ヴォルデモート卿、人生をやり直す。   作:八重歯

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02 ヴォルデモート卿、きょとんとする。

 

 

トム・リドル(ヴォルデモート)はめでたく一歳の誕生日を迎えた。

本人的にはまだ一歳か…。といったところだろう。

ヴォルデモートはまだまだ赤ちゃんではあったが、同年代の乳児と比べるとかなり早く成長していた。中身は71歳のヴォルデモート、良い大人を通り越しておじいちゃんである。

つまり、いつまで経ってもごろ寝して暮らすつもりはさらさら無かった。

 

しかし、ヴォルデモートは過去の反省を活かしあまり悪目立ちすれば不信がられてしまうと理解していた。

そのため、寝返りやハイハイ、お座り、あんよはじょーずなど、早く出来るようになった──とは言え新聞の一面記事になる程ではない。

 

ヴォルデモートは生前、赤子の成長スピードなど全く知らなかったが、幸運にもヴォルデモートと比べて半年ほど早く産まれこの孤児院に来た赤子がいたため「これ幸い」と、常にベビーベッドの隣にいるその赤子の動き、成長スピードをよく観察した。

 

 

赤子についてよく学び、2ヶ月ほど遅れて模倣する。怪しまれない程度に少々早めに歩けるようになったヴォルデモートは、真っ先に魔法を試す──事は無く、トイレの場所を覚えた。

 

歩けるようになったのだ、そろそろ下の世話は卒業してもいい頃だろう。

 

初めて1人でトイレで用をたしたときの感動といったら!──まさに初めて殺人をした時と同等レベルの爽快感と解放感だった。

 

 

孤児院の養母達は驚いたが、格段珍しいことでは無い。手間がかからなくなるのは良い事だと特に深く考えなかった。

 

 

 

 

「んー…」

「あらトム、どうしたの?」

「んんー…」

 

 

ヴォルデモートは彼にとって高く、養母にとって低い棚に懸命に両手を伸ばした。

ああ、絵本が欲しいのね。──と、養母はすぐにイラストばかりの一歳から二歳向けの絵本を本棚から抜き、ヴォルデモートの小さな手に渡した。

 

 

「はい、どうぞ」

「……」

 

 

──いや、こんな幼児向けのくだらん絵本では無く、棚の上にある新聞が欲しかった。

 

 

しかしヴォルデモートはまだ一歳。まさか新聞が読みたいとは夢にも思わない養母は無言のヴォルデモートを見て優しく微笑み、目線を合わせるようにしゃがみ込む。

 

 

「トム、ありがとうは?ほら、あ、り、が、と、うー」

「…」

 

 

一音一音区切って説明されたが、ヴォルデモートは無視して子供部屋の端に行き、取り敢えず絵本を開いた。

 

養母はため息をつき、まだ言葉を覚えるには早いわよね。なんて思いながら昼食の支度を始めるためその場を離れる。

 

勿論、ヴォルデモートは言葉を理解している。しかし周りを観察していた彼は一歳でペラペラと話すのはどうも不可能らしいと理解し、話せたが、話さなかった。

 

 

──A Apple B Book……ちっとも面白くない暇つぶしにもならん。

 

 

使い古され色褪せた林檎や本のイラストを見ていたが、微塵も楽しい気持ちになる事はなく、ヴォルデモートは暇そうな顔をして本を閉じた。

 

そう、ヴォルデモートは一歳だ。

もう1日の殆どを寝て過ごしているわけではない。

お昼寝はしっかりとするが──どうも抗えぬ眠気なのだから、仕方がない──目覚めている間は暇で暇でならなかった。

話し相手もいなければ、面白い事もない、精々同年代の子どもでストレス発散する事しか無いのだ。

 

 

ストレス発散と言ってもペットを吊るしたり錯乱させるわけではない。

一歳の子どもらしく、手で思いっきり殴り、髪を引っ張り、ミルクをぶっかけた。

 

