PREACHTTY   作:ONE DICE TWENTY

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第11話 激闘! オスとメスと、メスみたいなオス

 

「一つ……問う」

「え……あ、はい」

「お前の目に、あれはどう映る」

 

 静かな塔。そこに、二つがいた。

 第四十刃、ウルキオラ・シファー。

 そして破面達と同じデザインの死覇装を着た井上織姫。

 二人の視線は壁に向いていながら、けれど感じ取っているものは別。

 

「……華蔵ちゃんは、良い子だよ」

「何をして善良と取る」

「華蔵ちゃんは、私やたつきちゃんを助けてくれた。自分がボロボロになっても、死んじゃうかもしれなくても」

「お前を守護する者ならば、例外なく善良だと?」

 

 二人とも、感じている。

 第七十刃の名を与えられた人間のはずだったモノの、変質していく霊圧を。

 

「ううん、そうじゃないよ」

「ならば何をして、アレを善良だと捉える」

「善良……っていうのとはちょっと、違うのかもしれない」

 

 井上織姫の記憶にある少年、華蔵蓮世。

 この世のものとは思えない美しさを持つ、まるで人形のようなクラスメイト。自認が少女である、というわけではない。己を男だと強く自覚していて、それでも可愛くなりたくて、可愛くあると誇りを持っている──そんな友達。

 

 織姫はその在り方を、ただただ凄いと思った。

 

「私はね、あんまり……自分に自信がないけど。華蔵ちゃんは、違う。自分がこの世界に在ることを、心の底から誇ってる。世界に、私達に、これでもかーってくらい、自慢してる」

「……」

「華蔵ちゃんは凄いよ。凄くて、良い子。……だけど」

 

 華蔵蓮世との付き合いは、至極短い。高校に入学してから、席が近かった。己やたつきの顔を見て、驚愕の表情を浮かべていた。自然、良く話すようになって──だからこそ、「この人は私とは違う世界の人だ」と、早い段階でわかった。

 織姫は、いいや、あるいはクラスメイトの全員が感じていたことかもしれない。

 美しさを目指す。美に焦がれる。

 それは特段おかしなことではない。それは別段珍しいことではない。

 

 ただ、熱量が明らかにおかしかった。

 

「だけど……同時に、怖い子、でも、ある」

「怖い……だと?」

「うん。……ホントはね、こんなこと思っちゃいけないってわかってる。お兄ちゃんの時も、学校の時も助けてくれたのに……。でも、華蔵ちゃんが見ていたのは、私じゃないんだ、って。わかってた」

 

 華蔵蓮世は霊を見る事ができない。浦原喜助の作った眼鏡をかけなければ、一切見えない。

 それなのに、身を挺して織姫たちを守っていた。茶渡泰虎を守った。傍目から見れば正義感に溢れ、熱い心を持った少年であると見えるだろう。

 

 けれど、彼の目を一度でも見つめた事がある者なら、その評価は一転する。

 

「華蔵ちゃんは、一つの事に夢中になれる、人生をも捧げちゃえる、凄い子。華蔵ちゃんは、友達を守ってくれる、良い子。だけど……華蔵ちゃんは」

 

 井上織姫は、自分の胸に手を当てて。

 

「──心の無い子」

「心……」

「だから、怖い」

 

 そう、はっきりと言い切った。

 

 心。

 人間は容易くそれを口にする。目に見える物に価値はなく、目に見えぬ物は存在しない。そういった感性を持つウルキオラにとって、どこにも存在しない心など、恐怖を誤魔化すためのまやかしとしか思えない。

 だが──。

 

「奴には、無いか」

「……うん。どこかに……置いて来ちゃったみたい」

「そうか」

 

 これは、華蔵蓮世の知らない問答の一部始終。

 心を知らない破面と、心を持った人間の。

 

 存在しないと否定をする前に、存在しないと断言された、ある人間モドキの――。

 

 お話。

 

 

PREACHTTY

 

 

 右目を隠すように、龍の上顎が黒々と光る。ギョロりとした目。それは世界を見据えるか、あるいは睨み恨んでいるか。

 服装に然したる変化はない。その顔に然したる違いはない。

 ただ霊圧は──もう。

 

 完全に虚のもの。

 完全に、人ではないモノになっている。

 

