PREACHTTY 作:ONE DICE TWENTY
今後もたくさん出てきます。よろしお願いします。
織姫のおにーたんを蹴っ飛ばしてから、黒猫との遭遇率が跳ね上がった……気がする。
あっちもあっちで私が気付いている事に気付いているのだろう、なんの悪びれも無く窓から私の部屋を覗いていたりするからタチが悪い。
因みに私の部屋はすっごく女の子女の子している。流石にピンク一色、なんてことはないけど、水色とか白とか、ふんわりデコ、みたいな感じの雰囲気が香る灯りのともる大きなおうち。もとい部屋。クローゼットの中も女物の服ばっかりだ。無論、下着も。
初めの頃はそっと諭そうとしてくれていた両親だったけど、日に増して可愛くなっていく私と私自身が自ら女装をし、それを好み始めたこともあって、今は完全に受け入れてくれている。
それはさておき。
人生二度目の高校生活は、今のところ順風満帆であると言えよう。転勤で友達/Zeroの状態だったにもかかわらず今は新たな友達に囲まれていて、上っ面の「オトモダチヅキアイ」ではない本心から気を許せる仲。
初めの頃は「原作キャラ」としてしか見れていなかった彼ら彼女らも、原作には描かれていなかった趣味や欠点、長所といった様々が見て取れて、私はもう彼ら彼女らを「人間」として見るようになっている。
あるいは。
この高校生活という輪の中で、最もそれを楽しめていないのが私なのかもしれないけれど。
今は危機だのなんだのを拒否して、スクールライフをめいっぱい過ごせるよう努力しようと思っている。
「チャド、どうしたんだよそのインコ」
「昨日……、……。……拾った」
思っていた。
うーん。
今、学校の屋上にいましてね。いや、おにーたんの件から、結構気を付けるようにはしてたんだよ。原作で起きた事に。
でも中々何にも起きないなーとか思ってた矢先がコレ。流石にコレは気付きます。
BLEACHの序盤はイチゴとその周囲の友人が覚醒していく様子が描かれる。
最初は織姫。次は茶渡。その次は……えー、まぁドン観音寺か……。いや、石田だけど。
まぁそんな具合で今回は茶渡の番、なんだけど。
「……ら?」
どうしたものかなぁ。
結局まだ織姫の盾舜六花が発現したのかもわかっていない。このまま介入して、今度は茶渡の完現術まで削ったら……とかいう不純な考えが、やっぱり心の奥というか、脳裏にこびり付いてしまっている。
茶渡はもう友達だ。そんな彼が負傷するのを黙って見ているのは……無理かなぁ。
あーもうあの神様、転生先くらい決めさせてくれよ……。選択肢があったらBLEACHの世界なんて絶対選ばなかったよ。あんな登場人物の誰もが傷つき死んでいくような世界、守りたくなるに決まってんじゃん。
「おい、華蔵!」
「ふぇっ!?」
「大丈夫かよ……ずっと深刻な顔して俯いたまま呼びかけても反応ないから心配したぜ……」
「あぁ、ごめんごめん。ちょっと考えごとしてて」
「考え事? ……そいや、この前井上に止められた喧嘩がどうのって話、解決したのか?」
「え、あー……いや、まだではあるんだけど、黒崎の手を借りるまでもない段階には来てるかなぁ、とは」
「……お前がそーいうんならいーけど、あんま無理すんなよ?」
「おめーに言われたかねーわ」
「はぁ? 人が心配してやってんのになんだそりゃ!」
「ごめんごめんって。ありがとね、黒崎」
「……お、おう」
よし、美少女スマイルで誤魔化せた。
忘れがちだけど私は非常に可愛い。毎日鏡を見てチェックしているし、笑顔の練習もしているので間違いない。粒揃いな鰤世界においても肩を並べられる程に可愛い。よって私の笑顔は強制力を持つ。私が天に立つ。
うん、決めた。
「茶渡」
「ム?」
「今日、茶渡の家行っていい?」
──瞬間、ざわつく周囲。
イチゴたちと弁当を食べに来ていた小島水色、浅野啓吾が物凄い勢いで寄ってきて、手を反らせてのヒソヒソ声で話しかけてくる。
「おい華蔵! どういうことだよ! お前は女の子が好きだって言ってただろ!」
「華蔵さん、やっぱり男子にも興味あるの?」
「ヒソヒソ声で叫ぶとは器用だね浅野。というか、普通に男友達の家に行くだけだけど。ちなみに好きなのは勿論可愛い女の子だよ。当然だろ」
「だ……だよな。じゃ、なくて……だったらウチにも来いよ! この前誘った時『えぇ……野郎の家は嫌でガンス……』とか変な語尾付けて断ったじゃねぇか!」
「浅野の目は下心しかなかったからなぁ」
「グサァッ……は、反論できない」
「そこは反論しようよ啓吾」
ふんがー!
