかな。フィルの所でお医者さん見習いを頑張ってるスティングやバスケを頑張ってるアウルにも会えると良いな。楽しみな明日が多すぎて、胸が早いリズムで踊り出していた。
「バジルール中佐! お仕事お疲れ様です! よろしければこの後食事でもご一緒にいかがですか?」
シンとステラから嬉しい連絡が来た。ナタルにも知らせてやろうと向かった先でそんな言葉が聞こえてくる。またかと思わず眉をひそめた。
終戦後、プラントの技術でナタルは火傷の痕を消した。嬉しがる子供達を船から降ろして一息ついたのは良い思い出だ。その後できたライブラに二人揃って参加する希望を出した。いろいろあったオーブを見てきてほしいと二人揃って出向を頼まれて今に至る。
傷があった頃のナタルも美人だったが、消してからは磨きがかかった。
俺達から上層部にどんな情報がいくのか聞き出したい思惑と下心もあって、ナタルに声がかけられるのは明らかに多い。聞き耳を立てると困ったような声が聞こえてくる。このままだと俺個人としても面白くないのは確かだ。舌打ちを小さくしてから偶然を装ってドアを開ける。
「ナタル、お疲れさん。嬉しい知らせだ。ウチの子達が休みに会いに来てくれるってさ。話ついでに飯行こうぜ。あれ、そっちと先約あったか?」
「いいえ、大丈夫です、大佐。すいません、サトダ軍曹。大事な話があるそうですので」
気を落としたような声をもらす奴に見えるようにナタルの腰に手をまわす。近づいてきた彼女が人前ではやめて下さいと小声で叱ってきた。こうやって牽制を繰り返しても諦めない奴が多い。ナタルが魅力的なのは嬉しいが、俺としては早く同じ名字を名乗りたいんだがな。ミケールが逃げ回り始めて以降、祝い事はなんとなく自粛する雰囲気が漂っている。どうしたものかと悩ませながら背後から聞こえてきた声に笑いそうになった。
「あの二人、子供いたのか……」
そうだよと心の中で返事する。血の繋がりは無いが、スティングもアウルもステラも俺とナタルの可愛い子供だ。食堂に着いてメニューをどれにするか悩みながら、もう一人の女艦長の顔が思い出される。彼女も子持ちだと知った時は大層驚いたもんだった。今はどうしているかと思いながら、目の前の女房と出迎えの計画を立てていった。
「だから、大丈夫だって言ってるだろ?! 今更こんなに連絡よこさなくっても良いって! あぁもう、友達と遊ぶのに間に合わなくなるから切るよ!? またね!」
眉を跳ね上げた息子の顔が画面から消えた。思わずため息をついてしまう。
少し平和になった事に背中を押されて可愛い我が子と連絡を取るようになった。最初は驚いていたが、慣れた今では素っ気ない対応だ。寄宿舎で楽しくやっているようなのは何よりだと思う反面、少し淋しい。
戦中は部下達やあの人にかまけてあの子に連絡を取る時間が無かった。そのツケだろうか。言われた通り本当に今更だ。自分の事ばかりだった頃をつい悔やんでしまう。
滅入っていく気持ちを持て余しているとノックが部屋に響いた。気持ちを切り替えて直ぐさまロックを解除すればアーサーが部屋に入ってくる。一礼の後、耳に馴染んだ穏やかな声が部屋に響いた。
「失礼します。艦長、アスランから届いた先日の作戦の報告書が届きましたよ。いやぁ、無事に終わって何よりでした。レクイエムの方は何の異常もありませんし、地球でミケールを見つけて捕まえたら終わりですよね」
安心しきった顔で話された。アーサーの気持ちも分かるが、まだ気を緩めないでよと釘をさしておく。
私達ザフトとサジタリウスに連合の月艦隊も加えた体制でレクイエムの監視は行われている。万が一ミケールが逃げてきた時の備えでもあった。しかし、今のところは何の動きもない。最初の言葉を思い返して慌ててメールを確認しようとすればタブレットを差し出された。届いたファイルが映し出されている。お礼を言って目を通していると、耳馴染んだ声が息子の名前を切り出してきた。
「ウィリアム君、学校が楽しいみたいで何よりですね。元気な声がよく聞こえてきましたよ」
ドアと機械の距離が近いのも重なって声が外に漏れていたらしい。顔が見たくて通信を繋げていたけれど電話にするべきだったろうか。頭を下げようとすれば楽しそうで良かったですと嫌味なく笑われた。
ちょっとした事からあの子とアーサーは面識がある。身内じゃないからこそ話しやすいのか、私よりも仲が良さげだ。少し羨ましく思ってしまう自分にため息を吐いてしまう。弱音がそのままこぼれ落ちてしまった。
「そうなのよね。今日も友達と遊びに行くからって切られてしまったのよ。まるで私の事なんか邪魔みたい。無理もないわ。ずっと疎遠だったのに戦争が終わったからって手のひら返しされても今更よね」
寄宿学校に進んだ息子は元気に過ごしている。ディスティニープランを参考に決めた専門分野を学ぶのが楽しいそうだ。同じ分野に興味があり、話が分かる友人もたくさん出来たらしい。私との通話には出てくれるものの、長話はさせてくれないのが現状だった。今までの自分の行いを振り返れば当然かもしれない。息子が今を楽しんでいることを喜ばしく思う反面、寂しさも感じてしまう。仕事仲間に家の愚痴を言ってしまった事に気づいてどうしようかと悩んでいると、暖かな声が耳を打った。
