PREACHTTY   作:ONE DICE TWENTY

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ようやく出てくる転生チート


第3話 虚より、虚寄り

 茶渡の一件から何事も無い日々がまた始まった──なんてことはない。

 常より晒されるルッキーアの鋭い眼光と、伴って複雑そうな視線を送ってくる黒崎。カモフラージュにつけた右腕の包帯は当然織姫達にめちゃくちゃ心配されるし、その介護と称して竜貴と織姫がウチに来たりなんだり。

 あんまり一人の時間というものがないままに時は過ぎて行く。

 その間なんか多分だけど義魂丸の一件があったりとかグランドフィッシャー、ドン観音寺の件までもが通り過ぎて行った。なんで介入しなかったって、まぁ可愛い女の子が傷つかないから……。

 何よりホントのホントに四六時中織姫と竜貴、そして茶渡がべったりくっついてきているので、イチゴのトコに向かう隙が無いのである。

 

 ただ──こればかりは、対処せざるを得ない。

 

 石田雨竜の件。

 ホローを呼び寄せる撒き餌を使い、どちらがより多くホローを倒せるか対決をするイチゴと石田の話。

 

 それによって出る、被害の話。

 

「華蔵ちゃん……どうしたの? 腕、まだ痛む?」

「車に撥ねられて咄嗟に右腕を盾にするとかどこのバトル漫画だよって感じだよなー」

「織姫、竜貴。傘って持ってる? 折り畳み傘」

「え? ……あ、持ってる……けど」

「傘ぁ? 雨なんか降る気配ないぞ~」

「差してて。こう、ちょっと前向きに」

 

 流石に商店街や公園の方はカバーできない。夏梨ちゃんには申し訳ないけど、原作通り茶渡に守ってもらうしかないだろう。怖いのは、前に私がvs虚戦に干渉してしまった事で覚醒しない、という可能性だけど……たとえしなくても、茶渡ならなんとか戦えそう、ではある。

 友人を天秤にかけることはできないけど、覚醒しない場合のヤバさはこっちの方が上だ。

 盾舜六花が発現しなかった場合、学校に地獄が腰を下ろすことになる。

 

 そろそろ頃合いでもある。

 みんなが覚醒するタイミングであれば──私が能力を使っても、崩玉のソレだと勘違いしてくれる可能性は高い。だから今まで隠してたんだ。隠せてたかどうかは知らないけど。

 

 ようやくマトモに戦える。

 転生先が戦闘のあるファンタジー世界だと思って取った能力群が。

 

「……ね、華蔵ちゃん。竜貴ちゃん。ちょっと教室、戻ろっか……」

「ん-? 何、織姫。風に当たってお腹痛くなったかー?」

「そ……そんなところ」

 

 織姫はもう見えているんだっけ。

 いいなぁ。私はまだからっきしなんだよね。やっぱり一回死なないと見えない気もしてる。

 

「アタシは別にいーけど、華蔵は?」

「華蔵ちゃん……」

「織姫」

 

 織姫が努めて見ないようにしている方向を見る。

 いるのだろう、そこに。

 

 ならば。

 

「竜貴のこと、みんなのこと。頼んだよ」

「! ……わかった!」

 

 竜貴の背を押し、校舎に入って行く織姫たちを後目に、ふぅ、と溜め息を吐いて。

 

 大きく──大きく跳躍する。

 拳には空洞。まるで何か握りしめるかのようにしたソレを、そして振り下ろさんとするかのように上段に構える。

 風を切る音。

 シュリーカーの時とは違う、本当に散弾らしき音。無数の小さな種子の音。

 

 それを、()()()()()()

 

「なにっ!?」

「おー……ようやく聞こえた。あはは、視覚より聴覚が先なんだ。変なの」

 

 それは長大にして巨大。形は刀でなく、双頭槍。

 炎纏う槍。

 

 流石に流刃若火じゃないよ。これからファンタジー世界に転生! って時に他人の斬魄刀なんて能力取る人いないでしょフツー。絶対心開いてくれないし。

 だからこれは、ただの槍。

 燃えてる槍。というか。

 

「……可愛い女の子がデカい武器持って戦うのはロマンでしょ。なら、ロマンといえば、もう一つ」

 