いやまぁ、別に行っても良かったんだけど、男同士とはいえ流石に手ぇワキワキさせてる奴のトコには行きたかない。だからモテないんだぞお前。
とにかく。
「いい? 茶渡」
「……構わない」
おっけおっけおっけー。
んじゃ──原作破壊と行きましょうか。
帰り道。
軽く暗くなってきた頃合いの道路を、茶渡と、そしてインコとともに歩く。
「……」
「アブナイヨ、アブナイヨ」
「だってさ。茶渡、もうちょい壁際にいなよ。車に轢かれても知らないよ?」
「ム……また、壊してしまうか」
「あそっちなんだ」
インコに憑いた子供の目には、映っているのだろう。
彼の後ろにいるホローが。
それが、その巨腕を振りかぶっているのが。
「だから、危ないってば」
「……!?」
「オジチャン!」
結構強めに茶渡のケツを蹴る。
浮き上がり、前方によろめく彼の体。その背に向かっていた見えない何かが外れる。あー、そろそろ霊圧知覚宿ってくんないかなぁ。見えないの結構きびしーんだけど。
「華蔵、」
「逃げろ、とは言わないからさ。私の指示に従ってくれる? 大丈夫、悪いようにはしないよ。そのインコ含めて」
「……わかった」
茶渡もこの時点で何かに襲われている事は気付いていた。わかっていて連れまわしていたしな。
さてさて、これも正念場かね。
「茶渡、相手はデカいサルとコウモリを足した、みたいな体格だよ。腕の長さは約1.5m。手のひら広げただけでも1mはある。全身は4mから5mくらいだろうけど、生憎と見えないんで測りようがない。できるだけ大きめで考えて」
「……ああ」
「今、君を狙って右の拳を振り上げている。──避け方は任せるよ」
見えない。
見えないけど、わかるものはある。
それは、いわば気配というべきもの。達人同士が感じるアレに近い。
空気の擦れ、地面の揺れ。本来現世の物質には干渉しない虚だけど、その攻撃やらなにやらは割と破壊をもたらす。その辺、霊子と噐子の関係、だったかな。その辺詳しくないんだけど──。
これだけ悪意があれば、わかるって。
「来るよ!」
互いに避ける。
茶渡は大きくバックステップ。そして私は──強く、踏み込む!
「華蔵っ、」
茶渡の焦る声を背後に流しつつ、渾身のハイキック。知らなかったか……美少女とは! 無駄肉をつけないために身体づくりも欠かさないものであると!
ひ弱な美少女が虚を蹴っ飛ばしたりできるかってんだ!
今のでだいぶ骨にキてるけどね!
風切り音。
左に転がる。
……も、ピシッと切れるは私の肩。
あ、そうだった。こいつ、腕に翼ついてるんだった。あと頭からカエルとか出すんじゃないっけ。流石にそんなのは避け切れないぞ。
「大丈夫か」
「あー大丈夫。ちょっと肉削れただけだから」
「……ちょっとじゃないぞ」
「確かにね。美少女の肉こそぐとか、世界の損失だし」
ふぅ、だから肉体の耐久性能はそんなにないんだってば。鍛えてるっていっても美容用だけだし。
戦闘に耐え得る程じゃ──。
「っ、私が飛ぶから、抱えて後ろに!」
「ああ!」
思いっきり茶渡の方向に飛ぶ。それを茶渡が片腕で抱き留め、更にバックステップ。
あっぶなー。
今の散弾みたいな気配は、使い魔のカエルか。アレ自体も厄介だけど、アレの吐くヒルはくっついて爆発するから絶対に当たっちゃいけない。
しかし、困ったな。
今地面にカエルがいると仮定して……それを避けて踏み込む、とか。無理ゲーじゃね? 見えないんだぞ?
