PREACHTTY   作:ONE DICE TWENTY

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突然ヒステリックな描写があります。苦手な方ご注意


第12話 The Flame

 尋常ではない霊圧がそこにあった。

 

 ポッケに両手を入れて、ただ立っているだけのウルキオラ。

 毛先を弄って、壁に背を預けている私。

 

 その背後で織姫がおろおろとしていて。

 

「……来るよ、ウルキオラ」

「お前に言われるまでも無い」

「どっちがどっちをやるか決めようよ。今ここに来ているのは黒崎と茶渡、石田雨竜。尸魂界の隊長格」

「黒崎一護はお前の仲間だったか。傷を付ければ、お前は敵に回るか?」

「どうかなー。確かに私にとって黒崎は友達だけど、藍染隊長に言い渡された侵入者の一人であることは確かだし。何より──」

 

 響転で織姫の背後を取り、その肩に腕を回す。

 

「私の織姫を取っていくナイト様だから──まぁ、いいよ。好きにして。多少の因縁もあるんでしょ?」

「そうか」

「華蔵ちゃ……きゃあ!?」

 

 その悲鳴は、果たして。

 友達同士のスキンシップにおける可愛い悲鳴──ではなく。

 

「な、何で……やめて、華蔵ちゃん!」

「えー、いいじゃん。この死覇装のデザインちょっと硬すぎてさー、織姫はもう少し露出も必要だと思うんだよね」

「いやぁっ!?」

 

 かつて原作でロリとメノリがやったように、ビリビリと織姫の死覇装を破いていく。

 露わになる肩や横腹といった肌が酷く扇情的だ。うんうん、いいね。

 

 それじゃあ。

 

「縛道の一、塞」

「あっ」

「そして、縛道の七十三──倒山晶」

 

 手を縛り、更には霊圧の壁の中に閉じ込める。

 大丈夫大丈夫。それ、外から中は見えないけど──中から外は見えるマジックミラー式だから。

 

 もう、織姫の声も聞こえない。

 

「……随分と手荒いな」

「ん? お気に召さなかった?」

「どうでもいい。ただ感想を述べたまでだ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まぁ、バレてはいるのだろう。

 でもどうせ、ウルキオラには何もできない。黒腔が閉じた今、こっちから声を届ける事も出来ないわけだし。

 そして──そうである、ということは。

 私の作戦が上手く行った、ということでもある。

 

 ならば、後は本能の赴くまま、と言う奴だ。

 

「……華蔵」

「うん?」

「一つだけ、問う」

「なに?」

 

 珍しい。

 ウルキオラがリアクション以外で私に話しかけてくるなんて。

 

「──心とは、なんだ」

「……それ、私にする質問?」

 

 驚き過ぎて反応が遅れてしまった。

 それ織姫にしなよ。私じゃないって。

 

「……。……やはり、持たざる者には答えもないか」

「ワオ、いきなり暴言吐くじゃん。私が心無いって?」

「あの女は、そう言っていた」

 

 倒山晶を指差すウルキオラ。

 ……織姫が?

 

 へぇ、それは。

 

 鋭い子だねぇ。

 

「まぁ、私はその答えを知っているけれど、私が教えても意味が無いし、君は納得しないと思うよ」

「だろうな」

「だから、自分で確かめるといい。どれが心なのか。何が心なのか。──彼らと私の違いは、何なのか」

 

 双頭槍を取り出す。

 ウルキオラもまた、己の斬魄刀を引き抜いた。

 

「……あー、そういえば、姿を見ないと思ったら……ヤミーの奴、あんな遠くで遊んでるんだね」

「好きにさせておけ。いてもいなくても変わらん」

「相手は朽木白哉か……。ありがたい限りだけど──」

 

 ドン、と。

 いや、ボコンッ! と。

 この階層の床が弾け飛ぶ。先ほどから感じていた尋常でない霊圧が私達を撫でる。

 

 砂埃と共に出てきたのは──二人。

 イチゴと。

 

「ハハハハ!! おい一護ォ! てめェだけに良い思いはさせねぇぞ!!」

「別に良い思いなんかしてねェよ!! っつか話聞け、俺は井上を助けに──」

「あの女を助けに強ェのとやり合いに来たんだろ!?」

「そりゃ……そうだが、話の順序が」

 

 ああ。

 いないいないと、何故来ないんだろうと思っていたけれど。

 

