最も凶悪な魔法使い、闇の帝王、例のあの人と呼ばれた男、ヴォルデモートは預言の子ハリー・ポッターとその仲間たちの手により分霊箱を全て破壊され、そしてついに自ら放った死の呪いが杖の予想外の反抗期により逆流し、死亡した。
不死を望んだヴォルデモートは、魔法族にとっては短命である71歳の時にその命の火を消した。
ヴォルデモートは今際の時になり激しく後悔をした。
──どこで間違ったのだ。
やはり優秀な部下が殆ど居なかった事だ、俺様は史上最強だったが周りが悪い。やはり他者を信頼して任せるなど愚かだった。面倒でも全て1人で行うべきだった。
運も無かった、ハリー・ポッターの母親の愛とかいうものにより、半分死んでいる状況になってから復活するまでの13年間、良いところまでいったのに。なぜナルシッサはあの時ポッターの死を偽ったのだ。あれさえなければ勝利は確定していた。自身の目で死を確かめるべきだった。
認めよう、知識も足りなかった。杖の事もそうだが分霊箱の隠し場所が見つかるなんて思わなかった。おそらく、他にも見逃していた事があっただろう。
いや、そもそもダンブルドアだ、あの老いぼれずっと俺様を警戒してたな。初対面の時の印象が悪かった。警戒されず善良な人間により擬態すべきだった。
ヴォルデモートは薄れゆく意識の中そう思い──ついに何も考えられなくなった。
──筈だったが。
ヴォルデモートは猛烈な身体の痛みと、息苦しさでその意識を覚醒させた。
苦しい、生きている?いや、呼吸が出来ない。呼吸を、しなければ。
ぐっと重い口を開き、ヴォルデモートは新鮮な酸素を求め思い切り吸い込み、吐き出した。
「──おぎゃあ!…おぎゃあ?」
「生まれたわ!男の子ですよ!」
何だこれ。
いや何処だここ。
「う、生まれた…?」
「ええ、今綺麗にするわね」
──まさか、生まれ変わったのか?
しかし、分霊箱にして分裂された魂は輪廻不可だと本に書いてあったが…あれは誤りだったのか。──これは良い!思っても見ない幸運だ、第二のヴォルデモートとして今度こそ魔法界を征服してやろう、何故かわからんが記憶もある。今まで不運ばかりだったが、2度目の人生、それも記憶がそのままで意識もはっきりしている。理解不能な事ばかりだが、願ってもみない幸運だ!
自分の体を撫でる手が優しく、温かく。心地よさでついうっとりとしていたが感覚が赤子のため仕方がない。
ヴォルデモートはそのまま何か柔らかいところに置かれた。他の赤子同様、目が全く見えないヴォルデモートははじめ何の上に置かれているかわからなかったが、そこは母の胸の上だった。
暫くしてほのかな温かさと鼓動の音が伝わり、ようやく自分が今産み落とした母の胸の上にいるのだと分かると、ヴォルデモートは重い首を僅かに動かした。目は見えない、だがそれでも目を開き、母の顔があるだろう場所をぼんやりと見る。
──こいつが俺様を産み落としたのか。ふむ、目は見えんな。耳は聞こえるようだが赤子とはこんなものなのか。感謝しよう名も知らぬ母よ。魔法族でなかったら一生恨む。殺す。八つ裂きにする。
「ああ…この子が…パパに似ますように…」
ヴォルデモートは誰に似ようがどうでも良かった、外見に一切頓着が無い彼は単純にこの母か父が魔法族である事を心から願った。
実は混血だと言う事が唯一のコンプレックスであるヴォルデモートは両親が魔法族なら言う事がない、そう考えながら、優しく自分の頭を撫でる母の手の温もりを──若干屈辱的だとは思ったが、何せ今は何の力もない赤子である。──振り払う事もできず、感じていた。
「この子の名前は──」
──せっかく生まれ変わったのだ。トムとかいうありきたりな名前ではなくサミュエルとかガブリエルとかそこそこ特別なかっこいい名前が良い。間違えても何千万人も居るトムだけはやめてくれ。
いや、この体はそもそも男か?女である可能性もあるだろう。それならエリザベスとかカミラとかビクトリアとか。性別がどちらであれ、俺様に相応しい高貴な名前をつけてくれ。
ああ、だがヴォルデモート卿を名乗れなくなる。いや、素晴らしい名前なら改名せずとも済むか…。
両親が魔法族である事と、めちゃくちゃかっこいい名前をヴォルデモートは渇望した。
だが、女性は優しく目でヴォルデモートを見つめたまま、疲れ切った囁くような声で彼にとって残酷なことを呟いた。
「この子の名前は…。…この子の父親の、トムと…私の父親のマールヴォロ…苗字は、リドル…。トム・マールヴォロ・リドル…それが、この子の名前よ…」
ヴォルデモートは思考停止した。
どう聞いてもその名前は、最も彼が聞きたく無い名前で、聞くはずのない名前だった。
──いや、ちょっと待て。
何故その名前なんだ、全く同じでは無いか!