 口に灼熱が溜まっていく。

 喉を通る呼気にザラつきが出る。逆巻く奔流は火の粉を飛ばし、見えない何かに爪を立てる。

 

「ドラゴン・ブレス」

 

 ──あぁ、果たして私の顔は、喉は、今もまだちゃんと美少女だろうか。

 

 それとも──鱗のびしりと生えた、カッコイイ漆黒の爬虫類になってやしないだろうか。

 ああ、虚の姿が見えてきた。視覚もちゃんとか、あるいは。

 

「いい? ここはさ、私のシマなんだよね。美少女の私が仕切ってるシマ。そこにアンタみたいなのが入ってきて好き勝手やられちゃァ──困るワケさ」

 

 喉から出た灼熱を槍に吹きかければ、槍の炎はさらに勢いを増す。

 

 ファンタジー世界に転生すると言われて、能力どうするか、ってなったらさ。

 そりゃ、美少女男の娘にキャラメイクするでしょ。

 そりゃ、身の丈に合わないデカい武器持たせるでしょ。

 

 そんで、そりゃ。

 デカいドラゴンに変身できるようにするでしょ!

 

 まさかBLEACH世界だとは欠片も考えてなかったからね!!!

 

「燃え、尽きろ!」

 

 斬って、燃やす。

 ただそれだけだ。

 たったそれだけで、虚は霊子となって消えて行った。

 

 ハ──流石転生者のチート能力。つえー。

 

 ……槍を消して、炎も、そして腕や顔の龍化も元に戻す。

 

 振り返れば。

 

「──こんにちはァ、華蔵蓮世サン♪」

「……」

「ちょ~っとご同行願えますかねぇ?」

 

 浦原喜助と握菱鉄裁が、そこにいいた。

 

 

 

 

「ちょ~っとご同行願えますかねぇって言ったの聞こえなかったんスかね~」

「今それどころじゃないの! まだまだユーレー出てきてて、みんながみんな安全とはいえない状況で、仲良く談話に花咲かせるとか無理! あとおっさん二人だから無理! せめて美少女連れてきて!!」

「うひゃぁ、言葉の槍が鋭い鋭い。けど、ユーレーが出てきてる事は感じ取れてるんスねぇ。もしかして、見えてたり」

「見えてりゃこんな走り回ってないっての! 見えないから駆けずり回って確認してんでしょーが! つか、アンタら普通に不法侵入者だからね! ここ学校だからね!」

「そー言われると弱いんスけど、まぁアタシらの姿は見えなくなってるんで、今は華蔵サンが一人喚いて廊下走ってるって図になりますね」

「最悪!」

 

 原作では織姫がナムシャンデリアを倒した後、浦原喜助らに連れ去られて事が進んだ──けど、現在。私がそのナムシャンデリアを倒したというのに学校各地での被害が収まっていない。

 多分高い霊力に誘われて来る虚が、本来織姫と茶渡がいなくなれば襲わなくなっていた状況を、私が織姫を逃がしてしまった事により一転、未だ校内に残る私と織姫を狙ってわんさか湧いてきている……という状況なんだろう。

 

 つまり原作より悪化しているんだ、悪い方向に転がってる。

 でも、それでも!

 

「やんなきゃよかったとは思わない! 美少女の損失は世界の損失──美少女の泣き顔は! 世界に雨が降るモノと知れ!!」

「なに叫んでるんスか?」

「自己啓発!」

 

 窓の先。渡り廊下に特徴的な髪を見る。

 背中合わせの二人。片方は空手の構えを、そしてもう片方は祈るようなしぐさを。

 

 逡巡は一切ない。盾舜六花の覚醒なんて知るか。そんなことのために友達を傷つけるようなクズになった覚えはない!

 

 窓を開ける。その縁を蹴る。

 弾丸が如く飛び出した私の体は、その速度に反して落ちる事が無い。それもそのはず、飛んでいるのだから。

 そうして──織姫が何かを決意した顔の、その眼前にいるモヤモヤに、ライダーキック!!

