ヴォルデモート卿、人生をやり直す。   作:八重歯

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04 ヴォルデモート卿、死のダイアゴン横丁デート。

 

 

 

ヴォルデモートは晴れ渡った晴天の下、隠れる事もなく堂々とダイアゴン横丁を訪れ、目の前を行き交う沢山の魔法族達や、店先に並ぶ魔法界特有の商品を眺めた。

 

 

──素晴らしい。久方ぶりに心が躍る。視界に映る全ての者にインペリオをかけてタップダンスを踊らせたい気分だ!

 

 

「トム、ここがダイアゴン横丁だ。──ようこそ、魔法界へ」

 

 

ヴォルデモートの斜め後ろに立っていたダンブルドアが朗らかに、幼き魔法使いを歓迎した。

 

 

──コイツさえ、いなければ。

 

 

ヴォルデモートは最高の気分が一瞬で台無しにされたが、表情には出さず、興奮し夢中で辺りを見ていてあなたの言葉には気がつかなかったんです、というふりをした。

 

しかし、ダンブルドアは一度のスルーでは挫けない。初めて魔法界を訪れた魔法使いが、魔法界の魅力に取り憑かれ夢中になるのは当然の事なのだ。

 

 

「ごほんっ!──魔法界へようこそ、トム」

「…ありがとうございます!」

 

 

──二度も言うな二度も!

反応しなければ三度目の耳障りな言葉が飛び込んでしまいそうだった為、ヴォルデモートは渋々反応した。

 

 

「さて、まずは杖を買わなければならないね。魔法使いは、皆1人一本ずつ持っている。自分のたった一つの相棒だ」

「…杖……はい、楽しみです」

 

 

ダンブルドアは茶目っ気たっぷりのウインクをひとつリドルに向け、リドルは曖昧に笑った。

 

先に進むダンブルドアの後ろをついて行きながら、今この背中に死の呪文を放つ事が出来ればどれだけ愉快だろうか──など、ヴォルデモートは脳内で53回ほどダンブルドアを殺す事により2人でショッピングというふざけた状況を何とか耐える。

 

オリバンダーの杖屋に向かう道すがら、ダンブルドアは何人もの魔女や魔法使いに声をかけられ、その度に足を止めにこやかに対応していた。

──まぁ、コイツは腐ってもそこそこ、俺様の次には偉大だと言われている魔法使いだ。英雄のような目で見られているコイツを見るのは苛々するが、耐えるしか無い。

 

 

…そもそもだ。

確かこの時はグリンデルバルドと戦闘中では無かったか。1人の孤児に付き添い買い出しなどする暇があるのか。──余裕の、現れなのか。

 

 

ヴォルデモートは鋭い目でダンブルドアを見ていたが、ダンブルドアがふと振り返ったため、急いで無害なリドルとしての表情を取り繕う。

 

 

「すまないね、トム」

「──いえ、…有名なんですね」

「まぁな」

 

 

ダンブルドアは少し表情の硬いリドルを見て、きっと早く杖屋に行きたいのだろう、この年頃の子どもは我慢が苦手だし。と見当違いな事を考え申し訳なさそうに苦笑した。

 

 

「さあ、ここがオリバンダーの杖屋だ」

「……ここ、ですか」

 

 

ダンブルドアは扉を開け、演技かかった動作で頭を下げ恭しく片手を奥へ広げ、先に入る様にリドルを促す。

まあ、頭を下げているコイツを見るのは悪くない。ヴォルデモートはそう思いわざと堪能するようにゆっくりとオリバンダーの杖屋に足を踏み入れ、天井まで重なる様に積み上げられた箱の山々を見上げた。

 

──ああ、懐かしい。10数年前にオリバンダーを拷問して以来だな。

 

 

すぐにオリバンダーが店の奥から現れ、ダンブルドアを見て手を取り会えた喜びを存分に示す。

 

 

「おお、ダンブルドアさん。お久しぶりですな。──今日は…その子の付き添いですかね?」

「ああ、久しぶりだね。そう、この子は新しくホグワーツに来る──」

「トム・マールヴォロ・リドルです」

 

 