こんな偶然、あるわけがない、あったら奇跡だ!つまり、確信はないが、まさか。
「トム・マールヴォロ・リドル…?…そうですか、わかりました。…大丈夫ですか、メローピーさん、顔色が…」
メローピーとは、間違いなくヴォルデモートの生母の名前であった。
こんな偶然が続くわけがない。ヴォルデモートは賢い男であったため、混乱しながらも──理解した。
自分は生まれ変わったのではない。
時代を遡り、何の因果か、人生のスタートからやり直したのだと。
ーーー
ヴォルデモート改めトム・リドルはベビーベッドに寝かされていた。
体が重く、言うことを聞かない。常に怠く眠い。
ヴォルデモートは他の赤子と同じようにたっぷりとミルクを飲み、たっぷりと眠って一日を過ごした。
はじめは屈辱的でいっその事殺せとまで──何より不死を渇望していた彼にとって、その願いのとんでもなさは察しの通りだ──思っていたオムツ替えも、何とか数日で慣れた。
仕方がない、ヴォルデモートは中身は71歳の闇の帝王だとしても、まだ首も座らぬ赤ちゃんなのだ。
──慣れてしまえば、そこそこ快適だ。
寧ろ、そんな事すら考えていた。
ただ、飲んで、寝る。
なんの心配も無い。それだけの日々だ。
退屈さはあったが、抗えぬ眠気により1日が経つのは恐ろしく早い。それに、ヴォルデモートは生前──と、言って良いのか不明だが──色々、本人的には頑張っていた。心安らぐ時は無かった。
まぁ、今この時が心安らぐ時かと言われると複雑な心境だったが、とりあえず久しぶりにゆっくりと過ごしていた。赤ちゃんとは、そんなものである。
ヴォルデモートは微睡みながら、意識のあるうちは自分の人生を振り返っていた。
何故だかわからないが、もし過去に戻っているのなら、失敗の数々を教訓にやり直そう。
この知能と、記憶と、そして未来を知る力が有れば魔法界征服など容易いに違いない。
赤ちゃんヴォルデモートは自分の白くてもちもちした手を食べながら第二の人生について考える。──何故か食べたくなるのだから、赤子の本能とは不思議だ。
とりあえず。あの老いぼれジジイに警戒されないよう、この孤児院では大人しく過ごそう。
優等生であり誰にでも優しいトム・リドルを、見事演じ切ってみせよう。
数数の愚かな人間どもを欺いてきた俺様には容易い事だ。
涎まみれにした手を、再度しゃぶりながらヴォルデモートはほくそ笑む。
「まぁ!笑ってるわ!可愛いわねぇ」
「珍しくご機嫌ね、トム」
「あぅー」
腐れマグルに褒められてもちっとも嬉しく無かったが、赤ちゃんヴォルデモートはとりあえず、不信がられないように普通の赤ちゃんらしく振る舞った。
屈辱に震えていたのは数日だけだ、もう下の世話までされている。不信感を持たれぬようにするために必要な行動だ。
赤ちゃんヴォルデモートは自分に言い聞かせながら、ぼんやりと見えるようになってきた目で自分を覗き込む女達に向かって笑いかけた。
色んなキャラの逆行はあれ、ヴォルデモートの逆行って見た事がないなぁと思って。
タグって逆行だけで良いのですかね…?もし不足ありましたらお伝え下さい。
続きを書くかどうかは悩み中です。
追記、ちょこっと続けます!