 

「え……華蔵ちゃん!?」

「織姫! ──防御!!」

 

 蹴っ飛ばしたホローが何かを飛ばしてくるのがわかった。

 今、剣をぶん回したら渡り廊下が崩れる。だから。

 

「三天結盾──私は、拒絶する!」

 

 私達の前に出現する三角形の壁……は見えないんだけど、まぁ多分出現したんだろう。ちっちゃい妖精も見えないッスねぇ。

 そこへ突き刺さるは羽根。アビラマ・レッダー的な奴か。特に特殊な効果はない様子だし、貫通力も無いっぽい。

 

 なので、前に出る。

 ライダーキックでぶっ飛ばした窓の向こう。不自然に凹んだ地面に対し。

 

「いいかい、織姫。君も美少女の自覚があるなら──傷ついてはいけない。身体も、心も。傷ついていいのは、美少女の中でも──」

 

 跳躍。

 手に出現させた双頭槍を──思いっきり、ぶっ刺す!

 

「私みたいな、カッコイイ奴だけなんだよ!」

 

 瞬間、穂先から広がる灼熱。鳥の丸焼きだ。はは、熱かろうさ。

 ……今度は聞こえなかったし見えなかったな。まだ不安定なのかな。よくわからない。

 

「ふぅ……おっけー。んじゃ浦原さん、竜貴のことは頼んでいい感じ?」

「え……ちょ、待ってよ、何が何だか……うっ」

 

 浦原喜助が竜貴の前で指パッチンをする。

 

「ハイ、眠らせました。そして、アナタの読み通り、この学校からアナタと井上織姫サンがいなくなれば、虚は襲ってこなくなります。……ついてきてくれますよね?」

「あ……は、はい!」

「私は遠慮しておくよ。もう、覚悟は決まってるから」

「え、じゃ、じゃあ私も! ……あ、れ?」

 

 誘いを断る私に便乗しようとした織姫が、その身をフラりと崩す。

 初めて盾舜六花を使って霊圧消費しすぎたんだっけ? ま、問題はないだろう。確かこの後連れてこられた茶渡と合流して、メノスと戦うイチゴを見るとか。

 

 ……メノスか。ギリアンだけど。

 

「浦原さん……一つ、質問なんだけど」

「何スか?」

「この腕、()()()?」

 

 それは先ほどまで包帯に巻かれていた腕。

 既に白布は解かれ、更には──黒い鱗に覆われた、凡そ人間のものとは思えない腕。

 

「アタシには、見えますよ。でも……フツーの人間には見えないでしょう」

「それは重畳」

 

 全身がソレになっていく。

 黒く。漆黒に。強く。強靭に。大きく、巨大に。

 

 さて──美少女は、どこにいったのか。

 男の娘は、どこにいったのか。

 

 見える人の目には、私は。

 どう映っているのか。

 

「か……ぐら、ちゃん……?」

「そんな姿になって、どこ行くつもりスか?」

 

 果たして、あの日浦原喜助がこちらを試してきたのは、何の意図があっての事だったのか。

 

 関係ない。

 

 私は今から、友達を救いに行く……のではなく。

 

「餌をね。食べに行こうかと」

 

 皆の成長の機会を悉く奪い、事態を悪化させている。

 そんなの知らないね!

 

「じゃ」

「縛道の六十三! 鎖条鎖縛!」

「!」

 

 今まさに飛び立とうとした私の体に、黄色に光る鎖が絡みつく。縛道。使用者は──握菱鉄裁。

 死神の力ではけっして解けないと言われている縛道だけど、今の私には関係な──。

 

「縛道の七十三! 倒山晶!」

 

 更に、周囲に四角推の壁が出現する。

 

「縛道の九十九! 禁!!」

 

 さらにさらに、全身にベルトと鋲による拘束が。

 ……。

 

 えっと、ここまでする必要あった?