「華蔵……お前だけでも、逃げろ」
「なーに言ってんの。こんだけやっといて今更逃げろとか、今時ウルトラマンでも言わないよ」
「……ウルトラマンは、喋らない」
「喋るヤツもいるの!」
とりあえず道路に降ろしてもらって。
……ふむ。
右腕、そろそろ動かなくなるな。
コレ使うか。
「あんまり褒められたことじゃないんだけどねー。茶渡、君どんだけ高くジャンプできる?」
「……それなりだ」
「今ここに、後方1㎞くらいかな? 自動車が走ってきてる。制限速度守った車がね。……それをぶつける。交通事故になっちゃうけど、私達じゃどーにもできなそうだしさ。でも、ふつーに車走ってきてもアイツは避けちゃうだろうし、車側もブレーキ踏ませないと中の人が死んじゃいかねない」
「ギリギリで現れて、ブレーキを踏ませて、避ければいい、か」
「そゆこと~。んで、私は!」
電柱の陰に隠れる茶渡を確認しつつ、前方に向かってロンダート。
途端、服の右袖が何かに貼り付かれたかのように凹む。それも複数。更に変な方向に曲げようとしてくる圧力と──何か、液体染みたものがかかった感覚。いいね、それを狙っていたよ。
後方、ライトが満ちてくる。タイミングは任せた。
「殺人は楽しかろうが、狙う相手を間違えたね! いいか──美少女の損失は! 世界にとっての損失であると理解しろ!」
跳躍。記憶にある限りのホロー……シュリーカーの口のありそうな場所に、右腕を突っ込む。
キキーッ! というタイヤと地面のこすれる音。そして、空中で止まっている私の足元に突っ込んでくる車。すまんね!
最後に──爆発する、私の右腕。
「自分の攻撃で、ダメージ食らってちゃ……ざまぁないね!」
おっと。つい汚い言葉が。
私は美少女。美少女は汚い言葉言わな……いや、言ってもいい! 美少女が汚い言葉使ってもそれはそれで可愛い!! 昨今はそれが可愛い!!
強めの風切り音。
右腕を引き戻し、ガードする。
ものっそい衝撃と共に吹っ飛ばされる私。
今のは……頭突き、か。だけど。
車はしっかりシュリーカーにぶつかったらしい。車体の前方が拉げている。ごめんなー。
「華蔵!」
茶渡が空中でキャッチしてくれた。だから、想定していた地面への衝突は起きず。
けれど──。うん。
「茶渡。……限界」
「華蔵!?」
削がれ、潰れた右腕。それ自体は別にどうでもいいんだけど、出血がちょっとやばい。
美少女華蔵ちゃんは小柄なので、血液総量も少ないのだ。
「医者に……」
「黒崎ん家、近いから……」
「ああ!」
上空、羽ばたく音が聞こえ……ない。
でも逃げたのだろうことはわかる。だって追撃してこないから。あいつも相当なダメージを負ったはずだ。癒すため、ではないだろうけど、態勢を立て直すために一度どこかへ逃げるのだろうことはわかる。
あーあ。
原作破壊だー、とか意気込んでおきながら、コレ余計な被害増やしただけじゃね?
あっはっは、私ってほんとバカ。
でもま、茶渡が怪我しなかったんで良かった、って事で!