 やっぱり、今、ここで。

 帳尻が、辻褄が合わせられるのか。

 

「ウルキオラ。黒崎はくれてやる。私は最強と名高い方を貰うよ」

「……ああ」

 

 静止したままのウルキオラは、斬魄刀を抜いた姿勢でその場に。

 そして私は槍を持って突っ込む。途中にすれ違うイチゴになど、目もくれず。

 

第七十刃(セプティマ・エスパーダ)改め第四十刃(クアトロ・エスパーダ)、華蔵蓮世」

「護廷十三隊十一番隊隊長、更木剣八だ!」

「それじゃあ殺し合おう、剣八」

「良いぜ。殺り合おうじゃねぇか、十刃」

 

 物理最強に名高い更木剣八を相手に、手加減や様子見など無用。

 残り少ない私の力を振り絞り、大金星を上げさせてもらおう。

 

 

 ──どうせ、勝てない事はわかっているのだから。

 

「ハハハハハッ!」

「別ちて拝せ、双頭龍蛇(アンフィスバエナ)!!」

 

 なればせめて──彼女らが出てきた時、この虚夜宮に安寧を。

 それが、私の、最期の役目。

 

 

 

 

「オラァ!!」

「ははっ──弧月槍(ランサ・ルーナ・アルコー)!」

「ふんっ……!」

 

 ぶつかり合う。克ち合う。

 既に第五の塔からは外に出て、空中で、砂漠で、更木剣八と斬り合いを続ける。

 

 膂力では完全に劣っている。そもそもノイトラにも勝てなかったんだ、敵うはずがない。

 その代わりこちらには素早さがある。そして。

 

「ハハハハッ! いいじゃねェか!! その目は、戦いを楽しんでる目だ! こっちへ来て初めて会ったぜ、余計な感情を入れてねェその目の奴には!」

「それはこっちの台詞だよ──剣八! その名は最強だ! こっちが全力を出したって、死なないんだろう!? もっとだ、もっと強くなれよ、更木剣八! その限界の先に私が立ってやる!」

 

 ──楽しい。

 純粋に楽しい。今までの戦闘は色んなことを考えながら、だった。

 けれど、そのしがらみから解放された今──戦う事だけを考えられる。

 

紅の射槍(ランサドール・ローホ)!」

「フゥ──ぅッ」

 

 私の投げる槍も、虚閃も。

 更木剣八は──正面からぶつかってなぎ倒す。

 

 そして目で問いかけるのだ。

 まだ行けるだろう。まだ上があるだろう、と。

 

「ゼェァ!」

「ッ!」

 

 ただの袈裟斬り。

 それが、双頭龍蛇を切り裂いて──私の体をも切り裂く。

 

「あっは──」

 

 どうした。なんだ。

 心臓を抜かれて生きていた私が、半身千切られたくらいで動揺するとでも思ったか。

 

九番目の太陽(エル・ヌベーノ・ソル)

「やっぱり死んでねェか! 死にぞこないの目じゃぁねぇからなぁ、それは!」

 

 更木剣八の剣が太陽に触れる。

 

 たったそれだけで、太陽が二つに割れた。

 

「霊圧だけで──!」

「まだだ、まだあるだろ!?」

龍皮の一撃(プノ・デ・ピエル・ディ・ダラゴン)!!」

「ぐぅっ!」

 

 霊圧を纏っているだけの剣。

 それが、私の炎を切り裂くなんて思ってもみなかった。そういえば私、こういうパワー馬鹿との戦闘経験あんまりないんだよね。ノイトラもパワー馬鹿って感じではないし。

 とりあえず部分龍化した蹴りを更木剣八の横っ腹に入れて、吹き飛ばす。その隙に再生して。

 

太陽の射槍(ランサドール・ソラル)

 

 割れて消えかけている太陽を槍に吸収し、身を引き絞って射出する。

 投擲槍における最大威力。ノイトラをも焼き融かし尽くした灼熱の槍は──しかし、受け止められたのがわかった。剣で、その穂先を正確に捉え……弾く。

 あんな神業を本能だけでやってるんだ。恐ろしいにもほどがある。

 

豪雨の射槍(ランサドール・ルヴィア)

 

 だけど、更木剣八はノイトラと違って一本の刀しか持っていない。

 ならばこの雨のような射槍、捌き切れるか!