 

「スイマセンね、華蔵サン。今のアナタが行っちゃうと何の苦も無く倒せちゃいそうなんで、拘束させてもらいました。大丈夫ッス、オトモダチは無事に帰しますんで……少しの間、眠っててください」

「……次目覚めた時、友達の、誰か一人でも傷ついてたら……駄菓子屋、燃やす」

「それは怖いッスねぇ。じゃあ目覚めは永遠に来ないように……」

 

 龍化を解いても、縛道は絡みついたまま。

 ちぇ、名探偵よろしくちっちゃくなって抜けられるかと思ったのに。

 

 まぁこの辺が潮時か。

 

「私は美少女なので、丁重に運ぶように!」

「俵抱きは禁止スか?」

「当然! 紬屋雨ちゃんに運んでもらう事を所望する」

「注文の多い人だ……」

 

 ふぅ。

 しかし……この感じ、さっきの縛道に、何か混ぜ込んだな。

 死ぬほど眠い。猛獣用の麻酔針を打ち込まれた気分だ。

 

 まったく……美少女を、無理矢理眠らせる、なんて。

 流石は悪鬼羅刹……。

 

 鬼、外道、浦原喜助……。……。

 

 

PREACHTTY

 

 

 世界一可愛い目をパチリと開ける。

 ここは。

 

「お目覚めになられましたか」

「……起きて一番に見るのは雨ちゃんが良かった」

「それは申し訳ない」

 

 和室。眼鏡。エプロン。

 浦原商店の居住スペース、か。

 

 拘束は……されていない。身体に何か封印がある様子も無い。

 

「今何時(なんどき)で?」

「午後九時……という答えは望まれていないのでしょうな」

「うん。あれから何日経ったのかな。家にはまぁ、織姫の家にお泊り、とかで誤魔化してるんだろうけど」

「ご明察です。そして、あの日から既に一週間が過ぎようとしています」

「うん、お泊りにしては長すぎるよね」

「既に夏休み期間入っておりますゆえ」

「夏休み入っても帰ってこなかったら流石に誘拐を疑うよね」

 

 けどまぁ、記憶置換とかでなんとかしてるんだろう。

 ウチの親、ホワホワ系だしなぁ。

 

「……黒崎は、地下。茶渡と織姫は外かな?」

「ほお、感じ取れるのですかな?」

「いや全く。カマかけただけ。てゆかさ、私こんだけユーレーと戦ってるのになんでまだ見えないの? この前の戦いで音はちょっと聞こえたけどさ。あぁ一瞬だけユーレー自体も見えたけどさ」

「霊圧知覚ですか……習得したいものは、それ、と」

「あ、うん。そういうのって他人に教えられるの?」

「感覚の部分が大きいので何とも言えませんが……瞑想と、そして巨大な霊圧の傍にいる事を条件とすれば、可能やもしれません」

「成程? でも私、結構黒崎と一緒にいたと思うんだけど」

「黒崎さんが死神代行となっている時に傍にいた、というわけではないでしょう」

 

 それは、確かに。

 私が一緒にいたのはあくまで人間の時のイチゴだ。まぁ各件の最終盤は見えないイチゴに任せてはいたけれど、やっぱりそれじゃ長く一緒にいたとは言えない。

 とすると。

 

「私を地下に入れてほしい」

「黒崎さんの修行の傍ら、霊圧知覚を鍛える……と」

「うん。戦いや霊力の扱いについては割と問題無くてね。ただ、ユーレーの知覚方法にだけずっと悩んでたんだ。今までは風の動きや塵の揺れ、地面の振動なんかで居場所を特定してきたけど、それじゃあやっぱり反応は遅れる。私は美少女だからその程度で死んだりはしないけど、傷つくのが好きってわけじゃないからさ」

「……いいでしょう。ただし」

「黒崎の修行は邪魔しない。というか、私が来ていること自体悟らせない。でしょ?」

「ええ、よろしくお願いします」

 

 一応、両親にメールを入れて。

 

 いざ修行部屋へ!

 

 

 

 

 

「黒崎さんは今死神へと変貌する訓練の最中ス。だから、あの大穴にさえ近付かなければとりあえずは大丈夫。約束、守れますか?」

「勿論。雨ちゃんが下にいて上がれない、とかならともかく、美少女じゃないイチゴのために穴の底へ行くなんて愚行は犯さないよ」

「アラ? 彼はアナタの大切なオトモダチだったと思ってたんですが……違いましたかねぇ」

「うん、そうだよ」

「そのオトモダチが死ぬかもしれないというのに……そんな態度でいいんスか?」

「大丈夫。黒崎は死なないよ。なんてったって、美少女である私の友達だからね。美少女の顔が曇るような事……つまり私の友達が死ぬ、なんていう私にとっての悲しい事は絶対に起きない。世界は美少女に優しいんだ。たとえそれが男の娘でもね」