「華蔵……華蔵!」
「安心しなよ……茶渡。死にゃせんからさ。なんてったって、私は美少女……世界の宝……」
そう。
美少女は死なない。況してや男の娘だ。
……比較的、鰤世界は美少女が大量出血しやすい世界とはいえ、だけど。
「大丈夫……」
美少女を信じろ。
黒崎一護が高校から帰ったその日の事。
町医者である己が家──それがとても騒がしく、慌ただしくなっていることに気付いた。
電話に向かって叫ぶ父親、駆けまわる妹たち。
そして──患者用の部屋の前で座り込む、親友・茶渡泰虎。
「チャド? どうしたんだよ」
「……」
何も答えようとしない親友に詰め寄ろうとした──その時だった。
「……なんだ? 血の臭い……」
「あ、お兄ちゃんお帰り~。でもちょっと退いて退いて、今そこで交通事故があって、女の子が大変なの~!」
「事故?」
詳しく話を聞く……事は出来なかった。
相当な容態なのか、父親も電話をしてすぐ患者の元に向かって帰ってこない。妹たちもだ。
血の臭い。ここまでそれがするという事は、相当に血を流している証拠。
それが、女の子で、大変で、交通事故で。
ここにチャドがいて。
「まさかっ」
施術室に入れば──寝台に横たわるは、見覚えのある改造制服。
「……華蔵?」
「あァ!? 一護、帰ってきて手も洗ってねぇのに入ってくんじゃねぇよ! 患部にばい菌入ったらどーする気だ! それに、今集中してんだ、さっさとどっか行け!」
「お父さん、これ、応急処置だけじゃ……」
「わかってる! クソ、咄嗟に右腕で全身の衝撃を受け止めたんだろうが……」
微かに見えた、その腕は。
町医者のできる範囲をとうに超えた──凄惨な。
「ルキア、あれは」
「ああ……この部屋にいてもわかった。アレは、虚の仕業だ。それも……
「……アイツは、華蔵は見えてねぇんだよな?」
「の、はずだ。だが……」
「アイツの右腕、お前が治すのは無理なのか?」
「可能だが、今は無理だ。お前の家族がつきっきりで診ている以上、私が現れて鬼道を、というわけには行くまい」
「そりゃ……そうか」
一護の自室。
騒がしい一階と違って静かな二階には、そのベッドに朽木ルキアが座っている。
彼と、そして彼女は死神。死神代行と死神。
現世を荒らす虚を浄化せしめん存在。
「……あのインコに憑いていた霊は、虚ではなかった」
「けど、あの霊を狙ってきた、って可能性は十分にあるんだよな?」
「ああ。恐らく華蔵はその場に偶然居合わせ……。いや」
「気付いたか。アイツ、今日自分からチャドの家に行くって言ってた。それも、あのインコ見てめちゃくちゃに深刻な顔して……」
「……見えてはいなくとも、感じたり、聞こえたりするだけの者もいる。一護、お前の霊感体質の、かなり下位と言えるものだ。華蔵はそれである可能性が高い」
「それで、見えないのに虚と戦うなんて無茶を? ……なんつーか、可愛い顔して漢気がすげぇな、アイツ」
軽口を叩きつつも。
一護はその拳を握りしめる。
十分に。
彼の中で、華蔵は──大切な友人の一人であるのだから。
目を、覚ます。
腕は……包帯でぐるぐる巻き。肩は縫われている。
感覚は、まぁまぁ、無いかな。
場所は……知らない天井だ……けど、多分クロサキ医院の病室。
「起きたか」
「ん……あぁ、茶渡。なに、もしかしてずっと看ててくれたの?」
「……すまない。巻き込んだ」
あー。変な罪悪感植え付けちゃった? ダメだね、やっぱ。感情に従って動いちゃ。少しは計画性というものをだね。
けど──。
「死ななかったでしょ」
「!」
「美少女は死なないんだぜ。世界の損失だからね、世界が守ってくれるんだ。世界は、美しいものを取りこぼさない。それが自分の世界にあるよう引き留める。天国にも地獄にも、決して渡さない……」
腕が熱を持つ。