「……堕ちたか」

「戻っただけだよ。この世界を一枚の紙としか見ていなかった頃に」

 

 織姫に言われた、あの頃の華蔵ちゃん。本当は、そっちこそが偽物だ。

 昔に戻っただけだ。中学よりもさらに昔。"前"に。

 

 ああ──自分でわかる。

 ようやく眼鏡も要らなくなった。この状態なら、わかる。この世界がどれだけ霊子に満ちていて、目の前の隊長がどれほど凄い人で、藍染隊長の霊圧がどれだけ凄くて、他、十刃達の霊圧にどれほど晒されていたのか。

 自分が。

 私が、どこへ足を掛けたのか。

 

「朽木白哉」

「なんだ、破面」

「ここで終わりにしない?」

「……何?」

 

 双頭槍を取り出す。

 わかる。コレが、ちゃんと……斬魄刀になっている事を。今までただの壊れない武器でしかなかったこれと、魂がリンクしたのを。

 随分軽くなった。

 

「私、もう行かなきゃいけないんだよね。助けたい子がいる。でも、ここで君の相手をしていたら、その子を助けられないかもしれない。私の中の天秤はその子に傾くからさ。君の相手は別にしなくていいかな、って」

(けい)がそうでも、私はそうではない」

「君がそうでも、私にとってはそうじゃないんだよ」

 

 コン、と。

 足を鳴らす。そこから、波状延焼虚閃(セロ・ルラマーズ)が広がっていく。いつもの三倍以上は遅いソレは──ゆっくり、ゆったりと。

 床を破壊し、巻き込み、燃やし尽くしていく。

 

「朽木さん。山田花太郎。卯ノ花さん、虎徹さん」

「……なんだ」

「そして、君。朽木白哉。──この平面状、波状延焼虚閃(セロ・ルラマーズ)の効果範囲内にいる死神の名前」

 

 回転すればするほど、炎は大きくなる。巻き込めば巻き込むほど、炎は強くなる。

 私の宮を容易に破壊するそれは、けれど止まらない。このままいけば他の十刃の宮にも影響を及ぼすだろう。あるいは、藍染隊長のいる場所にまでも。

 

「縛道の八十一、断空」

「無駄だよ」

 

 波状延焼虚閃(セロ・ルラマーズ)が断空によって止まる。遮られる。

 ……けれど、断空の形状は長方形の平面だ。この炎が波状である以上、そして強い粘り気を持つ以上──どこか一部が止められたら、他が回り込む。

 

 断空では無理だと判断し、千本桜での対処を始めた朽木白哉に向けて、手のひらを差し出す。

 上向きの掌から、粉でも吹くかのように。

 

 今までにない所作に、千本桜を操りつつも私から目を離さない朽木白哉。

 笑う。

 

 

「──縛道の二十一、赤煙遁!」

「く……」

 

 フ──新技かと思っただろう!!

 そうポンポンと新技が出るか! 破面化っていうのは虚としての力を斬魄刀に収めて新たな一途をたどる、みたいな進化だから、別に破面化した瞬間に新しい技を覚えるとかじゃないんだよ! ポケモンかってーの!

 

 何のために足止めしたと思ってるんだ。

 逃げるために決まってるだろう。そんでもって、千本桜の弱点!

 

 相手がどこにいるのかわからなきゃ、全体攻撃をするしかない!

 そしてそれが出来ない状態なら──。

 

さようなら(アディオス)、朽木白哉! いやぁ、まさに決戦の空気に! そして新たな姿で──脱兎のごとく逃げるのは、あぁ、あんまりにも心地が良いね!」

「待て──どこへ行く」

「美少女が私を呼んでる。──美少女在る所に私在り。こんな美少女のいない空間、そろそろ耐えられないってね!!」

 

 ドルドーニと疎遠になった理由、3ケタの巣に美少女がいないから訪れるのが億劫になったから、だし。

 

 私に気付きを与えてくれたことには感謝しよう。朽木白哉、シロちゃん。

 だけど相性悪い相手とわざわざ戦ってやるほど私は優しくないんだよ! 

 

 じゃ、波状延焼虚閃(セロ・ルラマーズ)の対処頑張って!

