ヴォルデモート卿、人生をやり直す。   作:八重歯

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16 ヴォルデモート卿、愛を知る。

 

 

四年生になったヴォルデモートは、後一年で禁書棚にようやく足を踏み入れる事ができる。ようやく、後一年だ。──そればかりを考えていた。

暇を見つけるたびに愛や、愛の魔法について調べてはいたものの、これと言って天啓のように理解できる事は無かった。

 

そもそも、愛とは魔法省の神秘部の一つの分野として確立する程、哲学とも、力ともいえる難解なものなのだ。それは「愛とは何か?」と問うた時の返答が人の数ほどあるのだから、仕方のない事かもしれない。

 

反対呪文がないと言われている死の魔法を防ぎ、弾く愛の魔法。

愛について理解出来ないヴォルデモートは、とりあえずそれを在学中に知らねばならなかった。

 

 

「やぁ、トム!」

「ダンブルドア先生…」

 

 

図書館の帰りに声をかけてきたのはダンブルドアであり、リドルは完璧な笑みを見せ少し頭を下げたが──視界に入らないところで舌打ちをする様に口元を歪めた。

 

 

「もうすぐクィディッチの試合だろう?ホラス先生が今年も寮杯はいただきだと私に言ってきてね…スリザリンの最高のシーカーくん、自信のほどは?」

「…僕だけの力ではありませんよ。チーム皆が頑張って、力を合わせた結果です。…勿論、優勝杯は──今年もスリザリンが手に入れてみせますけどね?」

 

 

くすくすと揶揄うようにリドルが笑えば、ダンブルドアは「グリフィンドールの練習時間増やすように言わないとなぁ…」と苦笑した。

 

 

「そうだ、トム。この後時間はあるかな?君がこの前知りたがっていた事について書かれた本を手に入れたんだ。少々扱いに注意が必要なものだから…私の研究室の中でなら閲覧可能だ。──どうする?」

 

 

リドルは心の底から面倒くさかったが、確かに変身術の授業後、話しかけられてしまい、優等生らしく、返答をした。

 

しかしあれは雑談にも満たない僅かな時間であり──そもそも次の授業へ向かうため移動しなければならない中で、込み入った話など出来るわけがない──ただ単にいつものようにたった1人だけ完璧に机をアフリカゾウに変える事が出来た授業の後で、「流石だね、トム。変身させてみたいものとかはあるかい?」と聞かれ「そうですね…。物を魔法生物に変える方法はありますか?本に載っていなくて…出来るのなら、してみたいですね」

と、答えただけだ。

 

 

──まぁ、前回は知ることの出来なかった魔法だ。使い道があるかは不明だが、知っていて損は無い。

 

 

「是非。よろしくお願いします」

 

 

リドルが完璧に思慮深く、嬉しそうな笑みを見せれば、ダンブルドアもまた想像通りの喜ばしい返答ににっこりと笑った。

 

 

ちょうどジュード達は何やら用事があると、かなり珍しくそばに居ない為、上機嫌に「美味しい紅茶もあるんだよ」と人のいい笑みを浮かべながら言うダンブルドアの後をついていった。

ヴォルデモートは勿論ダンブルドアと楽しくお茶会などしたくはなかったが。これもまだ見ぬ魔法の為だと自分に言い聞かせる。

 

 

 

変身術の研究室に着けば、ダンブルドアはすぐに低い机と二脚の肘掛け椅子を出しリドルに座るように促した。

リドルは「ありがとうございます」と微塵も気持ちの篭っていない感謝を──しかし、口からははっきりと嬉しそうに弾む音が出ていた──述べ、期待を込めた眼差しをダンブルドアに向ける。

 

ダンブルドアはパチリとウインクをひとつすると、部屋の奥にある机の引き出しの中から、黒い本を取り出した。

 

 

「魔法生物に変身させるのは、殆どの魔法使いや魔女には不可能だろう。──まぁ、私はできるけれど──きみも、できるようになるかもしれないね、トム」

「買い被りすぎですよ…。──ありがとうございます」

 

 

リドルはその本を受け取り、目次を読む。様々な魔法生物の名前が書かれている中の幾つかは闇の魔法生物と呼ばれる種族のものもあったが、ダンブルドアが目の前にいるのだ、それを真っ先に見る事はせずとりあえず一番初めから読んだ。

 

 

「これは…禁書なのですか?」

「そうだね、取り扱いが難しい。本来なら、変身させた後の魔法生物は使役する事が可能だが、魔法に失敗すると──まぁ、書いてある通り襲いかかってくるからね」

「…成程」

 

 

ヴォルデモートはかなりの記憶力を持つ。勿論、うっかりと忘れてしまう事はあれ、記憶しておこうと決めた事は基本的に忘れる事はない。

流し読みするように見せかけて、それとなく凶悪な魔法生物への変身術の詠唱方法や理論をしっかりと頭の中に刻み込んだ。

 

 

「…僕にはまだ、少し早いかもしれませんね。どの魔法もかなり難しいでしょう?──難易度の高い魔法を使えるなんて、流石ですね」

 

 

リドルはパタン、と本を閉じ。ダンブルドアへの仮初の賛辞を送ることも忘れない。

 

 

 

「いやいや。トム、きみもきっと卒業する前には一つくらいは出来るようになるさ」

 

 

 

ヴォルデモートはひくりと口先を引き攣らせたが、すぐに紅茶の入ったカップに手を伸ばし取り繕うように飲むと「ありがとうございます…この紅茶、美味しいですね」と呟いた。

 

 

──何が一つくらいだ!ここに書いてある全ての魔法を使いこなしてみせるわ!ただ貴様が居る前でそれを言えぬだけだ!俺様を下に見るなど、こいつ。今すぐトロールに変えてやろうか!

