【妄想小説】劇場版ポケットモンスターXY&Z ~異世界の扉と冥界の灯火《ゼノ・ジーヴァ》~   作:睦月透火

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森で遭遇した謎のポケモンの怪我を治す為、サトシ達は森を抜けて最寄りのポケモンセンターへ……その頃、あの悪い連中は……



序、3:異世界の扉

 轟々と大量の水が流れ落ちる滝……その幅は優に50m近くにもなる。

 その滝の中腹には、時折紫電を迸らせながら謎の空間がポッカリと巨大な穴を開けていた。

 

「……フフフ、やはりあったぞ……コレこそ、まさしく異世界の扉……!」

 

 メカメカしい眼鏡の男は怪しい笑みを浮かべ、己の予測と違わぬ結果に満足げな言葉を漏らす……そこへ、先の戦闘でバンギラスを操っていた悪人面の男が現れた。

 

「報告だ、周囲の雑魚は粗方蹴散らした……もう邪魔物は居ない」

 

「ご苦労……さて、機材の設置を急ぐとしようか……!」

 

 男の言葉に反応し、森の中から大型トレーラー程のサイズの飛行物体が現れ、滝の側の広場に着陸……荷台のカバーが開かれ、青空に無数の機材が晒される。

 眼鏡の男は右腕の端末で機材を遠隔操作し、滝の周辺に次々と設置を始めた。

 

「……ハァ……あの男、一体何がしたいんだか……」

 

 いつの間にか、悪人面の片割れである女も滝の広場に来ていた。

 男は「知るか、俺達は雇われただけ……金さえ貰えりゃ、アイツが何しようが知った事じゃねぇ」と吐き捨てる。

 

「……そりゃそうだけど、さ……アイツ何か不気味なんだよ……」

 

「……ククク……もうすぐだ、もうすぐまた会える……奴に!」

 

 小声で何やらブツブツ言っている眼鏡の男を尻目に、悪人面の男女は手持ちのポケモンを休ませるべくその場を離れるのだった。

 

──────────

 

 場所と時間を飛ばして……こちらは【幽玄の森】を抜けてポケモンセンターへと向かうサトシ一行。

 もう少しで森を抜け、入ってきた川沿いの街道へと出る直前だったのだが……

 

「……ッ?! みんな、ちょっと待って!!」

 

 ミラの声にサトシ達が振り向いた数瞬の後、全員の足元を覆う巨大な黒いシミが現れる……

 

ピッ(えっ)?! ピカピー(サトシ)!!』

 

 黒いシミのほぼ中央に居たピカチュウが真っ先に黒いシミへと沈み込み始める……声に気付いて振り向いたサトシ達も全員が既に足を絡め取られており、身動きが取れない状態であった。

 

「ピカチュウ?! クソッ、何だよコレ……足が動かない!!」

 

 まるで大地に縛り付けられた様な感覚……それを感じたのも束の間、底なし沼のようにズブズブと身体が沈下を始める。

 

「し、沈んで行きますよ……!?」

 

 地面の下へと沈んでいく身体……それに抵抗しようとセレナは手で踏ん張るが、その手もすぐにズブズブと沈み始めてしまい、状況は更に悪化してしまう。

 

「もう、腕まで上がらなくなっ……?!」

 

「ちょ……コレ、何で今になって?!」

 

 ミラだけはこの現象に見覚えがあったらしく、この異常事態が起きた事が信じられない様子だ。

 

 抵抗すらする間も与えられず、黒いシミの様な場所に引き摺り込まれたサトシ達……全員の姿が見えなくなって暫らくすると、黒いシミも薄くなっていき……最終的には何もなかったかの様に元通りになってしまったのであった……

 

 

ピィカ~(起きてよ)ピカピー(サトシ)……!』

 

 ピカチュウに頬をペチペチと叩かれ、呻き声を上げてサトシが目を覚ます。

 

「……っ……ピカチュウ? 無事だったんだな……」

 

 うつ伏せに倒れていたサトシはゆっくりと起き上がり、ピカチュウを腕の中に収める……そのまま立ち上がると、見慣れない場所に居る事に気付いた。

 

「……ココは……何処なんだ……?」

 

 見回す間に仲間達の姿を見つけて一旦は安堵するが、ミラだけが居ない事に気付いてサトシは気配を探す……

 

「ミラは……?」

 

「ココよ、サトシ……もう気が付いたのね」

 

 ミラはサトシの左手側の草むらを掻き分けて来た……その手には、何やら黄色い液体が入った小さな小瓶を持っている。

 小瓶を一度サトシに手渡し、ミラはセレナとシトロン、ユリーカを起こす……どうやら皆揃って怪我はなく、手持ちの入ったボールも全部無事だった。

 

