PREACHTTY   作:ONE DICE TWENTY

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第17話 最後から二番目の技

 黒い世界が晴れていく。

 その外にいた黒崎一護が目にしたものは。

 

 意識を失い倒れ行く隊長格達と──。

 

 首を失くした、華蔵蓮世の身体だった。

 

 

PREACHTTY

 

 時は少しだけ遡る──。

 

「月牙──」

「まぁ待てよ、一護。それはまだ早え。それよりも作戦会議と行こうじゃねえか、この嬢ちゃんが稼いでくれた時間を使ってな」

「黒崎、冷静に。ね?」

 

 華蔵蓮世の帰刃。

 初めて見るそれは、中にいるものを死ななくする、という埒外の能力でありながら、闘争本能に在る虚としてはどうにもらしくないもの。

 そこから預けられた雛森桃という少女と共に弾き出されてからの話。

 

 頭に血を昇らせ、己の斬撃を放とうとした一護の元に、ある二人が現れる。

 

「な……親父……? それに、華蔵も……っ、そうだ、華蔵! お前なんでこっちに……剣八に殺されたんじゃなかったのか!?」

「ワオ、それはだいぶ今更だね。けどそうか、私が分裂できることは虚圏にいた黒崎達には伝わってないんだから当然だよね」

「分裂……? じゃあ、あの黒いのの中にいるお前は」

「あっちも私だよ。本物の。こっちも私。あの中の私が持っているのは『信仰』と『友情』。この私が持っているのは『冷静』。感情を媒介に自分を分ける。そういう能力だよ」

 

 なんでもない事のように、華蔵は説明をする。

 嫌な顔が隠せない一護に、同じく彼の父親たる一心も悲しそうな顔をしていた。

 

「そんなのっ」

「ああ、まぁ、倫理的に色々あると思うけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。ほら、雛森ちゃん渡して。こっちで保護するから」

「っ……あ、あぁ」

 

 虚ろな目をした雛森桃を一護は華蔵へと引き渡す。

 同時、瞬歩──否、響転で現れたもう一人の華蔵が、彼女の身柄を引き取って行った。

 

 開いた口は塞がりそうにない。

 

「ま、その気持ちはわかるで一護。俺も最初聞いた時何言うとんのかわからへんかったし」

「ああ、だが、有用な能力だ」

「理性ある虚……というよりは、虚に似た何か、だったか。世の中、何がいるかわからねえな」

「フフ、僕達も似たようなものだしね」

「え……あ、平子!」

 

 そして代わるように現れるは五人。

 一護も顔をよく知る五人……平子真子、愛川羅武、鳳橋楼十郎、六車拳西、有昭田 鉢玄。仮面の軍勢(ヴァイザード)という名を名乗る彼らは、100年以上前に尸魂界で隊長格を務め、そして藍染によって虚の力を植え付けられた者達。

 しかし。

 

「あれ、少なくねぇか? ひよ里とか……どうしたんだよ」

「ひよ里、リサ、白は留守番や留守番。ごっつ強い結界の外でうろうろしてた俺らの前この嬢ちゃんが現れて、条件を飲むなら中に入れる、なんて話に仕方なく耳傾けたら、その三人を連れないなら入ってもいいとか言うやないか。大変だったんやでー、あの三人説得するの」

「結局説得できずに、ハッチの白伏で眠らせたがな」

「元より説得の通じるお三方ではありませんのデ……」

「あー……」

 

 何故その三人を入れなかったのかを理解した一護は、胡乱な目で華蔵を見る。

 片目を瞑り、舌を出す彼に、「コイツにも説得は無駄だしな」と思い直した。

 

「それで……なんだよ、作戦会議って」

「何もなにも、当然藍染のことや。一護お前、あの帰刃が晴れたら、そのまま突っ込んで月牙天衝ー、とかやるつもりだったやろ。というか解ける前からやろうとしてたみたいやし」

「それは……」

「今も私が中で戦っているから、は無しだよ。というか、今も私が中で戦っているからこそ冷静になって欲しいかな」

「……わかった」

 

 頷く一護。確かにこのまま無為に突っ込んだところで、得られるものはない。

 

 と、そこへ──更に一人が到着する。

 

「じいさん!? 今までどこ行ってたんだよ!」

「ワンダーワイスとかいう総隊長専用虚が用意されてたんでな。ソイツはぶっ殺したが、他にも何か仕掛けが無いか見回ってたんだ。総隊長は総隊長で物騒な仕込みをしようとしてたから止めたけどな」