「……なんというか、変な自信に満ち溢れてるんスねぇ」

 

 変なとはシツレーな。

 私はいつだって自信満々なんだ。今の所私より可愛い美少女は現れていないから。空座町の女の子はみーんな粒揃いだけど、私には敵わない。72時間と5日かけてキャラメイクしたどちゃシコ男の娘華蔵蓮世たんには敵わない。

 ゆえに、私の友達は誰も傷つかない。そう胸を張って言える。

 

「そんな美少女サンに問いますけど……どうです。黒崎サンの霊圧、感じ取れますか?」

「……浦原さんは意地悪だね。感じ取れたら今すぐにでも雨ちゃんの頭を撫でに行っているよ」

「しっかし変な話ッスよねぇ。あれだけ強い力を持っていて、霊圧知覚なんて織姫サンや茶渡サンにさえできる事が、アナタにはできない。それは酷く……アンバランスだ」

「アンバランスとか知らないよ。感じ取れないんだから仕方ないじゃん。……とはいえ、ズルをすれば感じられるんだろうことはわかってるんだけどね」

「ヘェ? ちなみにそれは、どんな方法で?」

 

 ──耳だけを龍化させる。

 瞬間、轟音が、爆音が響く。

 

 すぐに戻す。

 

「器用ッスねぇ」

「あの時。私がユーレーを見た時。私の顔は、完全なドラゴンになってた。だからユーレーが見えた」

「一応言っとくと、幽霊じゃなくて虚ッスよ、奴らの呼称は」

「耳もそう。右腕から顔の半分にかけてがドラゴンになってた時、私の耳には虚の声が聞こえた。……だから多分、近道はそれ。だけど」

 

 目を瞑って、瞑想を続ける。

 どこに誰がいるか、はわかる。靴と地面の擦れる音、衣服がはためく音、息遣い、鼓動の音。

 

 でも……霊圧とかいうのが、全くわからない。

 

「仕方ないッスね。じゃあもう少し、穴に近づいてみますか」

「いいの? っていうか、私は黒崎の邪魔する気はないよ。私のせいで黒崎が死神になれなくなる、とか。ヤだからね」

「その程度で集中が散ってしまうようならそれまででしょう。それに、安心してください♪」

「何を?」

「アナタは素質がないワケじゃあありませんよ。ただ少し、鋭敏過ぎるだけで」

「?」

 

 ……これは多分、ヒントだ。

 鋭敏すぎる。

 

 つまり……もっと大雑把でいい、ってこと?

 そういえば、イチゴって霊圧知覚が得意じゃないとか言っておきながら、遠くにいる茶渡の霊圧とかその他霊圧系の知覚めっちゃやってたような。

 

 得意じゃなくても、大雑把でも。

 感じ取れる……のなら。

 

「……浦原さん、ナイフとか持ってない?」

「生憎ながら」

「そっか。じゃあ」

 

 手を、指をドラゴンにする。

 その指先、爪先は──酷く鋭利に。

 

 そしてそれを、自分の耳に持っていって。

 

 ──スッパリと、切り落とした。

 

 流石の浦原喜助も目を見開く。まぁ驚愕過ぎる行為だよね。リスカどころじゃない。セルフ耳なし芳一とか、美少女のやることじゃない。

 

 けどこれで──周囲の音が聞こえなくなった。

 鼓膜潰すだけで良かったんじゃないか説はあるけど、ええいどうでもいい。

 現世の音が消え。

 

 静寂の中に。

 

 濁流が如き、轟音が。

 ……まさか、これ? でもコレは、なんなら常日頃聞こえていたもの。貝殻を耳に当てて「海の音が聞こえるー!」的な音だとばかり思っていた。

 

 違うのか。

 コレか。

 

 ……霊絡、というのは残念ながら見えないし感じ取れないけど……この距離で、わかる。

 イチゴの凄まじい霊圧という音が。

 

 耳をドラゴンにして、戻す。

 そうすると、人間の耳が元通りに。先日腕を治したのもこの方法だ。

 

