ヴォルデモート卿、人生をやり直す。   作:八重歯

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06 ヴォルデモート卿、ストレスが溜まる。

 

 

 

トム・リドルは孤児であり、身の回りのものは一つとして新しいものは無かったが、白い肌に艶やかな黒髪、大きな黒い瞳に高い鼻。外見はホグワーツで最も美しく、また、内面も誰に対しても平等に優しく、困っている者がいればすぐに手を差し伸べた。

学業に関しても一年生の中では群を抜いて優秀であり、授業内容の難しさに苦しむ同級生の勉強に夜遅くまで付き合うこともあった。

そんなリドルだが、けっして驕らず、自分の優秀さを鼻にかける事もなく。むしろ「まだまだですよ」と謙遜し、上級生達に魔法について教わる度に「凄いですね」と目を輝かせ尊敬の眼差しを向けていた。

 

 

まさにホグワーツが始まって以来の秀才だとして教師からの期待や信頼も厚く、同級生と仲がいいだけでなく上級生からも可愛がられる生徒だった。

 

 

「リドル、次の授業の用意を手伝ってくれないかね」

「はい、喜んで」

「トム。土曜日の昼、一緒に紅茶でもどうかな?」

「光栄です、スラグホーン教授」

「トム!宿題終わった?変身術のレポート…見せてくれない?」

「自分でやらないと、為にならないぞジュード。…教えるから一緒に頑張ろう」

「リドル、この本は読んだ事ありますか?あなたならきっと理解できる事でしょう」

「ありがとうございます、読ませていただきます」

 

 

 

連日、リドルには沢山の生徒や教師が親しげに声をかけた。優秀な者とは誰だって仲良くなりたい、あわよくば甘い蜜を吸いたいものだろう。

授業へ向かう為に教室を移動すれば取り巻きのような軍団がリドルを囲むようになることに、それ程時間は掛からなかった。

しかし、それでもリドルと仲が良く、誰から見ても友人関係であるのはやはりルームメイトであるジュード・レストレンジと、テオ・エイブリーだろう。

 

ジュード・レストレンジは、聖28一族の中に名を連ねる由緒正しき純血一族であった。勿論彼も、家族と同じく純血に誇りを持ちマグルを下に見ていた。しかし、ジュードは半純血の事を下に見ることは無かった。ただ、何故こんなに素晴らしい純血に生まれてくる事を選ばなかったのだろうか、と不思議でならなかっただけだ。

つまり、ジュードはまだ自分の思想を持たぬ親の傀儡であった。

 

テオ・エイブリーは、両親共に魔法族であり、ジュードと同じく由緒正しき純血魔法族であったが、それほど深い歴史があるわけでも、マグルとの結婚を忌避している一族でもなかった。

母方の祖母は奇妙な力を持つ母を虐げ、拒絶したという。顔も知らぬ祖母だったが、その事実は幼いテオの心にしこりのように残り続けていた。

彼は、魔法族を虐げるマグルを恨んでいた。

 

 

マグルと魔法族について、2人は少し異なった考えを持っていたが、共通する部分も多かった。単純な事だ、彼らは──知能面において、かなりの馬鹿だった。

 

 

今日も今日とて、放課後にスリザリンの談話室の一角を占領し、魔法薬学のレポートを恨めしげな目で見つめるテオとジュード。机の上に広げられた羊皮紙は清々しい程の空白だった。

 

 

「トムー全然わからないんだけど。つか、ぺちゃんこ薬って何に使うんだ?」

「これって結局どう言う事?なんで時計回りと反時計周りで効能がかわるの?」

「…教科書に載っていただろ?」

「えー教えてよ、どこ?」

「もう…ここだよ」

 

 

リドルはため息をつきながらも「仕方がないなぁ」と甲斐甲斐しく世話をする。2人は初めからリドルが教えてくれる事を期待していた為、自分で教科書を開く気すら起きていなかった。

優しき優等生のリドルは、脳内にクィディッチとご飯のことくらいしか詰まっていない 馬鹿コンビ(テオとジュード)に、彼らが理解するまで何度も教科書に書かれている内容をバカでもわかるように噛み砕き、教えた。

 

なんとかテオとジュードが課題を終えることが出来たとき、すでに談話室にかけられていた時計は夜の11時を回っていた。

 

 