「ふん……こうして集うと、なんとも懐かしい顔ぶれか。100年前に戻った気分じゃ」

「じゃあ私と黒崎だけ未来人だね」

「いや別に俺も100年前に十三隊にいたわけじゃねえけど……」

 

 白く、長いひげを蓄えた老人。

 山本元柳斎重國。尸魂界は護廷十三隊が総隊長、山本元柳斎重國である。

 

「つーか親父! 何しれっと話に混ざって──」

「……ま、聞きてえ事は沢山あるだろうな。嬢ちゃん、あの帰刃ってのはどのくらい保つ?」

「基本は永遠に保つよ。私の心が折れない限りはね」

「嬢ちゃんのメンタル次第ってことか。……よし、まずだな、一護」

「あー、良い、良い。俺から聞いといてなんだけど、別に話さなくていい。今まで話さなかったってことは、話したくない事情があったってことだろ。親父も、あと華蔵も。浦原さんとかも。どんだけ隠し事とか裏とかなんかがあるのか知らねえけど、今の俺は自分に精一杯過ぎて背負える気もしねぇしな」

 

 だから、と。

 一護は、笑う。

 

「全部終わって平和が戻って、本当に話したいって思える日が来たら……飯の時にでも話してくれよ」

「……流石にそれは飯が不味くなるぜ。あと、夏梨と遊子の前で話せってか。中々厳しいコト言うなお前」

「なんで私も黒崎ん家いる前提なの?」

「例え話だ例え話! ったく、面倒くせぇ二人だな……」

 

 華蔵と一心は互いを見て、目を合わせ。

 いやーな笑みを浮かべる。何かしら気が合うらしい。

 

「あー、家族円満はイイコトやけど、そろそろ話し進めへんか?」

「っと、そうだったそうだった。──まず初めに言っておくが、一護。俺達がお前の力になれるのは、初撃の一回だけだ」

「……なんでだよ」

「さっきも見ただろ、一護。今の隊長格達が、雛森って子を藍染だと勘違いして、この嬢ちゃんの声も聞こえずに鬼気迫る顔で追いかけまわしてたの。同じだよ。オレ達も藍染の始解を見てる。見てねぇのは、そこのオッサンと、一護、お前と、嬢ちゃん。この三人だけだ」

「ボクらじゃ二の舞なのさ。初撃以外、ボクらが戦闘に参加すれば、味方を藍染だと見間違えて本気を出して、余計なことをしかねない。だから初撃以外には参加しない」

「そんでもって、初撃で俺達が撃墜されてもお前は気にするな。俺達を気に掛けること自体が隙だ」

「せやなぁ。癪やけど、結局俺達は無力や。100年かけて力つけたかて、何ができるわけでもない。精々がお前らのサポートや。せやから」

 

 平子は、一護に剣を突き付ける。

 真剣な顔で。

 

「そのための作戦会議や。ええか、一護。今から言う事全部覚えるんやで。そんで、失敗しても気負わんでええ。保険は沢山用意しておくからなぁ」

「ついでに言うと、その初撃に俺は参加しねぇ。嬢ちゃんもだ。だから一護、全責任はお前の肩にかかってる」

「いや今平子が和らげてくれた緊張をなんで親父が戻すんだよ」

「つーワケや。ハッチ、この二人と山本のじいさん、外に出したれ」

「はいデス」

 

 突如一心と華蔵、山本元柳斎重國の姿が消える。

 驚きに立ち上がろうとする一護に、仮面の軍勢は制止の手を向けた。

 

「まだやることがあるらしいで。ま、一護。お前は仮面の軍勢の端くれや、こっちはこっちで仲良くしようや」

「いや入った覚えねぇけど」

 

 結界の中。

 男六人が、作戦会議を始める──。

 

 

 

 

「それで、話とはなんじゃ、(わっぱ)

「鬼道を教えて欲しい」

「……何?」

 

 結界の外に出された三人。

 内、一心はこの場にいない者に連絡する事があるとかで、姿を消した。

 

 ゆえに残されたのは二人。

 先ほどは殺し合いを、否一方的な圧倒を繰り広げた、二人。

 

「私の能力は超速再生……勿論それだけじゃないけど、大部分が超速再生による恩恵で賄っている部分が大きい。その能力を万全に活かすなら、犠牲破道を使うのがベストだと踏んでいる。今の所私の使える犠牲破道は一刀火葬のみ。他は知らないし、その一刀火葬だって練度は低い。死なば諸共で突貫するのなら、再生のできない死神より再生可能な私の方がいい」