大丈夫。なんてったって、私は転生者なのだし。
日常では役に立たずとも、戦闘で役に立つ能力はいくつか取っている。
大丈夫。
「大丈夫。私は、あんな可愛くないのには負けないから。私が負けるのは、私より可愛い子にだけ」
灼熱。
この包帯が無ければ、赤熱してさえいたかもしれない。
縫われた箇所も、爆発で潰れた所も──何もかも。
「だから、茶渡。自分一人で逃げればいいとか、やめてよね」
「……!」
身体を──起こす。
そして、包帯を取っていく。
「何を……」
「私も行く。というか、あんだけコケにしたんだから、ターゲットを私に変えてくる可能性もあるし。けど、今度は茶渡にも戦ってもらうよ。私のパンチじゃ、当たっても大してダメージ与えられないし」
包帯が外れた。
そこには。
「……それ、は」
「黒崎達には内緒ね?」
無傷の腕が──。
走る、走る、走る。
背後に気配を感じながら、戦いやすい場所まで走る。
原作のような街中はダメだ。というか電柱折るの普通に迷惑過ぎる。
だから、もっと投げものがあって、もっと人気の無い場所。
「左に逸れる!」
「っ!」
当然だけど、機動力はアッチの方が上。空を飛べるのだから。
けど、小回りの利く飛び方ではないし、攻撃も大振り。使い魔も自動追尾というわけではないから振り払える。
というかこんだけ戦って一切見える気がしないのはどーなの。もしかして私センス/Zeroなの。
「茶渡、あの山入るよ!」
「ああ」
向かうのは山。それも、少し小高く、開けている山。足元に注意は必要だけど、隠れる場所にも投げる者にも事欠かず、さらには木々のざわめきで場所を判断しやすい打ってつけの場所。
それに、ここなら能力も。
「敵はどこだ?」
「私達の上空40mくらいの所を悠々と飛んでる。とりあえず一発お見舞いしとく?」
「ああ……シバタを、持っていてくれ」
「おっけ」
鳥籠を渡される。
そうして茶渡は、近くに落ちている手頃な石……ではなく、それなりの巨石を持ち上げ。
「少し前方に軌道修正。私の指差す方角にいる」
「飛ばした物がどこかへ落ちては事だ……真下に移動しよう」
「了解」
強く前方に身を投げ出し、その巨石を射出した。
そんなチェストパスみたいな……。
けれど、威力は十二分。
巨石は空中で不自然に止まり──落ちてくる。
「よいしょぉ!」
仰向けの姿勢で動けないでいる茶渡の足を引っ張ってどかせば、頭数mmのトコに巨石が落下。どっかに落ちてもコトだけど、自分に落ちてもコトだっての。
つか身体重すぎね。
「どうだ……?」
「ん-、わかんない。私も見えてるわけじゃないし、どれくらいダメージ食らったかってのはわかんないけど……」
「けど?」
「怒ってるのは確実じゃない?」
ズシン、と。
落下した巨石の上に、更に何かが落ちてきた。それは岩石の割れ方で判断できる。
素早く立ち上がる茶渡。
「茶渡、私が合図したら木の裏に隠れて。良いって言うまでやり過ごして」
「わかった」
「──今!」
二人して木の裏に隠れる。べちょ、べちょ、と、決して美少女に近づけてはならない音が鳴った……気がする。
それに対し、枝を投げて行く。別になんか特別なもの、というわけじゃない。その辺に落ちてた枝だ。けれどそれが、不自然に固まり、何かが暴れるように微振動を起こすのを見て、成功を悟る。
「茶渡! この辺一帯、枝の刺さってるトコ全部薙ぎ払って!」
指示が早いか行動が早いか、茶渡は近くの木を抜き取って、地面に突き刺さった枝を一掃する。その際何かがぶちゅぶちゅと潰れたような気がしなくもない。
ふと、割れた巨石が更に罅割れを起こすのが見えた。
飛び上がったな?
なら──コレが生きる。
それは包帯。私の腕を巻いていた包帯。先端に結び付けた石は、錘となりて。
カウボーイだ。ぐるぐる回して勢い付けて。
投げる!!