「そんな事ないと思いますよ。だってウィル君、最後にまたねって言ってたじゃないですか。また顔を見て話せるの待ってるはずですよ。そりゃ友達と遊ぶ方が楽しいのもあるでしょうけど、たぶん、照れ臭いんです。自分も昔そうだったからよく分かります。今じゃ勿体なかったと思いますけどね。もっと話しておけば良かったって。だから、艦長はこれからも話そうとしてください。こちらの事はお気になさらず」
柔らかい眼差しが励ましてくれた。まだあの子の手を握っていても許されるのだろうか。胸があたたかくなるのを感じながらお礼を言うと照れくさそうに頬をかいていた。何だかおかしくなってしまいながら此処には居ないあの人の顔が思い浮かぶ。
ギルバートは任期満了に従って議長をラメント氏に引き継いだ。今はロゴス討伐のために世界を纏め上げた手腕を買われて私達の代表をやっている。今は何をしているのだろうかと懐かしさと共に想いを馳せた。
「そんな所に潜んでいるのか……情報提供ありがとう。君も元気そうで何よりだよ。大きくなったね」
画面に映った青年に声をかける。まさか生きているとは思いもよらなかった。驚きを隠しながら見つめてしまう。以前テレビ越しに見た時よりもどこかやつれた気がするが、大丈夫だろうか。蒼い瞳を緩ませた顔が穏やかに言葉を紡いだ。
「お久しぶりです。母上から貴方の話はお聞きしていました。情報提供はこの世界の一員として当然の事です。奴は必ず裁きを受けねばならない愚か者の筆頭ですから。お越しの際は是非とも協力させてください。図った訳ではありませんが、使えそうな事もあります。貴方にはお話がいっているかもしれませんが……」
少しきまりが悪そうに視線を逸らされた。あの事かと思い当たる。確かにあの件は使えそうだった。お礼を言って通話を切る。優雅な一礼の後に暗くなった画面を前に考えを巡らせる。
彼女自身は恐らく構わないと言ってくれるだろう。問題はそのすぐ隣の彼だ。どうしたものかと考えながら先ずは情報の裏を取ろうと彼の同期へと繋がる番号を押した。
「はい、アスラン! どうかしら? 美味しい?」
問いかけた先、アスラン好みのレシピでつくったロールキャベツを口に運んだアスランの顔が花みたいに綻んだ。今まで食べた中で一番美味しいよと嬉しい言葉が降ってくる。ありがとうと笑っていると、アスランがこちらこそと笑っておかわりをもう一つ口にいれた。いっぱいつくったのが次々なくなっていくのが嬉しくて笑っていると、不思議そうにどうしたのか聞かれた。
思ったままを答えると照れたみたいでほっぺたが赤くなる。可愛いなぁと思っていると、器を空にしたアスランが手を合わせて食器をしまう。
「ごちそうさま。美味しかったよ。この後はどうする? ミーアが行きたいところがあるなら、外に行っても良い。このまま庭を散歩するのでも良いよ。一緒に居れたらそれだけで」
最後は同じだから頷く。二人一緒なら何だって幸せになる。そのまま肩を寄せて近付けば手を重ねてくれた。嬉しくなりながら考える。お出かけも楽しいでしょうけど、ここも凄く大好きな場所だから。
今いるのはアスランと私が住んでるザラ家のお庭。アスランのお母さんが研究のために色んなものを植えてたらしくて凄く広い。アスラン専用に品種改良された桃の木もまとめて植えてあるんだって。フォリィがお手入れをしてて大変だけど楽しいって笑ってた。いつか時間が出来たらお庭の手入れも教えてもらわないと。
そんな事を考えていたら、あの事を話すチャンスかもしれないと思いつく。アスランもゆっくり出来たみたいでフィルさんのカウンセリングも受けたって電話で教えてもらった。昨日イザークさんからかかってきた電話の後は少し気が弛んでる。何か良い連絡だったみたい。私もアスランに話したい大事な事がある。息を吸って名前を呼べば柔らかい声が返ってきた。少しドキドキしながら嬉しいニュースを伝える。
「あのね、アスラン。私、初めてプラントやザフト以外の国から来てほしいってオファー受けたの!」
「凄いじゃないか! おめでとう! いったい何処から? オーブか? それともスカンジナビア?」
アスランの顔がパァッと明るくなる。さっきとは違う興奮で赤くなったほっぺたが彼が心の底から祝ってくれてると伝えてくれた。
地球に降りた事は何度もあるけど、どれもザフトの基地からのお願いだった。他の国から正式に来るのは私が認められたみたいで嬉しくなる。アスランにお祝いしてもらえたからますます湧き上がる喜びのままに行き先を伝えた。
「あのね、地球にあるファンデーション王国って国なの! アスラン、知ってる? 地球にある国よ。とっても安全で私達コーディネーターにもナチュラルの人にも分け隔てなく優しくしてくれる、とっても良いところなんですって! 今から行くのがとっても楽しみ! ……アスラン?」
感情に任せて一気に喋ってからアスランが俯いてるのに気付く。少しだけ白くなった顔から小さなため息がこぼれた。頭をグシャグシャとかき回してからギュッと抱きしめられる。訳がわからないまま抱きしめ返す。しばらくしてから落ち着いたアスランの真剣な顔で視界がいっぱいになった。
「ミーア。ライブの日程を教えてくれ。イザークから連絡が来たんだ。ミケールがその国の近くに潜んでいると。君のライブの前に必ず奴は捕える。だから、それまで行くのは待ってほしい」
真摯な彼の瞳が切実に細められる。信じられない情報に頭がいっぱいになって、直ぐには返事が出来なかった。