PREACHTTY   作:ONE DICE TWENTY

16 / 18
第16話 勝てないとわかっていて

 嘶いたのは爆炎。

 光が溢れ、焼き尽くす焔が世界を真白に染め、溜まった黒を掻き消すと同時。

 衝撃が響き渡る。

 それぞれの身体が遮る光は影を作り出すけれど、それさえも吹き飛ばす純白が轟音を伴って二人の身を包み込む。攻撃の暇など存在しない。ひと時でも防御から意識を外せば、たちまち腕が千切れ、足が炭化し、火だるまになって。

 元に戻る。

 常若(とこわか)の世界。

 絶対に死ぬことの無い、何をされても元の状態に戻る理想郷。

 それは地獄に同じ。

 焼き焦げた空気は肺に痛みを、舌は渇き、喉は荒れ、瞳の水分さえも蒸発する。それでも死なない。慣れかけた痛みは慣れる前にまで感覚を引き戻され、霊圧の守りも虚閃の壁も、炎を中を突き進んでくる超高温の槍に突き破られる。

 それでも死なない。それでも尽きない。

 

「何がしてぇのか、よくわからねえ能力だな」

 

 音が止まる。光が止む。

 そうして降り落ちるは油のような泥。スタークはそれをもう避ける事さえしない。雨。雨の中で、黒く染まりながら声をかける。

 人型の龍。

 双頭の槍も、双つの槍も失くした、鋭い爪を持つ龍。翼をはためかせ、尾を振り回し、火がついていなくとも高温である息を吐き出す生物。

 

「何やっても元に戻るんじゃ、虚しいだけだ。精神に痛みや疲労が累積する……つったって、だったらこんな大規模にする必要はねぇ。拷問用にしちゃ派手過ぎるし、卑屈すぎる」

「拷問用じゃないからね」

「じゃ、なんだ」

 

 黒い。黒い。

 龍の鱗は元より黒であるけれど、それが油の泥に塗れて、さらに黒を増している。

 虚は。

 基本的には体のどこかに白を持つ。バラガン・ルイゼンバーンでさえ、帰刃時の頭部に骨という名の白を持つ。虚の仮面は白い。十刃達の帰刃も、普段着ている藍染によって誂えられた死覇装も、白だ。真黒な死神に対して。

 虚には、何もない。色が無い。

 

「初めに言った通りだよ。ここは死後、本来あるべき世界。虚圏のような寂しい場所でも、尸魂界のようなしがらみにまみれた場所でもない。ここはただの極楽だ」

「極楽ね……」

 

 見渡す限り、どこまでも黒い空。

 虚圏にはまだ月があった。悲しい光を発す、けれど灯りとなるもの。それがここにはない。この世界には黒と、地面に生える蓮の葉しか存在しない。

 泥が堆積しようと、爆炎に包まれようと、毅然とその姿を崩さぬ大蓮だけが、この世界を現実であると引き留めてくれる。そうでもしなければ、目を瞑り、瞼の裏を見ているのではないかと錯覚する程の黒だ。

 黒い。

 黒い。

 

「成程。アンタらしいな」

「うん」

「つまり、ここは──何をしても無駄だとわからせるための世界か」

 

 スタークがどれほど強い虚閃を放とうと。あるいはリリネットを用いた狼達を殺到させようと。自らの首を掻き切ろうと、目の前の龍を殺そうと。

 ここでは関係が無い。意味が無い。無駄だ。

 その炎さえも意味が無い。この泥さえも意味が無い。

 それを理解させるための世界。

 

 虚無の世界だ。

 

「だが──アンタ、さっきいた隊長さん達は治らずに落ちたよな。理想郷ってのはなんだ、人を選ぶのか?」

「そうだよ。赦された者、受け入れられた者、選ばれた者。辿り着いた者達のためだけの楽園を約束の地とする。この世界にいて、常若の恩寵を受けられるのは、ある概念を持つ者のみ」

「……いや、言わなくていい。ちょっとくどくなってきてたんでな」

 

 スタークは銃の底で後頭部を掻いて。ため息をついて。

 

「で、アンタ。俺に何して欲しいんだったか」

「このまま虚圏に帰って欲しい」

「そりゃできねぇ相談だな」

「頷くまで出さない」

「だろうな」

 

 互いに帰って来る答えがわかっていての問い。その問答にさえ意味はない。知っている事を確認するだけ。そうだろうことを再認するだけ。

 だから、と。スタークは一呼吸置いて──問う。

 

「アンタがそこまで諦めてる理由はなんだ。死神たちが強いから、ってだけじゃねぇだろ。藍染様の計画が必ず破綻すると踏んでる理由は、なんだ」

「君達が藍染隊長に殺されることを知っているから」

「──……何?」

 

 それは、知らない事だった。

 

 

PREACHTTY

 

 

 氷が割れる。ワンダーワイス?