「……アレか」
何かに巻き付く包帯。ヒュウ、精度いいね、今日の私。
そして、それが可視化されたが故だろう。
茶渡は今までの鬱憤を晴らすかのように、周囲にあるあらゆる枝葉や石をその見えないナニカに向けて放ち始めた。
ものっ凄い威力で放たれるそれらは、一発たりとも外すことなく見えないナニカを捉え続ける。
「──頃合いだ」
さてさて、ここが正念場だ。別れどころ、といってもいい。分水嶺か。
能力の方ではなく──この世界のチカラ。
私に、才能があるのかどうか。
「散在する獣の骨!」
霊圧知覚はできないけど、ここがBLEACHの世界だと判った時から霊力の集め方は練習している。似た能力が備わっている、というのもあるけど、ほら、鰤世界なら使ってみたいじゃん──鬼道。
今までは独学でやるには危ないと思ってやってなかった。けど、織姫のおにーたんやこのシュリーカーとの戦いでわかった。
私には火力がない。そりゃ転生チートを使えばもうちょっとマトモに戦えるんだけど、今の状態で、この世界に合った技で敵を仕留めるには足りないものがあり過ぎる。
全力で虚を蹴った程度で折れる足とか、虚の頭突きを受け止めた程度で潰れる腕とか。
弱い。
だから、穴埋めに。
「尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪!」
この破道は全破道の中で最も愛しているものだ。くーかくさんが使った時のBGMが好きなんだよね。詠唱も好き。
「動けば風 止まれば空! 槍打つ音色が虚城に満ちる!」
何より雷は、イメージがしやすい。
「破道の六十三! 雷吼炮!」
集めた霊力を──ぶっぱなす!
それは確実にシュリーカーに着弾する。着弾し、その身を。
焼き焦がした。
……。
あ、これ失敗です。本物は雷のエネルギーなので。
こーれ能力の方です。イメージが先走っちゃったね。
「……何をしたのかはわからないが……全身が見えた。まずは翼を潰すか」
だけど、得られたものはあった。
焼き焦がしたからこそ、燃えたからこそ、その全貌が露わになったのだ。
シュリーカーについている翼。空を飛ぶためのもの。茶渡が目を付けたのはそれだった。
えーいこうなればやけだ! 私も!
「自浄せよ、ロンダニーニの怪物! 一新し・流れ込み・自ら顔を消し去るがいい!」
食らえ適当縛道!
「縛道の……えー、十!
原作に出てこなかった番号だ。詠唱なんか知らない。ただ、撃の詠唱を考えると多分時代考証からの嘆きなんだろうなーって感じがするので、ソレに寄せてみた。撃は黒犬の松明。今私が行ったのはロンダニーニのメデューサ。
ま、そんな話はともかく、
包帯が固まる。
まるで石のようになったそれは、シュリーカーが藻掻く事さえを許さない。そこへ飛来する茶渡の砲弾。的確に翼の付け根、つまり弱い部分を狙ったソレは、その翼を少しずつもいでいく。燃えているが故に、口を大きく開け、何かを喋っているような様子が見えない事も無い。
だから、胸を張る。
「ハーハハハハ! 美少女に声を届けるには美男になるしかないのだ──そんなこともわからないか!」
「華蔵。俺も聞こえてはいない」
「じゃあ茶渡は美男子ってことだよ。そしてェ!」
もう一度強く地を踏みしめ、宣言する。
「私が!! 美少女だ!!」
「……」
「じゃあ後は頼めるな!」
まぁ、元々。
倒せる、なんて思っちゃいない。というか現世にいるホローって斬魄刀以外で倒しちゃダメなんじゃないっけ。
ってことでどっちみち、倒す気はなかった。
ただ、目立たせる気が合った。
人目に、ではなく。
どこぞの死神代行さんへ向けてのメッセージ。
私の肩が、トン、と引かれる。見えない何かに。
「行って来い、幽霊!!」
「幽霊ではなく死神だ」
「んぇ?」
おにーたんの時と同じように、
そこには……とっても鋭い目つきの、ルッキーアが。
「詳しく事情を聞かせてもらうぞ、華蔵」
もう随分と弱ったシュリーカーを倒しているのだろうイチゴの――下で。
尋問が始まる──。
「……転校生。話なら、俺が聞く。……華蔵を休ませてやってくれないか」
「何?」
ナイス茶渡!