 

 

 

 

 

 空を飛ぶ。

 破面化して新しい技を覚えるわけじゃない、と言ったな。あれは嘘だ。

 今、私の背にはドラゴンの時の翼がある。生身の頃にはできなかったことだ。部分龍化は防御力や攻撃力を上げたりなんだりには役立ったし、治療にも使えた……けれど、本来人間にないもの、つまり翼や尻尾を生やす、といったことはできなかった。

 それが今、できている。

 これは、ようやく黒龍化が私のものになったことを示しているんだと思う。今までは外付けの力でしかなかったアレが、破面化を経て、私のものに。

 

 真っ黒な両翼。

 これなら小悪魔コーデも似合う。

 

 そして、見つけた。

 黒い霊圧。唯一無二の霊圧。

 成程成程、こんなものを見逃していたんだ、私は。こんなものを見えないとぼやいていたんだ。

 それは疑われるでしょ。見えなくて。

 自分のそれにも、気付かないなんて。

 

 

 轟音を立てて降り立つ。ふわり、の反対。ズシン、あるいはドン!! だ。

 

「──第七十刃(セプティマ・エスパーダ)様……ッ」

「やぁ、テスラ・リンドクルツ。さて、はて、その顔は──私の言いたいことがわかっている、という顔だよね?」

 

 降り立ったのは戦場だ。戦闘痕の激しく残る戦場。

 遠くに倒れたグリムジョーと、油断なく対峙するノイトラ、そしてイチゴ。

 

 私の眼前で冷や汗を垂らす、テスラ・リンドクルツ。

 その腕には──織姫がいる。

 

「テスラ、放してやれよ。それで満足するんだろ? なぁ、七番」

「そうだね。事前に言った通り、この子を傷つけたら殺す。けど……流石はテスラ。まだ、傷つけてはいないようだ。だから、今放すなら許してあげる。──できるよね? 五番の従属官」

「……っ」

 

 解放される織姫。

 その身柄を受け取り、即座にその場を離れる。けれど、遠くに彼女を置いて、また戻ってくる。

 

「か……華蔵、か」

「うん、そうだよ、黒崎。華蔵蓮世ちゃんだよ」

「……随分と……楽しそうに笑ってるじゃねぇか。どうしたんだよ、珍しい」

「とても簡単な話だよ、黒崎」

 

 そのまま、すたすた歩いて。

 

 地面へ蹲る小さな子のもとへ向かう。戦場を横切って、ノイトラとイチゴの間を横切って。

 

「久しぶりなんだ。久しぶり。本当に久しぶりに──私は、美少女を守る戦いができる」

「……何のつもりだぁ、七番」

「やぁ、ネルちゃん。そんなに怯えないで、安心して。──お姉さんが守ってあげるから」

「お前お兄さんだろ」

 

 外野の声を無視して、怯えに怯えている小さな子に声を掛ける。

 しゃがみ込んで。できるだけ、優しく。

 

「あん? ネル? あぁお前、ネルか」

「ひっ……」

「ちょっと、五番。その汚い声と汚い視線を向けないでくれるかな。美少女が穢れる」

「ケッ、ひでぇ言いようじゃねぇか。あぁ、まぁ、お前、女が好きなんだったか。なら、そのみすぼらしいのも囲いに入れるか?」

「勿論。こんなかわいい子捨て置かないよ」

「なら──」

「だから」

 

 砂埃が巻き上がる。

 それは、三日月状の刃と双頭を持つ槍が克ち合った衝撃波によるもの。互いに一歩たりとも譲らないがゆえに、止まっているかに見えたそれも、双方が双方退いたことで仕切り直しとなる。

 

「てめェは俺の敵だァ、七番!!」

「君は私の敵だ、五番」

 

 起こるべくして起きた衝突。

 その火蓋がここに斬って落とされる。

 

 戦場に、自分の上に。女がいるのが気に食わない──それは。

 私の理念に反する。私だって、自分より弱い子が戦っているのを見るのは怖いから嫌だけど、ティア・ハリベルのような強さを持つ者なら別にいい。

 それは当然、ネリエルも同じ。

 

