「トム?お客様ですよ。」
「どちら様ですか?」
「こちらはダンブルドアさん。この方、あなたにお話があるんですって。…あら、お勉強中だったかしら」
「…大丈夫、もう終わったから」
ヴォルデモート…いや、リドルはパタンと本を閉じ、ダンブルドアの服装を珍しそうにじっと見つめた。
ダンブルドアは物珍しげな視線で見られる事には慣れていたためとくに何も言わず、コールが居なくなった事としっかり扉がしまっている事を確認した後、勉強机の後ろで座っているリドルに近付き手を差し出した。
「私はダンブルドア教授だ」
「はじめまして。…トム・マールヴォロ・リドルです」
リドルは差し出された手を握ってにこりと人の良い笑みを浮かべた。
すぐに離した後こっそりとバレないように机の下で手を拭いていたが、ダンブルドアからは死角で見えなかっただろう。幸運でも何でも無い──ヴォルデモートの計算だ。
「教授が…僕に、何のようですか?…僕のスクールの先生…では、無いですよね」
「ああ、ホグワーツという学校に勤めている。私の学校への入学を進めに来たのだよ。きみが来たいのなら、そこがきみの新しい学校になる」
──この時を待っていた!
こんな悪臭漂うマグル界とようやく離別する事ができる!夏休みには前回と同様戻ってくる事になるだろうが、まぁそれは仕方がない。
「新しい学校…?どんな学校ですか?」
勿論知っているが、ここで学校の事も聞かずに「行きます」と即答すれば怪しまれる事間違いなしだ。俺様はまだ魔法界の事を知らぬ唯の品行方正な孤児という立ち位置だ。
リドルは僅かに、警戒するように眉を寄せる。──うむ、この程度の警戒なら賢そうな子どもに見える事だろう。
「ホグワーツは、特別な能力を持った者の為の学校だ。…きみには特別な能力があるだろう?」
ダンブルドアはキラキラとした瞳で優しくリドルを見下ろした。あまりの優しい瞳にリドルはぞわぞわと背中に鳥肌を立てながら、驚き息を飲み、視線を彷徨かせてみた。
「えっ…あー…その、……はい」
「ホグワーツは、魔法学校なのだよ、トム」
「…魔法、学校…では、僕が使えるのは…魔法ですか?」
「そうだとも。きみはどんな事が出来るのかね?」
ヴォルデモートは悩んだ。
──さて、何と言えばダンブルドアは目の前にいる俺様が優れた魔法使いではあるが、怪しい人物では無いと思うだろうか。一般人そこそこの扱いを受けるのは耐えられぬ。どうせホグワーツ1の魔法使いである事は、疑う余地はないのだ。
しかし、俺様はこの年代の──ホグワーツ入学前の一般人の魔力の程度なぞ知らん。特別で偉大である俺様の素晴らしさを、このジジイにわからせるには…さてさて、どうしたものか。
リドルは少し目を伏せ、手を机の上に出すとぐっと両手を握った。
「──こういった事が、出来ます」
リドルが開いた手の中には真っ赤な花が一輪大きな花弁を広げていた。
ダンブルドアは何も無かったところから、美しい花を意識的に出現させた事に、トム・リドルの底知れぬ魔力を垣間見て驚愕し目を見張る。
驚かす事ができたようだ、とヴォルデモートは内心で嗤い、表情は不安げにするのを忘れずに、おずおずとダンブルドアを見上げた。
「…あとは、物を引き寄せたり、です」
「成程…ふむ。今まで、その力を使い…困った事が起こったことはないかね?」
「いえ、特には。…あなたも、魔法が使えるのでしょうか?」
ダンブルドアは軽く頷き、胸ポケットから杖を出すと指揮者のように一振りした。
途端に何も無かった空間に大きく美しい色とりどりの花が現れる。──このジジイ、自分の力を見せつけ、俺様の力など矮小だと思わせるつもりか。──ヴォルデモートはすぐにダンブルドアの思惑を読み取ったが、驚き言葉が出ない!と、いうふりをした。
──しかし、ジジイがそのつもりならば、俺様は道化にでもなってやろう。
「──す、凄い…!」
ヴォルデモートはこの11年の間に鍛えた自分の表情筋をフル稼働させ、キラキラと目を輝かせ──何秒か息を止め──無理矢理頬を赤らめて、少々オーバーに感激してみせた。