 

 

「そういえば、図書館で何の本を借りたんだい?司書が言っていたよ。ほぼ毎日本を借りに来る、ホグワーツで最も勤勉な生徒だってね」

「ああ…。えっと、──こういうものです」

 

 

リドルはカップを受け皿に置くと、持ってきていた鞄の中から本を2冊取り出し机の上に置いた。

 

それは『神秘的な愛の心理的作戦』『愛とは一体?有名魔法使いの言葉1000種』と書かれている、何やら少々派手な表紙の本だった。

 

ダンブルドアは目を見開き、まだ愛について調べていたのかと驚いた。過去、リドルが借りた本を調べた事はあるが、あれ以来特にどんな本を借りているのかを見ていない。

もう数年経っているが──何故、トムはここまで愛に固執するのだろうか。

 

 

「トムは、愛について知りたいのかな?」

「…はい、──その、愛とは何か、僕には──おそらく、孤児ゆえかもしれませんが──勿論、養母達は僕を暖かく育ててくれましたが…それが、愛ゆえなのか──その、わからなくて」

 

 

ヴォルデモートは自分で言っておきながら首の後ろにぞわぞわと虫が這うような気持ち悪さを感じ、曖昧に笑った。

ダンブルドアに、何故愛について調べているのかあまり知られたくは無かったが、このような本を出して「興味本位です」では、怪しまれるだろう。仕方のない事だと自分に言い聞かせ、憂いているように見えるように、目を伏せ本の表紙を指で撫でた。

 

 

リドルはちらりとダンブルドアを見た。

ダンブルドアは、ヴォルデモートの思惑通り──かなり、嫌だが──少し憐れんだような目でリドルを見下ろし「トム…きみって子は…」と口元を押さえて呟く。

孤児であることを特に気にしていないかと思ったが、やはり年頃なのだ、自分の出生について思うところがあるのだろう。友人に恵まれ、クィディッチや学業で輝かしい成績を収める優等生の密かな悩みなのか…!と、ダンブルドアは思った。

 

 

「それに、愛に関わる──その、特別な魔法が…あるとか…?──ダンブルドア先生ほどの、愛を知る偉大な魔法使いなら…知っているのでしょう?」

「そうだね、中には愛を軽んじる魔法使いもいるが…愛に関わる魔法は、どの魔法よりも強く秘められた力を持つと、私は思っている」

「それは──何故、ですか?」

「それは…魔法には、思いの力が必要なのは、理解していると思う」

 

 

ダンブルドアの静かな言葉に、リドルは頷いた。

 

 

──たしかに、魔法と言うものは論理と、そして確かな思いにより具現化される。思う力が強ければ強いほど、クルーシオでは敵を苦しめる事が可能だったな。

 

 

「他者に対する愛は、人間が持ち得る想いの中で最も強力であり、純粋なものだ。それ故危うさも勿論あるが──他者への無条件の愛ほど強いものはない。もう殆ど知るものは居ないが、愛の魔法はそれだけでかなり強い守護効果を持つ──と、言われている」

「それは…たとえば、憎悪よりも?愛よりも強いものはないのでしょうか?」

「ああ、憎悪は突発的な力はあれ、ふとしたときに忘れ、憎悪の対象者が死ねば…いつか薄れていく。だが、真実の愛は消えない、例え愛する者が側に居なくても──考えずとも胸の中に灯り続ける、永久的なものだからね」

 

 

ダンブルドアの説明に、ヴォルデモートは顎に手を当て「成程」と呟く。

 

 

──魔法の要である思いの強さに重きを置いた時、憎悪より愛の方が重い、という説明は些か疑問が残るが──だが、他者への終わりなき執着、それが愛の持つ強大な力であるのならば、俺様がたとえこの説明で理解したとして。愛の魔法に対する反対魔法などは存在せぬ、という事か?

だが、そう易々と使えるものではないだろう。ならば、周知されているはずだ。……あの穢れた血は、それ程愛の重い女だという事か。

 

 

「…僕も、いつか──愛を、わかる日が来るといいのですが」

 

 

ヴォルデモートはもう話を終えるために、儚げに微笑み、肩をすくめて冷めかけた紅茶を飲む。

その言葉を聞いたダンブルドアは少し意外そうな顔をして──茶目っ気たっぷりに笑った。

 

 

「いやいや、トム。君は愛を知っている筈だ」

「…え?」

 

 

此奴と愛について討論したのは、今日が初めてだ。それで何が──俺様についてわかるというのだ、完璧に偽る俺様に騙されているだけの、ジジイの戯言か。

 

 

怪訝な顔で首を傾げるリドルに、ダンブルドアはあっさりと告げた。

 

 

 

「確かな友人達がいるだろう?テオと、ジュード。あの2人は間違いなく君を愛しているよ、トム。親愛という確かな愛もあるんだ。──友人は、何よりも素晴らしい宝だ」

 

 

その言葉にリドルは息を飲み、暫し沈黙した後──なんとか表情筋を総動員させ──微笑んだ。

 

 

 

あいつが、あいつらが。

俺様を愛している?

親愛?…親愛、とは?

 

 

ヴォルデモートは2度の人生含め、生まれて初めて言われた言葉に言いようのない気持ち悪さを感じ、喉の奥がいがいがとするような違和感に唾をごくりと飲み込んだ。

 

 

 

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