PREACHTTY   作:ONE DICE TWENTY

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第10話 華蔵覚醒、ようやく得た力

「アーロニーロ。やられたよ」

「……知ってる」

「しかも、誰にやられたかわかんないくらいソッコーで」

「みてぇだな」

「……いいの?」

「……さぁな。どうしろっつーんだよ……俺に」

 

 そこに、二人がいた。

 少女と男。

 リリネット・ジンジャーバックと、コヨーテ・スターク。

 

 アーロニーロの死は、彼の霊圧が消えた事でわかったものだ。第九十刃の認識同期の能力ではない。それをする前に、アーロニーロは絶命した。

 下手人は誰か。

 侵入者か。

 

 ──どこまでの十刃がわかっているかはわからないが、少なくとも二人にはわかっていた。

 彼を、仲間を殺したのが誰なのか、など。

 

「……あいつ、多分止まんないよ。スタークだってわかってたでしょ。()()は、確かに虚だけど……あたし達の味方じゃない。みんなが思ってるより、あいつが思ってるより、ずっとずっと狂ってる。ザエルアポロの奴よりも、ずっと」

「……みてぇだな」

「止まんないよ、本当に。もしかしたらスタークのトコにも来るかも──」

 

 言葉はそこで止まった。

 気付いたからだ。己らの部屋。その外にある、燃えるような霊圧に。

 

「……」

「スターク、起きて。寝っ転がってないで起きて……不味いよ」

「あぁ、安心して、リリネットちゃん。私、美少女には何もしないから」

「!」

 

 背後にいた。それは。探査神経をすり抜けたその移動法は、彼が人間であったがゆえにできないと何度も嘆いていたもの。第二十刃の従属官に教えを乞うたり、十刃落ちの元にも足繫く通って──けれどできなかったもの。

 今のは、響転だ。

 

 抱きすくめられる。リリネットが。

 

「ちょ──何すんっ、放せよ!」

「ね、スターク。この前言った通り、リリネットちゃん私にくれない? 一心同体なのは知ってるけどさ、リリネットちゃん可愛いよ。ずるいよ。ねね、ちょーだい」

「バッカじゃないの!? アタシ達が離れるわけないじゃん!」

「あー……まぁ、そうだな。ここにいる間は好きにしてくれていいが、持ってくのはやめてくれ」

「好きにしていいってなんだよ! この馬鹿スターク! って、あっ、ヘンなとこに手入れるなぁ~!」

 

 リリネット・ジンジャーバックがあらぬことをされていても、コヨーテ・スタークは動かない。

 殺意が無い事など初めからわかっていた。彼が仲間ではない事も知っていた。

 

 それは、けれどある意味でコヨーテ・スタークを含む十刃と同じ。ただ、より線引きが明確なのだ。その線の中に入らない限り、彼の目には塵にしか映らない。

 ただし、その線引きの中に入っていたとしても──彼の齎す寵愛は、仲間のそれではない。籠の中の鳥を愛でるような、存在意義の否定。尊厳の破壊。

 司る死の形は「陶酔」。彼の感情の向く先は己でしかない。己に陶酔し、守る己に陶酔し、変わる己に陶酔し。

 

 はじめから、だ。

 コヨーテ・スタークが初めて彼を目にしたときから、わかっていた。

 

「……盗るなよ」

「君が諦めなきゃね」

 

 いつか、コイツは──己の大事なものを。

 

 

PREACHTTY

 

 

 三ケタ(トレス・シトラス)の巣は早々に片付けられた。ドルドーニとガンテンバインは善戦したようだけど、イチゴと茶渡に敗れて──死んだ。私が見に行った時には、そうなっていた。ルドボーンは私が殺したからドルドーニを殺したのはイチゴなのだろう。

 ちゃんとチョコラテを捨てたのか。あるいは、ドルドーニがその命の最期までを削って戦ったのか。

 

「……このまま、ザエルアポロの実験体になるのも……涅マユリに持ってかれるのも、嫌だからさ」

 

 ガンテンバインとは仲良くなる機会がなかったけれど。

 君は、友達だから。

 

黒龍虚食(ボラフィダッド)

 

 せめて、連れて行こう。

 体内に。

 

 

 

 

 

「ちょっと! 出しなさいよ、アンタ! アタシ達従属官を何だと思ってんの!?」

「守るべき美少女」

「またそれ!? いい加減にしなさいよ、アタシだって、ロリとメノリだって、戦えるよう日々訓練してたんだから──」

「え、いいよ。戦わなくて。そういうのは全部私が引き受けるから。君達は死なないで、傷つかないでいてくれたらそれでいい」

「……ッ」

 

