ヴォルデモートにとって2度目のホグワーツ生活は、そこそこ心安らぐ時間を過ごすことができていた。
一回目の人生では読むことの出来なかった本を片っ端から読み──とはいってもマグル学の本などは一切読まなかったが──さらに深く魔法について理解し、知識を蓄える。
相変わらず愛や、愛の魔法についてはまだ分かってはいなかったが、特に焦る事も無かった。
──まだ3年生だ、あと4年もあればきっと見つかるに違いない。
最悪見つからなくとも…愛の魔法を放つことができる、あの穢れた血を気絶させればすむ。そうすれば、ハリー・ポッターに愛の魔法をかける事はできないはずだ。
そもそも未来に何が起こるか知っているのだ…俺様の勝利は確定している。
沢山の本を読んでいるが、5年生になり監督生になるまでは禁書棚に簡単に入ることも叶わない。もう図書館にあるそこそこ使えそうな魔法や魔法薬が書かれている本は読んでしまった。
そして、前回5年の歳月をかけて探したスリザリンの秘密の部屋も、すでに発見している。
さらに、勉強は予習復習などしなくとも、全てわかっている。
クィディッチの練習が週に3回あるが、放課後の数時間だけだ。
つまり、ヴォルデモートには学生生活の間、これといってやる事はなかった。
簡単に言おう。
暇だった。
特に、前回の人生で最も心が躍り楽しかった授業の数々も、ヴォルデモートにとっては三年生のレベルの授業はかなり退屈だった。
ヴォルデモートは魔法史の授業で、淡々と説明をする教師の言葉を聞きながら、頬杖をつき視線は羊皮紙に向け羽ペンの先で紙をコツコツと叩く。
暇を弄んでいたヴォルデモートは手を動かし──落書きをしていた。
──闇の印…前回と同じものにしようか。蛇と髑髏。我ながら最高傑作だが…ふむ、より凶悪にしてもいいかもしれん。例えば…蛇を二又にしてみようか…いや、くどいか?
授業そっちのけで新バージョン闇の印を考え、カリカリとアイデアを書き留める。
髑髏、蛇、蝙蝠羽、血痕、鎖、生首──どのアイディアも20歳以上の大人が見れば生暖かい目をするか、顔を真っ赤にして転げ回りたくなるほどの内容だ。
しかし、ヴォルデモートはなかなか頭が冴えている!と自画自賛しながら目が三つある人間や転がる生首を書いていた。
齢70歳を超えていても、ヴォルデモートのセンスは微塵も鈍る事はない。
いや、むしろ長く患い過ぎているといえる。
ヴォルデモートは自分のセンスが素晴らしいと疑わない。
何故なら前回、死喰い人全員が褒めたからだ。
素晴らしい!恐ろしくも荘厳であり、強大な力が見てとれる最高の印です!などなど、褒め、是非左腕にその証が欲しいと頭を深く下げてきたのだ。
ヴォルデモートは髑髏の目ではなく舌のように蛇を這わせる案は素晴らしかった。天啓とでもいえるだろう。
と、自画自賛していたが。
勿論、その印が最高だから皆が褒めたわけではないのはお察しの通りだ。
ヴォルデモートの機嫌を損ねれば最悪死ぬ。良くてクルーシオと知っている死喰い人や、その軍団に入りたい者たちは少しでもヴォルデモートの事で褒められる可能性がある事ならば、何だって無理に褒めた。
ヴォルデモートはついに髑髏の後ろに蝙蝠羽を生やした。それも、3対になっている6枚羽という盛りっぷりである。
口から出た蛇は途中でケルベロスのように3つの顔がついている。
厨二病が大変好む属性を盛りに盛ったその印は、ヴォルデモートに媚びる為、栄光のおこぼれを貰うためだとはいえ──その印を腕に入れるのはなかなか勇気がいるだろう。
未来の闇の印が魔改造されていくなか、何をそんなに熱心に書いているのか──と、ジュードがちらりと覗き込んだ。暫く無言でその絵を見ると、リドルを挟んで反対側に座るテオの背をトントンと指で叩く。
リドル越しに「何?」と首を傾げたテオに、ジュードが視線でちらり、とリドルのお絵かきを示す。