 違う。

 

九番目の太陽(エル・ヌベーノ・ソル)!」

 

 背後に太陽を撃ち出して、ハリベルの手を引く。

 その身を抱き寄せ。

 

 斬撃を受ける。

 

「……!」

「華蔵……?」

「──虚閃」

 

 吹き飛ばす。避けられた。けどこれで距離は取れた。

 遠くを見る。黒い世界が向こうに広がっている。まだ無理か。

 

「用済みだ、と。そう告げるつもりだったのだけどね」

「知ってるよ。だから逃がしたんだ。やぁ、藍染隊長。炎の中で、優雅にティータイムでもしてたんじゃ?」

「それが終わっても、十刃の誰一人として隊長格を落とせていなかった。君達を破棄するのに十分な理由だ」

 

 傷は治った。

 まだやれる。

 

「藍染……様……?」

炎痕(ルラマ・ラストローズ)!」

 

 炎を吐く。けれど、手刀の一振りで掻き消される。

 これは少し不味いか。ワンダーワイスの声が聞こえたら全力で退避するつもりだったのに、まさかその前に出てくるとは思わなかった。

 仮面の軍勢も来ていないようだし──。

 

「一つ、聞くけれど」

「なにかな」

「私も用済み?」

 

 聞く。問う。

 私は、他の十刃とは違う。兵としての手駒ではなく、実験材料として手元に置かれた存在だ。

 ならば。

 

「ああ、そうだとも。──君にこれ以上はない。あちらで展開されている君の解放が、君の全てだ。不死の世界。不滅の世界。そんなもの止まりなら、私にとって意味のあるものではないからね」

「それ以上があるとすれば?」

「それ以上があるのなら、今、見せると良い。そうしないのなら、私は君達を用済みとして片付ける」

黒龍虚食(ボラフィダッド)

 

 大口を開くは真っ黒な塊。

 それは藍染隊長を確実に飲み込み──破裂する。

 

「こんなことで意表をついたつもりかな。やはり君の成長はそこまでだ。崩玉の自然発生例。珍しさは、けれど、完成しないのならば価値はないよ」

「……それなら、安心した」

「なに?」

 

 双頭龍蛇を構える。

 

 私の腕に。

 

 ハリベルはいない。

 

「……」

()()()()()()()

 

 当然だ。

 藍染隊長がこれ以上進化すると知っているのだから、奥の手など、切り札など。

 そうそう見せるものか。

 

「だけど、見せる気はない」

「どうしてかな」

「藍染隊長。貴方が美少女じゃないから」

 

 双頭龍蛇(アンフィスバエナ)でさえない、双頭槍を構える。

 

「……今更私に、ただの君の相手をしろと?」

 

 そんなつもりはない。

 だとしても、絶対に勝てない。鏡花水月があろうとなかろうと、霊圧の差は果てしなく大きい。

 

 ゆえにこれは。

 

「──時間稼ぎか」

「あ、うん。そうだよ」

 

 剣を槍で受け止める。

 瞬間、瞬歩で私の後ろに回り込んだ彼からの袈裟斬りを、双頭槍のもう片方の穂先でガード。

 

 そのまま虚閃を放出するも、回避される。あーあー、速度ではもう完全に敵わないか。

 

「君が」

「私が藍染隊長と戦う時に、目を瞑る理由?」

「……ああ、そうだ」

「勿論鏡花水月対策だよ。戦う時だけじゃない、貴方と相対する時は、目を瞑ったり、あるいは目を抉り出してるよ」

 

 腕が、腹が断ち切られる。

 双生樹。分割能力の副次作用たる超速再生は、インファイトにあまりに便利だ。

 

 痛い事は痛いんだけどね。

 

「君は、私を初めて見た時からそれをしていたね」

「懐かしいね。四十六室を出たあたりの、雛森ちゃんを貴方が刺していたところだ」

「あの時から君は私の鏡花水月を知っていた。それは何故かな」

「それはとても単純なコト。知っていたから、知っていた。知っていたから、対策していた。それ以上でもそれ以下でもないよ」

 

 縦に、両断される。

 ──それでも私は再生する。

 