 おかしなことを言っているだろうか。

 守り切れる自信が無いから、ここで待っていて。ただそれだけなのに。

 

 私は一人だ。美少女だけど、その手は小さい。

 同時にできることとできない事がある。今だって石田雨竜や阿散井恋次がザエルアポロに対峙していることだろう。イチゴはウルキオラの元に辿り着いているかもしれない。原作通りちゃんとネルが付いていけているのかも心配だし、織姫が変な行動をしないかもわからない。

 美少女と友達と。

 その全てを守るには、足りないものが多すぎる。

 

 だからせめて、従属官として手に入れた君達は、この籠の中で安全を享受して欲しい。それだけなのに。

 

「……ロリ、メノリ! ちょっと下がってなさい! 掻っ斬れ、車輪鉄燕(ゴロンドリーナ)!」

「!」

 

 帰刃。その解号が叫ばれた後、彼女らを閉じ込めるために強化した壁が粉砕される。

 流石は元五番。その威力は折り紙つきだ。

 

 でも、ダメ。

 出て来ちゃダメ。

 

 チルッチの胸元に、手を置く。

 

「え──」

「縛道の四、這縄」

 

 ロリとメノリ、そしてチルッチを霊力の縄でまとめて。

 チルッチの身体にそれを押し付ける。

 

「こ……れ、は」

反膜の匪(カハ・ネガシオン)。大丈夫、永久的に幽閉、なんてことはしないよ。全てが終わったら出してあげるし、私が死んだら出られるように設定してあるから。ロカちゃんにね、改造頼んだんだ」

「そこまでして──そこまでして、アタシ達を戦いに出さない理由は何!? アンタ、もしかしてアタシ達を──」

「うん。信頼してないよ」

 

 だって君達、弱いじゃん。

 

 言えば、チルッチは。絶望の表情を浮かべる。五番らしい表情だね。

 奥のロリとメノリも蒼白な顔で。

 

()()()()()()()。美少女は弱くてもいいんだよ。儚くてもいい。君達が弱い事は、私が君達を愛する事に何の影響も及ぼさない。君達が弱く生まれ、生まれ変わっても弱かったことは、君達を従属官にした私に対して何のマイナスにもならない」

 

 閉じていく反膜の匪の中で、ようやく。

 立っている力さえ失ったように、チルッチが帰刃を解き、その場にへたり込んだ。

 

「何より」

 

 閉じる。閉じていく。

 初めからこうすると伝えておけば良かったかな。それだと、逃げられてしまっていただろうけれど。

 

「君達は──私より可愛くないから」

 

 だから、私に守られなければならない。私と肩を並べたかったのなら、戦闘力なんかじゃなく、美を磨くべきだったね。もっと可愛かったら考えたかも。有り得ないことだけど、もし全てが平和に終わったら……シャルロッテ・クールホーンに弟子入りするのがいいんじゃないかな。可愛さとは、美しさとはなんたるか、ってのを教えてくれるから。

 

「それじゃあ、おやすみ。私の愛しい美少女たち」

 

 反膜の匪が、完全に閉じた──。

 

 

 

 

「ここは……」

「ん? あ、そっか。あのまま進めばそう着くよね。──久しぶり、朽木さん。私の事覚えてる?」

「……!」

 

 チルッチ達を封じた後のことだ。

 自分の宮においてある様々なものを取りに帰ったら──彼女がいた。

 

 ルッキーア。朽木ルキア。

 そっかそっか、そうだよね。原作通り、第九の宮を抜けてきたのなら、ここ。

 第七十刃(セプティマ・エスパーダ)の元に辿り着いておかしくはない。

 

 ゾマリ・ルルーがいない代わりに。

 私が、彼女の相手を……。

 

 うーん。

 

「もしよかったらなんだけど、朽木さん、帰ってくれない?」

「……は? 何を言っておるのだ貴様」

「私、朽木さんを傷つけたくない。美少女だもん。だから、帰って欲しい。今の私、相当狂ってるから、加減利かないんだよ。殺しちゃうかもしれないし、大けがさせちゃうかもしれない。あとほら、私炎熱系の虚だから、朽木さんの氷雪系とは相性悪いでしょ?」

 

 シロちゃんだって私を凍らせられなかったのだ。

 ルッキーアに何ができる。

 

「虚……だと?」

「え? 今更そこ? ……あー、じゃあ、これ見せればいいかな」

 