「……ならん」

「どうしてか、聞いてもいい?」

 

 淡々と、冷静に。

 メリットだけを上げる華蔵蓮世に、山本元柳斎重國は却下を出した。

 

「虚であるお主に破道を教える事、それ自体が危険」

「私虚じゃないんだって。人間襲わないし。別に尸魂界に敵対するつもりもないし」

「ならば尚更許可は出せぬ。虚でも死神でもない者が、尸魂界や現世のために身を焦がす。それはあってはならぬこと。犠牲破道とはその名の通り犠牲を伴って大きな力を引き出す術。その犠牲とは、死神となりし者達の覚悟あってこそのものじゃ」

「けど、その方が絶対効率が」

「笑止千万なり。童、そもそもお主は戦闘者の気質ではないの。治るから傷ついても良い。戻るから身を粉にしても良い。……そんなものは覚悟とは呼ばぬ。少なくとも儂はそれを覚悟とは呼ばぬ」

 

 淡々と冷静であるのは山本元柳斎重國も同じだ。

 否、そこには少しばかりの感情が入っている。あるいは未来、過去。ユーハバッハなる者に言われる甘さと弱さ──それがここにある。

 

「話は終わりか、童」

「……いいや。まぁ、こんなお願いは別に良いんだよ。話は別にある」

「ならば疾く話せ。時間がそう残されているわけでもなかろう」

「うん、じゃあ」

 

 老人と少女……のような少年。

 話す言葉は、少しばかり未来へ──。

 

 

PREACHTTY

 

 

 そして時は戻る。

 

 晴れた帰刃。首の無い華蔵蓮世。倒れ伏す隊長格達。

 

 刀を抜いた状態にある藍染惣右介と、市丸ギン。

 

「月牙──天衝ォォオ!!」

 

 黒い月牙。黒崎一護の卍解状態における飛ぶ斬撃は、その性質として虚の虚閃に近い。

 ほぼ全力と言えるその斬撃は、けれど取るに足らないと藍染惣右介が弾こうとして──。

 

「……何?」

 

 それが突然目の前から消失したことに、驚きの声を発した。

 

「行くぜローズ! 打ち砕け、天狗丸!!」

「そっちこそしくじらないようにね! 奏でろ金沙羅!」

「これはこれは、懐かしい顔だね」

 

 太陽より降るは、巨大な金棒。仮面から覗く瞳は強く藍染を睨みつけ、同時、その金棒に炎が纏わりつく。

 地上より昇るは金の鞭。鳥のくちばしのような仮面は美しい声を奏で、その鞘と斬魄刀をクロスさせて音楽を奏でる。

 

「火吹の小槌!」

「アルペジオ」

 

 空の金棒を受け止めんとした藍染だったが、その身体が動くことはない。音楽が原因だと気付いた時にはもう遅い、破壊の権化が眼前に迫っていて──。

 

「射殺せ、神槍」

「させねぇ! 鐵拳断風、爆弾突き!!」

 

 直撃する。

 愛川羅武の金棒が藍染に、六車拳西の卍解が市丸ギンに。

 それぞれが回避行動を取ることができないのは、鳳橋楼十郎のアルペジオ――相手の身を操る技のせいだ。

 

 地面へと叩き落される二人。

 

「万象一切灰燼と為せ──流刃若火」

 

 その地面が炎熱によって焼き焦がされる。

 地獄が如き炎。永遠に続くかと思われたそれは──けれど、払われる。

 

 無傷の二人。藍染惣右介の右腕によって。

 

「終わりかな?」

匣遺(はこおくり)

 

 そんな彼らの背後に現れるは匣。

 中身は。

 

「成程、黒崎一護の月牙天衝を消したのは君か」

「はい……そしテ」

 

 先ほど消された月牙天衝。

 威力をそのままに、放たれたそれが藍染の首、そこを正確に捉える──。

 

 

「逆や」

 

 

 驚きは三つあった。

 藍染惣右介が自身の首筋に仕込んでいた防壁、その発動が無かった事。

 代わりに鎖骨部に対し強烈且つ凶悪な斬撃が入り込んだこと。

 

 そして。

 

「惜しかった──あるいは、あったかもしれない。私に刃を届かせることが。だが、黒崎一護の意識による斬撃でなく、有昭田鉢玄の狙いならば──鏡花水月の催眠範囲だ」

 

 確実に捉えたはずの藍染が、全く別の場所にいたことである。

 

「ああ、しかし、そもそもが無理な話だったのだろうね。華蔵蓮世が何のために時間稼ぎをしていたのかは終ぞわからなかったが……おかげで、私にとっても幸運が舞い降りたと言えるだろう」