そんなささやかないじめ──というか暇つぶしは、1歳児同士ならよくある事なのだ。

この時期の子どもは自分が1番自分が正しい我が道を行く。我慢?何それ美味しいの?という状態であり、ヴォルデモートが他の子どもをぽかぽか殴ろうが、養母達は「あらあらまあまあ」と言うだけだ。

 

 

まだまだ赤ちゃんのヴォルデモートが出来るのは、同じ年頃の子供の頬に引っ掻き傷をつくる。それくらいであった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

そんなトム・リドル(ヴォルデモート)もようやく11歳を迎えた。

 

 

ウール孤児院で過ごす子どもたちの中で、リドルは最も賢く、愛嬌があり、イケメンで、優しかった。

まさに完璧な少年、養母達は将来有望なリドルは、きっと素晴らしい大人になると信じていた。教師?警察官?軍人?医者?何はともあれ、きっと人の役にたつ大人になるんだわ。

 

 

しかし、リドルはヴォルデモートである。

賢い?当然だろう、中身は70歳を超えている。

愛嬌がある?それもそのはず、ヴォルデモートは人生のスタート地点から愛想よく振る舞った。

イケメン?それはどうでもいいが使える武器は多い方がいいだろう。

優しい?本音も読めぬ畜生共。

 

養母の予想は僅かに当たっている。

たしかにヴォルデモートは素晴らしい闇の魔法使いになるが、人の役に立つのではなく、夥しい屍の上に立つ事になるのだ。

 

 

1度目の人生で、間違いなく第一の大きな失敗はこの孤児院での人間関係だ。

そう考えたヴォルデモートは過去の学生時代のように愛想を振り撒き率先して養母の手伝いをし、甲斐甲斐しく年下の子どもの世話をし、年上を敬い、困っている者がいれば直ぐに手を差し伸べた。

 

勿論内心ではなぜ愚かなマグルにここまで頭を下げ無理矢理笑い、服に鼻水をつけられねばならんのだ。殺したい、24時間耐久クルーシオをしたい。──と、妄想で千回以上は孤児院の子どもたちを大虐殺していたが。

 

 

「トムーー!エミリーが!僕の人形とったぁ!」

「いや!エミリーの!ジェイはずっと使ってたぁ!」

 

 

ヴォルデモートは2階の階段を上がった廊下で突っ立っていた。

自身の周りでぐるぐると追いかけっこをしている4歳の男女の子どもを遠い目で見ながら「バターにしたい、ドロドロにしてパンにつけてゴミ箱に捨てたい」そう思っていたがすぐに現実逃避から復帰すると2人の腕をやんわりと取り、走り回るのを止めた。

 

 

「エミリー。駄目だ。人のものを取ってはいけないだろう?ジェイも、長く使っていたのなら貸してあげなさい」

「ええー…」

「やーいやーいばーか!ざぁこ!」

 

 

将来有望なクソガキだな。

 

 

べーっと舌を出して少年をバカにする少女を見たヴォルデモートの感想である。

 

ウール孤児院の経営はうまくいっているとは言えなかった。子どもの数に対し職員も少なく、金銭的余裕もない、つまり玩具は常に不足し子ども達は教養も無く喧嘩ばかりである。

既に魔力の発現があり、こっそりと自室で練習していたヴォルデモートは今すぐにこの2人を虫に変えて踏み潰したい衝動に駆られたがグッと堪え優しく微笑んだ。

 

 

「エミリー、そんな言葉遣いはダメだ」

「…はぁーい、わかったわ」

「良い子だ。…さあ、僕は宿題がある、あっちで遊んできなさい」

 

 

あっち、とヴォルデモートが指差した場所は窓であり、今いる場所は2階だった。

 

エミリーとジェイはきょとん、として首を傾げ──ヴォルデモートは笑ったままくるりと指の向きを変えて階段下を指し示した。

 

