漫画的世界の"悪役"になろうと思う。 作:十期
微グロ注意。苦手ならば最後の方だけ読めば内容把握できます。
あうあうと糞尿垂れ流しのたうち回るソレを見ても、私は罪悪感というものを全くもっていだけなかった。
ただ、それを眺めて思ったことはある。
「わぁ、必死に動いてるぅ」
まるで殺虫剤をかけられたゴキブリがもがく様に、逃げ出すかのように。生を散らすその瞬間まで、私はただぼんやりとそれを眺めていた。
「案外人らしきものって簡単に"壊れる"んだね。ほほぅ、動物実験とほぼ同じって事は動物を屠殺するようにこれらをぶっ殺しても問題ない?」
「屠殺と殺人を一緒にするのはどうかと思いますが、まぁ、そうですね。問題はないでしょう」
「えぇ、だって屠殺って肉が必要だから殺すって事でしょう? ならあってるよ、私が"悪役"になるための肉塊なのだから」
必要な殺しなのだから、殺してバラして、本当に私と同じ肉なのか確かめる為の"塊"なのだ、何も違わない。違うわけがない。
兄さんとそんなことを話し合っているうちにソレは心肺停止したようだが、脳死するその瞬間まで筋肉がピクピクと動いていた。死後すぐに硬直し始めると思っていたのだが、なかなか面白い反応をしてくれて良い勉強となった。トリックに使えるかわからないが、覚えておいて損はないだろう。
「えーと、この後はどうするんだっけ? "傀儡師"的には美学のある事件にしたいんだよね?」
「最終目的はそこですが、まだ貴方には知識が足りませんからね。バラして人体の構造の勉強でもしましょう。その方が今後一人でバラすことがあっても楽できます。ということでさぁどうぞ」
「はーい」
と事前に用意しておいた斧を関節めがけて振り下ろす。狙いが外れたようでゴギャっとした濁音まみれの音が響き、若干斧の刃が骨にめり込んで引き抜きにくくなってしまった。次はもっとちゃんと狙うようにしなければ。
そのまま黙々と解体作業をこなしていくとあたり前のように私はソレの血を浴びてしまい、身体中が鉄臭くなる。カッパを着ているというのにこれじゃあ察しのいい探偵とすれ違ったら生理です、では済まされないだろう。
全く、困ったものです。
そう考えると人の形をしたモノも血抜きをした方が後処理が楽なのかもしれないし、傀儡師的な美学にも良い気がしてきた。今度は血抜きも考慮しておくとしよう。
「そいや、今回"は"勉強に使うけど、使い終わったらどうするの? 発見できる場所にポイ?」
「近くに裏社会御用達の養豚場があるのでそこを使ってもいいかもしれませんが、今回はあえて放置でも構いません。どうせ彼は私達と関わりのない人間でしたし、足がつく可能性は潰して起きましたからそこまでしなくても大丈夫でしょう。案外、"前の世界"より進んでない技術のおかげでこの年齢でも可能なことが多いんですよ」
「偽装工作ハッキング、無免許運転なんてなんのその。流石"地獄の傀儡師"と言うべきか」
「それにその方のお陰で多額の活動費も手に入れられましたよ?」
「──やっぱ兄さんも色々進化してるわぁ」
以前の"地獄の傀儡師"は死んだ人間から金品を奪うイメージはなかったが、今はそうでもないらしい。
兄曰く、高遠遙一がマジシャンとして有名になり稼ぐまでは私の"悪役"行動のついでに資金調達も計画に入れているだとか。
そのため私が殺す人間は今のところ兄さんが選んでくれている。
万が一私の良心が痛まないように殺しても良いであろう悪道を極めた人間をピックアップして攫ってきたとこから考えるに、私はそこそこ兄さんに好かれているようで大変喜ばしい。
しかしまぁ、どんなやつでも罪の意識なんて生まれないだろうけれど。
そんなこんなで高遠ジゼル、十歳。
今回初めてのヒトゴロシであったが全くもって平常運転そのものでしかない。
毒薬ぶっ刺しても命乞いされても、骨を砕いても血を浴びても、虚な瞳に見つめられながら内臓を観察してみても、気持が揺れ動く事はまずない。
強いてこの状況を例えてみるのならば、ちょっとしたグロアニメを匂い付きでみている感じに近い。手についた粘り気のある物質であれ、真っ赤な緩いスライム程度の感覚でそりゃ罪悪感も恐怖もないのである。
多分この世界の"補正"も強化され、感情にすら影響しているのだろう。
本当に数時間前まで一般人であったとは思えない落ちつきぶりだと自分でも思えてしまうのだから。
「──ではそろそろ帰りますか。コテージ戻ったらまずシャワーに入ります。汚れた衣類は帰りに直接処理場まで持っていきましょう」
「血まみれなのに平気?」
「何のためにマジックの練習だと名してここに来たんです? ペンキでもかけとけば失敗した。汚れてしまったから捨てたいでまかりと押せますよ。大概の人は子供が残虐死体生み出してるなんて考えてないものです」
「結構杜撰な処理方法ですこと。でもまぁ、一理あるか。"金田一"ならまだしも"コナン"じゃ子供が疑われることなんてほぼないだろうし」
覚えている限りで最年少は高卒がそれくらい。金田一は十代前半が普通にいたけれど、この世界じゃ守られ側に位置付けされている気がする。兄さんはそんなこと知らないだろうけれどたしかに疑われにくい年頃だし、世渡り上手な演技力を持つ兄さんにしたら朝飯前か。
結局私たちはバラバラになった遺体をそのまま放置し、借りていたコテージへ向かう。無論帰るまでにひらけた場所で盛大に真っ赤なペンキをぶちまけられた訳だが、兄さんは始終笑顔であった。解さぬ。
こうして私の初めての殺しは呆気なく終わったのだが、今回のことで私には虚しくも一つ理解してしまった事があった。
それはあんなに杜撰な計画であったと言うのに、探偵不在の現場であれば事件が解決に至らないと言う事。
別にこの世界の警察が無能とわけでもないが、ただ世界の中心は米花町でそこから離れてしまえばどんなに杜撰な計画でも証拠さえ残っていなければ解決されないのだと思う。大阪や京都ならまた違った結果が出るかもしれないが、キャラ立ちする人物がいないと犯罪し放題のようなのだ。
まぁ、推理担当として工藤優作等の著名人が関わるとまた変わってくるだろうが。
そして何故そんな事が分かったか。
答えは簡単。
兄、高遠遙一が既に何度か傀儡師チャレンジを行っていたからである。
いつの間にやっていたのだと詰め寄って聞いてみたところ、兄さん曰く試し行動だったらしい。
この世界でもちゃんと殺人コーディネートが出来るか、そして失敗した人間を始末した際の影響等々を調べた結果、複雑なトリックを使わなくても今のところ犯行がバレた事はない。
なんでもバラバラにする意味はとか、花で飾る意味はとか無駄に悩む刑事が多いらしい。
そうだよね、この世界の遺体は基本綺麗だもの。疑い深くなるわけだ。
そんなこんなな事情が明るみになり、兄さんはまだ経験不足であろう私の初体験にゴーサインを出したのである。
とそこまで聞けば私もじゃあ今回も大丈夫なんだろうなと思わずにいられない。だってそれが世界の望んだ結果なのだもの、致し方ないよね。
「しかし今後"主人公"と対になるなら話は別です。今まで以上に頑張りなさい」
「はーい!」
来るべきその日までに私は経験を積み、主人公の隣に立てるような立派な犯罪者になろう。
そうしなければこの世界に存在している意味などないのだから。
好きに書いた。後悔はしてない。