同じように無言で大変痛々しい絵を見たテオはひくひくと口先が痙攣するように動くのをなんとか耐え、自分達の後ろの席に座っているアランとルークを振り返り、声に出さず視線とジェスチャーでリドルの手元を示す。
なんだろう、と首を傾げたアランとルークは少し腰を浮かしてリドルの手元を覗き込み、ついに髑髏の周りに鎖が描かれ出したその絵を見た。
「ぶふっ…!!」
「あっルーク!…だ、ダメですよ!」
その絵を見た瞬間、ルークが吹き出した。慌てて口を手で押さえたが肩がガクガクと震え鼻息が荒い。必死に隠すために机の上で腕を組み顔を勢いよく下ろしたが、体の震えは止まる事がない。
すぐにアランが「しーっ!」とジェスチャーをし──その時、2人の様子がおかしいことに気がついたリドルが後ろを振り返った。
「…どうしたの?」
「──くっ…!!」
きょとん、としたいつもの優しいリドルの目を見たアランは耐えられず呻きながら口を手で押さえ、パッと俯くと肩を震わせた。
「…何だ…?」
リドルは急に震え出した2人を見て怪訝な顔をし、何か呪いでもかけられたのかと思ったが──そんな様子とはまた違うような。
あまり後ろを向いていては教師に怒られるか、と優等生らしく──落書きはするが──前を向いたリドルの両肩を、テオとジュードが左右からポンと叩く。
「トム、君は誰よりハンサムだし、学年一賢いしクィディッチは上手いし、優しい。けど──絵のセンスは壊滅的だな」
「神が作った唯一の欠点であり弱点だね」
「…何……?」
こそこそと残念そうに囁かれた言葉を、ヴォルデモートは全く信じられなかった。
──馬鹿な。この改・闇の印のどこが壊滅的なのだ!ありえん。素晴らしいものたちの集合体であり、完成形ではないか!
「なんか…盛りすぎじゃない?羽なんで6枚もあるの?」
「……多い方がいいかなって、それに6は悪魔を模す魔法数字だし…」
まさか本当にそれほどダメなのか、と、もごもごと言い訳をするリドルに、後ろで震えていたアランとルークがようやく少し正気を取り戻し──口先はにやにやと笑っていたが──後ろから囁いた。
「ちょっと鎖は…何故髑髏が拘束される必要があるんですか?」
「…それは………」
「蛇の頭がケロベロスみたいだけど、どうしたんだい?」
「……それは…」
ヴォルデモートは特に深く考えていたわけではない。ただ髑髏と蛇は必ず入れるとして──他に素晴らしい物をなんとなく考えていただけだ。
──こいつら!前回は大絶賛だったではないか!!たしかに、少々…足し過ぎたか。やはり元の方がシンプルで良い、ということか?
「っていうか、トム。センス云々より、単純に絵が下手だな!」
「しー!言っちゃダメだよ!確かにたまに見る絵はいつもやばいけどね」
「そうですよ、トムの絵は…まぁ個性的なんです」
「独創的ともいえるね!」
ジュードの言葉にテオ、ルーク、アランはすぐにリドルを慰めるようにこそこそと喋ったが、どうみても慰めにもならぬ侮辱が含んでいた。
リドルは自分が描いた魔改造闇の印や、生首や複眼の人間を見下ろす。
「…そんなに下手かな」
「ぶっちゃけやべぇな」
「夢に出てきます」
「気持ち悪いね!」
「間違いなく僕らの中で1番下手だね」
散々な言葉に「なら、描いて見せてみろ…」とリドルは低い言葉で呟き、1番下手と断言したテオを睨む。
テオはぐるりとジュードたちを見回して、ニヤリと悪戯っぽく笑った。
授業終了のベルがなった頃、思い思いの絵を描き終わったジュード達は「どうせ俺様が1番うまいに決まっている、こいつらは僻んでいるのだ」と踏ん反りかえっていたリドルに羊皮紙を手渡した。
「…、……」
「ね?1番下手でしょ?」
「まぁ、貴族は絵画を趣味…というか、教養の一つとして行う者も多いですからねぇ」
「何年絵画教室に通ったとおもってるの?」
「唯一、俺たちが勝てる事だな!」
ぐうの音も出ないほどの差に、ヴォルデモートは数十年ぶりに敗北を味わった。
トム・リドルの学生時代の落書き、是非探してみてください。
ドラコの方が100倍うまいので!笑