 もう一度刃と槍がぶつかり合う。凄まじい腕力、凄まじい膂力のノイトラに、けれど私の細腕は対抗し、拮抗し、抵抗する。

 破面化で身体能力の向上があったことと、骨や筋肉までもに意識が向くようになって、それらを部分龍化できるようになったことが要因に挙げられるだろう。

 

 今の私は、小さなドラゴンだ。人型の。

 

「なんだぁそりゃ! てめえは()()()()()()する奴だったか!?」

「確かに、十刃の前でこの槍を使う事はほぼなかったかもね」

 

 基本、双頭龍蛇(アンフィスバエナ)を使わないと話にならなかったから。

 けれど、ようやくこうなって。

 この双頭槍で、打ち合える。

 

 8の字型の両剣。そのくびれの部分に槍を打ち込み、捩じって抑え込む。

 体勢を崩したノイトラに打ち込むのは蹴り。だけどコイツの鋼皮は歴代最硬、例に漏れず私の打撃力ではこれを突破することはできない。

 だから、単純に。

 

黒虚閃(セロ・オスキュラス)

「!」

 

 足先から、黒い虚閃をぶっぱなす。

 ノーモーションでの虚閃というのはかなり難しい。スタークのように霊力を放つことに特別優れている者でなければ、たとえば口だとか、たとえば指先だとか、意識を集中しやすい起点を作らないと咄嗟には出せない。

 その点私はノーモーションこそ無理だけど、普段から全身を燃やしたり槍を燃やしたりしているために、その起点の再設定がしやすい。どこか尖った場所があれば、そこから虚閃を撃てる。この特性は私の蹴り技主体のスタイルにぴったりなのだ。

 

「チッ──おいテスラぁ!」

「黒崎、コイツは私に任せて、織姫を!」

「あ──あ、あぁ」

 

 あぁ、そうか。

 イチゴは私が七番だって知らなかったのか。だからこんなに動揺を。

 

「余所見の暇なんざねぇぞ!」

「してないよ」

 

 背後からの奇襲に、双頭槍の後ろ側で対応する。

 そのままてこの原理で槍を回転させ、刃ごとノイトラを引き摺り持ち上げる。

 

炎雨突(ルラマ・ルヴィア)!」

 

 素早い連続突き。ただし穂先には私の炎がある。

 ただの突きなら避けなかったのだろうが、その炎を見てか、ノイトラは回転させた刃の腹で私を背を押し、自分の体を山なりに飛ばす。

 その後、すぐに体勢を立て直しての斬撃。

 私はこれを双頭槍の柄で受ける。

 

「ヒャ──」

 

 短い歓喜が如き声。

 それと共に、身体に鈍い痛みが走る。いや、鋭いか。わからない。灼熱。

 

 見れば、私の――胸に。

 彼の左手が突き刺さっている。

 

 ……そうだ。彼の鋼皮は最硬。なればその貫き手は、全てを切り裂く矛になる。

 本来、斬魄刀を使わない方が貫通力もせん断力もあるはずなのだ、彼は。

 

「なぁオイ七番! ──お前、人間なんだろ。ならよぉ」

 

 ぶちぶちと何かが音を立てる。

 何かが、引き抜かれる。

 それはどくどくと音を立てるもの。

 それは。

 

「コイツを抜いて、俺達と同じにしてやるよ!」

「構わないよ。けど、美少女の胸に手を突っ込んだんだ。お返しはさせてもらうけどね」

「ッ!?」

 

 引き抜かれたのは心臓。胸にぽっかりと空いた孔からは噴煙が如く血が噴き出るけれど、そんなのどうだっていい。ウルキオラのとちがって私の超速再生は何をされても再生するんだ。条件は勿論あるけど、ただ心臓を抜かれたくらいでどうにかなるものじゃない。

 

 だから、無視して。

 

紅の射槍(ランサドール・ローホ)

 

 超至近距離。

 穂先をその身に押し当ててでの──そして、彼女の模倣である技。

 

「君も孔を隠しているようだからさ。あげるよ、見やすい孔」

 

 それを、射出した。

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……クソ野郎が……」

「あぁ、やっぱり、流石にこの程度じゃ死なないか。ちぇ、折角ネルちゃんを可愛がれると思ったのに」

「キメェんだよ……オスのくせに、メスの格好して……メスに混じって、メスのふりして……」

 