「いきなり耳を切り落とすのは流石のアタシも驚きましたぁ……今度からやる時は言ってくださいね?」

「もうやらないから大丈夫。それより、霊圧の知覚できたから、雨ちゃん抱っこしてくるね」

「あぁ、はい。あ、傷をつけないよう細心の注意を払ってください。でないと」

「何を当然のことを。美少女は世界の宝。美少女を傷つける事は世界の損失。美少女は世界、世界は美少女。私が美少女を傷つける事などあり得ない」

「そ、そっスか」

 

 穴を覗き込んでいる雨ちゃんに近づく。

 うわー、近づけば近づくほど轟音。私はこんなの聞き逃してたのか。

 

 いや……聞こえてたけど、音だと認識してなかった、って感じか。

 ……強い(匂い)だ。芳醇な……。

 

「うーるるちゃん」

「ひぁ!?」

「ん、オイなんだぁ? ここは部外者立ち入り禁止だぞ!」

「あぁ私、先に修行終わったからさ。美少女で……じゃない、美少女と遊ぶ権利を手に入れたんだ。あそこの店長さんからね」

「終わったぁ? ……何の修行してたか知んねーけど、終わったんならコイツの行く末くらい見守っててやれよ。コイツ今、虚になるか死神になるかの瀬戸際で苦しんでんだぜ。声くらいかけてやったらどーだ」

「ん-? ん-。そうだねー」

「あ、ああ、あのっ、そのっ」

 

 雨ちゃんのツインテールを弄る。

 ──フ、私は確かに男だけど、美少女だ。男の娘だ。雨ちゃんに警戒されること無くその髪を弄っても抵抗されない。あ、勿論変な所は触らないぞ。美少女というのは弁えも兼ね備えての美少女だから。

 

「黒崎!」

 

 声かけちゃダメ、とか言われた気がするけど。

 私が介入した悉くが悪化の傾向をたどっている事に気付いてはいるけれど。

 

 それならそれまでだと、浦原喜助は言った。

 その通りだ。私程度の障害、乗り越えないで何が主人公か。

 

「か……ぐ、ら? 何だよ……来てた、のか」

「見えないけど、そこにいる事はわかる。……敢えて悪役っぽい台詞を言わせてもらおう。フハハハ! 貴様には穴の底がお似合いだ! 一生そこで燻っていろ!」

「はぁ? おい、励ましの言葉とか」

「世界中の美少女は私が頂いていく──うるるちゃんも、朽木さんも、織姫も竜貴も! 千鶴だけはやろう! ではさらばだ!!」

「ちょ、ちょっと、ひっぱらないでください……!」

 

 ──背後、轟音が響き渡る。

 物凄い音だ。音が叩きつけられるかのような、全身を突き抜けるかのような感覚。

 

 そして、その中から──何かが出てきた。

 

 あ。

 ははーん?

 

 私、これ。

 またやらかしたな?

 

「……待てよ、華蔵」

「出てきたんだろうね」

「ルキアを助けるのはオレだ。お前にゃやらねぇよ」

 

 煙が晴れる。

 そこには──死覇装を纏う、イチゴの姿が。……見えない。うん、何かヒトガタがいるのはわかるよ。霊圧で。でも視覚情報が無い。これ修行終わったって言っていいのかな。ダメな気がするな。早とちりした気がするな!

 え、やば、気になる。

 これやばいんじゃない? イチゴ……大丈夫? 虚化経験してる? 一応元から内なる虚がいるから大丈夫だとは思うんだけど、まさか発破かけられて段階飛ばして死神なっちゃうとは思わないじゃん。

 

 うわ見たい! 今のイチゴの姿見たい!!