「ココは……何処なんです?」

 

 シトロンの問いに、ミラは少し躊躇いながらも話し始めた。

 

「私達は、足元に空いた穴から落ちた……みんな覚えてる?」

 

「ええ、底無し沼みたいに沈んでって……」

 

「……アレは恐らく、時空の裂け目……私達は【別の世界】に飛ばされた……みたいね」

 

「「「「……え……ッ?!」」」」

 

 突然突き付けられた『異世界転移』という事実に、理解が追い付かない……ポケモン由来の様々な出来事に遭遇し、その度に解決してきた事のあるサトシ達でも、この事態は予想外すぎた。

 

「戻れるんですか? 僕達は……?!」

 

「分からない……でも、ずっとココに居るのも危険よ……さっき向こうに……」

 

 ミラの言葉を遮る様に、ミラの後ろの草むらがざわめき……大きな熊のような獣が姿を表す……その両腕は毛ではなく、硬い茶色の鱗の塊で覆われており、サイズもリングマ(1.8m)すら余裕で上回る4m程の巨体……まさに未知の生き物だった。

 

「アオアシラ?! ……まさか、私が尾行さ(つけら)れた?!」

 

グォォオォォォォッ!!

 

 ミラの口を突いて出た「アオアシラ」の名に聞き覚えの無いサトシ達だったが、溢れ出る相手の敵愾心に、ただ事ではない事を察知。

 

「ピカチュウ!《10まんボルト》!」

 

ピッカァ(オッケー)! チュウゥゥゥゥッ(くらえーっ)!!』

 

 マサラタウンから、これまで長い旅を共にしたピカチュウは最早『歴戦』クラス……その【10まんボルト】は通常よりも遥かに高威力で、振り回して攻撃しようとしていたアオアシラの腕に直撃する。

 アオアシラは突然の雷撃という手痛い反撃に怯み、大きな隙を見せる……そこへ

 

「おいで、テールナー!《かえんほうしゃ》!」

 

ル~ナァァ(くらいなさい)ッ!!』

 

 セレナも素早くボールからテールナーを出して指示を送り、テールナーも初見のアオアシラに臆すること無く指示通りに実行……自身の何倍も大きな相手目掛けて技を繰り出した。

 雷撃に炎……自身よりも小さな敵から、これ程まで手痛いダメージを負わされる事に混乱しながも、アオアシラは脱兎の如く逃走していった。

 

「どんなもんだい!」

「私達の勝ちね!」

 

「……や、やるわね……あのアオアシラをこうも簡単に撃退するなんて……」

 

 予想を大きく裏切るサトシ達の行動とその結果に、ミラは一瞬呆気に取られたものの気を取り直して迎撃成功を誉めた。

 本当なら未知の巨大生物にサトシ達は狼狽……代わりに自分が何とかするつもりであったのだが、驚いて逃げ出す処か真っ向から迎え撃ち、あっさりと撃退したのだからしょうがない。

 

「お見事! ……ですが、あのポケモン?……アオアシラ、でしたっけ。

 初めて聞く名前ですね……図鑑も反応ありませんでしたし……」

 

 シトロンは戦闘に参加しなかった代わりに、相手……アオアシラをしっかりと観察していた。

 本来、新種のポケモンならば図鑑に登録されたり、情報不足など何らかのリアクションは有って然るべき……しかしながらアオアシラに対してポケモン図鑑は何の反応も見せなかった。

 

「当然よ……ココには、いえ……この世界には、ポケモンなんて居ないもの

 

 ミラの告げた言葉に、異世界転移という事実を再認識せざるを得なくなったサトシ達……しかも、ミラはこの世界に妙に詳しい……シトロンはソコも問い質したかったが、この場に留まるとまたあのアオアシラとやらに襲われかねない。

 

「一先ず、この場を離れた方が良いわね……」

 

「……ッ?! お前達!? 何者だ!!」

 

 セレナの提案に、全員が了承した直後……頭上から降ってきた声。

 

 直後、足元の地面からジガルデ(10%フォルム)に似た生き物と、ニャースに似た生き物が揃って飛び出してくる……更に飛び降りてきたのは、如何にも「(シノビ)」風な和服を纏った大人の男だった。

 

「……ハンター、か……」

 

 ミラは一人、面倒そうな顔で呟き……サトシ達は突然の彼らの登場に呆然とするばかりであった。




異世界転移、からの洗礼役は……
皆さまご存知、青いくまのプーさんこと「アオアシラ」でごさいましたw

そして現れた、謎の男……
犬と猫を連れた忍装束の人間と来れば、もうお分かりですよね?

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