漫画的世界の"悪役"になろうと思う。 作:十期
多分こっちの息抜き連載は基本漫画いらない話で進めていきたい。淡々と。その方が楽なのです。
「工藤くんって、謎解き得意なんだよね?」
「あーと、高遠だっけ? まぁ謎解きってか推理が好きなんだよ」
「謎解きも推理も似たようなもんだよ! って事で少しお時間よろしい?」
私、高遠ジゼル(八歳)は今日初めて主人公たる工藤新一へ声をかけた。流石に初対面でいきなり要件を述べたところで怪しまれる可能性もあると踏まえ、事前に蘭と園子に謎解き得意な子ってしってる?と話を振っておいたし、そこからの紹介とすれば問題はないはずだ。
蘭は勿論、園子までそれならばと工藤新一を推してくれたわけだし、なるようになったと思いたい。
私が何故工藤新一と接触したのかと問われれば、それが私の役目なのだろうとしか答えられない。物心ついた頃からキャラ立ちする顔をしていたわけだし、世界的にはさっさとであって欲しかったに違いない。
きっと早期から幼馴染として存在し、堂々と最初から裏切っていた"悪役"キャラとなる布石を望まれているのだろう。
「私の兄がマジシャンでよくトリックを生み出しててね、私も将来そうなりたくて勉強してるんだけど兄さんには敵わなくて。ならとりあえずマジックトリックじゃなくて推理系のトリックなら勝てるかなと思ってて、その、協力者を探してて?」
実は兄さんに勝とうなんて思ってないけど。
勝てるわけないけれど。
こういった方が推理オタクの工藤新一の興味を引けそうだと考えたのである。
私達はまだ小学二年生だが、その頃から工藤新一の推理能力も知識量も小学生に有るまじき頭脳を持っていると思われる。すでにホームズシリーズは読み切っているのであろう彼は、図書室にある本を読まなければいけない授業では高学年向けのものを読んでいるし言語能力にも長けているに違いない。
ならば中身が大人であった私の書いた小説もどきを読めるに違いない。
別に昔を懐かしんでオタ活もどきをしたいな、と考えたわけではない。
いや、半分はそんな感じだけれども。
そういったキャラ付けがあった方が世界的に面白いだろうと勝手に思って納得した。
故にオタ活もどきはやっても問題ない。オタクで犯罪者で幼馴染ってキャラ濃いし、うってつけだよ悪役に。
そんな私の心情なんて知らない工藤新一は顰めっ面をしながら差し出されたノートを受け取り、ペラペラとめくる。
今のご時世じゃ手書きにするしかないのだが中身が大人な私の字はそこそこ見やすいはずだし、漢字も頻繁に使っているから彼からしても読みにくくはないと思う。案の定中身を見た新一(もはや面倒だから呼び捨てだ)は少し驚いた表情を私へと向けた。
「……コレ、本当におめぇが書いたのか?」
「そだけど?」
「ふぅん──。ちょっと読んでやるよ」
「ありがとう! 謎解きがんばってね!」
やけに上から目線の新一ににこやかに笑いかけ、私はそのままこのやりとりを見守っていた蘭達の元へと向かう。やはりこの時代から彼を好きなのであろう少女はチラチラとこちらのやりとりを見ていたようだが安心していただきたい。
君の幼馴染兼未来の恋人をどうこうしようなんて、素粒子ほどの思いすらないのだから。
最も漫画キャラ的に頭がすごいでかい頭身の人間らしきモノを好きになる精神を、元から持ち合わせていない。持ち合わせたくもない。本当に勘弁してほしい。
「ね、ね! どうだったのよ!」
「んー、協力してくれるって! さすが蘭ちゃん達の幼馴染だねぇ」
「──うん! よかったねジゼル! でも新一本当に謎解き得意だよ? 大丈夫?」
「だいじょーぶ! ぶっちゃけ解かれないとは思ってないんだよね! 工藤君頭いいしね!」
あえて煽ておけばそれにのってくれる。