オリバンダーの無遠慮な舐め回すような視線に、脳内で彼を6回拷問しながら耐え、リドルは微笑んだ。

 

 

すぐにオリバンダーはメジャーを使いリドルの腕の長さや脚の長さ、鼻下の長さなど必要かどうかさっぱり不明な箇所を幾つか測定し、「では、リドルさん。杖腕はどちらかな?」と優しく聞いた。

 

 

「……杖腕?…利き腕なら、両方使えますが」

「ふむ…では、文字を書くのはどちらかね?」

 

 

──だから、どちらも使えると言ってるだろう老いぼれ。このやりとりは二度目だぞ。──いや、俺様にとって、であり、この老いぼれが知ることではないか。

 

 

自分の杖が何なのかわかっているヴォルデモートは、さっさと杖選びを終わらせて他の教材を揃えすぐに帰りたかった。

いや、ダイアゴン横丁には時間の許す限り居たい。魔法界の新鮮な空気を味わいたい。だが隣にこの男が居るだけで全てはトロールの口臭に等しいのだ。

 

 

「…よく使うのは、右です」

「では、右手を出して。…さて、杉の木、ブラックホークの毛、20センチ、癖がなく真っ直ぐ──どうぞ」

 

 

オリバンダーはすぐに小山の中から一つの箱を引っ張り出し中から杖を取り出した。

これは俺様の杖ではない。そう思いながら受け取ったヴォルデモートは、とりあえず軽く振ってみたが──勿論この杖と相性は悪く、机の上にあった花瓶が割れた。

 

 

「いかん。──さて、次は柊、一角獣の毛、27センチ、良質でしなやか」

 

 

再び振れば、棚から箱が飛び出てダンブルドアの頭に直撃──はしなかった。

ヴォルデモートはとても残念だったが、ダンブルドアは箱の角が頭に直撃する寸前に見事に避けてしまった。

 

リドルは申し訳なさそうにちらりとダンブルドアを見て肩をすくめ、そっと杖をオリバンダーに返す。

 

 

「次は──…おお、そうじゃ。ダンブルドアさんがいらっしゃる事だ、これを試してみよう。イチイの木、不死鳥の尾羽根、34センチ、とても強力」

 

 

オリバンダーは黒い箱から、骨の様に白い杖を取り出した。持ち手に特徴的な造形を凝らしているその杖を見て、ヴォルデモートは僅かに目を細める。

 

 

リドルはそっと受け取り、杖をゆっくりと振った。

すると、杖の先から黒と赤の火花が花火の様に流れ出し、店中を楽しげに躍る。

 

 

「ブラボー!素晴らしい!この杖が、リドルさんの杖ですな」

「…僕の、杖…」

 

 

この身体では初めて手に取った筈の杖だが、不思議と手に馴染む。

しかし──やはり、この杖か。将来ポッターが兄弟杖を買えば、傷付け合う事は出来ても殺す事は不可能になる。だが、ハリー・ポッターを11歳まで生かすつもりは毛頭も無い。気にする事は──いや、一応しっかり覚えておかねばならんな。

 

 

リドルは優しい手つきでその杖を撫でた。

 

リドルにぴったりと合う杖を探し出す事が出来たオリバンダーは満足げな表情で微笑み、そのままダンブルドアに向き合う。

 

 

「リドルさん。この杖の尾羽根は…ダンブルドアさんが飼ってらっしゃる不死鳥のものなのじゃ。昔提供してくれて…ようやくふさわしい者の手に渡る事が出来た」

「フォークスの尾羽根なのか。…そうか!二枚提供したが…その杖の持ち主はまだ現れていないのかな?」

 

 

ダンブルドアは自分が提供した羽を使った杖が、今目の前で主人と巡り会えた事に喜びながらもう一枚の行き先を聞いた。だがオリバンダーは首を振りすぐに箱の山から一つを取り出すと、開いてダンブルドアとリドルに一本の杖を見せた。

 

 

「まだですな。わしは、現れるのを心待ちにしております」

 

 

ヴォルデモートは今手に持っている杖と、中央部分に似たような彫刻があるその杖を見下ろし、その姿を目に焼き付けた。

 

 