 言って、胸元を開ける。

 男の娘の露出だぞ。ほら。お金取るぞ。

 

「七……」

「そ。この宮にいる時点でわかってほしかったけど、私ね、藍染隊長から第七十刃(セプティマ・エスパーダ)の座を与えられてるの。七番」

「だが、貴様は人間だろう! 井上や一護たちと同じクラスの……死神でもない、虚として人間社会に紛れていたわけでもない! 貴様は、一護や、仮面の軍勢(ヴァイザード)と名乗る奴らと同じ……虚の力を持っただけの人間だ。違うか!」

「違うよ」

 

 否定する。

 私は人間じゃない。転生者で、美少女で、男の娘で。

 

 虚だ。

 

「ならば、このまま帰るなどという軟弱な答えを出す気はない。貴様には多大なる礼があるが──その上で、圧し通らせてもらうぞ、華蔵! 貴様こそ傷つきたくなければそこを退け! そうすれば見逃してや、」

「あ、じゃあコレあげるからさ。それならいいんじゃない?」

 

 ひょい、と放り投げるは何の変哲もない剣。

 でも、それをルキアの目が、一瞬にして濁る。

 

 見覚えがあったのだろう。無いはずがない。

 それは、先ほどアーロニーロを食べた時に奪った、志波海燕の剣。斬魄刀・捩花なのだから。

 

「……!」

「何故貴様がこれを……って顔であってる? ふふ、まぁ簡単に言えば、さっき志波海燕を食べた虚を私が食べたからね。正確には彼を食べた虚を食べた虚を食べた、が正しいんだけど……。そんな感じで、君の大事な人の遺品をあげるからさ、これで手打ちにしてくれない? 私は虚だけど、朽木さんを傷つけたくないのは本当なんだよ。ね? わかってくれる?」

 

 カランカランと音を立てて落ちた刀を、ルキアは丁重に持ち上げる。

 ふむ、これは……回想シーンでも流れているのかな。敵を目前に余裕が過ぎないか。

 

 それじゃあ今のうちに拘束をば……。

 

「ルキアに向けた手を降ろせ、下郎」

「ッ!?」

「降ろせと言った。聞こえなかったか、下郎」

大龍硬殻(エンセーラス・エラ・カスカラ)!!」

「散れ、千本桜」

 

 最大限引いて、殻に閉じこもる。

 嘘でしょ? 早すぎる。そんな、だってまだ、グリムジョーとイチゴが戦いを始めたばかりの頃合いなのに。

 

 もう来たってことは──何か、予想外のことが。

 

「成程、硬いな。それが破面の鋼皮(イエロ)というものか」

「あー……ううん、違うよ。そもそも私に鋼皮(イエロ)はない。これは私の……あー、なんだろうね? やっぱ鋼皮(イエロ)でいーよ、説明面倒臭いし」

「そうか」

 

 いた。

 長髪。シロちゃんよりも冷たい目。けれど──家族を守ろうとする目。

 

「直接の対面は初めてだね、朽木さん……あー、ルキアと被るから、朽木家当主って呼ぶけど」

「虚からの呼び名など、気にしない」

「ん、おっけおっけー。──私、美少女でも友達でもない人相手なら、普通にやるけど……その前に」

「なんだ」

「朽木さん。どっか安全なトコに置いてきたら? ご当主の斬魄刀も私の解放も、どっちも広範囲技多いから、巻き込みかねないでしょ」

「……」

 

 一瞬だった。

 一瞬消えて、現れる。

 

 合計して二秒くらいだろうか。たったそれだけで、目をわなわなと震わせるルッキーアはいなくなり、静かな顔をした朽木白哉が戻ってきていた。

 

 流石に速いね。

 

 いや、いや。しかし困ったな。

 私、ネリエル救いに行かなきゃいけないんだけど。ルッキーアいい感じに往なして拘束しておくつもりだったんだけど。ルドボーン殺したし、後顧の憂いは絶ったし、って。

 

 こんな早いなんて聞いてないよ。

 これじゃあイチゴvsグリムジョーが始まる前に剣ちゃん来ちゃうんじゃないの?