 

「はン──」

 

 極光。

 たった一振りだ。けれど、見たことのある一振り。

 

 両手を使った、剣道の上段斬り。

 その霊圧に、私の槍の全てが砕かれる。

 

「……終わりか?」

「まさか」

 

 槍を体に巻き付かせる。

 そうしたのち、全身にかけるは部分龍化。黒龍化ではなく部分龍化の全身ver.は──つまり。

 

 長い爪と、翼と、尾と、びしりと生え揃う鱗。

 所謂リザードマンの類か。それよりかは強い自信があるけれど。

 あ、勿論顔は元のままだ。可愛くなくなったら黒龍化とおんなじだし。

 

「へぇ、なんだ、それがてめェの帰刃とやらか?」

「あっはっは、違う違う。これは……そうだね、戦装束って感じ? 今まで普段着だったからさ、死覇装着た死神相手に普段着じゃァ礼がならんでしょ?」

「そんなこと気にしちゃいねぇが、それでてめェの気分が上がるんならそれでいい。さぁ、来いよ。変わったのが見た目だけじゃねぇ事を」

炎上疾駆(ルラマ・エヘクタール)

「!」

 

 足先から噴射する炎の爆炎で加速し、爪や全身に纏った炎と共に更木剣八へ体当たりをしかける。ただの体当たりだ。だけど、鋭利な鱗と灼熱の炎が渦巻く体当たりは──その刀に止められて尚、彼の身体を焼き削ぐ。

 更木剣八の肌に火傷が刻まれていく。霊圧がその身を覆っていなければ、簡単に炭化していたことだろう。

 その証拠に彼の衣服は燃え尽きて──って、あ。

 

虚閃距離(ディスタンシア・セロ)

 

 咄嗟に零距離虚閃で彼をぶっ飛ばす。

 

 ひらり、ぱさりと落ちるは──裏側がすっごく気持ち悪い眼帯。

 いや、封をするのはいいんだけどさ。常に瞼近辺をこの化け物がグチャグチャ言ってるのってどうなの? キモくないの?

 

 ……纏う炎の量を倍にする。

 吹っ飛ばした先で、髑髏が目に入ったから。

 

 あれは──更木剣八の霊圧。

 死の予感。

 

 すたすたと歩いて戻ってくる彼の身体には、大きな大きな火傷痕。出血は熱によって抑えられているけれど、治ったわけじゃない。

 

「ハ──なんだ、オレの封について、知ってたみてぇだな」

「覚えてないかもしれないけど、私旅禍の一人なんだよね」

「そうか──覚えてねェなぁ!」

 

 斬りかかって来る更木剣八に、私は爪で対抗する。

 ──重っ。

 

 だけど。

 

惨爪炎痕(ルラマ・ラストローズ・ガァラ)

 

 流石に三角形にはできないけど。

 敵の刀が一本ならば、私は両手足五本ずつの爪が使えるわけで。

 

 わざわざ片腕ずつ攻撃したりしない。常に挟撃だ。連撃では弾かれるから、同時に。

 増えていく傷跡。焼け焦げていく身体。

 

 けれど、それでも。

 

 更木剣八は嗤う──。

 

「もっとだ! もっとあげられるだろ!! てめェの本気を見せてみろよ──まだ上があるだろ!!」

「……そうだね。ウルキオラが先にやってから、と。そう思っていたんだけど……そんなこと、もうどうだっていいか」

 

 ……これは、不義理になるのかな。

 もしかしたら君の死に場所を。もしかしたら君が手に入れられたはずの答えを──永遠に失わせてしまうかもしれないけれど。

 私は、美少女の味方だから。

 もう、余計なことは考えないよ。

 

黒龍化(ダラゴネグロ)

 

 瞬時に巨龍となり、飛び立つ。

 

「オイ、どこ行きやがる」

「──第四十刃(クアトロ・エスパーダ)以下の十刃は、虚夜宮を壊さないために天蓋の下での解放を禁じられていてね。私にとっても至極どうでもいい縛りなんだけど──まぁ、同僚が守ってるからさ」

「あー……ごちゃごちゃうるせぇが、要は場所を変えてえってことか?」

「そういうこと。移動中に攻撃しないでくれるなら、背中に乗せていくけど」

「そうしろ。今からこのだだっ広い砂漠を走るだけってのはつまらねぇ」

 

 一旦降りる。

 そして、更木剣八と……目があって、トテトテついてきた草鹿やちるを背に乗せて。

 