 ノイトラの霊圧が上がっていく。

 ……剣ちゃんが来る前に終わらせるつもりはなかったんだけど。

 

 まぁ、なんか、朽木白哉と違ってまだ来る様子ないみたいだし。

 

「気に食わねェんだよ!! 祈れ、聖哭螳蜋(サンタテレサ)!!」

「奇遇だね、同感だ。美少女が戦場にいる事を気に食わないと言う君の感性。そして美少女に手を出すその心意気。心の底から、大嫌いだよ。──別ちて拝せ、双頭龍蛇(アンフィスバエナ)

 

 互いに解放する。

 ノイトラは、四本腕にそれぞれ三日月状の鎌を持ったカマキリのような姿に。

 私は、身体の繋がった二匹の蛇を従える女王のような姿に、それぞれ。

 

 黒龍にはならない。黒龍の力を封じた斬魄刀が双頭槍だというのにそうならないのは、私が拒否しているからだ。そも、あの双頭槍にもちゃんと名前がある。双頭龍蛇(アンフィスバエナ)は解放後のこの体の繋がった蛇のことであって、正式な武器の名前ではない。

 原理としては綾瀬川弓親の藤孔雀、瑠璃色孔雀と同じだ。

 本来の名を呼ばないから、こうやって、中途半端な形で解放される。

 

「死ねや、七番!」

「息絶えろ、五番」

 

 解放したからと言ってやることは変わらない。

 手数が増えたのはどちらも同じ。ノイトラの方が数的に多かろうと、私の方が速度に分がある。更には二丁拳銃が如き虚閃の連弾──それは虚弾ではなく──は、劣化スターク的な使い方もできる。手の数はあちらが上だけど、手数は私の方が上だ。

 

「セェェェアリャアア!!」

十字痕(クルサール・ラストローズ)

 

 ただの大振り。だけどノイトラの膂力が合わされば、それは必殺の一撃になり得る。大して私が選択したのはクロスの斬撃。威力自体はあまり高く無い代わりに、範囲が広く、なにより攻撃を弾くことに特化している。

 

 しかし──。

 

「ッ、」

「どうしたどうしたァ! 自慢の槍が折れちまったじゃねェか、あァ!?」

「折れたなら生やせばいい。何も問題は無いよ」

「どォだかなぁ! 俺の剣にてめぇの槍は耐え切れず! 俺の鋼皮に、てめぇの槍は刺さらねえ! 違ぇか!?」

「違うね」

 

 その通りだ。

 攻撃しても受けても私の槍が綻び、隙をついてもノイトラにダメージを与えられない。それならやる意味が無い。

 これがただの槍なら、そうだ。

 

「さっきの槍の方が良かったんじゃねぇか!? あっちなら、ちっとは──」

「あぁ、やっぱり、評価はしてくれているんだ。じゃあこれは効くよね」

 

 二槍を両手に構える。泳法のバタフライに似た姿勢で、それを。

 

並行射槍(ランサドール・パラレロ)

 

 思いっきり射出する。

 

「ッ──チィ!」

「威力は双頭槍の時と同じだよ。だからまぁ、受けたら風穴が空く。君の認めた通りね」

「う──るっせぇ!」

 

 二本の槍を受けた刃はそのままに、他の腕で槍の側面を叩き、撃ち落すノイトラ。成程、合理的だ。

 

 だけど。

 

「これならどうかな。豪雨の射槍(ランサドール・ルヴィア)

 

 双頭龍蛇(アンフィスバエナ)を千切るたび、新しいものが生えてくる。それぞれが双頭槍で行う射槍と同じ威力。それを、二本。絶えることなく射出し続ける。

 スタークの技とネリエルの技の合わせみたいなものだ。私は両利きなので、どちらもで同じ威力を出せるし。

 

「ぐ……お、ぉおおおお!?」

 

 無限にも思える連続射出。

 だけど、流石に私の霊圧もスタークには劣る。無限装弾虚閃(セロ・メトラジェッタ)みたいなことはできない。

 

 だから、ようやく射出を終えて。

 

「まだだァ!」

「っ、ぐ!」

 

 飛んできた鎌を、槍で受け止める。

 硬い。重い。強い。

 完全に受け止めたはずなのに、威力を削ぐことができず──槍が、折れる。

 