「──よし!終わり!あーよかった!これで明日スラグホーンに減点されずにすむ!」

「なんとかなって良かったね本当。ありがとうトム」

「…2人の力になれて嬉しいよ。…もう寝ようか」

 

 

リドルは優しく微笑み、その顔を見たテオとジュードは優秀なトムが友人で良かったと無邪気に笑い、机の上に広がる羊皮紙や教科書を鞄の中に無造作に突っ込んだ。「あ、破れちゃった、まぁいいや」とジュードが気にせずさらに上から無理矢理ぎゅうぎゅうと手で押し込んだのを見つめるリドルの目は、死んでいた。

 

自室に戻り、各自のベッドに入り10分もしない内に、テオとジュードのベッドからうるさいいびきと歯軋りの音が響く。

 

 

リドルはしっかりと布団を首の下あたりまでかけ、手で布団の上を掴み、瞬きもせずじっと天井を見つめる。

 

 

1時間程たった後、リドルはすっと起き上がり、自身の足元に消音魔法を、体に認識阻害魔法をかけて静かに自室を出て談話室を横切り、そのまま寮を抜け出した。

 

 

教師に会うことの無いようにしっかりと警戒しながら真っ暗な廊下を歩き、そして目的地にたどり着くとまた注意深く辺りを見渡し──静かに扉を開く。すぐに身を滑り込ませ、魔法で施錠する。

 

 

 

リドルは、深夜、ようやく唯一の安息の地へとたどり着く事が出来──今までつけていた優等生の仮面を外すと苛々とした表情を取り繕う事なく、叫んだ。

 

 

「バジリスク!来い!」

 

 

リドルはスリザリンの巨像に向かって、パーセルタングを使う。すぐにずるずると何かが這い寄る音が聞こえ、スリザリンの口が開き中から大蛇──バジリスクが現れた。

 

 

「主よ、どうされた」

「どうされたもこうされたもあるか!あの低脳!愚劣な阿呆ども!!彼奴らあれ程愚図だったか?俺様が優秀過ぎるからそう思うだけなのか?毎度毎度しょうもない事をぐちぐちと言いおって!少しくらい自分で考えようとは思わんのか!!口を開けばやれクィディッチ、やれ今日の夕食はなんだろう──知るか!!」

 

 

ヴォルデモートはノンブレスで叫ぶと、床を逃げるように走るネズミに向かって「クルーシオ!!」と唱えた。ネズミの鋭い悲鳴と痙攣する体を見てもまだヴォルデモートの鬱憤は晴れず、何度も叫ぶ。

 

 

「クルーシオ!クルーシオ!クルーシオ!!」

 

 

ついにネズミはひっくり返りぴくりとも動かなくなり──ようやく、少し気分が晴れたヴォルデモートは乱れた前髪をかき上げ、高らかに嘲笑する。

 

 

「はっはっは!!──全く…二度目も楽では無い。低脳な奴らと話を合わせるのは…流石の俺様でも些か疲れる。聞いてくれるかバジリスクよ、いや、聞け。昨日など──」

「……」

 

 

ヴォルデモートは真っ黒な革張りの椅子を出現させると踏ん反り返って座り、長い足を組み、ぺらぺらと「ジュードの馬鹿が」「この前などテオがクソ爆弾を」「あのクソジジイのぬるい目が気に食わん」などなど、尽きることの無い愚痴を吐いた。

 

 

そう、ここはサラザール・スリザリンの秘密の部屋であり、バジリスクの寝床の地下深く。

人生二度目のヴォルデモートはすぐにこの部屋を訪れ長い眠りについていたバジリスクを叩き起こしていた。

 

しかし、ヴォルデモートは穢れた血を粛清する事はせず、ここが唯一の本性の出せる場所としてバジリスクを相手に愚痴を言いまくっていた。

 

 

一度目は、俺様もまだ11歳の子どもだった。誰よりも優秀で、同級生を見下してはいたが──これ程馬鹿な奴らだとは思わなかった。俺様は魔法界のことを知らぬ子どもであり、奴らと共に勉学に励んだ事もあったのだが、今は最早、耐えられぬ!何故俺様が、闇の帝王であるヴォルデモート卿が鼻垂れ童の勉強に付き合わなければならないのだ!