──そうだ。ホグワーツを卒業した後オリバンダーの店をすぐに襲い、この杖を破壊しよう。ポッターを生かすつもりは無いが、この杖がある限り、世界にたった1人だけ俺様の死の呪いが効かぬ者がいるということになる。それを知っている今、耐えられるわけがない。

 

 

自分が放った死の呪いがハリーには効かず、殺し損ねた事はヴォルデモートにとって苦い記憶だ。障害になりそうなものは全て排除する。今回は、万全を期して輝かしい未来を、魔法界の全てを手に入れるのだ。──ヴォルデモートはオリバンダーが箱の蓋を閉じ、無造作に棚の中に押し込んだ後もじっとその箱を見つめていた。

 

 

「トム。いつか君は──兄弟杖、とも言える世界で唯一の杖を持つ魔法使いか魔女に…運命的な一夏の恋のような出逢いをするかもしれないね」

 

 

ダンブルドアは楽しげに笑いながらリドルの肩をぽんぽんと叩く。

たしかに、ある意味では運命と言えるだろう。だが、しかし。

 

 

──気色の悪い事を言うな好色ジジイ。

 

 

ヴォルデモートは内心でダンブルドアを口汚く罵った後、ちょっと困ったようにリドルとして、笑った。

 

 

 

杖の代金を払えば、かなり革の巾着の中身は軽くなってしまった。

その後、リドルは背が伸びる事を予測し少し大きめの制服を新品で購入し、教科書や学用品は全て中古で全て揃えた。

 

 

リドルは大きな袋を抱えながら教材リストを眺める。買い逃しはないだろう。それにしても重い。重さ軽減魔法をかけたいが、このジジイの前でそれをするのは──愚かな事だろう。

 

漏れ鍋へ続く道を歩きながら、ヴォルデモートは少し残念に思った。もうここに滞在する理由が無くなってしまった。ダンブルドアさえいなければ、門限ギリギリまでここで過ごしたかったのだが。

 

 

「トム、孤児院の門限は何時かな?」

「…6時です」

「そうか…」

 

 

ダンブルドアは服の袖を捲り腕時計で時刻を確認した後、ぴたりと脚を止めすぐそばにあるアイスクリーム店を指差した。

 

 

「なら、そこの店に入らないか?」

「……」

 

 

何故だ。

買い物は全てを終わっただろう。何故貴様とアイスなんぞをぺろぺろしなければならない。貴様が舐めるのは俺様の靴だけにしてくれ。

 

 

さすがに──さすがに、幾ら外面のいいリドルでも困惑し、暫し沈黙した。

 

 

「…お誘いは、嬉しいですが。…その、僕──」

「ああ、勿論、代金は私が払うよ。この前の時はホグワーツの事を詳しく教えられなかったからね。…ホグワーツの歴史、という本に大抵の事は書いてあるが──トムは読む事が出来ないだろう?入学前に、私の話を聞いていて損はないと思う。それに、ここのアイスクリームは本当に美味しいんだ!…どうかな?」

 

 

ダンブルドアはリドルの困り顔を見て、金が払えないから断っているのだと思った。

しかし、きっと本当は食べたい筈だ。まだ11歳の子どもであり、貧しい孤児院で暮らしているトムは、このアイスクリームを食べたらきっと感動し大いに喜ぶだろう。

いくら援助するための資金が毎年渡されるといっても、気軽に買い食い出来る余裕は──残念ながらないだろうし。

ホグワーツに入学してしまえば、教師が生徒1人を優遇する事は褒められる事ではなく、今後は不可能になる。せめて、その前に魔法界のアイスクリームを味わってほしい。

 

ダンブルドアの行動は、心からの善意だった。

彼は基本的に誰にでも優しい。しかし、その優しさが、ヴォルデモートにとっては受け入れ難い程の苦痛であり屈辱だと言うことに、勿論ダンブルドアは気が付かない。

 

 

何故なら、ダンブルドアの目の前にいるのは品行方正で心優しく、控えめな少年トム・リドルだからだ。

 

 