 射出先の砂埃。そこから飛び出る塊の軌跡。

 それはノイトラ・ジルガ。

 

 六本腕の、ノイトラ・ジルガ。

 

「余裕こいてンじゃねぇぞ!! てめぇはいつも、そうやってオスを見下した目で──」

「見下してなんかいないよ。眼中にないだけ。私の身も心も、目も耳も鼻も口も脳も、美少女のためにあるんだから。野郎には使えないんだよ、残念ながらね」

「うるせぇ!」

 

 空中から、先ほど私がやったように三日月状の鎌を連続射出してくるノイトラ。

 先程私がやったのと同じく、それぞれが私の体を切り裂く威力の鎌。その範囲は槍よりも広く、また、あちらも鎌を生成し続けられる。

 私が死ぬまで、それは終わらないのだろう。

 

 ならば。

 

波状延焼虚閃(セロ・ルラマーズ)

 

 縦の波状延焼虚閃。地面に向かうものはすぐに止まってしまうけれど、天に向かう波は空にいるノイトラに直進する。

 空に向かうにつれ巨大になり、速度も上がっていく炎の波。

 ノイトラは、それを。

 

「虚閃ォ!」

 

 自前の虚閃で相殺する。相殺せんとする。

 それこそが、隙だ。

 

豪雨の射槍(ランサドール・ルヴィア)

「チィ──!?」

 

 普通、虚閃というのは撃ち終わるまで撃った側も動けないのが基本だ。スタークという例外を除き、どの虚も、仮面の軍勢でさえ虚閃を撃ち終わるまでその場を移動できない。無論、その後素早く移動してさらなる攻撃を、はできるけど。

 それを、この波状延焼虚閃は解消している。

 巻き込んで進み、大きくなる性質上、波の速度は遅い。代わりに波状延焼虚閃は撃ち出した時点で私の手から管理が離れる。だから、それを置きボムみたいな扱いにして、他の攻撃ができる。

 

 迫りくる虚閃。それに対応しなければならない。ゆえに己の虚閃を撃ったノイトラは、けれど自身の体に孔を穿つ豪雨も迎撃する必要がある。

 火炎と孔。どちらを選ぶか。

 

「クソッ!」

 

 答えは火炎だった。

 虚閃の放出を辞め、撃ち出される槍を弾く方向にシフトする。その代わり、それに対応するのは六本腕の内五本だけだ。

 

 最後の一本は──波状延焼虚閃に突っ込む。

 

「グ──ギ、ィ──ッ、ガ──ァァアアアッ!!」

 

 波状延焼虚閃(セロ・ルラマーズ)

 その攻撃の最大のポイントは、回転している、という所にある。

 巻き込んでいるのだ。だから、斬魄刀や虚閃、鬼道など以外で触れると──炎の波に引きずり込まれ、巻き込まれる。

 巨大で力の強いものに体の部位が巻き込まれる、という痛みは、想像に易いだろうか。さらにそれが燃えているとなれば、苦痛は。

 

「ァァアアッ、──ッハァ!!」

 

 だけど、いいや、だからこそ。

 ノイトラはその腕を使った。犠牲にした。

 巻き込まれ、ぐちゃぐちゃになっていく腕を支点に、波を潜り抜けたのだ。そして自ら腕を切り落とし──再生させる。

 実に合理的。実に効率的。

 戦うために、勝つために、生き残るために。そのための犠牲ならば、己が身でさえ厭わない。

 

「……るかよ」

「うん?」

「負けて、たまるかよ……! メスのフリしたオスに、オスであることを忘れたような奴にィィイ──!!」

 

 あぁ、やはり。

 そこが根源なのだろう。

 自分の上に女がいる事が許せない。戦場に女がいる事が許せない。女の格好をして、女に混じり、女を囲うような奴が、気に食わない。

 

 私も、同じだ。

 私も──美少女を傷つけられるのが、気に食わない。

 

「五番。君は勘違いをしている」

「あァ!?」

「別に、私は、オスであることを忘れた事は一度も無い。女の子になりたいとすら思っていない」

 

 なりたかったら、キャラメイクの時に女の子にしてる。

 

「私は美少女で、男の娘だ。──その誇りを忘れた事など、今生、一時たりともない!!」

 