 

(けい)は」

「うん?」

「かつて双極の丘にて、その命を削り通してまでルキアを守ったと聞く」

「あぁ、まぁね。そのために来てたし」

「──礼は言おう」

 

 言って、目を瞑り──頭を下げる朽木白哉。

 

 それがどれほどあり得ない事なのかを私は良く知っている。プライドの塊……と書くとちょっと印象悪すぎるけど、貴族としての誇りを大事にする朽木白哉のその礼が、どれほど凄いことなのかを。

 

 けれど。

 下げた頭を上げる朽木白哉。

 

 その目にはもう、容赦は存在しない。

 

 ……やるしかないか。

 美少女の家族を怪我させるのは、ちょっと気が引けるんだけど。

 

「別て、双頭龍蛇(アンフィスバエナ)

 

 双頭槍は使わない。あれじゃ速度が足りなすぎる。

 だから最初からこっちで。

 

「……一つだけ聞いておこう」

「いいよ」

(けい)の戦う理由はなんだ。(けい)の目指す先とはなんだ。(けい)はどこを見据え、どこに向かって歩を進めている」

 

 三つやんけ、というツッコミは入れないでおく。

 えーと、で。

 戦う理由と、目指す先と、見据えてる未来と方向性? あれ四つやんけ。

 

「美少女がね」

「……私は真面目な問いをしたはずだが」

「まぁ聞いてよ。この世界ってね、美少女が酷い目に遭う事が多いんだ。ほら、雛森ちゃんとかさ、あんなにかわいい子が、信じてた人に、憧れてた人に裏切られてお腹刺されて……可哀想でしょ? 朽木さんだってそうだよ。全てが仕組まれていた事とはいえ、処刑されそうになって、ご当主にも突き放されて……今は、過去に追いつかれて震えている。織姫も、そう。皆を守るためにここへきて、けれどみんなが追い付いてきちゃって。みんなを傷つけた原因を自ら作ってしまったと後悔して。身体的、精神的問わず、容姿に優れた女の子が酷い目に遭う事の多い世界だ」

「……」

「私はそれを許容しない。守りたい。だって、私の方が可愛いから。その災禍は最も可愛い私に来なきゃいけない。──災禍にすらモテなきゃ、私は最高の美少女にはなれない」

 

 だからね、と。

 何度も吐いた言葉を使う。

 あるいは、チルッチに言った言葉や、今の言葉を聞いた後だと印象が変わるのかもしれないけれど。

 

「私より可愛い子に会いに行く。それが、戦う理由で、目指す先で、見据えてる未来で、方向性」

「……そうか」

 

 そんな子に会って、負けた時、初めて。

 私は全ての責を手放し得るのだから。

 

(けい)にとって、ルキアは──兄より劣るものか」

「うん。私の方が可愛い」

「そうか」

 

 気のせいでなければ、若干。

 空気がコメディに寄った気がしなくも無いんだけど。気のせいだよね。殺し合いだし。

 アニメのおまけパートみたいな気配がしなくもないんだけど……まさかね。

 

「ならば、その身を切り刻もう」

「容姿がわからなくなるくらいに、って?」

「──卍解」

 

 っちょ、嘘、早いよソレは!

 

黒龍化(ダラゴネグロ)!!」

「千本桜景義」

 

 周囲の地面から巨大な刀剣が出現する。それは瞬時に崩れ、ぶわっと桜の花びらが舞い散り踊る。

 龍化した私の巨体を、軽々と覆い尽くす程の量。数億の刃。

 

黒龍の吐息(アリエント・ディ・ダラゴネグロ)!」

「無駄だ」

 

 近づいてくる花弁に炎を吐くけれど、どこを潰した所で関係ない。炎は阻まれ、包まれ、私に追い縋らんと寄って来る。

 

「破道の四、白雷」

「──ギッ!?」

 

 花弁に集中していたら、左の翼に穴が開いた。

 

「い……ったいな! 波状延焼虚閃(セロ・ルラマーズ)!」

 

 どこまでも広がる虚閃を放つ。

 それは私を囲う花弁に着弾し──飲み込まれる。

 

「……!」

(けい)の炎が広がり続けるのならば、常に刃を補充し続ければいい。数億を超える刃の内、たかだか数千枚だ」

跳ね回る虚閃(サルタ・ソブレ・セロ)!」

「同じことだ」

 

 打ち消される。掻き消される。

 

 ……能力には、相性というものがある。

 私の能力が、たとえば氷雪系に強いのだとしたら。

 

 弱点は。

 

「終わりだ。──吭景・千本桜景厳」

 

 あまりに圧倒的な、数──。

 

 

PREACHTTY

 

 

 ……。

 ……。

 

「……双生樹(アンボース)

 

 宣言通り全身をザクザクに切り刻まれた私は、龍化を維持できなくなって元の姿に戻り、そのまま墜落した。

 龍化を戻してもダメージは確り刻まれていて、今の私は見るも無残な格好と言えるだろう。

 ああ。

 