 藍染隊長。その能力は酷く驚異的だけど──コト斬撃という面においては、鏡花水月は単なる斬魄刀だ。燃やすことも、朽ちさせることもできない。

 なら。

 

「君の超速再生は、中々に厄介だね」

「藍染隊長に厄介だと言ってもらえるとは思ってなかったよ」

「君自体の強さはあの黒崎一護に遠く及ばない。どころか、この場に集まった隊長格の誰にさえも及ばない。十刃のいくつかには勝るようだけど、それだけだ」

「その通り。私はほとんど成長していないからね。みんなからいくつかのアドバイスと、私自身の気付き。あの時から私を強くしたものなんてそれくらい」

 

 剣を受け止め、刈り取るような蹴りを繰り出す。亡きシャルロッテ・クールホーンに師事した蹴り技は、けれど悉くが通用しない。

 剣も蹴りも、虚閃も。

 

「だけど私は、美少女だから」

 

 彼方の黒が、晴れていく。

 その中に。

 

 コヨーテ・スタークは──いない。

 

太陽の射槍(ランサドール・ソラル)

「無駄だよ」

「知ってる」

 

 踏み込んで、投げる。

 炎を湛えた槍は、当然の如く避けられ。

 

「!」

 

 その肩口を、捉えた。

 

 

 

 

双生樹(アンボース)

 

 手と手を取り合う。互いにその顔を触りあう。

 美しい顔。可愛い顔。この世で最も愛らしい少女が如き男の娘。

 

 鏡合わせの身体。くっつき、ひたつき、なればそこに境界など無い。

 いつしか私は、一人になる。

 

「成程、背後、遠方からの完全奇襲か」

「……無傷、じゃないね」

「ああ。多少はダメージを負ったとも。君の投槍術の破壊力は、十刃達の中でも屈指のものだからね」

 

 くっついて、記憶を共有する。

 ……スタークの事。ハリベルの事。別にくっついたからといって霊圧が倍になるとかはない。双生樹は感情の分割を基に私の完全なるコピーを作ることができるけれど、だからこそ感情の統合に私への強化は存在しない。別に分け与えてるわけじゃないからね。

 ただ、さっきよりはちょっと、感情豊かになったかな、程度。

 

 前後からの太陽の射槍は、なんとか藍染隊長にかすり傷を与える事に成功したらしい。

 

 ……うーん勝てる気がしないね、この人。

 

「だが、どうやら、時間稼ぎもここまでのようだね」

「なんで?」

「周りを見てみると良い。ああ、目を開く気が無いのなら教えてあげよう」

 

 ──霊圧を知覚する。

 そして、理解した。

 

「……いつの間に」

「君は随分と私にご執心だったからね。気付かなかったのも無理は無い。あるいは、興味が無かったから、ともいえるだろう」

「まぁ……そう、だね。こうなっても、まだ興味はないかな」

 

 こうなっても。

 まだ目を開けていないから、実際に見たわけじゃないけれど。

 

 ──東仙要がいない。そして、狛村左陣と檜佐木修兵の霊圧が地上にある。

 シロちゃんの霊圧が弱っている。その上空には──市丸ギン。

 

 原作においてひよりちゃんがされたことを、シロちゃんがされた……感じか。

 おかしい。何故仮面の軍勢は来ていない? もしかして結界を通されていない?

 

「君の興味が向くのは、相変わらず少女だけかな」

「間違えるな美少女だ。ただの少女を命を懸けて守るとか、そんなヒーローになった覚えはない」

「違いが判らないな」

「分かってもらえるとは思ってないよ」

 

 鱗を這わす。

 黒龍化だ。ドラゴンの形にはならないけれど。

 

 虚圏の私がどうなったかはわからない。だけど、ちゃんと。あっちで原作通りか、それ以上に良い事が起きて、イチゴが帰ってくるのを待って時間稼ぎをし続けるしかない。

 奥の奥の手は確かにある。

 あるけど、それはまだ使えない。使いたくない。

 

紅の射槍(ランサドール・ローホ)

「時間稼ぎに付き合うつもりはないと、今告げたはずだ。理解できなかったかな」

噛みつく槍頭(ウナ・レヴォルフィオン)!」

 

 龍皮も鱗も意味が無いらしい。身体を切り裂かれながら、傷つけられながら、遠隔操作した槍を藍染隊長に纏わりつかせる。再生。再生だ。さらに槍を再装填し、同じことをする。

 

「無駄だ」

波状延焼虚閃(セロ・ルラマーズ)!」

 