 堂々と言う。良い放つ。

 

「勘違いは晴れたかな──じゃあ、次で、決めるよ」

「うるせぇ……うるせぇうるせぇうるせぇ! やってみやがれ!! この腰抜け野郎が!!」

九番目の太陽(エル・ヌベーノ・ソル)

 

 口から噴き出すのは、灼熱の炎球。小さな太陽。

 それを穂先に触れさせると、槍が太陽を吸収し、灼熱をそのままに槍の形を保つ。

 部分龍化している私ですら熱いと思うほどの温度。

 

 既に補充した鎌を持ち、真っすぐに落ちてくるノイトラ。

 

 さぁ、やってみやがろう。

 これは。

 私の投擲槍における──最大威力と知れ。

 

太陽の射槍(ランサドール・ソラル)

 

 ちゃんと、踏み込みを入れて。

 その灼熱を──射る。

 

「──!!」

 

 熱は鎌を溶かし、皮膚を焼き溶かし、肉を焦がし溶かし、骨を崩す。

 硬い事は関係ない。これは、ただ。

 太陽に身を投げたらどうなるか、という、子供でも分かるお話。

 

 断末魔は──偽物の空に、散って行った。

 

 

PREACHTTY

 

 

「のい、とら……?」

「ううん、私ー! おはようネルちゃん、第七十刃(セプティマ・エスパーダ)の華蔵ちゃんだよ。五番はね、お空の彼方に消えちゃった。あぁまぁ私の槍が天蓋に刺さってたりしなくもないんだけど、どうせ引っ付いてるのは炭化した身体だろうからもう死んでるよ」

「ヒィィイイイ!? い、いつご、助けてぇ!!」

「ありゃ?」

 

 抱き上げて、精一杯の笑顔で状況説明と君の脅威はいなくなったよってことを伝えたのに……なんか、すんごく怯えられてる。

 

 ガツン、と後頭部を殴られる。

 

「あいたっ!?」

「……ったく、何やってんだオメーは。ネルを放せ、怖がってんじゃねーか」

「おいおい黒崎、私から美少女を奪おうってのか?」

「その美少女がお前から逃げたがってんだよ! 美少女の心も傷つけないのがお前だったんじゃねぇのか、華蔵」

「──おい、あまり的確な言葉を使うなよ。弱るぞ」

 

 ネルちゃんを放す。

 超速でイチゴの方へ隠れるネルちゃん。……うう、ナイスバディの方も見れなかったし、ちっちゃい方にも嫌われた。悲しい。

 

「っていうか、黒崎、テスラは?」

「テスラ? あぁ、あの破面か。倒したよ、なんとかな」

「そりゃ重畳。傷も……だいぶ癒えてるね。織姫の力か」

「ああ。で……お前、さっき第七十刃(セプティマ・エスパーダ)とか言われてたけど……あいつらを裏切った、ってことでいいんだよな?」

「あぁまぁそうだね。裏切ったって言うか、最初から仲間じゃなかった、が正しいけど。あ、怯えないで怯えないで。十刃の仲間じゃないってだけで、破面や虚だからって差別したりしないから。なんなら私も破面だし」

「……それだよ、それ。どういうことだよ。お前は浦原さんの霊子変換機で霊子に変換されただけの人間だっただろうが。それを、なんだって十刃なんかに──」

 

 さりげなく、指を織姫に向ける。

 

「虚閃」

「ッ、何してっ──!?」

「おおっとぉ……何? 俺が現れることわかってたみてぇな攻撃だな、今の」

 

 ……片手で止められたか。

 結構威力込めたんだけど、やっぱ霊圧差が凄いなぁ。

 

「やぁ、スターク。この前私が言った事、覚えてるかな」

「『この子を傷つけたら殺す』……だったか。少なくとも仲間に向ける言葉じゃないが……お前さん、初めから俺達の事仲間だなんて思ってないもんな」

「うん。リリネットちゃんは別だけどね。──それで、スターク。その子の肩に置いてる手、どけてくれないかな」

「別に傷つけてないだろ? ──ちょっと借りるだけだ」

 

 槍を──……。

 

 消えた。織姫ごと。

 いない。

 探査神経にも引っかからない。霊圧知覚にもだ。

 