裏も表もない笑顔で彼自身に興味なんてないんだよと体現しておけば、きっと変な気を起こされることはないだろう。
それに本当に謎が解かれないとは思っていないのだ。
私が彼に渡した小説は"小学生用"にしてある人の死なない作品。謎を解かなければ帰れないよーレベルのお優しいモノだ。兄さんに所々ヒントをもらって作ったモノだが、コレで彼の今の力量を測りながら自分の悪役としての実力もあげることができて一石二鳥の計画なのである。
しかしまぁ彼はまだ小学二年生。まだまだ子供だ。解けたとしても数日はかかるだろうとその時の私は踏んでいた。
そう、ただ年齢を踏まえて決めつけていたのである。
結果どうなったかと言えば次の日のお昼休みにはノートそのものが返却され、謎まで解かれてしまっていたのである。ジーザス。
「え、え? 工藤君早すぎでない?」
「別にそうでもねぇだろ? 読むのに時間かかんねぇし、トリックもそんなに珍しいもんじゃなかった」
「──お父上に手伝ってもらった、とかは?」
「そんなレベルじゃなかった」
「────クソっ! 甘くみていた! 兄さん以外なら時間かかると思っていたのに⁉︎」
「オメェの兄さんってマジシャンなんだっけ? そりゃマジシャンに解けるんなら探偵目指してる俺が解けねぇわけねぇだろ!」
「兄さんは凄いんだもん! 探偵じゃないけど凄いんだもん! マジシャンバカにするな!」
兄を馬鹿にされたように感じうっかり声を荒げると、蘭と園子が私たちの間に入る。蘭は新一に私が兄大好き人間だからそんなこと言っちゃダメと諭し、園子は私に貴方の兄さんが凄いのはわかってるわと言い宥めた。
「ッ次は工藤に解かれない謎を作ってみせるからね!」
「おぅ! 望むところだ!」
とまぁ子供らしい約束をし、私の記念すべく"第一回フラグ"付けを果たしたわけである。
自宅に帰りそれを兄さんにウキウキで伝えてると、それはどんな意味でのフラグなのだと質問された。
私はいつか起きてしまう殺人事件の悪役である私であることを前提に、解かれてしまえばまた解かれない事件起こすねと、解かれなければ解かれるその日まで永遠に続く事件の始まり。最後に盛大なネタバレからのこれで約束果たせたね。となるとにこやかに告げた。
「ねぇ兄さん、その時"主人公"はどんな顔するかな? 長年謎解きゲームをしていた友人が殺人鬼になっていたら、主人公を欺くために"主人公自身に成長を促されていた"と気づいてしまったら、どんな表情を見せてくれるのかねぇ? うん、"悪役"としては最高じゃない? 私としては兄さんが師匠だから彼のために成長したって思われたくないけど、まぁそれの方が面白いなら目を瞑るとするよ。はぁ、早く"役割"を果たしたいなぁ」
「ふふっ、案外貴方も考えて行動してるみたいですね?」
「ん? 当たり前じゃ! こんな世界に生まれてきたのならば、地獄の傀儡師レベルにならなきゃ! 私は人に知恵を与えられないし動かせないけど、その分悪役としてのキャラ立ちは確定されてるみたいだからね、頑張るよ!」
例えば人並み以上に運動神経がいいだとか、何故か人の悪意に敏感だとか。
絶対"前の世界"ではあり得なかったほどの特典が今更になって私の身体には表れている。
コレはきっと私が腹を括って悪役になると決めたから後付けされたのだろう。
「とりあえず片手間に相手されるのはやだからそしかい後にネタバラシとして、それまでにチマチマ事件を起こしておくのが得策かなぁ。フフ、"ヒーロー"達が気づく前に何人殺せるかが腕の見せ所だね」
悪役になるのならばとことん染まり切ろう。
嗚呼そうだ、昔読んだ小説の一族のように呼吸をするように殺せるほどの鬼となろう。
殺意にも敏感で、身内にだけ甘い殺人鬼に。
きっと私が望めばこの世界は答えてくれるはず。
だって────。
そう望んだのは、この世界でしょう?