「そゆことで、朽木さん。私、怪我人だから!」
「おい待て! 怪我人はそんな軽快に走らん!」
シバタを置くことも忘れずに。
私は、まんまとルッキーアから逃げ果せたのだった。
……いや逃げなくても良かったような気がしなくもないんだけど、ほら、塞とか痛そうだし。
もうちょっとだけ、ね?
原作鬼道考察&適当鬼道解説
縛道の九・撃 考察方法は以下の三つ。
分解して解読する場合
自壊せよ ロンダニーニの黒犬 →イタリアはローマ、ロンダニーニ宮殿もしくは美術品収集家ロンダニーニ邸のこと。黒犬はブラックドック、ヘルハウンドとも。
一読し →シェイクスピアのマクベスにブラックドックを引き連れるヘカテーの描写がある
・焼き払い →ヘカテーは松明を持ってブラックドックを引き連れている。撃が赤い光なのも松明の光?
・自ら喉を掻き切るがいい →自壊せよに同じ。
繋げて解読する場合
自壊せよ、ロンダニーニの黒犬、までがまず一文で、行動詳細が後に述べられている。つまり
自壊せよ、ロンダニーニの黒犬=一読し・焼き払い・自ら喉を掻き切るがいい
つまり「ロンダニーニの黒犬」に何かを一読してそれを焼き払った後、自ら喉を掻き切って自壊しろ、と命じている。
一読して焼き払うものがマクベスだとして、自己の行いを省みて自殺することを示唆している? 縛道なので自縛の意味、自戒の意味。
意訳で解読する場合
ロンダニーニの黒犬は、まず黒犬が不吉の象徴、死に目に現れるという妖精、あるいは人を食い殺す悪精。
ロンダニーニといえばピエタ。ミケランジェロの最後の作品であり、視力を失いながらも死の6日前まで手掛けていたという遺作。ならば逆に、ロンダニーニのピエタはミケランジェロの死の前触れであり、製作という体力消費がミケランジェロを殺した、とも捉えられる。また、ミケランジェロ自身も死の予感を覚えていたという。
つまりロンダニーニのピエタそのものを黒犬だと呼称しているとして、それに対して自壊せよ、と言っていると考える。(よってピエタの言葉の意味だとかは関係ないものとする)
ミケランジェロが生涯を通して手掛け、その生を閉ざしたロンダニーニの黒犬。尸魂界に信条的に、魂や命に対して「未然に防ぐ」というよりは「起きてしまった事を摂理に沿って還す」があっている気がするので、「自壊せよ」はミケランジェロの生前に、ではなく死後に向けた言葉。
ミケランジェロの生涯を「一読し」、殺してしまった事を反省しその身を「焼き払い」、「自ら喉を搔き切るがいい」。(「喉を搔き切る」という表現は犬に対して、というより人に対して言っている感じがある。これはロンダニーニのピエタ、その聖母マリアの左腕がイエスの首に伸び、造られずに終わったイエスの右腕が聖母マリアへと伸びているため?)
要約すると、そのまま悪霊にならず、製作者の死の悲しみに己をも止めろ、みたいな。
鬼道が対虚の術であることを考えれば、また撃がそこまで拘束力のない低い番台の縛道であることを考えれば、虚に呑まれたプラス霊に対して拘束することで己を取り戻させるための対話に臨む、みたいな効果も期待してたりする?(井上昊が己を取り戻した所をルキアが見た時、特に驚いた様子はなかったため、割合よくあることなのかもしれない)。
以上の考察からの適当鬼道
縛道の十 自浄せよ、ロンダニーニの怪物! 一新し・流れ込み・自ら顔を消し去るがいい! 石(ゴク)
九で言っているのはロンダニーニのピエタだけど、コレが指しているのはロンダニーニのメデューサ。ピエタと同じくロンダニーニ宮にあった。
このメデューサは頭が蛇でなく、顔も怪物ではない。言いようのない苦悩と死を凝視させる美しいゴルゴーン。
つまり怪物に己を浄化して新たな存在になれ! って言ってる。今回は虚に対して……ではなく包帯に使用。ふにゃふにゃの包帯が石のように固くなりました。そんな感じの効果。
ただし別に鬼道を使ってるわけじゃなくて、転生者能力を使ってるので効果とかあんまり関係ない。以上。