 私は、偽物の空を、突き破った。

 

 

 

 

 晴天から一転、静かな静かな夜が現れる。

 変わることの無い月。停滞。この世界は止まっている。白黒で灰色で、無色透明な──亡霊の世界。

 

 二人を降ろして。

 

 私も、元の姿に戻る。

 

「あ? なんだ、そのでけェ姿でやるわけじゃねぇのか」

「だって可愛くないじゃん。というかあの姿でやるんなら、なんのために破面化したんだって話だし」

「えーと……剣ちゃん剣ちゃん! あたしここで見てればいーい?」

「あぁ、離れてな。ちっと熱いからよ」

 

 さて。

 藍染隊長がどこまでわかっていたのかは、もう知る由もないけれど。

 

 今からやるのは……まぁ、正直、二番煎じだ。

 

「別ちて拝せ、双頭龍蛇(アンフィスバエナ)

「あー……さっきとなんか変わったか?」

「ううん、まだ。これから変わるからさ、もうちょっと見てて」

 

 双方の槍。

 それぞれが蛇の意匠を象った槍の、穂先。

 

 これを──くっつける。

 食い合わせる。

 

「……先に、ごめんね、と言っておくよ」

「さっさとやれ。戦いの熱が冷めるだろうが」

「そして──後は、任せたよ」

 

 炎。

 炎──。炎だ。

 迸るは、霊圧の炎。雷にも水にもならない、決してなろうとしない、自己主張の激しい炎。

 

 それが、私の身を包み。

 それが、虚夜宮をも包んでいく。

 

 更木剣八が未だ静観を続けているのは、その炎に熱がないからだろう。

 それでいい。別にこれは攻撃ではない。

 

 ウルキオラのそれが、空にある黒い海だと称されたのなら。

 私のこれは──燃え盛る黒い空となるのだから。

 

 同族、と。

 藍染隊長は言った。

 

 

 

「──(へだ)て」

 

 

 

 穂先の付き合わされた、食い合わされた蛇が──完全に繋がる。

 

 

■■■■■(ティル・ターンギレ)

 

 

 走るノイズは、私が失った部分だから。

 

 余計な部分が削ぎ落されていく。必要な部分が足されていく。

 

 翼は龍だ。大きく、強い皮膜。

 尾は龍だ。太く硬く、強い筋。

 瞳は龍だ。縦に割れた憎みの目。

 舌は龍だ。二つに別れた熱い舌。

 

 ようやくこれが──本当に。

 

 私の最強だ。

 

「……準備は終わったかよ」

「うん。大丈夫。──じゃあ、殺し合おう。ああでも、ごめんね。もうこれ以上はないよ」

「そうかよ。んじゃ、武器のなくなったてめェを斬って終わりだな」

 

 大丈夫。

 更木剣八は、失望してなどいない。

 むしろ逆だ。

 

 楽しそうに。

 すごく、楽しそうに。笑っている。少年のように、ワクワクしている。

 

炎槖の槍(ランサ・デル・フューゴ)

 

 まずは、二番煎じを。猿真似を。

 圧縮率は九番目の太陽(エル・ヌベーノ・ソル)の九十倍。

 

 温度は──1600万度。

 近くにあるだけで私の肌が、肉が、骨が溶け落ちる程のそれ。

 しかし瞬時に巻き戻る私の身体が、その炎熱のダメージを堆積しない。

 

「流石にこれは、避けた方が良いと思うよ」

「余計な世話だ」

「そっか。──じゃあ、死んで」

 

 放つ。

 槍は飛んでいる最中にも空気を焦がし、虚夜宮の天蓋さえをも溶かしていく。

 

 速度自体はそこまででもない。

 ただ。

 

 直前まで受ける気満々でいた更木剣八が、接敵の瞬間に回避を選ぶほどには──ヤバい。

 

 これを、二本。

 両手に出現させる。

 

 鳴るはずの無い心臓が鳴った。

 

「ああ──ああ、もう!」

「ッ、ハハハッ! なんだ──あるじゃねぇか、てめぇにも最強が!」

「最悪だ、最悪だ、最悪だ──ホントに!!」

 

 ヒステリーだ。癇癪を、鬱憤を、更木剣八に叩きつける。

 虚化イチゴ程の機動力や破壊力を持たない更木剣八では、私の動きには付いてこられない。ただその異常なタフさで保っているだけ。

 斬魄刀を持つ手の炭化は始まっている。霊圧を貫通する程の熱量なのだ。

 

「なんで──なんで、なんでなんでなんで!! なんだって!!」

「何怒ってんだてめェ、もっと楽しめよ! これほど心躍る戦いなんだ、最期までやり合おうじゃねぇか!」

 

 

「なんで、君──可愛い女の子じゃないんだよ!!」

 

 

 決めていたはずだ。

 私が負けるのは。

 私の命を掴むのは。

 

 私より可愛い子だ、って。

 なのに、なのに!