ヴォルデモートは想像もしなかった最悪の──何としてでも()()()()()()()()()()()回避したいイベントに脳をフル回転させた。

コイツと?ひとつの机を囲んで?仲良くアイスクリームだと?──それを食うくらいならば、ゴキブリゴソゴソ豆板を10枚一気喰いした方が万倍もマシだ。

 

 

しかし、結局──。

 

 

 

「トム、どれにする?私は──キャラメルとコーヒー味にしよう。おすすめは──…」

 

 

──こうなるのだ。

 

 

ヴォルデモートは目の前に座るダンブルドアが楽しげに目をキラキラとさせ、色々なアイスの説明をしているのを右耳から左耳に聞き流し、ダンブルドアの頭部が潰れたトマトのように内部から破裂している様を想像し、なんとか微笑む事が出来た。

 

 

俺様は、生き延びるためならアルバニアの森で下等な生き物に寄生した事もある。何年も魔法を使う事すら出来ず、生者とも死者ともいえぬ存在に成り果てていた。

その時の屈辱に比べれば、八つ裂きにしたい相手とアイスクリームを味わう事など、造作もない。ああ、そうだ、ちっとも、間違いなく、大丈夫だ。

 

 

「──トム?」

「…あ、…では…バニラで」

「遠慮しなくていいんだよ?せっかくだ、トリプルにしなさい」

「……夕食が、食べられなくなりますので…寮母に叱られます。…残念ですが」

「そうかい?なら、仕方ないね」

 

 

ダンブルドアはそれもそうかと考え、すぐに店員を呼び自分のアイスとリドルのアイスを注文した。

 

ヴォルデモートは一刻も早くこの馬鹿げた状況から逃れたい、と──彼にしては珍しく()()()()()()()()()()()()()()

 

 

店員はすぐにアイスを運び、ふわりとトレイから浮かせるとダンブルドアとリドルの前に置いた。

ダンブルドアはすぐにコーヒーアイスをスプーンで掬い、ぱくりと一口食べてにっこりと微笑む。

 

リドルは、かなり重い腕を、物凄く気合を込めてあげ、スプーンを掴み、バニラアイスを食べた。

きっと、美味しいのだろう。だが、ヴォルデモートには砂を噛んでいるかのような吐き気を催す味に感じた。

 

 

「トム。ホグワーツでは四つの寮があるんだ。グリフィンドール、スリザリン、レイブンクロー、ハッフルパフ。それぞれ特徴があり、相応しい寮に組分けされる。──まぁ組分け方法は当日の楽しみにした方がいいだろう」

「四つの寮…」

「グリフィンドールは勇気があり、騎士道を持つ者が選ばれる。スリザリンは賢く目的を遂げるための強い意志を持つ者、レイブンクローは知識を求める者、ハッフルパフは正しく忠実な者──まぁ、そういう傾向にある、と言える」

「そうですか…僕は…どこでしょうね。…組分けが楽しみです」

 

 

 

ヴォルデモートは、何年か前からホグワーツの寮についてかなり思い悩んでいた。

勿論、スリザリンに行きたい気持ちは強い。この身体にはサラザール・スリザリンの血が流れている。母親やその親族は衰退し、失望し嫌悪する程の──目も当てられぬ状態だったが、特別な血が流れているのは確かだ。

 

だが──スリザリン。

スリザリンになれば、疑われる…という可能性も十分にあり得る。このジジイは前回の学生時代でもそうだったが、グリフィンドールをさりげなく贔屓していた。

 

今コイツは言わなかったが、スリザリンは純血思想を持つ者が殆どだ。疑惑を向けられぬ為には──寮の選択は、慎重に行わねばならん。

 

 

「ちなみに、私はグリフィンドールの寮監だ」

「そうですか」

 

 

至極、どうでもいい。

 

 

ウインクをするダンブルドアに、リドルは本心を悟られぬ完璧な笑みを見せ「凄いですね!」とちっとも心のこもっていない賞賛と、真っ暗な生気の無い尊敬の眼差しを向けた。

 

 

 






ヴォルデモートとリドルの表記の書き分けには少しこだわりがあります。
闇の帝王としてのヴォルデモートと品行方正心優しき優等生トム・リドル。
その対比のつもりですが、ややこしくてすみません…!

寮は何処にするか、真剣に悩みますね。
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