 縦の波状延焼虚閃。

 複数の槍に絡まれる藍染隊長を巻き込む形で放ったそれは──腕の一振りで払われる。

 槍も、虚閃も。

 

「終わりにしようか、華蔵蓮世。破道の九十」

「ッ──大龍硬殻(エンセーラス・エラ・カスカラ)!!」

「黒棺」

 

 ダンゴムシみたいに丸まって、硬い殻に籠る。

 その周囲を覆っていくは重力の壁。

 

 衝撃に備えろ。意識を失うな。

 重力の圧砕に──。

 

 

 

 

 その時。

 藍染隊長の背後の空間が、割れた。

 

 

PREACHTTY

 

 

「死ぬ前で良かった。……けどやっぱり、黒棺には耐えられないか。良い経験だったね」

 

 ぐちゃぐちゃになった──見るも無残な肉塊になった私を、双生樹で取り込む。

 ギリギリ、生きていた。地面に墜落したのが幸いだった。イチゴにかかりきりになった藍染が追撃してこなかったからだ。

 だからこうして、私はまた生き永らえることができた。

 

 上空では今、狛村左陣がイチゴの手を抑えている所か。

 責任云々の挑発でイチゴを揶揄っている。……そして、集結する隊長格達。シロちゃんは地面で吉良イヅルに治療されている。

 

 ……彼らの矛先にいるのは。

 

「おや、もう回復したのか」

「私が美少女のピンチにかけつけないはずがないでしょ?」

「ふふ、そうだったね。──では、少しばかりの余興と行こう。存分に踊ってくれたまえ」

 

 巨大な剣が降ってくる。

 ソレを虚閃で弾き飛ばし、胸に抱いた美少女を退避させる。

 

「──華蔵蓮世! 何故だ、貴公は藍染から離反したのではなかったのか! 何故今になって藍染の味方をする!」

跳ね回る虚閃(サルタ・ソブレ・セロ)波状延焼虚閃(セロ・ルラマーズ)

 

 問いには答えず、対処の面倒な虚閃を二発連続で発射。

 これで狛村左陣は抑えた。次は、背後からの鎖の音。飛来する手裏剣のような形状の鎖鎌、風死に対しては、部分龍化の手甲で之を叩き落す。空気を切り裂く音。これは刺突。恐らく弐撃必殺と見て、そちらの方向に豪雨の射槍(ランサドール・ルヴィア)

 

 眉間近くへの斬撃。片腕で受けて、切り飛ばされたそれを瞬時に再生させる。

 

「やぁ華蔵ちゃん。さっきはどーも。おかげでボクも浮竹もボロボロだよ。……けど、どしたんだい? いきなり惣右介くんの味方をするなんて。彼は美少女じゃないじゃない」

十字痕(クルサール・ラストローズ)!」

「おおっとぉ」

「虚閃」

「双魚理!」

 

 っ、浮竹サンは普通にいるのか! ならワンダーワイスは本当にどこ行った! フーラーもいないし、仮面の軍勢もいないし!

 

「クソッ……藍染……藍染ンンンンッ!! 卍解!」

「ダメです、日番谷隊長! まだ治療が!」

「そんな状態での卍解は体に障っ」

 

 眼下、氷結。

 シロちゃんの相手はちょっとキツい。仕方ない、私を一人消費する……いや。

 

落炎(ルラマ・カイエンド)

 

 上空に炎を吐き、それを落とす。たったそれだけだけど、これは広範囲への攻撃になる。

 その隙に──イチゴの方へ近づく。

 

「させんぞ、華蔵蓮世!! 天剣!」

「打っ潰せ、五形頭!」

弧月槍(ランサ・アルコー・ルーナ)!」

 

 二つの打撃を弾き、ぶつけ合わせて避ける。

 抱き締める美少女の意識は戻りそうにない。虚ろな目のまま、私の手から離れようとしている。

 

「黒崎!!」

「あ……華蔵」

「みんな催眠にかかってる! 私の声は届いていないし、雛森ちゃんが藍染隊長に見えてる!」

「黒崎一護! 下がれ!」

 

 顎を狙った刺突を避けて、その小さな体に蹴りを入れる。

 ──ごめん! 砕蜂ちゃんだって守りたいけど、今は余裕ない!