 

「別に、私は藍染隊長の口車に乗ったわけじゃない……ウルキオラの黒腔が開かれなくたって、浦原喜助がなんとかしてくれたよ。そのウルキオラだって、もうすぐ死んでしまうんだから、関係ない。関係ない関係ない関係ない」

「あぁ!? さっきから何喚いてやがる!」

「わかってたんだ! 私が念のために作った保険が機能した時点で、私が用済みであることくらい! だってそう作ったのは私だから! だってそうあるようにしたのは、ほかならぬ私だから! ──でも、それでも!」

 

 槍は、更木剣八を、私を、双方を、虚夜宮を、虚圏を、何もかもを灼いていく。

 そうして黒くしていくのだ。黒く黒く、染めていく。

 

 

「私が負けるのは──私より可愛い子が良かった」

 

 

 落ちる。

 何がって、腕が。ぼろ、っと。

 

 

 骨まで炭になった、更木剣八の腕が。

 刀を握りしめた腕は、けれど。熱量に耐え切れず、手首から崩れ落ちる。

 

 

「──」

「……その程度の怪我なら、織姫が治してくれるよ」

「……チッ」

 

 あぁ……そうだね。

 その気持ちは、わかる。

 

 もっと続けていたかっただろう。

 もっと踊っていたかった。もっと遊んでいたかった。

 

 落ちたのは、更木剣八の腕だけじゃない。

 

 私もだ。

 

 私の、全身も、そうだ。

 炭化して、衝撃に耐えられずに砕け散って。

 

 奇しくも、彼と同じく──灰のように。

 

「……自滅か。くだらねぇ幕引きだな」

 

 あぁ、そう言ってくれるのか。

 そうか。そうだね。

 私は、更木剣八なんていう、可愛くない、美少女でもない奴に負けたんじゃあない。

 

 私と言う、華蔵蓮世という、世界で最も可愛い美少女の炎で、焼き尽くされたんだ。

 私が負けたのは。

 

 私だ。

 

 だから──私はちゃんと、私より可愛い子に負けたんだ。

 

「……心の、無い、子」

 

 知っているさ。

 知っていたさ。

 私だって、その言葉を知っていた。

 

 他者と触れ合う時、それは初めて現れる。誰かを想う時、それは私と、その誰かの間に現れる。

 

 もし、世界に自分一人しかいなかったら。

 心なんてものは──無くなる。

 

 結局、私しか見ていなかった私に、そんなものが無かったように。

 

「──あと、は」

 

 頼んだよ。

 

 その言葉が紡がれることは無かった。

 もう、私の身体は。

 虚圏の空に、灰となって消えて行ったのだから──。

 

 

 

PREACHTTY

 

 

 現世。

 山のような死神を前に……コヨーテ・スタークは、大きな大きなため息を吐いていた。

 

 忠誠を誓う藍染惣右介は尸魂界側のトップの手によって封じ込められてしまった。よって、階位的に次であるスターク──を飛ばして、元虚夜宮の王であるバラガンが指示を飛ばしている。

 藍染惣右介の目的である空座町。そのレプリカ。

 大がかりな仕掛けに、けれどまだまだ自分の出番は無さそうだ、と後頭部を掻こうとして……思いとどまる。

 

「それ何? スターク」

「ん? あぁ……まぁ、なんでもねぇよ」

「えー、気になるだろー。珍しいってレベルじゃないじゃん、スタークが戦場に私物持ち込むなんてさ」

「私物……なんかじゃねぇよ。こんなもの……俺だって持ってくる気はなかったさ」

「じゃあ見せろよー」

 

 後頭部を搔こうとしてやめた、右手。

 その手にずっと握りしめているもの。

 

「うるせぇよ、リリネット。静かにしてろ」

「えぇー!」

 

 スタークはそれを、まだ。

 ずっと、ぎゅっと、握りしめていた。

 

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