ダンブルドアは
──心の底からいらん。
しかし、魔法界の事を知らずこんな極々簡単な魔法でも凄いと思うだろう今のリドルならば、喜んで受け取らなければおかしいだろう。
ヴォルデモートはすぐに花束を受け取り、顔を寄せただ青臭く気持ち悪い匂いを胸いっぱいに吸い込んで笑った。
「魔法使いとしての一歩を踏み出すきみに、プレゼントだ。…さて、トム。ホグワーツでは沢山のことを学ぶだろう。魔法界はマグル──非魔法族の世界とは法が異なる。何か困った事があれば、すぐに私を頼りなさい」
「はい、ありがとうございます」
リドルは語尾に音符マークでもついていそうなウキウキとした声音で言った。
ダンブルドアは素直なリドルを見て、たしかに魔力は強大だが、学校で魔力を使いこなす方法を学べばきっと優れた魔法使いになるだろう、と、新たな世代に生まれた魔法使いを心から歓迎した。
ダンブルドアは胸ポケットから金貨の入った皮の巾着を取り出し、机の上に置いた。
「ホグワーツには教科書や制服を買うのに援助が必要な者のための資金がある。孤児院出身だからといって卑屈にならなくていい。学びは全てに平等に与えられる。…といっても、教科書の幾つは古本で購入しなければならないが…」
「わかりました。…古本は慣れています、問題ありません」
「教材のリストはこれだ。ダイアゴン横丁、という場所で全て揃うだろう。さて、どこに何が売っているか探すのを、私が手伝おう」
ヴォルデモートは勿論、断固拒否したかった。何が悲しくて宿敵と2人でショッピングなどしなければならないのだ。──しかし、ここで1人で行くと言えば、こいつは不信に思うだろう、何故なら前回は1人でダイアゴン横丁を訪れ──かなり、充実したひと時を過ごしたが、今回は失敗しない。
──俺様は闇の帝王ヴォルデモート卿。今回は微塵も油断せず、周到に、慎重に物事を進めるのだ。
「──はい、よろしくお願いいたします。いつ、そのダイアゴン横丁に行くのですか?」
「1週間後、今日と同じ時刻に迎えにこよう。──これに入学許可証と、教材リストが入っている」
「わかりました」
ダンブルドアから分厚い封筒を受け取ったリドルは、まじまじとホグワーツの紋章を見つめ目を細めた。──懐かしい。ようやく、ホグワーツに行く事が出来る。
「さようなら、トム。また1週間後」
「はい。…さようなら」
ダンブルドアは立ち上がりリドルに手を差し出し、リドルは大きな花束を片手で抱え直しその手を握った。
ダンブルドアは優しくキラキラと輝く目でリドルを見たあと、扉から出て行った。
笑顔で扉を見つめていたリドル──ヴォルデモートは扉が閉められた途端表情を消し、窓に近付く。そっと外の様子を見下ろし、暫くしてダンブルドアが外へ出てゆっくりと人混みの中に紛れたのを確認した後、その端正な表情を醜く歪ませ笑った。
「ふふ───ハハハ!」
顔を手で押さえながら高らかに嘲笑したヴォルデモートは、すぐに持っていた花束を炎で燃やし消し炭にした。床に落ちた灰を強く踏みつけ、ぐりぐりと躙る。
これで、奴は俺様の事を疑い警戒する事は無いだろう!あの、ダンブルドアがすっかり俺様に騙されておるわ!あのボンクラジジイさえ騙せたのなら、学生生活──いや、その後の俺様を疑う者などいない!
1週間後、ダイアゴン横丁で共に教材を買わねばならんのは不愉快だが、まぁいい。善良で、慎ましいトム・リドルを見事演じきってみせよう。
ヴォルデモートは久方ぶりに全ての企みが成功したかのような充実感と満足感に、その目を赤く光らせたまま笑う。
この日、ヴォルデモートが敗北した原因である大きな間違いはひとつ、正された。
オリ主のいない小説は初めてで、緊張します。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
短いですがキリがいいので、次回はダンブルドアとショッピングデートの予定です。