 超速再生がなければ、どうにかなっていただろう。

 双生樹(アンボース)。ウルキオラの超速再生とは違う、能力としてある超速再生。

 

「……まだ立つか。格の差がわからないか」

「ううん。わかったよ。格の差っていうか、私がこうもズタボロになる理由が分かった感じ。この前日番谷さんにもこの姿で負けそうになったからね」

「……」

「黒龍化、勝率結構悪いんだよね。美少女じゃない日番谷さんにも、美少女じゃないご当主にも──負けそうになった。これがなんでか、って話」

「まだ、認めないか」

 

 ドラゴンになる。それはロマンだ。

 私が転生するとき、それは最大のロマンだと思って能力を取った。だから、私にとって黒龍化は最終奥義のようなものだった。

 

 だけど。

 

 だけどさ。

 

「やっぱり──可愛く、ないよね」

 

 そう。そうだ。

 自分で言っている事だ。常日頃から話している事だ。

 美少女はより可愛い美少女にしか負けない。より可愛い美少女にだけ、美少女は敗北を喫する。

 

 ならば、私が負けるのは。

 負けそうになるのは。

 

 シロちゃんが美少女だった、とか。

 朽木白哉が美少女だった、とかでない限り──。

 

「私が美少女じゃなくなったから、勝てなかったんだ」

 

 パキ……と。

 頭部の何かが割れる音がした。

 

 立ち上がって。顔を上げれば。

 そのまま、ボロボロと……何かが零れていく。

 固まった血?

 

 いいや。

 

「こちらこそ礼を言うよ、朽木白哉」

「……何?」

「ここへきて、初めて、私は」

 

 全身から霊力が噴き出る。霊圧が変質する。世界が震撼する。私の霊圧に耐え切れず、周囲の壁や床に罅が入り始める。風か、炎か。ついには自宮の壁を粉砕する程にまで威力を増して──尚、止まらない。

 

 成長が。変化が。

 

 進化が!

 

「──おはよう、世界」

 

 龍の顔が割れる。

 虚の面のように、顔の四分の一を龍と残して──私の可愛い顔が、その下より現れる。

 お飾りでつけていた骨のお面はもういらない。

 

 これからは。

 これこそが。

 

「改めて。自己紹介をするよ、朽木白哉。私は第七十刃(セプティマ・エスパーダ)、華蔵蓮世。藍染隊長になーんの力も貰ってない実験材料で──彼を倒し、全世界の美少女を寵愛する者だ」

 

 破面化。

 ようやく私は、みんなに並んだのだった。

 




鬼道考察

破道の三十一 赤火砲

君臨者よ! 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠する者よ。焦熱と争乱、海隔て逆巻き南へと歩を進めよ

君臨者 →神
血肉の仮面 →殺人者
万象 →世界を創ったヤハウェ
羽搏き →ミカエル
ヒトの名を冠する者 →モーセ
焦熱と争乱 →ファラオの追撃
海隔て →海を割って
逆巻き →その逆を行き
南へと歩を進めよ →約束の地から離れろ

 史実通りならモーセは殺人者なので約束の地カナンへは入れない……ので、引き戻して戦え! みたいな詠唱かな。赤火砲らしく。

蒼火墜

君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ

前半は同じ。
真理と節制 →出エジプト物語の終盤、モーセの言う事を聞かないユダヤ教徒が不平不満を言うシーンから
罪知らぬ夢の壁 →約束の地カナンは罪人を受け入れない。モーセは幼いころに殺人を犯している。
僅かに爪を立てよ →それでも入りたかったから縋って、でも入れなかった。

 こっちは神話通りの展開な詠唱。蒼火墜の名前からしても、そこで頓挫した、って感じだし。

双蓮蒼火墜

君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つ

前半は同じ
蒼火の壁 →罪知らぬ夢の壁の省略じゃないかな
双蓮を刻む →双頭蓮。吉兆の報せ。
大火の淵 →火口。火口の淵。
遠天にて待つ →遠くで待ってますよ。

 ゾーハルにおけるモーセの再解釈。
 夢の中で神より律法を授かったのではなく、神の山ホレブ山で一度生きたまま昇天し、天国で律法を授かったんだ、っていうモーセはもっとすごいんだぞ、さらに天の門番の天使も殴り殺してしまうんだぞ、っていう。

以上より、君臨者よ! シリーズはユダヤ教、キリスト教、イスラム教における予言者(or聖人)モーセに関する話だろうな、と。

 故の強化版なんじゃないかな。

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