 ……ほんと、速いなぁ。

 

「華蔵! 井上が……!」

「落ち着いて、黒崎。織姫は殺されてないよ。ただ連れていかれただけ」

「何がただ連れていかれただけだ! その場所は、だって、藍染の!!」

「うん、だろうね。だけど殺されはしないよ。……さて、じゃあそろそろ私も行かないと」

「な……待てよ、まだ何も!」

 

 最後に、響転でイチゴの背後に回り──ネルちゃんを撫でる。

 

「私、自力で黒腔開けないからさ。便乗しないといけないんだよね。──じゃ!」

 

 翼を生やし、飛ぶ。飛び立つ。

 下でイチゴが喚いているけれど、知らない知らない。

 

 色々な物事がだいぶ早まっているからね、ウルキオラもまだ出てこられないだろう。

 なら、無理矢理。

 藍染隊長の開いた黒腔に突っ込めば──私も現世へ出られるはず。

 

 だから、急いで。

 

 急い、で──。

 

 

「どうした」

「……」

「俺がこの場にいる事が、そうも受け入れられないか」

「……なん、で。反膜の匪(カハ・ネガシオン)は、まだ」

「お前のおかげだ」

「……!」

 

 その、緑の目は。

 真っすぐに私を捉える。

 

 いるはずのない虚無が。

 ただ、立ちはだかる。

 

「虚夜宮では、第四十刃以下の解放は禁止されている。……知っているな」

「わ……私は第七十刃だから、関係ないよ」

「先刻、ここをお発ちになられた藍染様より通告だ」

 

 ウルキオラが──その手で、私の胸を、貫く。

 

「グ──!?」

「『数々の離反行為。同族及び十刃の殺害。命令違反。それらを踏まえ、華蔵蓮世。君から第七十刃(セプティマ・エスパーダ)の階位を剝奪する。』」

 

 その手が、引き抜かれ。

 再生していく胸に、新たな数字が刻まれる。

 

「『そして、期待通りの働きを讃え、君に新たな数字を与えよう。』」

 

 7の文字は、反転し、傷を付けられ。

 

「『第四十刃(クアトロ・エスパーダ)。君達は()()として、私が留守の間、虚夜宮を守ってもらう』」

 

 4に、なる。

 

「理解したか? お前の解放は、ただそれだけで空間にゆがみを与えていた。俺がお前の予想より早く出てこられたのは、お前の影響だ」

「──フフ、解放なんて、してないつもりだけどね」

 

 なれば、第四十刃が二人。

 しかも同族と来たか。

 

「はぁ。ウルキオラ、君の相手は黒崎に任せるつもりだったんだけど……前哨戦くらいは、譲ってもらおう」

「藍染様の命令を聞いていなかったのか? 俺とお前で、虚夜宮を守り抜け、とのご命令だ」

「なんで私が虚夜宮を守らなきゃいけないんだよ。私は現世に守りたい子がいるんだ、こんなところとっととおさらばして──」

「……お前が言う事を聞かなかった場合、追加で言付けを受けている」

「……何」

 

 ウルキオラは、虚無の顔で。

 

「『もし、侵入してきた死神を全員追い払った暁には、ウルキオラ。彼のために、君が黒腔を開いてあげてほしい。それが彼への報酬になる』……と」

「うわぁ、部下の欲しいものをちゃんとわかってる上司だ……」

 

 いや、十刃として過ごしてたった数か月だけど、藍染隊長マジでカリスマが凄い。

 あの人社長だったら普通についていきたいもん。国家転覆とか考えそうだからハイリスクハイリターンだけど。

 

「どうする、華蔵」

「……どうするも何も、仕方がない。どうせ藍染隊長達が行った黒腔は閉じちゃったんでしょ?」

「ああ」

「なら──まぁ、やるしかないでしょ。……それに」

「なんだ」

「ん、ううん。保険というものはかけとくべきだなって、痛感しただけ」

 

 侵入者を追い払った暁には、と言っているあたり、殺さなくていいよ、って言ってるようなものだ。

 私のやりたくないことまで含めての命令。ぐぁー、人心掌握術。

 

 ──さて、じゃあ。

 

 保険が生きる事でも願って──虚圏のラスボス、片棒を担がせてもらいましょうか!

 

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