──危ない危ない。この窓から飛び降りて欲しいという願望が、つい漏れ出てしまった。

 

 

ヴォルデモートは子ども達が駆け降りていったのを見て完璧な微笑みをさっと消し無表情になると、すぐに手をスコージファイで清めた。

 

トム・リドルは孤児院の職員や子ども達にやや潔癖症ぎみだと思われていた。

1日に何度も手を洗い、服を着替える。きっと大人びていても精神的にまだ不安定なのだろう、と、可哀想なものを見る目で養母達は見たが、ヴォルデモートが何度も手を洗うのは単純明快。穢らわしいものに触ってしまったからだ。

 

 

ヴォルデモートは2階にある図書室──とも呼べない程の古びた本しかない部屋──から数冊の本を取るとそのまま自室に向かった。

勉強しているフリでもしないと年下のクソ餓鬼共が「トム、あそぼ!」なんて突撃をしてくるのだ、マグルと遊ぶよりは、マグルの勉強をする方が100倍マシだ。

 

狭い部屋の、狭い机に本を置き、スクールから出された宿題を広げつつ図書室から持ってきた本をぺらぺらと捲る。

 

ヴォルデモートは優秀で特別な頭脳を持つ魔法使いだ。

 

だが、ヴォルデモートは初めてスクールに──無理矢理、仕方なく──通うようになり、同じ歳の鼻垂れクソ餓鬼と授業を受け、驚いたのだ。

 

 

──わからん。

 

 

いや、全くわからないわけではない。

教科書を読めばなんとなく薄ぼんやりとした記憶が蘇ってくるが、魔法界暮らしが長いヴォルデモートは、マグル界で学ぶ国語算数理科社会など、綺麗さっぱり忘れていた。そもそも覚えておくつもりなど、さらさらなかったのだが。

 

とはいえ中身は──くどいようだが──70歳を超えているため、教科書を一度読むだけで全てを理解しスクールでは毎回トップの成績を収めている。

 

 

──この、素晴らしい頭脳にマグルの知識があるなど、腹立たしい。

 

 

と、思いつつも、しっかり予習復習を欠かさないその姿は、完璧主義ともいえるだろう。

 

そう、予習復習をかかさない。

ヴォルデモートは今後の未来に対しての予習復習も欠かさない。

何度も未来をシュミレーションしたヴォルデモートは、少しダンブルドアに会うのを心待ちにすら、していた。

 

 

今回は、誰も怯えさせていない。

今回は、餓鬼どもを洞窟で錯乱させていない。

今回は、足にカクカク発情して鬱陶しかったウサギを吊るしていない。

今回は、戦利品と称して何も盗んでいない。

 

 

今回こそは、あの クソジジイ(ダンブルドア)でも、俺様の事を疑う事が無い筈だ。

これでまた、俺様の魔法界征服に一歩近づく事が出来ると言うのだ。

 

 

いや、しかし、油断は禁物だ。前回はそれで嫌ほど痛い目を見た。あくまで慎重に、油断せず、ひとつひとつ敗北という屈辱の種を潰していこう。

 

 

ヴォルデモートはニヤリと口先だけで冷たく笑う。

その目は赤く輝いていたが、それを見るものは誰も居なかった。

 

 

──コンコン。

 

 

ノックの音が響き、ヴォルデモートはすぐに扉を見る。まさか、今日か?ようやく来たのか?

 

ヴォルデモートの期待通り、開いた扉の先にいたのは養母でありこの孤児院の院長であるコールと、ダンブルドアだった。

 

 

ここで、ダンブルドアに不信感を抱かせたら全ておしまいだ。

 

 

ヴォルデモートは何度も胸の内で呟き、一度、きょとん、とした後、首を傾げて愛くるしい顔で微笑んだ。

 

 

 

 






コメントが嬉しくてちょっと続きを書いてみました。
どれくらいまで続けられるかは謎です…。
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