 

「……予想よりも早いッスねぇ。流石は黒崎サン。んじゃあこのままレッスン3と行きましょうか」

「ああ、望むところだ。……といいてぇトコだけど、華蔵逃がしてからでいいか」

「それなんですが」

 

 浦原喜助は、指を一つ立てて。

 

「レッスンスリーは、本来アタシのこの帽子を落とすこと……だったんスけど。内容変更ス。時間は無制限。んで、華蔵さんにアタシの帽子を持っててもらうんで、それを奪えたら完了。奪えるまで続行。こういう内容でどうでしょう」

「待てよ。華蔵は俺が見えてないんだろ?」

「ええ、恐らくは。ですが問題ないでしょう。見えてなくとも、対処はできますよ。今まで通りにね」

「……なんつーか、華蔵相手じゃやる気出ねーけど」

 

 浦原喜助の帽子が投げ渡される。

 危ないので雨ちゃんを逃がして、と。

 

 懐に入り込んできた霊圧を躱して、足を払う。

 何かがズシャベシャー! と転んだ……気がする。

 

「ほ……ホントに見えてねぇんだよな!?」

「華蔵サン、ホントに見えてないんスよね?」

「霊圧は感じ取れるようになったけど、見えてないよ。ま、見えてなくても黒崎がどういう動きするのかは想像つくし。怖いのは……斬魄刀だっけ? それのリーチくらいかな。それも霊圧知覚でなんとかなりそうだけど」

「あぁ、それは安心してください。今の黒崎サンの斬魄刀は根本からポッキリ折れてますんで、無いに等しいス。なんで、存分に」

「そう。じゃあ」

 

 これもまた、正念場か。

 心を鬼にしろ華蔵。ぶっちゃけこんな展開になるなんて欠片も予想してなかったけど、なっちゃったものは仕方がない。

 この修行はイチゴに斬魄刀の名前を聞き出させる事と、斬月のおっさんに「退けばオイル、臆せばシヌゾ」の名言を言わせるためのパート。

 

 つまり──殺す気で行けって事。

 

「──ッ!?」

「今、掠ったね」

 

 ハイキック。避けられこそしたけど、当たってはいた。

 速度に上方修正をかけて──次は、膝蹴り。

 

「く──うっ!?」

「今のは、手のひらで受け止めようとして、けれど予想外の重さに驚いて仰け反った……って感じだね」

「ほ、ほんとのほんとに見えてねぇんだよな!?」

「ホントのホントに見えてないんスよね、華蔵サン」

「見えないよ。私にユーレーは見えない。けど」

 

 手に、槍を出現させる。

 雨ちゃんやジン太に動揺が走る。ま、斬魄刀に類する取り出し方じゃあないからね。

 

「ユーレーを殺す術くらいは、持っているつもり──偽・翠の射槍(ファルソ・ランサドール・ヴェルデ)

 

 部分龍化を施して──まっすぐに投擲する。

 

 頑張れイチゴ。私程度に殺されるなイチゴ。私は所詮美少女だ。ジャンプ主人公じゃない。美少女で男の娘な時点で世界から愛されまくっているけれど、ジャンプ主人公だって同じだろう。世界からの愛され度合で私に勝て。

 

 でなければ。

 

「やる気が出ない、とかどうせ言ってるんだろうけど。出さないと、死ぬよ」

 

 ここでお前を殺し──私が天に立つ。もとい、私が主人公になる。

 原作のあらゆる美少女を集めて美少女だけの国を作るんだ……王鍵も何もかも私が手に入れてやる!

 

PREACHTTY




鬼道考察

破道の六十三 雷吼炮
散在する獣の骨 尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪 動けば風 止まれば空 槍打つ音色が虚城に満ちる

雷吼炮 →金剛杵が雷を操ることから

散在する獣の骨 →ダディーチャの骨/あるいは殺生を禁じていたがために、殺さず、ただ死んでいった獣たちの骨
尖塔 →仏教は仏塔、あるいは舎利塔のことか。水晶の舎利塔も存在する。
紅晶 →紅水晶。ローズクォーツ。鎮静のパワーストーン。他、維持の意味。もしくは紅玻璃。仏教の七宝が一つ玻璃からか。
鋼鉄の車輪 →仏教の法輪、法の車輪。
動けば風 止まれば空 →それは大気。空とは有無、否定と肯定の意味を併せ持ち、二元論の礎でもある。
槍打つ音色が虚城に満ちる →ダディーチャの隠れ家(虚城)でトヴァシュトリがダディーチャの骨から金剛杵を作り出した時の事

上記から、金剛杵が作り出され、雷を操るまでの様子を述べている……ように思う。
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