 

 

それが自分で選んだ道であるゆえに、完璧主義者であるヴォルデモートは変えられない。優等生で模範生の仮面を被り続けなければならないヴォルデモートは、前回は感じなかったが、将来の部下の知能の無さに心の底から苛立っていた。

 

苛立つのも仕方がない。

前回は子どもと子どもだったが、今回は子どもとおじいちゃんである。それも片方は闇の帝王とまで言われた最強最悪のある意味偉大な魔法使い。

ヴォルデモートは優秀な死喰い人相手に魔法を教える事はあれ、馬鹿な子どもに魔法を教えた事など無かった。

 

 

 

 

前回よりもストレスを感じまくっていたヴォルデモートは、週に一度はこうしてバジリスクの元を訪れた溜まりに溜まった愚痴をぶちまけていた。

 

 

バジリスクはなんとも言えない目で、次々と溢れる愚痴を聞いていた。

1000年ぶりに目覚めさせられたと思ったら。新しい主人は穢れた血の粛清をする事はなくただ愚痴を言ってスッキリしたら帰ってしまう。

バジリスクは蛇であり、人間同士の交流など全くもって理解が出来ない為に、ただ静かに端正で優しそうなリドルの顔からは想像もつかないほど荒々しく口汚い罵りの言葉が洪水のように溢れるのを聞き流していた。

 

 

「──そう思うだろう?バジリスクよ」

「ああ、そうだな」

 

 

勿論バジリスクは聞き流していた為、分からなかったがとりあえず深く頷いた。

すると満足したのかリドルはにこりと笑みを深め立ち上がり、バジリスクの冷たい身体に触れた。

 

 

「やはり俺様には蛇の王たるお前が相応しいな。…勿論ナギニも素晴らしいが。今回は早めに迎えに行こうか」

「ナギニ?」

「ああ、美しい蛇だ」

 

 

リドルは目を細め、優しくバジリスクの身体を撫でる。蛇愛好家であるヴォルデモートが、一般的な愛情にも似た視線を向けるのは蛇と触れ合っている時だけだった。

スリザリンの血を受け継いでいる証であるパーセルタングは、ヴォルデモートにとって何よりも誇れる能力であり、人間と違い忠実な蛇達の事を最も好いていた。

闇の印に蛇と髑髏という、 厨二病(若気の至り)感満載のモチーフを選ぶ事から、どれだけ執着しているかわかるだろう。

尤も、ヴォルデモートはその印は最高傑作だと思い70歳を超えている今でも微塵も恥ずかしい印だとは思っていない。

 

 

「主よ。我は早く穢れた者を粛清したいのだが」

「まぁ待て、今はまだその時ではない」

 

 

バジリスクは不満げに呟くが、リドルは優しい瞳のままそれを止める。

 

ヴォルデモートは今回、バジリスクを使い穢れた血を粛清する気はあまりなかった。前回これといった結果はなく、何人か石にして1人殺す事が出来たが、その代償にホグワーツを1人で行動する事が出来なくなり、さらに閉鎖の危機が訪れた。

バジリスクは驚異的な力を持つが、このホグワーツではその力をうまく使う事は難しいだろう。

 

 

──少々、今回の流れを見つつ判断しなければならないな。

 

 

リドルは薄く微笑み、腕時計が指す時間が気がつけば2時を回っている事に気がつくと、バジリスクに優しく「戻れ。…おやすみ」と告げた。

不満そうにしゅーしゅーと言葉にならない呻きをあげながら、バジリスクは言われた通り寝床へと戻った。

 

 

 

ーーー

 

 

 

翌日。

 

 

「トム!どうしよう昨日のレポート勝手に破れてた!」

「……レパロ」

「ありがとう!」

「トム!僕の筆ペン知らない?昨日どこやったっけ?」

「……アクシオ」

「ありがとう!やっぱりトムは頼りになるなぁ、持つべきものは優秀な友達だね!」

 

 

にっこりと笑うジュードとテオに、リドルは困ったように笑ったが、2人が背を向けた瞬間無表情になり、なんとか杖を2人に向けないよう必死に止めながら脳内で67回ほどクルーシオをかけた。

 

すでに彼らの友人というよりも、母のような立ち位置になっているリドル。

リドルはまだ一年生である。つまり、少なくとも彼らがそこそこリドルの闇の深さを理解し闇に落ち、陶酔するまでの数年間はこの関係が持続し、ヴォルデモートのストレスは溜まり続けるのである。

 

 

 

 

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