 

「だから黒崎! ──受け取れ!!」

「!」

 

 いつか、イチゴが阿散井恋次にやったように。

 私も雛森ちゃんを、イチゴに投げ渡す。

 

 ちゃんとキャッチするイチゴ。

 どうだ、これなら。イチゴが藍染隊長を守っている、なんて図は信じられないだろう。

 

「それは勘違いだよ、華蔵蓮世」

「丁度いい……まとめて殺してやるよ、藍染も! 市丸も!!」

「雛森くんを私に見せる事が可能なら」

 

 シロちゃんの死に物狂いの殺気は──私に向いていない。

 矛先は、確実に。

 

「ッ、龍皮の一撃(プノ・デ・ピエル・ディ・ダラゴン)!」

 

 死に体のシロちゃんを、殴り飛ばす。

 

「黒崎一護をギンに見せる事も、可能だとも」

「えぇ~、ボク、あの子苦手やから嫌やわぁ」

「そう言うな、ギン。なんなら君を黒崎一護に見せて、護廷十三隊に守らせてみるか?」

「あぁそれは面白そう。でも、華蔵ちゃんがそろそろなんかしてくれそうですよ?」

「なに?」

 

 仕方がない。

 もうここまで展開が進んだのなら、藍染隊長の覚醒まで──最大の時間稼ぎをするしかない。

 

(へだ)て、蓮華蔵世界(ティル・ターンギレ)

 

 巻き込むのはイチゴと雛森ちゃんと、隊長格達と、藍染隊長、市丸ギン、そして私。

 黒泥の降る死後の世界。蓮の世界。

 

 私の世界へご招待。

 ここならば──どれほど戦っても関係ない。

 

「うひゃあ、さっき外から見てたけど、中はこないなってたんやねぇ」

「泥の降り注ぐ世界か。些か風情に欠けるな。泥中の蓮とはよく言ったものだが、これでは型落ちも良いところだ」

「うーん、ベタベタするし、ボクこの帰刃十刃の中で一番苦手やわぁ」

 

 ベタベタするだけならザエルアポロも一緒だろうに。

 

「これは……」

「関係ねぇ……藍染は殺す、殺す──」

「やれやれ、またかい。……浮竹」

「ああ。今度は大丈夫だ」

「……卍解、黒縄天元明王」

「ちょ、隊長ォ、なんスかこれ! 真っ暗で真っ黒で……」

「うるさい、黙っていろ大前田」

 

 あ、隊長格だけ巻き込んだつもりが大前田まで巻き込んじゃったか。まぁこっち狙ってきてたし仕方ない。

 

「黒崎」

「華蔵……これ、お前が?」

「うん。じゃあ、雛森ちゃんを頼んだよ」

 

 トン、と。

 彼の肩を押す。

 

 それだけで、イチゴと雛森ちゃんは蓮華蔵世界から排出された。

 

 ここなる理想郷は定めた者しか受け入れない。極楽浄土、ゆえに勝手に出すことも無い。

 時間を稼ぐに持ってこいな解放である自負がある。

 

「痛みで、疲労で。意識を失った人は、ちゃんと出してあげるよ。だからそれまで」

 

 手と手を合わせて、そこに──炎を創る。

 

金輪光冠短矢(ダルドス・ソラルズ)

 

 途端、連鎖的に起きる爆発。真っ黒な世界が真っ白に染まり、中にいる者全てを焼き尽くす。

 そして戻る。戻る。戻って、また焼けて、戻って。

 

「良い時間稼ぎだ、華蔵蓮世」

 

 真白の中で、声がする。

 

「君のおかげで私は──さらなる段階へ進む」

 

 一人、また一人と意識を失っていく中で。

 

「感謝しよう。これで本当に君は」

 

 ──用済みだ。

 

 あと、少し。




鬼道考察

みんな大好き黒棺

破道の九十 黒棺

滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ

滲み出す混濁の紋章 →ホルスの目。
不遜なる狂気の器 →セト
湧き上がり・否定し →イシスがオシリスを見つけて回収するも、セトがバラバラにする。
痺れ・瞬き →イシスによってオシリスは蘇生されるも不完全で身体が動かず、現世に留まれなかった
眠りを妨げる →冥界で蘇る
爬行する鉄の王女 →イシス
絶えず自壊する泥の人形 →オシリス
結合せよ、反発せよ →イシスとセト。イシスの時はオシリスを積み上げてピラミッドとして建設し、セトの時はオシリスをバラバラにして壊す。
地に満ち己の無力を知れ →これを繰り返す。永遠に。

オシリスとイシスの伝説、及びピラミッドの伝説からかなー。
セト神がイシスに対して無駄だ! って言ってる的な。だから黒棺(オシリスは棺に入った事で死んだ)なのかな。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。