 

 朗々と語る。

 その身。その胸には──美しくも悍ましき玉が埋まっていて。

 

「まったく……崩玉とはよく名付けたものだ。これは、神なる者と神ならざる者の境を崩す──力、だ」

 

 真白の肉が、藍染の身体へと纏わりついていく。

 肉か、骨か、枝か。

 

 揺れる。震撼する。

 生れ落ちんとする新たなる存在に、世界が、地面が。

 

 藍染が姿勢を崩してしまう程の揺れが──。

 

 

 

黒龍虚食(ボラフィダッド)

 

 

 

 その身を、巨大な黒龍が捕食した。

 地面から出てきた、漆黒のドラゴンが。

 

 

PREACHTTY

 

 

「自分の胃袋の中、というのは、中々に得難い経験だと思わない?」

「この現代日本に西洋風のドラゴンがいるってだけで違和感すげぇのに、その腹の中で戦うって発想がまず気味悪いって気付いてほしかったぜ」

「まーまー、中々にオツなもんスよ? 華蔵サンの言う通り、中々無い経験スから。ね、夜一さん」

「ワシは心底寒気がするがのぅ。猫として長く生活し過ぎたか、生物の口の中というのは……こう、本能が」

 

 そこは暗い空間だった。

 各所に設置されたランタンのようなものが無ければ、誰の姿も見えぬほどに。

 

 地面はネタネタとした黒い溶解液が溜まり、それは天井や壁からも滲み出してきている。

 時折空を舞うのは炎。それがこの溶解液さえもが可燃性であることを知らせてくれる。

 

「……華蔵蓮世の胃の中か。あまり趣味の良い場所ではないな」

「美少女で男の娘な私の体内だよ? そんなところに入れるなんて、一生にあるかないか。光栄に思ってくれていいよ、藍染隊長」

 

 ここに集いしは五人。

 浦原喜助、四楓院夜一、黒崎一心、華蔵蓮世。

 そして今しがた飲み込まれた藍染惣右介。

 

 邪魔立てのされないこの場所で始まるは、決戦。

 

「そうか。それは残念だな」

「残念?」

「ああ。折角整えてくれた舞台だが……ものの数秒で終わってしまうのだから」

 

 藍染惣右介の進化が始まる。

 否、少しばかり止まっていたものが再稼働しただけだ。

 骨が、肉が、枝が。

 彼の身体に纏わりつき、絡み合い覆い尽くし──それはサナギとなる。

 

「いいのかい、浦原喜助」

「何がスか」

「この状態になる私を放置している事が、あまりに君らしくない。様子見は事を悪化させる一方だぞ」

「何もしていない? アタシが? ──まさか」

太陽の射槍(ランサドール・ソラル)

 

 爆発が起きる。

 可燃性の溶解液が連鎖的に爆発し、爆炎を伴いながら槍が藍染へと向かう。

 

「ちょ、ちょっと今アタシが話を」

「お前は溜めが長ぇーんだよ! 燃えろ剡月(えんげつ)!」

「その通りじゃな、瞬鬨(しゅんこう)!」

 

 それは燃える斬魄刀。爆熱の槍と爆炎の剣が藍染へと向かい──いとも簡単に跳ね除けられる。

 対鋼皮用の特製手甲を纏い、肩口から高濃度の鬼道を炸裂させる夜一。その一撃は藍染の手に止められ、投げられる。

 背後、忍びよるは華蔵。龍化した拳で藍染を殴る。

 

龍皮の一撃(プノ・デ・ピエル・ディ・ダラゴン)!」

 

 ──も、足先で止められる。蹴とばされ、胃壁へと激突した彼は、しかしその口に赤黒い光を湛え。

 

灼柱虚閃(ラヨ・デル・カロール)

 

 極太の熱線を撃ち放った。

 

 

 

 

「……いやぁ、無理ゲー」

「ようやく理解したか」

 

 こーれ無理ゲーです。

 原作じゃちょっとは効いてた夜一の瞬鬨による打撃も、一心による月牙天衝、私の槍と虚閃の数々も。

 

 効いてない。なーんにも効いてない。

 サナギ状態の藍染に、何の攻撃も通らない。

 それでこれ以上強くなるんでしょ。いやぁキッツいス。

 

「おい、弱音を吐くな華蔵。こっちの士気まで下がる」

「私の言葉程度で下がる士気ってことは、最初から負けそうだって思ってるんじゃない?」

「ほう? しばらく見ん内によく言うようになったもんじゃのう」

「しばらく見ない内も何も、私夜一さんとほぼ関わり合いないでしょ。私をストーキングしてた事以外」

「監視じゃ監視。というか、やはりあの時点で気付いておったのか。曲者め」

 

 軽口を叩くのは余裕が無いからだ。

 さてどうしたものかと考えるも、悉くが潰される。

 

 やっぱりイチゴに最後の月牙をやってもらうしかないのか。

 ──それが嫌で、今。必死で抗ってるんだけど。

 

「浦原さん。プランBで」

「……アタシそれ、OK出した覚え無いッスよ」

「まーまー。死ぬとしてもここにいる私とでっかい私くらいだし。大丈夫大丈夫」

「何か策があるのか。ならば早くしたまえ。──そろそろ揺籃の時が終わるぞ」

 

 早過ぎでしょ。

 もっと後じゃなかった?

 

 ……ま、それはでも、説得力のある言葉だ。

 

「──わかりました。華蔵サン、くれぐれもお気をつけて!!」

「チッ、子供置いて敗走たぁ、俺もヤキが回ったもんだな」

「ぐずぐずしてないで行くぞ! 儂らでは邪魔になる!」

 

 出ていく三人。

 あ、勿論口の方ね。お尻じゃないよ。美少女は排泄しないから。

 

 だから、残ったのは。

 真っ黒な空間と、真っ黒な私と。

 真っ白な藍染隊長。

 

「結局浦原喜助は何もせず、か。戦闘にも参加しないとは、どういうことかな」

「さぁ。気分じゃなかったんじゃないかな」

「そうか。まぁ、どうでもいいことだ。……それで、どうするつもりかな。浦原喜助、四楓院夜一、黒崎一心。彼らの力は私に遠く及ばないとはいえ、君には勝る。君は最上級大虚程度の力しか持たない存在だ。その程度の君が、たった一人で私に楯突く事。それ自体が傲慢だと気付けないか」

 

 気付いている。

 私程度に倒せる相手ではないことくらい、勿論気付いている。だから傲慢じゃない。

 

「……藍染隊長」

「なにかな」

「私の技。ただ捕食するだけの行為に、黒龍虚食(ボラフィダッド)なんて技名付けると思う?」

 

 ただの捕食だ。

 ただ食らいつき、食べる。

 その行為に何か違いがあるわけがない。食べるだけ。噛みつくだけ。

 

 行為自体に何か特殊な意味がなければ。

 そんな技名には、しない。

 

「……何?」

「おかしいと思わなかった? 体内にこんな可燃性の溶解液持ってる事とか、みんなの技や私の槍が飛んで行っても、痛がる素振りも見せないこのでっかい方の私とか」

「……」

「さて──問題。ここ、本当に胃袋の中だと思う?」

 

 浦原さん達を掃いたのは、勿論バックアップをしてもらう意味もある。

 外で待機しているハッチとテッサイサンには封印の準備を、浦原さんには仕込みを、黒崎一心にはもしもの場合の手順を伝えてあるし、恐らく今頃イチゴにそれを手解いている頃だろう。

 けど、彼らを排出したのはそれだけが理由じゃない。

 

 邪魔だからだ。

 

「藍染隊長。貴方は私を『自然発生例』だと言ったよね」

「ああ……確かに言った。君は崩玉の自然発生例。だが、君自身の進化は中途で終わってしまった。その先があるとあの時の君は言っていたが……それを今、見せてくれるということかな」

「ん-、それはそれだよ。今出す方じゃない」

「成程。君は沢山の隠し事を私にしていたようだ。それで、今見せてくれるのは、何かな」

「浦原さん。藍染隊長、貴方が私を『自然発生例』だと捉えたように、浦原さんも私をそうだと断じていた。貴方が私を虚夜宮に招待した時にもそう言っていたよね」

「懐かしい話だ」

 

 だから。

 

「浦原さんは、ちゃんと研究していたんだよ。私から貰った私の細胞で」

「……それは」

「貴方が見限ったものを、浦原さんはしっかり研究し尽くしていた。貴方が自然環境下において進化の先を眺めたものを、浦原さんは殺す術を考え尽くしていた。──それじゃ、最初の問いに戻るけど」

 

 黒龍虚食(ボラフィダッド)。ただ食べるための技。

 そんなものは、存在しない。単なる超速再生に双生樹(アンボース)なんてつけないのと同じだ。

 

「ここ、どこでしょーか」

 

 直後。

 

 空間が、崩れ始める──。

 

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